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ガックの試合での姿と、高校卒業からの話

私達は高校3年になり、双冶が大学受験の勉強を頑張っている。


月日も流れ、11月に入り、知念社長が私のスマホに連絡が入ってくる。


「久しぶりだな。君達は元気にやっているか?」

実は去年9月以降、知念社長から連絡された事は無く、ガックが練習している時に来た事があるが、私達は居合わせていなかった。


「おかげさまで元気に過ごせています。双冶は相変わらず、苦戦していますが」

去年の夏休み以降、勉強の日々に頭がパンクしそうになっているのを私と雫で、どうにか抑えていると言う感じ。


「まずは彼が大学に入るまでは頑張ってくれ。それと、話は変わるが、今週土曜日にある雅玖の試合、私が席を確保するから観戦してはどうだ?」

突然の提案に私は迷うが、知念社長はさらに続ける。


「座席自体はリングから離れた場所だが、君には双眼鏡を持たせる」


ガックを試合に集中させたいのだろう。

要するに試合中の彼の姿を焼き付けてくるようにと言う事。


「俺は勉強していないと無理だから、透乃が1人で行ってくればいい」

「帰るまでの間、双冶は私が面倒を見る」

近くで聞いていた2人は私だけで観戦するように言ってきた。


「話が早くて助かる。今回は君だけに行って欲しかったからな。双眼鏡について、私から君に渡すように手配はしている」


玄関から呼び出し音が鳴る。


私はスマホを持ったまま、玄関のドアは開けると、

「知念社長から、双眼鏡を渡すように言われてきました」

黒いスーツを着た男性から、有無を言わさずに双眼鏡を渡された。


目的を達成した男性はすぐに目の前から姿を消した。


渡された双眼鏡は全体がピンクで、ゴム見口が藍白となっている。


「当日はその双眼鏡を持参して、観戦するといい。使用するかどうかは君次第だ」

「おそらく、この製品自体に意味があるんですね。当日はありがたく使わせて頂きます」


何らかのお守り代わりと推測した私は、知念社長にお礼を言う。


「礼はいい。とにかく、君のスマホに今、購入証明なども入れさせてもらったから、後は当日、スマホを使って入場すればいい」

「何から何まで、本当にありがとうございます」


「雅玖が日本王者になった後は、海外に行く選択肢もあるから、ここが最後の観戦だと思って、目に焼き付けるといい」

(ガックって、本当に尽くされてるなあ)


すでに外堀が埋まってるとしか思えない彼に対して、虚空を見るように遠い目をしてしまった。


数秒後、私は気を取り直して、

「当日は彼の雄姿を目に焼き付けますので、当日は楽しみに行かせて頂きます」

知念社長に改めて、礼を言った。


「話は以上だ。当日は楽しんでくるといい」

彼女からの通信が切れる。


ここから、私は試合当日を待ち遠しくしながら、日々を送っていった。


■■■


土曜日となり、ガックの試合当日。

休日と言うのもあり、午前中は2人と日常生活をした。


午後2時30分、第1試合の開始に合わせて、外へと出る。


3時前に会場へと向かう為、乗り継ぎをしながら、午後5時30分過ぎ。


ようやく、試合会場の最寄りの駅に着いた。


そこから10分ほど歩いて、会場に到着。


すでに人だかりが出来ていて、周囲の客も住坂の名前と別の名前が交互に行き交う状態だった。


私は入口を過ぎて、受付印にスマホとチケットを提示し、入場許可を得ようとすると、なぜか担当者が疑問を持った目で確認した。


そして、無線機で連絡を入れて、もう1人がやってくる。

さらにスマホの確認をしてから、後から来た人が確認してきた。


「お客様、もしかして、知念社長から渡された物がありませんか?」

私は先日に渡された双眼鏡を担当者に手渡した。


すぐに双眼鏡の確認に入り、1分後。


「お待たせいたしました。確認したところ、あなたは正式な知念社長の関係者として認められました」

担当者の一言に私は思わず、顔が引きつってしまった。


「申し訳ございません。確認した事としてはまず、スマホの決済が正式な物か。次に双眼鏡にある社章が正式な物か、の2点となります」


大げさな言葉に私は再度、確認をした。

「それで、結果は?」


担当者は咳払いをしてから、

「少なくとも、重役級の扱いですね。あなたは、それとフルネームの記載もありますから、ここでは伏せておきます」

個人情報までバレたらしい。


(本当にどういう権限を与えてくれたんだろう、知念社長は)

私はただ、乾いた笑いをするしか無かった。


「まあ、要するに何も問題ないので、安心して入場してください。と言う事です」

2人の担当者は私に入口へ両手で示して、入場を促した。


「ありがとうございます。それでは入らせて頂きます」

私は若干、硬い表情で入場すると、周囲の客からは歓声をあげられてしまった。


席につくまで、少し恥ずかしかった。


席について、少し経つと、第1試合が始まる。


両選手が入場するが、ガックと比べるとどうしても、小柄に見えてしまう。


試合は4ラウンドで決着がつかず、判定によって勝敗が決まった。


次の試合も判定、第3試合も判定と1ラウンドKOとは何なのかと言う疑問が沸いてしまう。


「君は住坂選手の関係者かな?」

左の席に座っていた一般男性に声をかけられた。


「はい、今日は彼の試合を見る為に来たのですが、試合が判定決着ばかりで変だと思いまして」

私はそれまでの試合について、率直な感想を述べる。


「これが普通だよ。試合があるごとに1ラウンドKOをしてる彼らがおかしいんだって」

笑いながら返答したが、彼らと言うのが気になり、再び聞く事にした。


「彼ら、とは?住坂選手以外に誰かいるんですか?」

「ああ、現ミドル級の日本王者のグエッサー浜崎も1ラウンドKOばかりだね」


もう1人の名前もあげてきた。

しかし、名前に覚えがあり、聞き方を変えて再度、事情を聞いてみる。


「浜崎展数さんと言う、ジム会長の長男の事なら、話を聞いた事がありますが、関係者でしょうか?」


私の答えを聞いた瞬間、少しだけ表情を変えたが、すぐに返答をする。

「そっちは知ってるんだね。グエッサー本人の事だよ」


予想は当たっていた。

私が知らない時期になるけど、ジュニアボクシングの初公式戦で騒動になった際、名前の挙がっていたジムと言う事を覚えていたから。


「じゃあ、身内に近い者同士の対戦を希望してると言う事なんだろうね」

彼は顎に手を当てながら、発言した。


「まあ、最後の日本タイトルマッチまで見て、勉強するといいよ」

再び、私のほうを向いてから観戦するように促した。


「私も様子を見守る事にします」

私はリングを再度見て、観戦する事にした。


試合は1つずつ過ぎていき、ガックの対戦となる。


例のごとく、1ラウンドKOで決着した。


2試合後にミドル級の日本タイトルマッチが進むとすぐに違和感を覚えた。


それは選手紹介で、チャンピオンが世界王者に2回とも勝った事。

ボクシング同士に関しては一撃もくらう事なく、勝利した事。

すでに色々とおかしいのに、日本王者に留まっている事。


私は違和感の連続に考えようとするが、試合が始まると、こちらも1ラウンドKOで試合が終了してしまった。


あっという間に退場の時を迎えると、

「試合はすべて終わったから、君も帰るといいよ」

隣の客が私も退場するように促した。


ここから、私は試合会場の外に出て、帰ろうとすると、近くから黒のスーツを着た女性がこちらにやってきた。


「こんばんは、そして初めまして。私は知念社長の第一秘書をやっている川名日見と申します」


私に礼をしてきた。

去年の夏休み、知念社長が連絡を入れていた相手と言うのを思い出す。


「あの時はお世話になりました」

私も礼をすると、彼女は笑顔で言葉を返してくる。

「いえいえ、業務を遂行しただけなので、お気になさらないでください」


しかし、どうして今のタイミングで会いに来たのかを考えていると、

「今からだと、終電を過ぎてしまいます。桃山様の住居までお送りしますので、駐車場へ私と一緒に来てください」


私を家まで送ってくれると言った。

断る理由が無い為、私は素直に彼女に指示に従った。


近くの駐車場に行き、彼女と一緒に黒塗りの車に乗り、駐車場を出てから、自宅へと走っていく。


道中、後部座席で隣にいる彼女に

「この会場で初めて、試合をしたガク君もこんな感じだったから、気にしなくても大丈夫ですよ」

少し砕けた口調で話しかけられる。


私は改めて、礼をしてから気になった点を聞いてみた。

「ガックは4月から、どうするつもりなんですか?」


妙に用意が良すぎる知念社長の周辺が気になった為である。


彼女は勘のいい私に苦笑してから答える。

「やっぱり分かりやすいか。実は知念社長も同伴して、3月末に私達の会社の2階住居に引っ越しさせようとしてるんだよ」


結構、踏み込んだ答えだった。



「ついに外堀を完全に埋めるんですね。遅かれ早かれ、こうなるとは思っていましたが」

私は困りつつも、推測した理由で真意を探る事にした。


「1つは確かに社長自身が我慢出来なくなったのもあるけど、もう1つはあくまで試合会場へ行き来する為だね」

先ほどよりも、素の話し方で答えを返してくる。


しかし、私はまた違和感に気づいたので再度、質問をする。

「私達が4月から住むところは知念家の実家の近くですよね。ガックの引っ越し先と言うのはどこですか?」


彼女は少し、言いにくそうに答える。


「普通はそうだよね。社長自身はガク君の為にほとんど、海外出張になるはずだから、ほとんどは私と同居する事になるかな、社長はたまに帰ってくるぐらいだから、社長にとっては下宿先になる場所だね、私の住んでいるところは」


私は彼女に対して、不純な理由を疑う。


「不倫の心配は無いよ。私はあくまでガク君の護衛の為の同居だから、もし不倫したら私が消されると思うよ」

しかし、彼女は不倫への否定と、実行した場合の結末を回答として話した。


再び彼女を見る。

表情は顔が引きつっているみたい。

消されると言うのはおそらく本当の事だと思う。


「分かりました。川名さんの発言を信じますので、ガックの事を守ってやってください」

これ以上、踏み込むべきでは無いので、念押しをして、この話題を終わる事にした。


ここから、かなりの時間が経ち、ようやく住坂ジムの前に停車する。


「ガク君よりも先に帰ってきたみたいだね」

ジムは静けさに続いている。明かりはついてるから与野さんはいるようだけど。


「川名さん、今日はありがとうございました。4月からもお世話になると思いますが、その時は改めてよろしくお願いいたします」

彼女に再度、礼をして、別れを告げる。


「まずは中山さんが合格するようにしっかりと支援してくださいね」

私にも最低限の役目を果たすように念押しして、彼女は礼をし、車に乗って去っていく。


私は玄関に入り、2人に今日のガックの試合ぶりを伝えて、ここからは何も無く、私達は布団で眠りにつく。

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