第46話 忍び寄る殺意
「…すっご重傷。なんで生きてんのか不思議なレベル。内臓も骨もグチャグチャだ」
島の中心にある宮殿でベティの体の状態を確認している男が目を見開き言葉を漏らす。
ベティはチップスとの戦いから帰還する所まではできたが、そこから先はずっと眠ったままの状態であった。
「そうかい。まぁ、生きてるならいい。目が覚めたら勝手に自分を治療するだろうよ」
クウコは一安心といった感じで仮設の医療室を出た。
キラードライブの奇襲を受けてから半日が経ち、日が沈んだ。一旦はキラードライブを退けたが、根本を叩き潰したわけではない。島中の人間がボスであるキュートを守るために宮殿に集まっていた。
(マザー・キュート。近づけば近づくほどわけの分からない女だね。アタシらが帰って来る一時間前には五万の敵兵を一掃して帰ってきていたなんて…)
クウコは昼頃の光景を思い出しながら心の中でつぶやく。そんな風にボーッと考えながら歩いていると、横から銃を突き付けられた。
「おい!ここから先に進むなら身分の分かるものを提示しろ」
ゴールド・ラッシャーのセキュリティシステムは現在機能していないためこのような方法で管理されている。
「はいはい、これだね」
クウコは突きつけるようにカードを見せながら警備の隣を通り過ぎていく。クウコがカードを見せたのはほんの一瞬で多分見れていない。しかし警備はクウコを止めることなく、そのまま道を譲った。
◇◇◇
「…静かすぎるな」
島を見回っているゴールド・ラッシャーの制服を着た男が言葉を漏らす。
「昼はあんなにドンパチやってたのにな」
同じく見回りをしている兵士が頷き、背後にいる仲間に同意を求めるように言った。
「そーだなぁ、敵どもはどこに消えちまったんだろうな」
しかしその言葉には否定も肯定もなかった。
「…おーい。無視はねぇだ…くふっ!?」
兵士の頭を痛みが走る。兵士はよろけながらも銃を構えようとするが、何者かに銃を蹴り飛ばされてしまった。
「…ざーんねんだぁ。てめぇのお仲間はもうバイバイしちまったぜ」
目の下にクマのある男は、兵士の首を片手で掴んで締め上げる。
「わりーなぁ。苦しいかもだけどよ、我慢してくれよなぁ」
男はクチャクチャと噛んでいたガムを兵士の顔に吐きながら欠伸をして見せた。
「っと、くたばってくれたな。血ぃ流させずに殺すのって大変だな」
男は白目をむいて力が抜けた兵士から服を剥ぎ取りながら言う。
「チッ。こいつの服ちっちぇな。もっとデケェやつを殺せばよかったぜ」
ゴールド・ラッシャーの制服に着替えた男は首をコキコキと鳴らしながら笑みを浮かべた。
「この俺、チューデイ・キッス様がゴールド・ラッシャーをぶち壊してやるよ。ボスゥ、あんたにゃデケェ土産をくれてやるよ」
チューデイは天に向かって手を伸ばしながらキュートがいる宮殿へと歩を進めた。
チューデイが島の中心にいくにつれて光や人の声が強まっていく。
(目標はマザー・キュートだけだ。それ以外の雑魚はおいおい殺してけばいい)
チューデイは宮殿内部に入ると殺した兵が身に着けていた帽子を深くかぶり、人と人の間を縫っていく。
「おい!貴様、身分の分かるものを出せ!」
チューデイは宮殿の中に入ってしばらくして警備の男に銃を突き付けられた。
「あぁ、身分だぁ…?」
チューデイは少し焦りながらも平静を装ってポケットの中に手を突っ込む。
(…こいつか?)
チューデイは身分証らしきものを取り出し警備に見せた。チューデイは身分証を提示してからあることに気がついた。
(顔写真…!そりゃまぁ、あるか)
チューデイは警備の目が顔写真に行く前に身分証をポケットにしまった。
「この服見ろよ、敵なわけねぇだろ?あまり仲間を疑っちゃいけねぇよ、兄弟」
チューデイは警備の肩をポンポンと叩き、宮殿の廊下を進んでいった。
侵入者のクセに堂々としていたせいか雑な身分証提示も怪しまれることなく通ることができた。
(マザーキュートはどこにいんたろうか。とはいえ一番安全な場所…建物の最奥とかか)
チューデイは長い廊下を歩いていると、黄金の両開きドアが目に入った。他の扉とはひと味違う、一瞬にしてここに標的がいるのだと確信した。
(いた…!)
扉を開けるとホログラム状の資料に囲まれているキュートがいた。護衛一人もおらず、ただ椅子の上で資料とにらみ合いをしている。
あまりにも順調すぎたチューデイは少し顔を緩めながらキュートに近づく。
(世界の七本指に入るほどデケェ組織だ。メンバーの顔を一人一人を覚えてるなんてことはまずねぇ。どんなに顔に覚えがなくても多少変に思って終わりよ)
チューデイはキュートにゆっくりと近づきながら淡々と話し始める。
「マザー・キュート。報告することがあるんだ」
「…うーん。いいけど~」
キュートはホログラムを全て消し、チューデイに視線を移す。
「…きみはさ、私の事をニワトリかなんかだと思ってる~?」
キュートは近くに置いてある花瓶をチューデイに向かって投げつけた。
「ッ!?」
チューデイがそれを横に避けると、背後でガシャンと花瓶の割れる音が響いた。
「私は人間だよ~?我が子の顔をさ、忘れることなんてなくなーい?」
「…ここまでは良かったんだけどなぁ」
キュートは左腕を真上に掲げたかと思えば、曲線を描くようにして下に落とし、振り子のように左右させる。
「きみーその服さ。どこで手に入れたものなのかな~?」




