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映画館で会った彼が大変なようです

あれから2週間。

相変わらず俺は、朝から晩まで練習に明け暮れている。


朝のメニューを終えて、朝食をすませ、ジムに入って数秒後の事である。


「ガク、練習中に悪いが相談に乗ってくれないか?」

入ってきたのは、中山双冶だ。


「ん?こんな時間にどうしたんだ?」

最もジムで会わないであろう人物との対面に、俺は目を丸くする。


中山は話を続けて、

「実は、知念社長に課題を山ほど、テキストでもらってな」


話が見えて来ない。俺はそもそもの経緯を聞く事にした。

「部屋に置いてるのか?しかし、どうしていきなりそんな事になったんだ?」


中山は少し、ためらってから答えようとすると、

「あー、ガク。今日はその子の話、聞いてあげたら?」

近くで待機していた与野さんが、俺を自宅に帰るように促す。


「そうですね、ここで話し込んでも周りの迷惑でしょうし」

「すまん、俺の学力じゃあすぐにはどうにもならなくて」

中山も謝っている。


俺はジムの出入口へと引き返し、中山と一緒に自宅へと戻る。


■■■ 


俺は自室で、彼の話を聞く事にした。


「で、どうしてそんな話になったんだ?」

俺の質問に今度は、中山も話を切り出す。


「実は映画館で両隣に居た女の子居ただろ?」

「あー、桃山さんと鳰入さんの事だな」

「そうそう。で、その関連にはなって来るんだが」


中山は少し、口をつぐんでから、改めて話す。


「俺の家って、家族は両親しか居ないんだけど、俺って今、野球もプロ目指してやってる訳じゃないから、卒業後に強制的にお見合いする話になってしまって」


(お見合い?どう言う事だ?)

俺はまだ、話が見えてないので、黙って聞く事にした。


「俺の父親は、それなりに大企業の幹部なんだが、俺の顔を見るなり『こんな安い女どもを侍らせて恥ずかしいと思わないのか!高校までは許してやるから、私の指定した女と結婚しろ』と、まあ本人の意思を無視した政略結婚をさせるらしい」


中山はさらに顔を歪め、

「相手はどこかの令嬢らしいが、調べてみたら知念社長のライバルいや、蹴落としたいと思っている企業の役員令嬢らしい」


俺も顔を歪め、無意識に声が低くなりつつ、ある事を聞く。

「それって、音羽や経営してる会社全体に関わると言う事か?」


中山は力が入らない感じで話を続ける。


「ん、音羽?ああ、社長とはそこまで親密なんだな。まあいいや、それでうちの親は『従わないなら、学費を一切出さないし、適当な罪を着せて一生全うな生活を出来なくさせてもいいんだぞ?』と、ここまでやられる筋合いはないのにな。それと、彼女達も一家ごと地獄に突き落としてやるとも言ってたんだ」


(ここまでの話だけでも、個人的に対応しないほうがいいと思うが)

既に個人的な話で済む事では無いが、他にも聞きたい事があり、

「なあ、二人はこの事を知ってるのか?」


中山は落ち込んだ様子で続ける。


「いや、伝えてはいない。ただ、彼女たちの実家は経済的にギリギリでこの高校に出してるから、うちの親が金を出して、諦めるように言えば、喜んで飛びついて、俺たちを別れさせるだろうな」


(だんだんときな臭い大人の話になってきたが、もう俺たちじゃ無理じゃないのか、だとしたら…)


あまりに重い話となり、今後を考えようとすると、

「ガクー、あんたに配達が来てるんだけど、取りに来て」

部屋のドアの向こうからお袋の声が聞こえてきた。


俺はとりあえず、中山の話を中断し、配達物を玄関まで取りに行く。


差出人不明で、シャツの梱包に適したサイズの箱を渡された。

俺は受領印にサインをして、受け取ってから部屋まで戻る。


中山も見てるが、構わずに梱包していた箱から配達物を取り出し、部屋の床へと置く。


中に入っていたのは、箱より一回り小さい大きさの長方形の鏡の飾りだけを模して物である。


(ん?この模様は確か)

よく見ると、音羽に渡されたモノクル型と同じ模様だ。

形は全く違うが、差出人はおそらく、音羽だと推測出来る。


さらに注意深く観察すると、飾りの一辺の中央に丸く青いボタンのような物があった。


とにかく、俺はそのボタンを押した。

「予想どおり、雅玖に相談しに行っていたな」

飾りの内側を見ると、そこには映像越しの音羽が映っていた。


「君が配達物を受け取ってから、画面を起動するまでは音声が入っていたぞ」

どうやら、中山の行動パターンを見越した上で、鏡の飾りのような物を送ってきたようだ。


「双冶君がプレッシャーに耐え切れず、誰かに相談する事は予想できた。相談相手に雅玖を選んだ事自体は及第点だな」


当たり前のように話を始める音羽に、俺は苦笑する。

「それで、結局はどんな話なんですか?」


「他人ぎょ……今はいい。彼がどこまで身の上話をしているかは把握済みだ。彼自身に出した課題と言うのは私の経営している会社に入るだけの学力を高校を卒業するまでに完璧に身に付けてくれ。と言う事だ。用件自体はこれだけだが、彼の現時点での学力では到底クリアできそうにない」


音羽は中山に与えた課題の説明をした。


「この件に関しては自力のみで、習得する必要も無い。信用できる者たちの力を借りるのも特には問題ないが、身の上話となると、別の事情になってな」

少しだけ、音羽が考え始めた。


俺は他者の力を借りると言う点で提案をする。

「それじゃあ、ジムの長平さん、与野さん辺りと情報を共有するのは、どうでしょうか?大人の事情もある事も考えると」


音羽は少し考えてから、

「いや、それだけでは不安だな。せめて、雅玖のご両親にも助力頂けるとありがたいのだが」

俺は望みが薄いと思い、顔を少し俯き気味になっている。


バン!と部屋のドアが開いて、そこには親父が立っていた。


「おおかた話は聞かせてもらった、そう言った話ならジムの者達にも協力してもらおうじゃないか。ただ、その代わり。問題が解決したら、俺の要求を一つ飲んでもらうぞ?」

報酬型の依頼として条件を出してきた。


音羽は特に気にする事なく、

「よほど無理な要求をしない限りは応じよう」

親父の要求を受け入れる。


音羽は再び、考え込む。10秒後、何かを閃き、

「そうだな、今後の事を考えると、中山双冶。及び桃山透乃、鳰入雫の3名を住坂ジムの右にある倉庫扱いの家屋に移住させるのはどうだ?」


親父は頷いてから、具体案を出す。

「3人が住んでいる間、全ての家賃を知念社長が全額払ってくれるなら問題ないぞ。俺としても、物置代わりの建物に家賃を払ってくれるのはありがたいからな」


「決まりだな。双冶君は今から、君の部屋に居る二人を連れて、こちらに引っ越してくれ。あの部屋の前には私のボディーガードと運搬要員を必要数揃えている」


中山は画面越しの音羽に頷いて、俺の部屋を出て行く。


30分後、中山が自身の部屋に着き、二人とともにボディーガード付きでジム右の家屋まで車でやってきた。


部屋の中にあった物はほとんど、運搬要員が運んでくれて、家屋内の掃除と配置までを行ってくれた。


部屋から出す際に一部、盗聴器と盗撮器があった為、設置した人物を解析し、中山家による犯罪行為での訴訟のおまけ付きで、警察に届け出と弁護士の確保まで行った。


後日談として、これから色々な障害が送ると踏んで、色々と処理していた俺たちだったが、中山家の父が役員として働いている会社が深刻な社会的制裁になる事を恐れ、中山夫妻を完全な形で法的に処分したのである。


さらに政略結婚させようとしていた令嬢の家族が居る会社も、誰かの権力による圧力で、会社が傾くほどの経済制裁を受ける事になり、千名の社員の内、半数以上をリストラしないとやっていけないような状態にまで追い込まれた。


この意外にも早期の解決劇に、当時の俺たちは知る由もなかった。


色々とやっているうちに夜となり、簡易な夜食とシャワー、寝る時間しか残っていなかった。


しかし、今日から一つだけ変わった事がある。


それは長方形のモノクル型の枠をベッド脇の壁に飾り付けた事で、声だけは聞けるようになった事である。


「おやすみ」

「ああ、おやすみ」

この日から、音羽と寝起きの挨拶をするようになった。


(一人になるのが、怖くなったかもしれないな)

どうやら、少しずつ音羽に依存への道を歩みつつあるようだ。


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