段々と、1ラウンドではKO出来なくなってきました
いよいよ、ライトヘビー級タイトルマッチが始まろうとしていた。
今の時刻は午後10時。
今日の試合はすべてフルラウンドの判定で決すると言う流れになり、必然的に開始時間が遅くなった。
対戦相手は予定通り、ジャック・ハート。
ウェイトは170ポンドで、階級内では重い部類だ。
彼の特徴はフックとボディーへの攻撃が得意であり、前の試合も上に下にと攻めて、どうにか判定勝ちになったようである。
あっという間に試合直前となり、レフェリーからコーナーに待機するよう命令される。
いよいよ準備が整い、ゴングが2回鳴った。試合開始である。
まず5秒後に左フックを放つ。相手はガードする様子もなく、相手の胸に直撃する。しかし、これではダメージになりにくい。
さらに5秒後、今度は右ジャブを放つ。相手はまた、ガードをする事もなく直撃。特にはダメージになっていないようだ。
(どういう事だ?)
やせ我慢をしているように見えず、現時点で相手が何を考えているのか全く分からない。
ここから様子を見ながら、軽い攻撃を当てていた。
1ラウンド1分1秒。様子見で続けていた状況で、左ジャブを繰り出したと同時に急に左フックを返してきた。
俺は瞬時に右腕のガードを外側に開いた。
左フックは俺の右頬に当たるが威力は軽減できた。
相手は続けて、右ボディーブローを叩き込んでくる。
これは回避出来ない為、直撃してしまう。
これ以降は違和感のあるカウンターからの攻撃が続き、防戦になりながらも1ラウンドが終わる。
インターバル中。俺は対策を考える。
(ある意味、やりづらい相手だ。ある意味は)
カウンターの組み立てを考えると、左ボディーは右ジャブ、左ジャブは右のどれかでボディーが多い。
右ボディーは左のどれか、右ジャブは左のボディーががら空き。
足の構えがどうかにもよるが、さてどうするか。
考えているとインターバルが終わり、2ラウンドが始まった。
サウスポーに構えてから左ボディー、予想通り右ジャブを打ってきたので、素早くオーソドックスに切り替えながら、ほとんど前に出ない右ジャブで応戦。
相手の右ジャブとグローブが合い、相手が一歩後退した。
(1ラウンドの問題はこれで大丈夫だな)
次に動きがあったのは42秒。
相手はオーソドックスからの左ストレート、対して俺は左にサイドステップしつつ、左ボディーフック。この時に左ストレートをガード位置はそのままで動く事が重要。
相手は右ストレートで応戦するが、俺のリーチが長く、俺のボディーフックが軽いながらも直撃する。
このやり取りで焦ったのか、すぐに左ジャブを打ってくるが、俺は右ボディーを腕を精いっぱい伸ばした状態で相手に打ち込む。
威力は無いはずだが、肩が入ったボディーストレートの為、相手にはカウンターが入ったような感覚のはずだ。
相手はまずいと思ったのか、素早くバックステップをした。
次に動いたのは1分3秒。
相手が右ジャブを繰り出す。俺は右腕でガードをしつつ、左にサイドステップをしながら、左フックを放つ。
相手は顔にくらいつつも、左ボディーを打ってきた。
俺は脇を外した右ストレートで応戦した。
この時に後ろ足となっていた右足はつま先でわずかに踏ん張っていた為、相手の顔面を直撃し、ダウンする。
レフェリーがカウントを取る。
カウントが7のところで立ち上がり、ファイティングポーズを取った。
試合は再開すると同時に、相手がフロントステップし、直後左アッパーを繰り出した。
俺はバックステップしながら、左ストレートを放ち、見事に顔面を捕らえて、再びダウンをとる。
相手は特に大きなダメージまではないと言った感じで立ち上がり、試合が再開する。
今度は相手が、右ストレートを打ちつつバックステップした。
俺は動かず、敢えて顔面に受ける事にした。
すると、相手は表情を変え、距離を取る戦法に変えた。
ここからはヒットアンドアウェイな戦いが続く。
次に動きがあったのは2分21秒。
俺はサウスポーでフロントステップを取りつつ、左ジャブを放った。
しかしこれは罠で、本命は脇を固めながらの若干グローブを時計回りに捻りながらの右ボディーブロー。
相手は俺の左ジャブの目線に騙されて、右ストレートを打つが、ジャブではない為、こちらが早く、ボディーを決める事になった。
相手はたまらず、その場にお腹を押さえながらダウンした。
レフェリーが試合終了を告げ、ようやく終わった。3ラウンド2分24秒でテクニカルノックアウト。
ライトヘビー級のタイトル制覇となった。
前の戦いと同様に、リング上でインタビューを受け、無事に終了した。
この後のセレモニーも終わり、ホテルに戻ってから帰国するまで何事もなく帰る事ができた。
■■■ 一方、中継を見ていた人達の感想
日本日時、8月9日午後1時。
ライトヘビー級の世界チャンピオンを獲得し、今日もスレが作られた。
スレタイトル『住坂雅玖、試合中の動きが意味不明』
「こんなスレ、立ててみたがどう思う?」
「なんで俺たちに聞いてるんだよ」
「試合の配信見てない人には意味不明だろうな」
「でも、この試合も3ラウンドのTKO勝ちだし、ようやく有象無象じゃなくなってきたな」
「しかし、相手もなかなか不気味だったな」
「最初の2回のパンチで、もろに当たってるのにビクともしない」
「住坂にしてみたら、困るだろうな」
「あの選手は一撃必殺のタイプに見えるからな、本来は」
「ん、本来は?」
「ただ、本人の性格上、慎重すぎる性格のゆえに一撃必殺とはならない感じだな、今のところは」
「あれで一撃必殺じゃないのかよ」
「住坂を攻略するには、相手はできるだけ困らせるリアクションを起こす、と言うのが最適解かもな」
「今までの戦いで、不安を少しでも考えたら色々やってるよな、住坂の場合は」
「3撃目からは何だか良く分からない動きばっかりしてたし」
「惨劇の貧弱」
「良く分からない物がまじってるな、惨劇の貧弱」
「いや、慎重すぎるのが貧弱と解釈するのは分かるが、惨劇ってなに?」
「俺も分からない」
「分からないで適当な単語使ってんじゃねえよ」
「そう言えば、今まで住坂のやつ、クリンチを一度も使ってないな」
「クリンチの仕方、知らないんじゃない?」
「あー、グエッサーを相手にしたらクリンチと言う愚行は考えないわな」
「ひょっとして、2人ともクリンチが下手なだけかも」
「まあ、クリンチ自体が醜い行為なので、やったら一撃与えられるルールでも作ったほうがいいと思うまである」
「観客から見たら、非常に見苦しいもんな、あれは」
「でもさ、これでまた階級を上げて、クルーザー級になるんだが、多分、次の相手はクリンチの貴公子だぞ」
「クランチだったら、美味しく頂くんだけどな」
「それはヒッターがやってるから既出である」
「既出ってなんだっけ」
「でも、本当にやばくないか?クリンチをさせない技術を身に着けないと、普通に負けると思う」
「判定かKOかは分からないけどね」
「お前らに朗報。朗報?」
「朗報って疑問になってるお前はなんなんだ」
「いや、朗報か。実は同日の別会場でクルーザー級のタイトル戦をやった例のクリンチの貴公子が12ラウンドのKO勝ちしたぞ」
「だから?」
「試合後インタビューで直々に住坂雅玖へ挑戦権を叩きつけた」
「相手に対して渡す挑戦権を叩きつけたって、これまた意味不明だな」
「相手のパフォーマンスだろう。試合後インタビューで、雑に机の上へ出した『ちょうせんけん』と書いた封筒を出してから『Gaku Sumisaka,take this!』って突然言い放った」
「やってる事が突然で、相手の許可を取ってないうちにやるのが笑える」
「これ、住坂にとっては階級上がり初戦で、チャンピオンになれるからチャンスなんだけどね」
「こういうパフォーマンスをやるって事は、絶対的な自信があるんでしょ」
「さて、まだ発表がないから何とも言えないが」
「帰国便へ乗る前に返答できるわけないだろ、いい加減にしろ!」
「あのパフォーマンスは大真面目で、しっかりと事後報告してから正規手続きをやってるみたいだよ」
「イキり上がった後に、裏で丁寧に手続きする姿を想像したら、なんか可愛かった」
「悪いやつじゃないんだろうな、クリンチの貴公子って」
「日本にもそんなやつ、一定数いるからな」
「まあ、日本人で該当パターンに入るやつにロクなの居なかった定期」
「そう言えば、キックボクシングに昔、『猛獣』の愛称で親しまれていた海外選手がそんなんだったな」
「最初は嫌われてたもんな、あの選手」
「本当にどこで人気になるか分からないよな、あのタイプって」
「何だか懐古スレになってきてるんだが」
「まあ、なんだ。何日か経てばタイトル戦の話が出るからそれまで待とう」
「それもそうだな」
「俺はまだ、住坂の変な動きについて、後から来た人と語り合いたい」
「そう言えば、そんなスレだったな。俺は抜けるけど」
「スレの話なのに抜けるお前。そんな俺も、これから仕事なので失礼しようと思う」
「俺も仕事に集中だな、どう考えても」
「ここで話さなくても、どうせにわかファンの上司が熱弁するオチなんだよこれが」
「俺の会社もそうだな。最終的には練習熱心な住坂を見習えって結論になる」
「いつの時代もいるよな、気合と根性さえあればなんでもできると思ってる勘違い野郎が」
「あれ、ここって会社の愚痴を吐き出すスレだっけ?」
「いや、すまん。本当にこれで失礼するわ、じゃあ」
「俺も仕事だから失礼する」
「俺は……寝る」
「おいおい」
ここからはスレタイトルに沿ったコメントがひたすら続いていった。




