第53話 最高速度の一撃
「はっやいねぇ」
アティアが憎たらしそうにルールーを見つめる。かなり焦った様子の二人を余裕の表情で見下ろしながら静かに言う。
「それはどうも。あなたたちも足だけにしては速いですね…ま、結局私を前にしてはそんなくだらない速さで逃げることなんて不可能でしたね」
「へっ、なんか勘違いしてるみたいだから言うけど…逃げてるわけじゃないから」
ミースとアティアは目的地である建物の前に立ち塞がるルールーに向かって銃口を向ける。
(しかしぃ…あの女速すぎて弾が当たる気がしない)
ルールーのスピードを前では拳銃のから放たれる弾丸など威嚇にすらならなかった。
「ミース、どうする?あまりにもカスみたいな位置関係だけど…あいつをどーやってあの建物の前から引きはがす?」
アティアは弾を装填しながらミースに耳打ちする。
ルールーは二人が目指している建物の前で旋回するように走っており、そんなルールーをどうにかしない限り勝ちはない。
「どーやろうかね。そもそもこの状況に陥った時点でかなりキツい。アイツを退かさないといけないが、退かせるビジョンが見えないぜ…」
二人がそんな会話をしているとルールーがバイクを叩いて自身に注目を集める。
「あまり悠長にしないでください。こちらも忙しいので」
何をしているのか警戒していたルールーであったが、ぐだぐだと作戦会議をしているだけだと気付くや否やバイクを発進させる。
「ヒャッ!?」
アティアはバイクの体当たりを食らい、情けない叫びをあげながら宙を飛ぶ。標的に選ばれなかったミースは吹っ飛んでいくアティアをキャッチする。
「っお、ナァイスキャッチ…うわっ!?」
キャッチされて一安心していると、アティアの体に謎の浮遊感が襲いかかる。
「なんと…弾がデカければ当たるととでも思ったのですか?」
ミースはアティアをキャッチした後、なんの躊躇もなくアティアを投げ飛ばした。
「チッ。無理だったか」
アティアはルールーに掠ることすらなく、地面にズタンと音を立てた。
(ま、これで当たるとは思っていないけどな)
当たりはしなかったものの当初の目的を半分達成することができた。
ミースが投げたアティアを避けたことにより、ルールーの背後にアティアを持っていくのに成功した。
「一応、挟み撃ちだね」
立ち上がったアティアはわざとらしく首を撫でながら笑う。
「それが、何になるのでしょうか。あなたたちがその建物の中に逃げ込まれたら困るというだけであって、挟み撃ちにされることはなんの問題にもなりません」
ルールーはエンジン音で威嚇しながらクルリとUターンしてアティアに襲いかかる。
(クッソ…!避け切れない!)
アティアはバイクの突進を真正面から受け、血反吐をまき散らしながら地面を転がる。
「はぁ、この、瞬間だけはお前も停止してくれるな」
バイクとアティアが衝突したと同時にミースがルールーの背後から飛び掛かる。
「邪魔です」
ミースはいとも容易く振り払われ、アティアと同じ方向に投げ飛ばされてしまった。
「がはっ!…やっぱり、無理、か」
そんな風に愚痴るミースが顔をあげた瞬間、その顔に僅かな希望が浮かんだ。
(いや、待てよ!こうなればまだ俺らにも勝機はあるぞ!)
ミースとアティアが投げ飛ばされた方向には目的の建物があり、数十メートルばかり歩けばもうそこに辿り着くことができる。
「…もうボロボロのあなたたちを警戒する理由はない。好きなだけ企んでください」
ルールーはバイクを浮遊させて、二人を押しつぶそうとする。
「アティア!!」
ミースは転がっているアティアの体を蹴り飛ばす。その反動を使ってアティアを右に、自身を左に転がして避ける。
「無駄な、足掻きですよ」
「無駄じゃないぜ。もうお前の攻撃は完全に見切ったんだよ。どんなスピードでも躱せるぜ」
ミースはアティアを連れて、ルールーの目の前に戻りながら挑発する。
「…端から端まで安っぽい。完全に見切った者の姿ではありませんよ」
ルールーは呆れた様子で怪我だらけの二人を見ながらバイクをバックさせる。
「あまりにもチープな言葉に笑えてきます。ま、そこまで言うなら見せてあげますよ」
ルールーは十分な助走が出来るくらいまで下がると、宙に浮いたまま一気その場でタイヤを回転させる。
ルールーは喧しいエンジン音が轟かせ、車体を地面につける。
「走馬灯を見終えましたか?もう、こっから先は、一秒もありませんよ」
マフラーからとんでもない量の炎が噴き出し、タイヤのあまりの回転に摩擦で火花をまき散らす。しかしそんなことどうでもいいくらいのスピードであり、目にも止まらぬ速さで駆け抜けた。
(見えない…!けど、一直線に来ることだけは分かってる)
ミースは事前にアティアと目配せを交わしており、ルールーが発進し出すと同時にアティアに合図を送る。
(ここで…決めるぞ!)




