第38話 衝突
「…フフフッ。そんな顔しないでよ〜。これでも七大国家のボス。多対一のやり方もわかってるよ〜」
キュートはそう笑いながら北側を目指して歩き出した。
「南側の指揮はフォーに任せたよ~」
キュートはそう言って自身の隣に立っているゴールド・ラッシャー兵の肩をポンポンと叩いた。
「了解だ」
ハートのラインが入った金髪坊主で、キュートにフォーと呼ばれた男はベティに向かって一度礼をしてから話し始めた。
「俺の名はフォー・ディガットと言う。ここにいる者たちの命は俺が預かることとなった。とりあえず敵の進軍一刻も早く止めなければならない。向かうぞ」
フォーはそう言って足早に南へと向かって行った。ベティはその後ろ姿を見ながらクウコにヒソヒソと話しかける。
「ねぇ、五万って無理だよ。ここには百人程度しかいないよ。キュートは勝てるとか言ってるけど、私たちは無理よ」
「アタシだってそう思ってるさ。ただね、アタシらは一刻も早く後ろ盾が欲しい。それもキングリーパーを乗っ取れるくらいの大きいやつさ」
クウコはベティの肩を組みながらそう言ってフォーの後ろを追いかけていく。
「ビリーたちはどうするの?」
「あぁ?やるしかないだろ。じゃねぇとなんのために来たか分かんねぇだろ。正直相手が悪いとは思ってるけどよ」
ビリーの言葉にミースとアティアも頷きながらそれを続いて行く。
「ブラザー・フォー。さっき飛ばしたドローンに敵が映った!」
細く狭い道を進んで、数十分歩いたところで兵士の一人がフォーに向かってタブレットを見せる。
ちなみにゴールド・ラッシャーでは幹部の事をブラザー、シスターと呼ぶこととなっている。
「そうか。皆も見てくれ」
フォーはこの場の者全員に見えるようにタブレットを軽く持ち上げる。
画面には大量の兵士が雪崩のようにこちらへと向かっている光景が見える。この島は道はキュートがいる宮殿を中心に放射状の大通りと、そこから枝分かれとなった小道で続いているかんじだ。
敵兵の大半が大通りをバイクや車で駆け抜けている。その他の兵は小道を数人組で進んでいた。
「…数は多いが、小道からの奇襲ならまだ勝ち目はあるだろうな」
フォーはこの場に居るメンバーを見回しながら口を開ける。
「数人は大通りに出て敵軍の注意を引いてもらいたい。その隙に残った者で路地の敵を殺す」
フォーがそう言って囮役を誰にしようか悩んでいる中、ベティがスッと挙手する。
「私の能力ならある程度相手の気を引くことができるよ」
フォーはゴールド・ラッシャーの者ではないベティが一番危険な役を真っ先に買ったことに驚きながら話を進めていった。
「そうか、それは嬉しい。では俺と彼女が囮となろう。それ以外の者は合図があるまで待機だ」
フォーはベティ以外の人間に向かって叫ぶ。そして、ベティを手招きしながら大通りへと向かって走り出した。
「…オレはあなたの名前を知らない。差支えないようなら教えてくれないか?」
「ベティ・ジャッタリーよ」
「そうか、ベティか。恩に着るぞ」
フォーはそう言って大通りが見えるビルの窓を割って中に入る。まだ大通りには敵軍が見えない。
「あと三分もすれば敵が来るだろうな」
フォーは拳銃を構えて、ビルの外を観察していた。
「そう、ねぇフォー。この車を使っていい?」
ベティはそう言いながら外の路地にある車を指さす。その言葉にフォーは首を傾げながらもその問いに答える。
「どう使うか気だ…いや、緊急事態だからな。使っていいぞ」
フォーの答えを聞いたベティは軽く頷いてから窓の外に出て、車に近づく。エンジンはまだあるようだった。
「車で敵を轢き殺すつもりか?やめておいたほうがいいぞ。向こうも車だ、正面衝突して終わりだ」
「そんなことはしないから安心して。それよりもあなたは敵が来たら私に教えて」
ベティに言われたフォーは窓の外を見て敵が来るのを待っていた。
「…そろそろだ…来たぞ!ベティ。俺は行くぞ!」
大通りに大量の敵兵が走り抜けていく。数千の車が猛スピードで次々と流れていく。
「待って!あなたも巻きまれるよ!」
拳銃を持って大通りに飛び出そうとするフォーをベティが止める。
「あ!?何を考えて…」
「ちょっと待って!アイスウォール!」
車の下から氷の壁が飛び出し、車を真上に打ち上げる。その直後にビルの建物から斜めに氷の壁が出現し、宙を浮いた車を大通りに向かって打ち出す。
「なっ!?」
車はそのまま放物線を描きながら大通りのど真ん中に落ちる。それは敵軍の中心でもあり、唐突に現れた車に驚いて行進が停止した。
「なるほど、今のうちに…」
「まだだよ」
ベティはビルの中に戻り、動き出そうとするフォーの肩を左手で掴んで制止させる。
「見てよ。ほら、さっきの車」
アイスウォールと二度も衝突した車はボロボロになっており、車からは微かに炎が出ていた。
「まさか…」
二人がその車を見守っていたその瞬間、車が火花を散らして爆ぜた。
たった一つの車から起きた小さな爆発ではあるものの、周辺の数人は吹き飛び、混乱で隊列は明らかに崩れていた。
「…凄まじいな」




