第47話 夢現の魔法
(あの腕に何か意味があんのか?)
チューデイの視線はゆっくりとキュートの腕に吸い込まれていく。
「その服の大きさ、シワの感じ、汚し方…。きみの服、リュクのものじゃな~い?」
本来なら相手から目を離すわけにはいかない。しかし、チューデイは確信したように言うキュートの言葉が気になってしょうがなかった。
「…ッ!?」
チューデイは驚きを隠せないといった様子でポケットから取り出した身分証をしまった。
「それを当てて、どうなんだ?俺に勝てるのか?」
「勝てるよ~」
キュートは堂々と言ってのけると、口角を吊り上げる。
「何秒、私の動きを見た~?何秒、私の声を聞いた~?そーれーとっ、あなたの背後の花瓶の匂いどれだけ嗅いだ~?」
キュートにそう言われて初めて気がついた。花の香りが、さっきまでは気づきもしなかったのに、今は嫌なくらい鼻を支配している。
「きみはもう、私の術中にはまってるんだよ~」
キュートは揺らしていた腕を止め、ゆっくりと両腕を広げる。そしてそのまま手をパンッと叩いた。
「落ちろ」
キュートが一言、静かに言うとチューデイの足元が消える。建物全体が暗闇に消え、チューデイの体は真下へと落ちていく。いつまで経っても底に到達することはなく加速していく。チューデイはたったの二分で全身から汗が噴きだし、息も絶え絶えになってしまった。
「何年、俺は、落下を、続ければ…いいんだ?俺は、いつになったら、解放、されんだ?」
暗闇の中、ただ落下するだけのチューデイの目の前に光が映った。それと同時に落下していたことが無かったかのようにすんなりと着地した。
「あそこに、行けば、出れる…!」
チューデイからすれば天国から垂らされた蜘蛛の糸であり、必死に走ってその光へと飛び込む。
「…どこ、だ。ここ?」
チューデイは元いた部屋へと戻ってきていた。しかしさっきまでとは景色がかなり変わっていた。照明は消えていて代わりにチューデイの目の前に一本のロウソクが置かれていた。
「んー、おはよ~」
チューデイの様子に気がついたキュートがロウソクを乗せた皿を持ってチューデイの目の前に座る。
(こいつ、誰だ?てか俺はなんでこんなとこで座ってんだ?)
違和感を持ったチューデイが椅子から立ち上がろうとするが、キュートが肩を上から押してそれを阻止する。
「…ねぇねぇ。教えてほしいことがあるんだ~。きみの所属する、キラードライブの幹部の名前と戦い方の特徴を教えてくれる~?」
困惑するチューデイの目の前でロウソクの火を揺らし、指をパチンッと鳴らした。
「…幹部は五人いる。チップス・コロット、腕の中に小型の自爆ドローンを隠し持っている。ゴド・カリメ、スナイパーライフルを持っているが、近接でもかなり戦える」
機械のように淡々と仲間の情報を喋るチューデイの言葉を一言一句脳内の電子メモに記録する。
「そしてヅーテラ・ロベイットとビャッド・ナズベル、この二人の手からはプラズマのビームが放出される。それぞれのビームは短いが、二人が近づくと、ビームとビームが磁石のようにくっつく。そして、ルールー・ムベデリア、バイクを使用した戦闘を得意としていて、ボスの右腕ともいえる存在」
「ふーん…じゃあそのボス、の話も聞かせてほしいな」
そう問いかけられたチューデイは虚ろな目でジッとキュートを見つめながら口を開けた。
「ボスは、大型のトラックを操縦する。攻守ともに最強で、戦車の砲撃をものともせず、戦車を軽く轢き潰せる」
「そう~。じゃあさぁ、君の仲間たちの隠れ家を、教えてくれる~?」
これまでの質問はチューデイの状態を確認するためのものに過ぎなかった。キュートが一番気になっていたのは大量の兵をどこに隠していたのか、それがどうやって表にやってこれのか、それだけが気になっていた。
「俺たちの隠れ家は…」
チューデイがその秘密を口にしようとすると、チューデイの脳内にある記憶が流れてくる。
『この場所だけはぜっていにバレちゃいけない。ここは俺らの生命線と言っても可能ではない。何があってもだ』
いつ発したのか分からないが、確かにボスが発した言葉。記憶が蘇るとともに、チューデイの目に光が灯った。
「おめぇに、んなこと話す義理はねぇんだよ!」
チューデイは椅子から勢いよく立ち上がり、大きく拳を振りかぶった。
「きゃぐふっ!?」
顔面にパンチを叩きこまれたキュートは持っていたロウソクを地面に落とし、座っていた椅子からもろとも背後の机の上で一度バウンドしてから机の奥へと転げ落ちていった。
「ボスたちのこと、ペラペラと喋ちまったけど、てめぇ殺せばなんの問題もねぇよな」
目を覚ましたチューデイが隠し持っていたナイフを取り出してキュートを睨みつける。
「あ~あ、催眠術を自力解除しちゃうか~」
キュートは少しの苦笑を浮かべながら髪をかき上げ言った。
「ま、これといって問題があるわけじゃないんだけどね~」




