生配信の非公式戦が終わって
配信タイトル『実録、住坂雅玖が敗れる瞬間』
午前10時、配信準備中の画面が表示される。
題名を見て、早速コメントが入る。
「え、題名何、え、え?」
「また、とんでもない事考えてるなあ」
「お前らが果し合いしろとか言うからこんな事に」
「まあ、言うてヒッターが倒れるんじゃねえの?」
「普通に考えれば、スーパーミドル級の世界タイトル挑戦者が負けるはずないって」
「お前ら、間違ってもヒッターが勝ったら、全裸で町を歩いてやるとかバカな事は言うなよ」
「八百長の可能性もあるしな」
「住坂に限って、そんな事はしないって。それこそ、選手をバカにする発言はやめろなガチで」
ここから色々なコメントが流れ、いよいよ生配信が始まった。
配信主、壱会必太の挨拶から始まる。
「挨拶の次が血縁関係の悪用と言うパワーワード」
「一応、許可は取ってるんだな」
「取ってなきゃ、侵入許してないだろ。そうじゃなくても普段は住坂しか練習してないのに」
「何その社員一人だけの社長な会社」
「知念社長にゴミを見るような目で見られながら許可取ってそう」
「それな」
次に今日の配信の流れ、住坂雅玖選手の食事風景、グエッサーの紹介と続いていく。
「ああ、やっぱりスパーリングがメインなのか」
「最初から勝つ事しか考えてないな」
「そりゃあ、負ける前提ならこんなタイトル付けねえだろ」
「やっぱり八百長」
「八百長勢、お前らはいい加減黙っていような?」
「おお、住坂は食事中だったか」
「メニューは分かってたが鶏肉、オレンジジュースだな」
「これ、ある意味修行僧よりもきつくね?」
「俗に言う筋肉に餌を与える、と言うやつだな」
「住坂って、毎日こんな物ばかり食ってるのか?」
「ウェイト管理を徹底するとこうなるらしい」
「佐藤波木とは大違いだな」
「ここでは無関係だから、名前出すの禁止な?」
「無関係とは言い切れないんだよなあ」
「お、グエッサーも出てきた」
「これで正式に専属トレーナーと公表されたな」
「JBOの手続きでトレーナー登録してる時点で、正式なやつなんだよなあ」
「何なら、海外初戦のセコンドに居たんだが」
「ああ、やっぱりあの人、グエッサーだったのか」
「それと気になったんだが、あの時に居た周りの関係者は誰?」
「現地の雇われスタッフ」
「海外の話こそ関係ないから、コメントやめような?」
紹介が終わり、住坂雅玖選手の食事が終わるまで待つのだが、ヒッターがバッグから取り出して、チョコバーをかじった。
「おい、あいつやりやがったぞ」
「食事制限を律儀にしている人の前で、不健康な物を食べるえげつない行為」
「しかも、住坂の食べるペースに合わせている模様」
「これ、後からあの社長に怒られる流れなんじゃね?」
「良かったな、配信後の楽しみが一つ増えて」
「許可出したのは、あの社長だし現実味あるかも」
「怒られたエピソードを待ってるから、現実になったらヒッターは報告してくれ本当に」
「お、食べ終わったな」
配信の進行がようやく、進み3階の部屋から出ていき、2階のジムへと入る。
「いよいよ、普段の練習風景が見れるのか」
「やっぱり元アマボクサーなだけあって、この辺りとか自然だよな」
「今のシューズボックスの流れはさりげない感じだわ」
これからミット打ちに入る為、更衣室を使う事になる。
ここでカメラ映像がOFFとなり、準備中の画面となる。
「まあ、男の生着替えなんか見たくないから、俺らに対しての配慮だな」
「野郎の着替え見てもねえ、ねえ?」
「いや、普通に見たいんだけど」
「お前らに配慮されても困るんだが」
「あ、2人のロールキャベツ系女子居たわここに」
「何そのロールキャベツ系って」
「一見大人しい、中身は肉食」
「OK理解した」
「住坂は女性陣にはすごく人気だからな」
「180cm越えのプロボクサーとか、色んな意味で無理ゲーじゃん」
「まあ、ヒッターもぱっと見だけならイケメン系の芸能人だよな」
「親に芸能人が居るから間違いないかも」
「お前ら動画と関係……あるか、ヒッターの話だから」
「条件反射で無関係通知してる勢涙目」
3人がミット打ちの準備を終え、カメラ映像がONになり、リングの下にきた。
「なあ、ヒッターの恰好って」
「そう言えば、テキサスのイメージカラーて、なんだっけ?」
「テキサス州の旗はロイヤルブルー、白、赤で、テキサスオレンジって言う、焦げたオレンジ色は公式設定じゃないらしい」
「俺、テキサスの色って今までオレンジと思ってたわ」
「いや、それはどうでもいい。ことはないけど、要はこの日の為に、色を揃えてきたんだよな?」
「日本生まれのテキサスからの刺客、満を持して見参ってところか」
「いや、大事なことを忘れてるようだけど、ただのテキサスかぶれだからな、それ」
「あ」
「あ」
「だからお前ら、あ、じゃねえんだよ」
「要は今のは、あこがれるあまり海外の地域にかぶれてみたって事だろ?」
「いや、だから冷静にツッコミ入れてやらなくてよろしい。かわいそうだろうが」
「かわいそうってわざわざ言葉にしてあげるのがかわいそう」
「結局みんなひどい定期」
いよいよ、日常のミット打ちとマスボクシングが始まる。
「やっと練習始まったか」
「早速、住坂はミットからのパンチくらってるな」
「やつは四天王の中でも最弱」
「最弱なやつに1ラウンドKOされてるのはもはやミジンコ」
「ミジンコに対して失礼だろうが!」
「せめて有象無象って、オブラートに包んであげようよ」
「そのオブラートの薄さはどれくらいですか?」
「急にヒッター黙り始めたな」
「と思ったら、住坂が不安になって聞いてきた」
「あいつも一応、気にするんだな」
「でもヒッターがそのまま流したほうがいいって言ってる」
「そりゃそうだよな、本来はこの映像、正式にテレビ局の放送でやれるレベルだから」
「これ、対戦相手からしたら研究材料にならないか?」
「多分ならないと思う。試合とは違って、住坂の動きが直線的だから」
「練習はあくまで、練習だからな」
マスボクシングまでは終わり、グエッサーがリングを降りて、ミットを外す。
続いて、住坂雅玖もリングを降りて、スパーリングが開始する雰囲気がする。
「お、いよいよ3戦目の試合開始か?」
「グエッサーが何か言ってる」
グエッサーがお互いの体重を計るように指示し、二人は体重計に乗った。
「住坂が74.1kg、ヒッターが57.3kgだな」
「17kg近くの差があるんだが」
「ん、今日はヒッターの命日か?」
「普通に考えればそうだけど」
「あ、ヒッターが8階級差もあるって言ってるぞ」
「過去にそんなエキシビジョンあったか?」
「キックボクシングなら昔あったな」
「ボクシングでやるメリットはないね」
「グエッサー対ダンソンの対決がスルーされてる件」
「お前ら、グエッサーのコメント反応してやれや、俺は勿論スルーだが」
「結局、なかった事にされるオチ」
「そして次に言った事がもっとやばい」
「住坂の厄払いの為に負かす」
「どこから来るのよ、自傷行為としか思えない自信は」
「でもなあ、呼ばれたって言ってるからな」
「グエッサー推薦なら、かなり重たい判断だが」
グエッサーの声とともにスパーリングが始まった。
「あ、始まったと思ったら挨拶代わりの2発がもう出てる」
「出したのが住坂からだから、異常と言えば異常」
「大体、相手から攻撃始まってるよな」
「何かしら、不安がある時はほとんど、住坂から行ってるな」
「あ、やっと住坂の攻撃が当たった。グローブに」
「位置合わせただけじゃねえか」
「なあ、2ラウンドから全然入ってなくないか?」
「一発でも食らったら、ヒッターの負けなんよ」
「何かまるで、住坂の戦い方だな。今のヒッターって」
「2ラウンドは被弾しっぱなしで終わったな」
「3ラウンドの開始から強いストレート出してきた」
「ムキになるのは負けフラグだが」
「これで負けたら偶然じゃないな」
「右でダメだったから左からいったな」
「ヒッターがまたおかしな事した」
「右を出したようで後ろにやっただけ」
「ヒッターが今度は変なパンチ打って、住坂がカウンターしようとしたら、例のファントムフックが発動して倒れたな」
「あ、気を失った」
「カウント取る必要もないね」
「これで対住坂戦は3戦3勝の全てTKOか、なんでこいつプロになってないの?」
「ケガしたから」
「いや、そういう意味じゃねえ」
「試合終了だな。内容はいつも住坂がやってる戦法そのものだな、これを普通やるか?」
「超反応だからな、住坂の戦い方は。でも、それを超える超反応ってなんなんだろう」
「多分、アーカイブ配信するだろうから、それをテキサスで戦ってる選手に送りつけてやろうぜ」
「逆に弱くなったりして」
「さすがにそれはないでしょ」
「でも、マネしてどうにかなるってところで思考停止したら、可能性あるだろうな」
気を失っている住坂雅玖をよそに、ヒッターがスパーリングのコンセプトと最後の挨拶をして、生配信は終了する。
「やっぱりグエッサーの仕業じゃねえか」
「そう言えば、始まる前の住坂って自信なさそうだったな」
「デバフかかってたんじゃね?」
「スパーリングを見ても、そんな様子は一切感じられなかったけど」
「じゃあ、実力で負けたって事なんだが」
「なんなんだろうな、あのファントムフックって」
「それよりも直前に出した、あの幻の右よ」
「幻の右ってそういう事じゃねえよ」
「スキル名、幻の右。内容、ワンツーのワンとツーの間隔が恐ろしく短いツーに該当するパンチ」
「で、今言った幻の右は?」
「右を繰り出すと見せかけての右後ろに少し出しただけ」
「どちらかと言うと、よそ見パンチな気がする」
「矛と盾だな」
「なお、住坂は矛盾の両方を持っている模様」
「それなのに、なんで負けたんだよ」
「まあ、厄落としはできたとは思う。勝ちっぱなしは負けてからが大変だから」
「1敗してからの連敗の門を開いたとも言える」
「言うて小さい頃は貧弱ファイターだったから、気にしてないかも」
「それを忘れてわ」
この後は生配信が終了するまで、他愛のないコメントのやり取りがされていた。




