卒業後と細野君の元父の顛末
あれからの話。
翌年2月中旬に双冶が受験に挑み、見事に合格した。
後に色々と確認したが、私達が採点した限りでは、ボーダーラインギリギリだった事が容易に想像出来た。
とにかく、4月3日に入学式を迎え、商学部として、通学していく事になる。
私と雫は予定通り、大学付近にある宝石店への就職となり、4月1日に入社。
とは言っても、単独の店舗となっている為、店長達による小規模な体制になり、3月1日の卒業式が終わり、都内まで行ってからの面接と言う流れになっていた。
これ自体は落とす為の物ではなく、適正と能力を調べる為であり、1か月前に知念社長が事前紹介をしていたとの事。
面接は通常とは異なり、営業スキルの確認と宝石の真贋を判断能力を見る為に実地試験を行うと言う物であった。
営業や清掃などをするだけなら特に問題は無いけど、知念社長に出された課題と言うのが宝石の真贋を判断する能力を身につけてほしいと言う物だった。
宝石の真贋自体は先輩がやれるはずなので必要は無いが、双冶が卒業した後、支援および工業用として使用すると言うのもあり、遠回しに大学勉強の代わりと言う側面もある。
今日から務める宝石店は基本、休業日と言うのが存在しない為、先輩の方達と交代で休日を取るようになる。
入社前に知念社長と連絡を取っていたのだが、どうも、今後の事を考えると、私と雫は4年間務めた後、双冶と入れ替わりで入学してもらいたいと言う事だった。
どうやら、色々と事業に手を出した影響で、猫の手も借りたい状況らしい。
それと、ガックの為に色々と無茶な交渉をしていたのも影響していると言う事だった。
最初はベテランだったり、数年先の先輩の指導の下で、接客をしたり、店内外の清掃をしたりをして、土日は仕事をする流れになっていた。
勤務して数か月の夏のある日、勤務歴5年の女性店員と近くのカフェで鉢合わせする事があり、店内の相席で、話す機会があった。
「そう言えば、桃山さんって普段はどんな生活をしてるの?土日と祝日、出てくれるのはありがたいんだけど」
私もそうだが、今は割とラフな格好で会話をしていた。
「普段は早番でも遅番でも、帰ってから同居してる人と束の間のひと時を送ったり、問題があれば、勉強を教えたりしています」
特に意識せず、家での様子を簡単に説明した。
「勉強を教えてるって、どういう事?」
高卒で何が教えられるのかと言う事だろう。
私は双冶の名前を伏せてから、休日に分からないところを逐次教えている事をそれとなく伝える。
「なるほど、彼氏持ちか、うらやましい。いや、やっぱり仮にも欧渓大の学生に教えられるのはおかしいよ、どう考えても」
彼女の言う事はもっともである。
しかし、知念社長の件も説明している為、当たり障りの無い程度に説明した。
「あの冷血サイボーグ社長の指令かあ。本当にすごいね、桃山さんは」
「いえ、私だけでなく鳰入さんも一緒に教えてますので、そこまで負担は大きく無いですよ」
雫の名前を出して、追加で説明する。
当然、彼女は引っかかる。
「ん、待って?と言う事はあなたと彼氏と鳰入さんの3人で生活してるって事?」
「知念社長も把握はしていますので、特に問題は無いですよ」
そして、なぜか彼女は考え込んだ後にとある事を思い出した。
「ひょっとして、去年11月の住坂選手の試合に行ってたのって、あなたの事?」
「受付の人に見せたら、大騒ぎになりました。本当に」
幹部扱いと言われて、困った事を思い出す。
「それはもう、うん。色々考えるのをやめたわ。だって、TrulyOwnsの幹部候補生って、それだけで一生やっていけるからね」
私の言葉に彼女は色々と諦めたみたい。
「第一秘書とも話をする機会がありましたが、4年間で必要なスキルを身に着けないといけないので、勝負の期間だったりするんですよ」
車内で色々と業務関連の話をしていた事も思い出した。
「じゃあ、店長と買い付けに行く話もその関係なの?」
来月には勉強の為、店長同伴で、海外に宝石の買い付けに行く予定なのである。
「そうなんですよ。ここで吸収出来ないと、後のTrulyOwnsに悪影響が出てしまうので、ここでも必死にやっていくしかないですね」
苦笑しつつも、勉強の為と強調しながら、返答した。
「大企業の社運を握っている子がここにいるのか。分かった、さりげなく先輩達にも伝えておくから、本当に頑張ってね」
「はい、今後ともよろしくお願いいたします」
私は彼女に礼をして、今後の協力を取り付けた。
ここからは世間話がほとんどで、業務に関わりそうな話が出てくる事は無かった。
1時間後。
私達は店を出て、別れの挨拶をしてから、家に戻った。
そして、12月。
クリスマスが終わり、数日経ったある日。
近くのバーから出てきた中年の男性と出くわした。
「桃山さんだね、初めまして」
私は一瞬、困惑しつつも確認してみるが、覚えがない。
「ああ、実際に会うのは初めてだったね。私は細野と言えば分かるかな?」
男性の紹介に私は高校2年の頃を思い出し、すぐに謝罪する。
「あの時はご迷惑をおかけしまして、申し訳ございませんでした」
「いやいや、迷惑をかけたのはむしろ、子供だったから謝る必要は無いよ」
お互いにお辞儀をして、良く分からない状態になった。
少ししてから落ち着き、私は男性の近況を聞く事にした。
「あれから、元気にやっていますか?一人暮らしになってようですが」
私の言葉に後ろから私と同じ年代の女性が左側に出てきた。
男性はすぐに紹介をする。
「彼女は琉々葉。2ヶ月前から同居してるんだよ」
「初めましてー、さーたんちに住んでるルーハだよー」
私は彼女の自己紹介を聞き、彼女の恰好を見ると既視感を覚えてしまった。
(なつかしいなあ……あの女に目を付けられない為、こんな感じにしてた時期が)
「私は桃山透乃と申します」
こちらはきちんと、礼をして挨拶をした。
「そういう事だから。私の事は心配しなくて大丈夫、桃山さんも頑張ってね」
男性は私に励ましの言葉を与えて、彼女と腕を組みながら、奥の道へと去って行った。
(相手の不倫で離婚して心配だったけど、元気そうで良かった)
私はどこか満足した表情で、家まで帰った。
2人は1年後に結婚するが、その後は特に離婚もする事なく、50年後に添い遂げたとの報告を受ける事になった。




