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聖女の成り下がり  作者: 森宮寺ゆう
第一章 『希代の革命者』
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第48話 思考を喰う声

 ナイフを持ったチューデイと丸腰で少量の血を流しているキュート。傍から見ればキュートが圧倒的不利に感じるが、チューデイの顔にはまるで余裕がない。

(こいつは腕っぷしが強いとか、射撃能力がエグいとかじゃねぇ。内側から、精神を蝕んでくる。気を抜くと持ってかれる、知らぬ間に殺されちまう…どうしたもんか)

 とはいえ対策なんてものは全くないうえ、敵地の中心。目の前の敵に突っ込むことしかできない。

「ふっふっふ~ん。そんな悠長でいいの~?こっちから仕掛けちゃうよ~?」

 チューデイが対策らしいものを考えようとしていると、キュートが手をポンッと叩く。耳心地のいい音がチューデイの耳の中を反響していく。

(頭が…!)

「刺せ、心臓を一突きしろ、胸をズタズタのグチャグチャのしてしまおうか」

 チューデイの背中を冷や汗が伝う。全身の自由が消えていく。運がいいことに意識はしっかりと保っていられている。ナイフを持っている手がカタカタと動き出し、キュートに向けてた刃先が自身の胸へと向いていく。

(ん~…やっぱり短時間だと効きが弱いね~。でもこれといった問題はないかな~。時間がかかるだけだし~)

 キュートが指をパチン…パチン…と一定のリズムで鳴らしながら機械のように同じ言葉を繰り返す。

「刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ、刺せ」

 チューデイの脳の中にその言葉がループするようにグルグルとグルグルと流れ続ける。

(止まり、やがれっ!)

 チューデイは必死に腕を停止させようとするが、言うことを聞かない。プルプルと震えながらゆっくりとナイフがチューデイの胸に近づいてくる。

「きみは己が嫌になるくらい憎いんだよ。もう刺したくて刺したくてしょうがないくらいに」

 キュートのつぶやきがチューデイの頭を支配する。チューデイの抵抗力が弱まっていくのが分かる。

「黙れ!死んでたまるかよぉ!」

 チューデイはキュートに飲み込まれないようにと大声で自分を保ち続けた。ナイフを持つ手が止まる。

「…死ね」

「死んでたまるかよ!」

 チューデイはガタガタと震えながら向かってくるナイフを両腕でおさえながら大声をあげる。

「死ね」

「死なねぇ!」

「死ね」

「死なねぇ!」

「死ね」

「死なねぇ!」

「死ね」

「死ぬわけにはいかねぇんだよ!」

 一際大きな声で叫び声をあげる。体の奥が揺れ動くほどの、声のみでキュートを委縮させるほどの声が部屋に響いた。

 雄叫びをあげたチューデイはそのまま自分の意志で手足を動かし大きな笑みを見せる。

「俺は!てめぇの催眠に打ち勝ってやったぜ!」

 大きくガッツポーズはなんのアクションも見せないキュートに僅かな不信感を感じた。

「てめぇ…なんの顔だよ、それは」

 キュートは催眠術を破ったことに驚きはしているが、その顔に焦りは微塵も見えない。それどころか勝ち誇っているまである。

「どーしたんだぁ?自分のチカラが効かなくて笑うしかないってか?」

 ニコニコと笑顔を崩さないキュートの顔に向かってナイフを投げた…投げたハズだった。

「…?ナイフ、どこだ…?」

 チューデイはナイフを投げる動作をしてようやく気付いた。チューデイはナイフを持ってはいなかったのだ。

「…八秒」

「え?何を言って…」

「私が刺せと命令してから~その催眠をきみが解くまでの時間だ~。きみならこの時間に何が出来る~?」

 いまだに状況を理解できていないチューデイに背を向けて続けて話す。

「わたしなら、きみからナイフを奪って~、心臓をメッタ刺しにできるかな~」

「…は?」

 チューデイの顔が青ざめる。僅かに体を震わしながらゆっくりと視線を落とした。

「…な、なに…」

「わたしの催眠術を打ち破った~、勝った~?あーまーいーよっ。きみは私の掌でコーロコロ~」

 失くしたと思っていたナイフはチューデイの胸に深く突き刺さっている。足元に血溜まりができるほどの出血であった。

「おやすみ」

 チューデイに背を向けたままキュートは頭の上で手をパンと叩く。乾いた音が響くと同時にチューデイの視界がぼやけ、激痛が脳を覆いつくす。

(…ダ、メだ…ここで、倒れ…)

 チューデイの体は力なく地面に叩きつけられ、起き上がる気配を見せない。

「…」

 キュートはスッとチューデイの胸に人差し指をあてるが、鼓動は感じない。

「無謀、だったね~」

 キュートは鼻歌を交えて笑った。

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