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紅き軍靴は少女に微笑む  作者: フローレンス
2章 復興・復讐
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大世界大戦

再建省・深夜の執務室


窓の外では雪が降っている。

戦時体制への移行準備で、省庁の灯りは遅くまで消えない。


だが、リシアの部屋だけは静かだった。


机の上には王国との緊急電報。

動員計画。

親衛隊の増強案。


彼女はそれらを閉じ、椅子にもたれかかる。


そして思考は、遠い世界へ向かった。


――元の世界。

かつて自分が生きていた場所。


記憶の中の歴史


第一次世界大戦。


敗戦国ドイツ。


莫大な賠償金。

領土喪失。

軍備制限。

国家の屈辱。


やがて訪れたハイパーインフレ。

パン一斤が億単位にまで跳ね上がる。


民衆は「なぜこんなことになったのか」を理解できず、

怒りを外へ向けた。


そして生まれた。


アドルフ。


彼は言った。


「誇りを取り戻す」

「敵を打ち倒す」

「民族の再生」


民衆は熱狂した。


経済は回復し、

失業率は下がり、

高速道路が整備され、

軍は再建された。


だが――


その先にあったのは、

第二次世界大戦。

ホロコースト。

都市の焼失。

国家の分断。


完全な破滅。


リシアは目を閉じる。


ヴァルターの演説。

黒い制服。

一党独裁。

緊急権限法。


あまりにも、重なっている。


しかし、歴史は変わった


だが第二次世界大戦後、

世界は学んだ。


敗戦国ドイツに対して、今度は違う道を選んだ。


マーシャル・プラン。

経済復興支援。

民主主義の再建。

欧州統合。


罰するのではなく、組み込む。

押さえつけるのではなく、安定させる。


その結果――


ドイツは再び世界有数の経済大国となった。


破滅ではなく、再生。


リシアの内省


「……同じ道を、また歩いているのか」


彼女は呟く。


この世界の戦勝国は、第一次大戦後と同じ過ちを犯した。


過酷な条約。

経済的締め上げ。

屈辱。


だからこそヴァルターが生まれた。

だからこそ自分も彼を支持した。


だが――


もしあの世界のように、敗戦国を包摂する道が選ばれていたなら?


祖国再生戦線は生まれただろうか。

秘密警察は必要だったか。

戦争は、ここまで近づいただろうか。


恐ろしい気づき


リシアはゆっくりと立ち上がる。


恐ろしいのは、ヴァルターではない。


恐ろしいのは――


歴史が、条件さえ揃えば自然に同じ方向へ流れることだ。


屈辱。

経済破綻。

民族意識。

カリスマ。

外敵。


揃っている。


完璧に。


遠くで親衛隊の訓練の号令が響く。


「世界は、二度焼かれてようやく学んだ」


その事実は否定できない。


第一次大戦後、世界は敗戦国を締め上げた。

その結果、独裁者が生まれた。


第二次大戦後、世界は包摂し、再建させ、共存の枠組みを作った。


だが、その学習は――

大量の死の上に成り立っていた。


危険な思考


もし、この世界がまだ学んでいないのなら?


もし王国も公国も、勝者の慢心を抱えたままなら?


もし――


世界規模の衝突がなければ、構造は変わらないのだとしたら?


「大世界大戦……」


その言葉が、静かな部屋に落ちる。


だが同時に、別の記憶が蘇る。


雪原。

ティアの血。

焼け落ちる街。


“学習”の代償。


リシアは目を閉じる。


もし自分がそれを設計すれば、

それはヴァルターと同じになる。


違うのは目的だけ。


だが、結果は同じだ。


彼女はゆっくりと首を振る。


「違う……」


世界を焼いて教育するのは、指導者の傲慢だ。


歴史は学習する。

だが――


学習の方法は、一つではない。

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