第56話 思いがけない乱入者
トラックが衝突したことにより、床も壁も天井も全体にヒビが出来た。奥に進むにつれヒビは大きくなり、横の壁がどんどんと無くなっていき、屋内だというのに頭上からは日が差す。
「はぁはぁ、くそ、が…!」
崩壊した宮殿の廊下を歩く女性の姿があった。その女性の周りにはガレキや、それの下敷きにされた兵士たちがゴロゴロと転がっていた。
そんな道をゴールド・ラッシャー幹部のティンクルが歩いていた。
「シス、ター・ティンクル…」
ティンクルの背後から、荒い呼吸が混ざった呼びかけが飛んでくる。そちらに目を向けると足を引きずってやって来る部下の姿があった。
「…んあ?おぉ、よく生きてた」
生きてはいたもののティンクルも部下も無傷というわけではなく、部下は左足右腕を、ティンクルは頭からダラダラと血を流していた。
「ところで、お母さんが今どうなってるか知ってる?頭をぶつけたせいで頭内通信が壊れた」
「マザー・キュートの、場所は分からない…が、連絡は取れた。僅かな負傷があったとのことだ」
「そう」
ティンクルは少し安心したような顔をした後、スカートの中から二丁の拳銃を取り出す。
「…それが分かったなら大丈夫だ。私は敵を討つ」
二丁拳銃はバラバラに分解され、一丁のライフルへと姿を変えた。
「え?でも、あなたも十分、ボロボロじゃないか。治療を…」
「知らない。今はお母さんに害する奴を殺すだけ。治療はその後」
ティンクルは部下の言葉を無視して喧しいエンジン音がする方向に進んでいく。
「だ、だけど…明らかに血の量が…」
後ろを歩いていた部下が不自然なところで言葉が切れる。
「…!」
ティンクルは姿勢を低くして、背後に目を向ける。そこには頭から血を噴き出した状態で倒れる部下の姿があった。
ティンクルは僅かに目を見開いた後、部下から目を離してライフルを構えた。
(…周囲にいない。私からは視認できないが、確かに狙われている)
ティンクルは周囲の警戒後、部下の銃創を確認する。
(こめかみを一撃…私たちは南に向かって歩いていた。つまり敵は西か東、どちらかにいる)
ティンクルはヒビだらけの壁に背を向け、東側に向かってライフルを構える。
「まずは、敵の位置を見定めなければ…」
ティンクルが次の攻撃が来るのを待っていると、エンジン音に紛れて銃声が聞こえた。
(来た!)
西か東、どちらか来てるのか。その確認をしようとするティンクルは大きな困惑に陥っていた。
(ッ!北から、飛んできた!?)
飛んできた方角に驚いてみたものの、その軌道を見て静かに鼻で笑う。
弾は明らかにティンクルからかなり逸れた方向、ティンクルの右斜め前方にあるボロボロの壁目掛けて飛んでいた。
(敵も兵士が不足してるようだな。こんなウデの悪い狙撃手を幹部である私に寄越すなんて…)
ティンクルがそうやって敵のいる北に体向けつつも、一応弾の終わりを見届けようと横目で眺めていると、弾が奇妙なことを起こしたのだ。
「…ッ!?」
確かに弾は壁に当たった。そこまではティンクルの予想通りに進んでいた。ただそこから先は思い描いていたものとは違った。
壁に当たった銃弾は跳弾した。そこまでならまだただの跳弾で済ませられただろう。しかし、その弾は斜め前に飛んでいき、ティンクルの背後の地面に当たる。
(ッ!?なんだ…!この狂った軌道は!?)
地面に当たって終わり、というわけにはいかず、弾はさらに斜め上に跳弾する。弾はティンクルを中心に半円を描く形でティンクルの左に位置する壁を跳ね、ティンクル目掛けて飛んでいく。それは丁度ティンクルのこめかみの位置であった。
「だぁ!?」
弾が頭を貫いたが、首を傾けたことにより浅いところで済んでいた。
(偶然か?いや、偶然だとしてもこれはありえない…!実力だって言うなら、尚更)
頭を撃ち抜かれた痛みで地面に倒れたティンクル。追撃が来る前に立て直そうと顔をあげた瞬間、パンッと銃声が耳に入った。
(っ来る!!)
ティンクルは無理やり体を起こし、弾の来る方向を見定める。銃弾はまたもティンクルの周囲を半周する…だけでは終わらず、そのまま前方を横切って右側の壁を跳弾して、ティンクルの右こめかみを狙う。
「ッ!クソが…」
しかし撃ち抜かれたのは顎であり、またもギリギリのところで持ちこたえたのだ。
(銃を、落としてしまった…いや、武器を持っていたとしてもコレに勝てるビジョンが見えない)
そんなことを考えつつも諦めたわけではなく、避けに徹して反撃のタイミングを探る。しかし探れば探るほど体の穴が増えていき、意識が遠のいていく。
(頭を狙うをやめ、腹や腕を潰しにきた…私の機動力を下げるためか)
どんどんとティンクルの動きが鈍くなっていく。顔を地面に伏せ、息を整えることで精一杯であった。そして、そんなティンクルに向かって一段と鋭い弾が飛んでくる。
(トドメが、きた!)
直感で分かった。自分は死んでしまったのだと。ティンクルは顔を伏せたまま激痛が来るのを待っていた。
(…死んでしまったか?)
即死で冥土に行ってしまったのかなんて思いながらゆっくりと顔をあげようとすると、その顔を冷たい風に撫でられた。
「…なんだこれ?」
ティンクルの目の前に壁がそびえ立っていた。さっきまでは無かった氷の壁だ。
「ギリギリ、だったね」
ティンクルの隣に膝をつき、顔を覗き込みながら一人の女性がいった。
「私が助けに来たわ」
「…ベティ・ジャッタリー。目を覚ましたのか」




