第50話 潜む影
「あんなに美しい輝きがあったのに…今じゃひっどい有様だね」
爆発の影響によって壊滅的な状況へと追い込まれた街の様子を見て哀れみの言葉をつぶやく。
「そうだね。それでもまだここはキレイなほうだよ、道とかさぁ。他の大通りはもう完全に死んでいたし」
道の脇に並ぶ建物は軒並み破壊されているものの、宮殿に続く道だけはキレイに残されていた。しかし残っているといっても、宮殿から数百メートルも離れれば道はデコボコの陥没で埋め尽くされている。
「で、どーすんだ?目的地もなくブラブラとしてるだけだが…敵の拠点とやらの目星はついてんのか?」
「さぁね。マザー・キュートはこの島のどこかに隠れ家があるらしい、とだけ」
「へぇ、ヒントなしか。無謀じゃねぇのか?」
「ない。ひどいクライアントだよ」
クウコが笑いながら辺りをキョロキョロと見回す。そして冷静な顔で話し始める。
「今日はやけに静かだね。昨日はドンパチドッカンやってたのに」
「だな。嵐の前の静けさってやつか?」
ミースが少し不穏なことを言うと、半壊した建物をジッと見つめた。
「…どうやら、オレたちは見られてるみたいだ。四時方向のビルだ」
ミースはサッと建物から目を離し、まるで雑談をしているかのような雰囲気で仲間たちに言う。
「どうりで。戦場特有の冷たい視線…というには殺気が薄すぎるや。まだ、殺すつもりはないみたいだよ」
クルリと体を回転させながら周囲の様子を見る。
「…こっから見える建物は五つ。一応全て警戒しておいた方がいいんじゃない?」
視線は一つではない。感覚でそれを察していたアティアたちが速やかに作戦会議へと移行する。
「一人一棟を潰していこう。この距離でバレる程度の奴なら一人でも十分だぜ」
「でも近くにあるのは五つだぜ?ラストはどうすんだ?」
「早いもん勝ちでいいでしょう?それじゃ、そういうことで…解散っ」
クウコの合図とともに四人は別々の方向に分かれていった。
◇◇◇
「今、敵兵四人がボスのルート上を歩いてた。あぁ、安心しろ。邪魔になりそうだったら殺す。わーってる緊急時以外は待ちだろ?準備が終わるまで息をひそめておくよ」
ビルの中でだれかと通話していた男がスコープを覗きクウコたちの様子を確認しようとした瞬間、後頭部に固いものがコトンと当たる。
「…どこを見てるんだい?もう標的はすぐ後ろにいるってのに」
男の背後をとったクウコは突きつけている拳銃をグリグリと押し付けながら口を耳に近づけてささやく。
「ボスのルート、ってのは?あそこの道は爆発の被害がないけど、そのことを言ってんのかい?」
クウコがどれだけ拳銃を押し付けても男は口を開こうとはしなかった。
「他の建物にも仲間がいるの?このビルにはアンタ一人しかいなかったけど他もそんな感じ?なんで目的が射殺じゃなくて監視なんだい?」
クウコが問いかければ問いかけるだけ男の額には冷や汗が流れ出す。
「…」
「だーんまり…まぁ、いい。あそこの道にやましいものが隠されてそうだし、後で調べたら何かは出てくるだろうね」
「ッ!?」
クウコの言葉に男の体が僅かに跳ねる。男は即座に体を停止させたが、クウコがそれを見逃すわけがなかった。
「ん、おっけ。その反応的に大まかなことは合ってそうだね」
クウコは拳銃の引き金を引き、倒れた男から狙撃銃を奪い取った。そして、スコープを覗きながら独り言をつぶやく。
「おぉ、やっぱり他の所にもいたのか。そして案の定どこのヤツも雑魚だったと…んー、一から十まで想定通り」
クウコはスコープ越しでピースをしてくるアティアを見た後、銃を投げ捨て残ったビルへと向かった。四階の窓から路地裏に飛び降り、薄暗い路地を駆け抜けていく。
(ホントは屋上を飛びのって一直線に殴り込みに行きたいが、さすがに目立ちすぎてしまうね)
クウコは塀を飛び越え、ガレキを乗り越え、目的のビルまでたどり着いた。
六階建ての比較的破壊の手に呑まれていないビルであり、クウコはそんなビルの外壁に出来ている凹凸に足をひっかけ垂直に上っていく。
「よっと…一番乗り~。誰かいないのかーい?」
ビル内に入り込んだクウコは軽口を叩きながらも、建物内に敵がいないかを確認する。
(…いない?)
クウコはビル内を上から下まで見て回ってみたが何者かが潜んでいる気配はない。誰かがいると踏んでいたクウコはその拍子抜けさにため息をつく。
「ここにもいると思ったんだけどねぇ」
そんな風に壁にもたれかかりながら独り言をぼやいていると、ビリーたちが続々とやってきた。
「…倒した、というより居なかったって感じだね」
「大正解。まぁ敵がいないにこしたことはない。とっととここを離れてマザー・キュートのところに向かうよ」
「おぉ、なんか手掛かりを掴んだって顔」
「えぇ、アタシが殺した兵が面白いことを言ってたのさ。あそこのキレイな道に何かがある、らしい」
クウコが窓の外を指さし三人がそれにつられて外を見ていると、背後から足音が聞こえてくる。
ツカ、ツカ、と己の存在を主張するかのような大袈裟な足音が階段を一段また一段と上るのが分かる。
「四人の生存反応が途絶えたと思い来てみれば…あなたたちでしたか。こんなゴミどもに殺された彼らはさぞ悔しかったでしょうに…」
この世界の人間は基本的に自分が一番だと思っている。ゆえに相手に敬意を示す敬語を使う者などごくわずかだ。そしてそんな敬語を使ってくる敵とほんの数日前に出会った。
「おいおい、マジかよ…。生きていやがったのか」
四人の目の前には一人の女性が立っていた。とても見覚えのある女性だ。
この島に入る直前でケンカを売ってきたバイク乗りの女、ビリーが湖の奥底に沈め殺したと思っていた女だ。
「おや?私をなぶり殺しにしてくれた方がいるではありませんか。丁度いい、あなたは特別汚く殺してあげましょう」
静かに確実な殺気を込めた一言を放ちながら拳銃を取り出す。
「ルールー・ムベデリア…!」
ビリーのその言葉とともに放たれた発砲音は皆の鼓膜を大きく振動させたのだった。




