第44話 殺気の羽音
両者が同時に動き出す。チップスの袖からコバエが現れるが、相も変わらずゆっくりと飛行している。
「もうその攻撃は無駄だよ」
ベティはアイスランスでコバエを的確に貫きながら、拳銃を構え反撃の一発を放つ。
「おーとっとぉ~。危ないよー」
「よくもそんなヘラヘラとしていられるね。もうあなたのその攻撃が私に通じることはないのよ」
「僕の心配だなんて嬉しいねぇ。でも安心して、理解していないんだよ。この子たちの真価に」
チップスは先ほどと同じようにコバエを袖から出す。ベティはその直後にある変化に気付いた。
「ふふっ、そうだね。驚くのも無理ないよ。こんなにうるさかったらさ」
ババババッと耳を塞ぎたくなるような羽音を立てながらコバエたちがチップスの周囲を飛び回る。
「これは…」
「ふふっ、気になるよね?気になるよね!?なら、見せてあげるよ!」
チップスが言い終えると同時にコバエがベティ目掛けて突進する。さっきとは比べ物にならないレベルのスピードだ。
「速いっ!?」
何か違うことは理解できたが、これほどの変化があるとは思わなかったベティは見事に不意をつかれてしまった。
ベティがそう思った頃にはコバエが懐に潜りこんでおり、ベティの腹部に激突した。
「あっ、ぐ、はぁぁ!」
ベティは地面に血をバラまきながら悶える。
「ヒ…ぃ…ルゥ」
ベティが体勢を立て直そうとするが、向かってくるコバエに阻止されてしまう。
「アイス、ウォール」
五匹中、二匹のコバエは氷の壁に激突したが、残り三匹が氷の壁を回り込んでくる。ベティはそのコバエを転がるようにして避けた。
「キキイッパツ、だね~。まぁ、こっからの逆転は無理じゃないのかな?」
チップスの袖の中からビュンビュンとコバエが飛んでしてくる。次々と飛んでくるコバエを避けるのに必死で反撃することが出来ずにいた。
(ヤバイッ!爆風がっ!体をっ!掠めて…うわっ!?)
ついに嵐のような爆発に巻き込まれ、大きく吹き飛んでしまった。
「ごふぁ!?」
体を壁に叩きつけられたベティは這いずるようにして追撃を躱す。
「吹っ飛ばされたけど…これはチャンスよ!」
爆発の勢いで飛ばされたベティは運がいいことに階段の付近で転がっていた。
ベティはその階段を下る。というより転がって下の階に向かった。
「はぁ、ヒール。死ぬかと思った」
ベティは体の傷を治す。しかし、痛みが治まるどころか、さらなる激痛が襲いかかって来た。
「しまっ…たぁ!」
ベティは現在、ヒールを行ったことにより体にダメージを負ってしまったのだ。
(骨が折れたまま回復したせいで肉に骨が食い込んだ状態で固定されてしまった)
ベティがうずくまりながら治癒した部位を撫でるようにする。
「ありゃりゃ~?何もしてないのに、悲痛な叫びがー?」
ゆっくりと階段を下りてきたチップスがベティの姿を見て嘲笑う。目を凝らして見ればチップスの周りを五匹のコバエが旋回している。
「アイスウォール!」
ベティがチップスを視界に入れた瞬間に氷の壁を生成する。
「…はぁ、君が見えないと狙いが定まらないんだよね。それやめてくれない?ビヒョーにうざったいんだ」
「黙って。それでやめるワケないでしょ」
ベティは氷の壁に背中をくっつけながら拳銃を握る。
「その氷から姿を見せてくれない?結局僕に殺されるんだからぁ…あまり抵抗しないでよね」
チップスはニヤニヤとしたまま氷の壁の向こうにいるベティに話しかける。チップスは勝ちを確信しているものの、自分から向かってくつもりはないようだ。
「アイス…ランス!」
ベティが氷の壁を飛び越えながらチップスに向かって四本の氷の刃を放つ。
「ハハッ。少し攻撃方法が単調なんじゃない?」
チップスは四匹のコバエで氷の刃を爆破して破壊する。爆発の煙で向こうが見えない状態のまま、反撃に残った一匹をベティに向かって放った。
(…ん?爆発の距離が近くないか?)
コバエはボンと爆発した。しかし明らかにベティがいる位置に到達する前に爆ぜたように感じた。
「私のアイスランスをそのコバエで壊してくれると思ったよ。そのおかげで私が拳銃を構える姿を煙で隠せたんだよ」
煙の向こうから数発の弾丸が飛んできた。弾丸はチップスの腹部を貫く。しかし相手が見えないのはベティも同じなようで心臓に狙いを定めることが出来なかった。
「あなたは少し、調子に乗り過ぎたんじゃない?慢心が出てたわよ。だからこんなやられ方したんだよ」
「ッ!クソがっ…一回当てた程度で…調子に乗ってるのは君だろう!?」
チップスは青筋を立てながら歯ぎしりをしてベティを指さす。
「お遊びは終わりだよ!!僕がせっかく手加減してやったのに、慢心だぁ!?いいよ!やーってやるよぉ!ベチャベチャのグチャグチャの燃えカスにしてやるよ!」
チップスは頭をガリガリと掻きむしり、つんざくような怒声を飛ばした。




