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第拾話 光がつなぐ終着

【前回のあらすじ】

追い詰められる七聖天。感情のままに異能を暴走させる幼い王女ミークリア。それを止めて七聖天を襲う闇の最上位精霊ネオ。絶対絶滅の状況で白い羽を背負った侍従長が現れた。


【登場人物】

リクエール・レイナ・フェルサ:

本作の主人公で七聖天の1人。「レイナ」や「リン」と呼ばれる。


ケント:

リンの友人でバーニシア王国聖騎士の剣士である青年。


オルリア:

幼い少女の容姿をした明るい性格の七聖天団長。


キージュ・オブスクリタス:

オブスクリタス王国の女王。11年前の事件に思うところがある様子。


ルイス:

闇族ではないのにオブスクリタス王室に仕える侍従長の女性。

   ◇ ◇ ◇ Side Lequel ◇ ◇ ◇


「カハッ……ゴホッ、ゲホッ……!」

「それで? ちゃんと説明してくれんだろうな、ルイス」


 あー……死ぬかと思った……。

 解放してもらえて助かった。でも侍従長のあの姿は一体……?

 背中には純白の鳥に似た大きな羽。心なしかキラキラ光ってる気がする。

 あんな羽を持つ種族なんて1つしかない。


「ま、まさか……天使様ですの……!?」


 三千年前の聖魔大戦と呼ばれる魔人族との大きな戦い。それを終わらせるべく身を削って魔人族を封印した種族。

 その功績から今では桃源郷で最も信仰され、スリエラのように天使様と呼び多くの人が崇めている。


 でも天使族は力を失って天界に還っているはず。

 どうしてこんな所に……?


「リン、大丈夫か!?」

「ケント、あの人一体何者なの?」

「俺にもよくわからない。でも悪い人じゃないみたいなんだ」


   ◆ ◆ ◆ Side Kent ◆ ◆ ◆


「貴方とゆっくり話してみたかったの」

「…………はい?」


 おかしいな。

 俺は今、隙だらけだ。リンを上に送り返したものの自分が戻る手段がない。空いた利き手は麻痺で動かず、その上で敵に背後を取られている。

 まさに絶体絶命……のはずだ。


 ところが侍従長は今なんて言った? ゆっくり話してみたい?

 魔素を消し去ってリンを突き落とした張本人の発言じゃないだろ。

 そもそもどうやって俺の後ろに立ってるんだ?

 それを確かめようと振り返って、俺は危うく剣にぶら下がっていた手を放すところだった。


「そ、その羽って……天使族……!?」

「正確には先祖返りね」


 先祖返り? じゃあ元は人間なのか?

 確かに天使族を祖先に持つ人間の種族もいる。大抵はその血筋のおかげで特殊な体質とか能力を持っているもんだ。

 だけど先祖返りなんて初耳だぞ。羽だって初めて見た。


「驚かせたわね」

「いや、それより……話してみたかったって、この状況で?」

「ええ、この状況だからこそかもね」


 人が無様にぶら下がってるからこそする話って何?

 しかし侍従長はにこやかな笑顔を崩さない。

 隙だらけの俺にトドメを刺そうって気がないのは本当らしいな。


「地上で何があったのかしら?」

「…………はあ?」

「何かあったからわざわざ私達のもとを訪れたんでしょう。違った?」

「それは、そうだけど……」


 どういう風の吹き回しだ? さっきまで殺意満々だったくせに、今更ここに来た理由が知りたい?

 意味わかんねえよ。本当になに考えてるんだ?

 しかし俺と同じような青い瞳は俺と違って何も悟らせてくれない。俺はすぐリン達に考えてることを見抜かれるのに。


「陛下達が貴方達と敵対するのを止めなかったことは謝るわ。貴方達が悪い人達ではないとなんとなくわかってた」

「じゃあどうして……」

「闇族の苦しみを蔑ろにしてほしくなかった」


 言葉にすればたったそれだけのことなのね、と小さな呟きが聞こえた。悲し気な青い瞳が揺れている。

 俺は咄嗟に言葉が出なかった。


 ある日突然襲撃された。

 たくさんの命が奪われた。

 たくさんの人が大切な人を失った。

 大切な故郷すらもなくなった。


 その苦しみを蔑ろにされたくなかった。


 言葉にすればたったそれだけ。

 そのたったそれだけが一体どれだけ重いことか。

 この11年間、彼らは何を思っていたのだろう。どんな苦労があったんだろう。


「…………ごめんなさい……」

「あら、どうして貴方が謝るの? 貴方が謝る必要はない。私はただ少しでもわかってあげてほしかっただけよ」


 そう言って侍従長は綺麗で穏やかな笑顔を浮かべた。

 その顔を見てまた引き裂かれたような気分になる。そうやって笑えるようになるまでどれだけの時間がかかったんだろうか。

 俺は──……俺が今かけるべき言葉は──……


「10年前、バーニシア王国で革命が起こって独裁体制は崩壊した。オブスクリタス王国を滅ぼそうとした聖騎士長はもういない」

「本当……!?」

「ああ、俺たちは王命で調査に来たんだ」


 感極まった侍従長の瞳が潤んでいた。伝えるのが遅すぎた。本当は10年前に伝えたかったことだ。

 俺にできるのはとにかく事実を伝えること。

 謝罪も反省も意味をなさない。彼女の問いに真摯に答えることこそ今の俺にできる最大限の贖罪だ。

 喉が絞まるような思いで言葉を紡ぐ。


 魔人族の封印が弱体化して地上に出現していること。

 その魔人族を使役する黒幕がいるかもしれないこと。

 その使役術が闇属性だと思われること。

 運悪く同時期に闇族の存在が明らかになってしまったこと。

 この状況で調査しないわけにはいかずにここまでやって来たこと。


 だんだんと言い訳じみていく言葉を自覚しながら話し続ける。すると不意にポンと頭に何かが乗せられた。

 侍従長の手だった。


「最初に言ったでしょう? 私は()()()()お話しできればいいのよ」

「あ、あぁ……」


 急に呼吸できるようになった気がする。

 思いつめた顔をしてたんだろうか。侍従長から労わるような視線を感じる。

 他人に頭を撫でられたのなんていつぶりだよ。ちょっと気恥ずい。


「でもおかげで事情はわかったわ。そうとわかれば陛下達をお止めしないと」


 それから侍従長は麻痺した俺の右腕を取って『オールデリート』と呟いた。

 その瞬間、腕の感覚が一気に戻ってくる。指先までしっかり動く。侍従長が触れてる感触もある。

 完全に麻痺が治ってる……!


「無事に戻ったかしら。ツェニアン様の異能に私の魔力がどこまで通用するか不安だったのだけれど」


 魔力!? じゃあ体内魔素が残ってるのか!? 自分の分の魔素だけ消さずに残してたのか。

 まあいいや、やっと全快になったんだから。

 少し風が出てきたな。いつまでもこんな高所(危ない場所)にいる意味はない。さっさと戻らないと。

 俺がそう思ったとき、侍従長から手を差し出された。


「さあ、急ぎましょう。貴方も上に戻るでしょう? 連れて行ってあげる」

「いや、1人でどうにか戻るよ」

「あら、遠慮しちゃって。流石に無理よ。足場がないわ」


 でも空を飛ぶのにだって魔素はいるだろ。リンもそうだから、多分。

 体内の魔素量には限りがある。

 それに侍従長は広範囲の魔素を消したばっかりだ。きっと相当な魔素を使ってる。

 一旦地上まで降りて急いで戻ればどうにかなるだろ。

 そう考えを巡らせていた時だった。


 ──ゴォオオオオオッ


 うわっ、なんだ!?

 風が急に強く……! 気を抜いたら吹っ飛ばされる!


「まさか、ミークリア様……!?」

「何か知ってるのか!?」

「末の姫様の異能だわ! この感じ、暴走してるのかもしれない!」


 暴走!?

 確かに普通のじゃない……ってか、もうアレ竜巻だな!? 上を見ると既に巨大な黒い渦ができていた。

 あのままデカくなっていったら上の足場が全部なくなるぞ……!

 これは躊躇ってる場合じゃない!


「やっぱり連れてってくれ!」

「で、でも……行ってどうするつもり!?」

「わからない! けど、このままじゃリン達が危ない!」

「わ、わかったわ」


 侍従長の手を取り吊り下がる。俺の異能で作られた剣は手を放せば粒子となって消えていった。

 それを確認した侍従長が大きな羽をはばたかせて上昇していく。

 それにしても末の妹姫の暴走か。

 一応暴走した原因を聞いてみたけど侍従長にはわからないらしかった。


「末っ子って強い力を持ちやすいのかしら」

「何の話だ?」

「いえ、なんでもないわ」


 なんだよ。顔が見えないから心情がよくわからねえ。まぁ、深入りするもんじゃないな。

 それよりもうすぐ屋上だ。気を引き締めて……あれ?

 竜巻が収まったぞ? リン達が解決したのか?


「いくらリン達でも魔力なしじゃキツイと思ったんだけどな」

「陛下達も暴走したミークリア様をお止めするのは難しいわ」

「じゃあ誰が?」

「可能性があるとすれば、ネオ……様……」


 ネオ様? 誰?

 って、なになに。急に怖い顔になってるぞ!?

 俺の疑問を無視して急上昇する侍従長。そして辿り着いた屋上はは全体が見るだけで吸い込まれそうな闇に包まれていた。

 なんだよコレ!? リン達は!?


 ──ドゴォン


 少し離れたところから聞こえた音。その方向を見ると真っ黒で小柄な人影があった。

 その人影によって壁に押さえつけられているのは──……


「リン……!」

「マズいわ! もう下ろすわよ!」

「あっ、おい!」


 慌てたように乱雑に俺を屋上の端へ下ろし、侍従長は風を切るような勢いで2人のもとへ飛んでいった。


   ◇ ◇ ◇ Side Lequel ◇ ◇ ◇


 へぇ、先祖返り。本当に居るんだ。初めて会った。

 彼女の背中に大きな羽はもうない。力を使わない限りは普通の人間と変わらないように見える。今はネオや闇族にケントから聞いたのであろうこちらの事情を説明していた。

 あいつら身内の言葉ならちゃんと聞くのかよ。


「では、本当にあの男を打ち倒したと言うの……?」


 女王キージュが震えた声でゆっくりとこちらを振り向いた。初めて年相応の顔を見た気がする。

 団長がその言葉を肯定した瞬間、キージュはその場に崩れ落ちた。瞳からぼろぼろと大粒の涙が溢れ出してくる。

 11年前の彼女はたしか10歳くらいだっけ。

 今ここにオブスクリタス王国女王の姿はない。いるのはただ長年の苦しみや恐怖から解放され安堵の涙を流す小さな子供の残像だ。

 団長がそんなキージュにゆっくりと近付いていく。

 少しだけかがんでキージュと視線を合わせた団長は静かで穏やかな笑顔を浮かべて言葉を紡いだ。


「伝えるのが遅くなってホントにごめんなさい。リア達はもうあなた達が知るバーニシアではないわ。どうか信じて、安心してほしい。

 そしてバーニシアを代表して11年前の凶行について謝罪するわ」


 そう言って団長はキージュのお腹に手をかざす。すぐに淡い光を放ち始めた。

 団長の魔力〈恩寵(ラ・ピュセル)〉だ。

 時間が経って消えた魔素も少しずつ元に戻ってきた。簡単な技なら使えるっぽい。


「痛みが……」

「うちのレイナが悪かったわね。うわっ、骨折れてるじゃない。見た目に反して馬鹿力だったでしょ」

「一言余計じゃない?」

「残念ながら前聖騎士長には逃げられて行方知れずになってしまったわ」

「無視かよ」


 しかし部下達は倒したからもう恐れることはない。


 団長のその言葉で闇族の張り詰めた空気がさらに少し軽くなったのが伝わる。キージュの瞳がまた一段と見開かれた。

 10年前まで恐怖で世界中を支配したバーニシア王国前聖騎士長。

 しかし人々が真に恐れたのは彼自身じゃない。

 彼に仕える忠実な3人の聖騎士たちだ。オブスクリタス王国を一晩で滅ぼしたのもその3人。キージュ達が安堵するのは当然の反応と言える。


「とりまコレで誤解は解けたな♪」


 瓦礫の上にドカッと胡坐をかいてチャムが言う。

 なんだか皆すっかりボロボロになってしまった。当初は話し合いで済むはずだったんだけどな。


「レイナさんがいきなりバーニシアの名前をお出しにならなければこんな事にはなりませんでしたのに」

「へーへーすんませんでした」


 全部ウチの責任ってわけでもなくない? と思わないこともないけど、正直言い返すのもめんどくさい。もう解決するならなんだっていいや。


「少なくとも最上位精霊に守護されてる闇族なら無関係だって証明できそうだな」


 ウチの隣で介抱してくれていたケントがネオを安心したように言う。

 魔人族を復活させるような物騒な連中を精霊族が守護するなんて普通に考えてあり得ない。これであの大臣(オッサン)共を黙らせられる。

 そう思えばここまで来た甲斐はあったかも。


「まーな。それより……オイ、オマエ」

「ウチ?」


 どうしたネオ、そんな険しい顔して。君はさっき説明されて納得した顔してたじゃん。今の話だって万事解決って流れだったじゃん。

 これ以上の面倒事は勘弁してほしいんだけど。

 ネオは眉間にしわを寄せたままビッとウチを指さし、宣言するように言い放った。


「オマエらの事情はわかったが、オマエにはまだ聞きたい事がある! オマエ、ミルフィーナを知ってるだろ!」


 ミルフィーナ…………。


「…………誰?」

「は!?」


 なんでネオが驚いてんの。ミルフィーナ? そんな知り合い居たっけな?

 ネオが愕然とした顔でウチを凝視するもんだから団長たちまでウチをいじり始めたじゃん。というか、なんで皆ウチが忘れてる前提で話を進めてんの?

 え? 興味ない人の事を覚えなそう?

 …………ノーコメントで。


「光の最上位精霊ミルフィーナだぞ! ほんっとうに知らないって言うつもりか!?」

「光の最上位精霊……?」


 …………あ。


「そういや妹がそんな名前だっけ」


 うん、そうだ。すっかり忘れてた。

 君らは光と闇の最上位精霊だもんね。表裏一体の存在同士、知った仲でも不思議はないか。

 ん? みんなどうしたの?

 皆してウチのことをカッ開いた目で凝視している。なんでそんな引きつった顔してるワケ?


「「「「妹ぉぉお!!!???」」」」


 明らかに今日1番の大声だった。今更だけどこんな夜中で近所迷惑になってないのかな。

これにて1章オブスクリタス王国編完結です!

次章復古祭編も引き続きよろしくお願いします!!

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