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真・予定は根底から覆る物である

翌日からはまた、展数さんがスパーリング相手になって、通常の練習メニューをひたすらこなした。


これ以降、日時の取り決めがないまま、練習の日々を送っていた。

開催から1ヶ月前になり、ようやく日時が決定した。


試合は12月12日となった。


試合日程が決まった事でやる事は変わらない為、練習の日々が続いた。


そして、アメリカへ渡航し、いつもと同じホテルに泊まる。


翌日に前日計量を臨み、示したウェイトは183ポンド。

これでもウェイトは上げたほうである。


にらみ合いの写真撮影をする為、お互いに向かい合うと、相手が突然、左肩に右ストレートを放ってきた。


俺は瞬時に相手の右腕を抱え込み、そのまま左後ろへと流すように投げた。


相手はさらにパンチを繰り出そうとしたら、周囲が止めて、一時期は相手の暴力行為として、自動で俺がチャンピオンになる話もあったが、俺が拒否して予定通り、明日、開催される事となった。


騒動があった後、取材陣が去ろうとした時、相手のジム関係者が相手の顔面を殴り、鼻血を流していた。


「Please forgive me for this」

殴った人は相手を引きずりながら、場を去っていった。


去ろうとしていた取材陣の1人がこちらに来て、

「Do your best tomorrow」

言葉だけ伝え、去っていった。


ここからは何事も無く、会場を出てからホテルに行き、チェックインしてから、前もって許可を取っていたニック達のジムに入って練習をした。


今回は相手の関係で、クリンチの対策をした。

そこで判明したのは、実はニックが、クリンチを得意としていた選手と言う事である。


1ラウンドで負けたのは、クリンチどころじゃない相手にやられたからと言うのもあったが、当然、ジャックやマネージャーには怒られたと言う事だった。


3時間後、ホテルの部屋に行き、シャワーを浴びて着替えてから食事を摂る。


この頃には俺は地元の有名人となっており、俺に配慮をしてくれた食事のメニューが用意されていた。


いつもよりも多めに食事をし、部屋に戻ってこの日は終了した。


■■■ アメリカ日時(12月12日)


通常通り、朝6時に目が覚める。


今日はニック達のジムには行かず、これまでやっていたフィットネスジムで走り込みをして、試合に臨む流れとなった。


午後8時。ようやく相手選手のラッシュが現れたが、顔はすでに腫れていて、何かあったとしか言えない状態となっていた。


彼は試合開始まで、一言も発する事は無かった。


午後9時、第6試合となるクルーザー級タイトルマッチの入場が始まる。


ラッシュが入場した後、俺が入場しリングに上がるが、周囲からはあざ笑う声が聞こえていた。


それは俺に対してではなく、チャンピオンであるラッシュに対しての物だ。


本来なら、暴力行為で試合が中止になるはずが、俺の声によって無事に試合ができる事になり、彼の立場は無いも同然の状態である。


リングアナウンスの進行、レフェリーの説明と終始、ブーイングが止まらなかったが、レフェリーが試合開始する為に、両者をコーナーに戻した瞬間。観客が静まり返った。


「ready?ready?」


両者に呼びかけ、ファイティングポーズを取り、ゴングとともに試合が始まる。


俺は左ジャブを試しに打つ。相手はガード。


さらに右ジャブ、左ジャブと打つ。これもガード。


(クリンチを誘ってみよう)


俺は脇が空き気味の左ストレート、右ストレートを素早く繰り出す。しかし、相手はガードをするだけ。

(どういう事だ?)


今の攻撃はクリンチをしてくださいと言わんばかりの体勢のはずだが、相手は無反応だった。


すると、相手が左ジャブ、右ジャブと打ってきたが俺は当然、ガードをする。


ここからしばらく、お互いにジャブやワンツーなどの打ち合いとなり、平行線となる。


埒が明かないので、俺は右ボディーブローを繰り出し、相手の攻撃に備える。


予想通り、相手は左ジャブで応戦した為、俺は左腕を精いっぱい伸ばしたストレートで返す。


リーチの差で、俺に軍配が上がる。


相手は一瞬だけ、後ずさるが、すぐに元の位置に戻った。しかし、打ち返す事はしない。


(なんだか様子がおかしい)

事前情報では、この場面では連打をしてくる選手と言う事だが、今のところは単発止まり。


ここで1ラウンドが終了する。


インターバルに入り、俺は今後の作戦を練る。

(クリンチをしなかった場合はどのような戦い方をするのだろうか)

良く考えてみると、2番目以降の戦法についての対策をしていなかった。


(とは言っても、カウンター狙いは危険だと思うが、どうしたものか)

何か隠してる事は分かるが、肝心の狙いが良く分からない。


思考を巡らしてる内にゴングが鳴り、2ラウンドが始まる。


(ひょっとして、相手の取っているファイトスタイルは)

思い当たる節がある為、次の一撃を右ボディジャブにした。


俺は右ボディージャブを打つとガードをわずかに下げ、肘先でガードした直後に左ジャブを放ち、俺の顔面にヒットする。


ハードガードだ。

とにかくガードが固く、俺も攻撃する場面以外で取っている戦法の1つである。


(これは厄介な相手になりそうだ)

相手に対して警戒すると同時に、なぜクリンチを多用してどうにかしようとするのかも疑問に思った。


今は手数を出して、相手の癖を少しずつ探りつつ、有効打への準備をする事にした。


特に有効打を見出せる事も無く、2ラウンドが終了する。


インターバルを経て、3ラウンドが開始する。


しばらく打ち合いをし、1分過ぎのタイミングで右ボディーブローを繰り出すと見せかけて、相手の左ジャブを誘う。


予定通り、相手から左ジャブが出てきたので、俺は右ジャブを引っ込めながら、サウスポーから左にピボットしながらの左フックを放つ。


相手の右頬を直撃し、一瞬だけ怯んだ。

しかし、すぐに復帰した為、俺は距離を取った。


今度はオーソドックスに切り替え、先ほどとは逆の左ボディーブローを繰り出すと見せかける。


相手は右ジャブを放ったので、右にピボットする準備をした。


相手も分かっていて、ガードを素早く左側にずらす。


俺も分かっていた為、バックステップで距離を取った。


(同じ手は通用しない、か)

今までの動きで、ラッシュの本来のファイトスタイルは、ハードガードタイプだと認識する。


だとすると、少しでも緩慢な動きを見せれば、逆転KO負けとなるのは想像に易い。


再び、お互いにジャブの打ち合いで時間を潰し、3ラウンドが終了する。


インターバル中、俺はKO可能な手を色々と考える。


いくつか案が思いつき、4ラウンドが始まった。


俺は早速、1つ目の手を実行に移す。


サウスポーから左ジャブを繰り出そうとし、相手の右ジャブを待つ。


相手は右ジャブで応戦するので、俺は右にピボットして右フックを打つと見せかけて、肩を入れ込んだ右ボディーフックを打った。


相手は左ジャブを返し、俺の顔面を捕らえるが、右のボディー直撃に顔を歪めたので、すかさず脇を完全に空けた左ストレートを放つ。


相手のガードはとっくに下がっていた為、相手の顔面を直撃し、後ろに数歩下がってからダウンした。


レフェリーがカウントを取っていく。

カウント9でギリギリ、立ち上がり、ファイティングポーズを取る。


問題ないと判断し、試合が再開する。


俺は左ストレートを打つと見せかけ、右ボディージャブを繰り出す。

しかし、これもフェイクで、本命は脇を締めなおしての左ボディージャブ。


先ほどのダウンで余裕が無かったのか、ボディーのガードをしないまま、両脇をダメージを与えた事になり、その場で崩れてダウンする。


レフェリーがカウントを取ろうとするが、立ち上がれそうにもないと判断され、試合が終了となる。


これで、クルーザー級の世界タイトルマッチも勝利し、残るはヘビー級のみとなった。


試合後、自動翻訳付き通話セットを装着後。

インタビューが始まり、リングアナウンサーからインタビューを受ける。


「まずはおめでとう。ガクがこの後、世界チャンピオンを返上する事は分かってる。ヘビー級に挑戦する事が分かってるからだ。それとは別に、今日の試合はどうだったか教えてほしい」


「今日は対策していた事が全く役に立たなくなり、終始苦戦を強いる事になってしまいました。どうにか活路を見出して、勝利を収める事ができました」


「最近の試合はいつもそうですね。どうして、そんなに弱気なんだい?」


「未知ほど怖い物はありません。調査不足だった事は否定できませんが、まさか、あんなにガードを固くする選手と思わなかった為、KOするのは苦労の連続でした」


「クリンチの対策が出来なく、がっかりしてるようだが心配は無い。ヘビー級の選手達もクリンチするタイプが多いから、今日に備えた事は役に立つはずだ。それよりも、ウェイトを上げる術を早いところ習得したほうがいいが、何か策はあるのか教えてほしい」


「こちらについても毎回苦労していて、1日6食は守りつつも量を少しずつ増やしていって、どうにかしてる状態ですね」


「ウェイト管理については行き当たりばったりですね。そうだ、君と同じジムにウェイトを下げるのが大変下手な先輩が居るだろう?その人を参考にしてはどうかな?」


「ヘビー級に関しては、下限さえ気を付ければいいので、帰国したら聞いてみる事にします」


「そうだね、それがいい。ヘビー級でも活躍する事を期待してるよ」


「今後についての話は以上です。次は試合の内容について、2ラウンド開始直後にガクの右ボディージャブに対し、ラッシュの左ジャブが顔に当たったね。あれはどういう意図でやったのか教えてほしい」


「1ラウンドは混乱しながら、探っている内に終わったので、ファイトスタイルを確認する為に敢えて、うかつな攻撃をしてみました。私の判断は合っていて、見事に顔へ一発もらいました」


「なるほど、ここでガードが固いタイプだと判断したんだね。ここから、試行錯誤してる様子が分かるのだが、どうやってKOに繋げたのかを教えてほしい」


「2ラウンドはとにかく、相手の動きの癖をデータとして蓄積する為に使って、インターバルで考えられる手を考え、3ラウンドで途中から1つだけ試し、上手く行った為、逆のパターンを試して同じ手が通じない事を確認しました」


俺は少し考えてから答えを続ける。


「そして、4ラウンドでさらにフェイクの手を重ねた本命のパターンを2つ試して、やっとKOする事ができました」


「んー、大体分かった。しかし、3ラウンドの1分過ぎに試したのはなぜだ?開始直後でも良かったと思うが?」


「あまり、開始直後ばかりにやってると勘づかれてしまうので、どうしてもパターンではない時間を置いてから、やる必要があった為です」


「なるほど、まだ聞きたい事はあるが、残りはラッシュに聞いたほうが早そうだね。これでガクへのインタビューは終わるよ、ありがとう」


「これからラッシュに移ります」

リングアナウンサーはどこか険しい表情で、対戦相手のラッシュの近くに移動する。


「ラッシュ。君はまず、昨日の件について謝罪が必要だ」


ラッシュはカメラに向かって、

「昨日は本当に悪かった。ガクの事を色々と誤解していた部分もあったし、謝罪しても許される事ではないが、重ねて謝るよ」


頭を下げて、誰かに礼をした。


「君は誰に謝っているんだい?目の前にいるだろ?」


「もう1人に対して謝っている。それはガクと交流のあるヒッタ・イチエに対してだ」


リングアナウンサーは首を傾げて、質問をする。

「ここで彼の名前が出る事は全く想定していないんだが、どういう事か教えてほしい」


「私はデビューしてから、ヒッタ・イチエの事を敬愛しているが、私に対してのクリンチ対策の件を配信で聞いた際に彼が侮辱していると思って、昨日の件になった。しかし、私は間違っていた。結果として、ヒッタに泥を塗る事になったからだ」


「なるほど、これ以上の詮索はやめるが、終わってからの配信で、彼には丁寧に謝罪したほうがいい」


「返す言葉もありません。彼の雑談配信があれば、その時に謝罪しようと思います」


「もう、こんな馬鹿な真似をしないように。次は試合の内容についてだ。ガクが終始、様子を見ながら慎重に攻めていったようだが、実際はどうなんだい?」


「2ラウンドが終わるまで、様子見をしていた気がする。3ラウンドの途中から何かをやったみたいだが、次の手でまた、様子見をしたようだった」


「なるほど。ここから、4ラウンドで敗北をする事になるが、それまでの流れを説明してほしい」


「4ラウンドで本格的に動き出したのはすぐに分かった。そこから、色々と最善を尽くしたが、相手が幾重にも上手だった為、結局はどうする事も出来なかったよ」


「確かにフェイクのやり方が、今まで見た覚えのないレベルでやれている選手だと思った。ラッシュが対応出来なかったのはある程度仕方の無い事だと思う」


「しかし、やはり殴ろうとしたのが全ての間違いだった。今は反省してるよ」


「分かった、試合についてはこれで終わりにしよう。次は、今回の件でランキングがかなり落ちると思うが、これからどう挽回するつもりか答えてくれ」


「今日の試合でクリンチをするのは極力やめる事にするよ。実は昨日、彼に投げられた際、腕にとんでもない圧力を感じてしまった。この時にクリンチをしてはいけない相手だと理解した。だから今日は、以前の戦法で戦う事にしたんだ」


「なるほど、でも悪い事ばかりではない。今日の試合で、あのegendary strongest Japaneseの次に粘った選手として誇れる。しかも、君の愚直な戦い方をしてだから、その点だけはもっと誇ったほうがいい」


「まあ、しかし……昨日の件で騒動に発展したのは反省しないといけない」


「そうだね。とにかく、今後はクリーンなファイトをやるべきだ。これで本日の新チャンピオンのインタビューを終了します。本当にありがとうございました」


ここで試合後のインタビューは終了し、今日の試合は全て終了となり、俺達はリングを後にした。


ここからは各試合の関係者と挨拶を交わす事になり、ひと通り終わって、試合会場を出て、ホテルに戻った。


ホテルに入ってからはこれと言った異変も無く、ベッドで眠り、翌日の便で帰国の途についた。

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