対策案を本人に聞くのはどうかと思う
時刻は午後5時。
音羽社長に許可を得て、動画をネット上にあげた。
個人情報に関わる部分は最低限の配慮はしつつ、会話自体でカットした部分は特に無い。結局はそのまま動画サイトにあげて、みんなのコメントを待つ事にした。
動画のタイトルは『グエッサー浜崎戦に備えて、対策等の意見を求む』とした。
始めは地味な内容だった事もあり、動画を見て閉じるだけの状態だったが、午後8時過ぎになり、ようやく視聴者のコメントが入ってきた。
「これって、昨日言った事をもう実行したのか?」
「みたいだな、でもこれってどうやって撮ったんだ?」
「動画撮影者に佐藤波木は……同席してるみたいだが、住坂と川名がスパーリングしてるから、TrulyOwnsの許可で非公式にやってるのかもな」
「色々調べようとしたが、なぜか関連人物の個人情報だけが見れない。一般人には出来ない芸当だな」
「まあいいか、とにかく俺達で住坂にアドバイスしろって事だな」
「さて、何から言えばいいんだか」
「最初に分かった事が川名は住坂より明らかに強い事か、反則技は2回ほどやってるが」
「反則技は確かに気になるけど、両方とも理由を説明してるから、格上って事には変わりないな」
「これ、異種格闘戦以外で何の参考になるんだ?」
グエッサー「キックとパンチでは角度が違うから、役には立たないが距離は測れるから無意味ではないぞ」
「自分でグエッサーって名乗ってるが、なりすましか?」
「ああ、待ってろ。今から調べてやるから時間くれ」
ここから1時間ほど経過し、ようやくコメントが動く。
「今調べた終わったが、本人だな。浜崎親父が近くで見てるみたいだし、長男だけがPC使ってるのも調査した」
「法律おかしてないか?」
「法律違反で訴えるなら、とっくにやってるだろ」
「それはそうだな。まあいいや、とりあえず再開するか。で、グエッサーさんよ?」
「聞き方がよお、ねえちゃんよ。と同じ聞き方なのがギャグに見えるんよ」
「で、何を聞こうとしてるの?」
「何聞こうとしてたっけ?」
「そんなヘボメンタルで変な口調をやってみるのをやめなよ」
「お前らうるさいから、さっさと聞くぞ」
「グエッサー、何でわざわざここに来てるんだ?」
グエッサー「別に動画を見て、黙って去っても良かったが、唯一言える事があるなら、気が向いた。と言った感じか」
「まあ、いいか。で、これで少しはグエに勝てそうな気がするか?」
「何の前触れもなく、名前を短縮するえげつない行為」
グエッサー「グエはここだけにしておくように。質問に答えると、ひと通り見た限りでは有効打はあるな」
「ほお、何が入りそうなんだ?」
グエッサー「左右ともにピボットからのフックだけなら入りそうだが、今見たから対策を取らせてもらう」
「まあ、そうなるわな。動画にしてあげるとこんな事になるから、奥の手は見せないほうがいいんだよ、できる限りは」
「これが分かってて、何で動画としてあげたんだか」
グエッサー「スパーリングの後半に言ってた事でもあるが、私との対戦の先も見据えてるのだろう、私は飽くまでも途中に立ちはだかる壁。と言うわけだ」
グエッサーがコメントしてから、なぜか数分間だけコメントを投稿できない状態になる。そこからコメントが再開する。
「誰かが調査でもしたんじゃね?匿名の人を特定したとか言ってたから」
「警察は調べるだろうな、そこからTrulyOwnsに圧をかけられるまでが流れ作業」
「あ」
「あ」
「二人そろって、あ、じゃねえよ。でも、警察も学ばないねえ」
「去年の七見一族の大事件で、他国を使ってのすごい人数の処理を見て、このみみっちい行為をやる事自体が」
「数日後に何かの罪で捕まってるんじゃね?」
「お前ら、警察なんかどうでもいいから、さっさとグエッサーに聞けや」
「聞きたい事か。住坂関係の内部情報聞きたい」
「動画の意味がないんですがそれは」
グエッサー「分かる範囲なら答えてもいいぞ」
「おお、助かる。じゃあ早速、住坂と唐塚の戦いで、例の表示はどういう風に見えた?」
「内部情報って言ってるのに、もう違う事聞いてるのは笑える」
グエッサー「アッパーの瞬間は黄色だったが、すぐに青に変わって飛んで行ったぞ」
「なるほどって、ん?唐塚以外の対戦はどう見えた?」
グエッサー「プロデビューからと言う意味なら、KOするときの攻撃は全て黄色だったな」
「割ととんでもない事が分かった、ありがとう」
「何が分かったんだ、そんな意味のない情報で」
「こないだまでの対戦で、ダメージをくらわない為の最適解をやれたのは唐塚だけ、と言う事は分かったな」
「悲報、引退した相手以外、全員賢い選択が出来ず」
「朗報、肉を絶って金を得る」
「いや、肉絶ったらダメだろう」
「修正。顎湧き踊って金を得る。これでどうだ?」
「そうか、寸前で浮かせたって言ってたから、ある意味正解か」
「とりあえず、この件はこれでいい。すまないが質問する為に調べものするから、グエッサーは時間をおいて来てくれないか?」
「プロボクサーに言う事じゃねえ。それ、暇人に要求することだから」
グエッサー「別にいいぞ。今日の練習は終わりだからな」
「え、いいの?じゃあ、今からみんなで質問集考えるから一旦放置するわ」
それから、意味の無いやり取りをしてる人達だけでコメントは進んで行き、2時間が経過した。
「よし、今戻ってきた」
「俺も戻ってきた」
「筋肉が戻ってきた」
「戻る筋肉があるほど、筋肉がついてない事は良くわかった」
「まあいい、とにかく。考えた質問に答えてくれ、早速誰か質問するだろ」
「じゃあ俺から。住坂が過去に七見家令嬢が偉そうに入ってきて、脅したらしいがそれが全てか?」
グエッサー「そんな物で済んでいる訳がない。聞いた限りでは、住坂ジムの内装を匿名と言う名の手下達を使い、ボロボロに破壊した事を記憶している」
「ん、住坂雅玖からはそこまでの話を聞いた事がないんだが、なんでだ?」
グエッサー「例の女の子を守る為に、壁として立ったら棒状の凶器で、下から上に思い切り振り上げたらしい。当然、ガクは近くの壁に打ち付けられて、そこで大半の記憶を失っているが、本人は未だに気づいてないぞ」
「ああ、分かった。言ったところで、全て政治家の権力で握りつぶすから無意味だと言う事か。胸糞ものだな」
「その結果が今も続いている大量粛清なんだがな、自業自得としか言いようがない」
「この復讐劇、後が怖くないか?」
グエッサー「それは心配ないと思う。やればやるほど他国に引き渡すだけだし、何なら綾斗も画策してるみたいだが、証拠を取り次第、知念社長の関係者に渡す準備はいつでも出来てるからな」
「ああ、あの今は存在しない三男の事か、確か叔父に預けてるんだよな。縁切り費用込みで」
「絵に描いたようなざまあされる対象そのものだな、あれは」
「あの時、住坂に一撃KOされて控室まで動けなかったあいつね」
「情報を整理した感じではロリコン、性犯罪予備軍、DV気質。まあ、色々あるけど、この3つあげればゲームセットだな」
「え?なにそれこわい」
「だから今預けている叔父って言うのは厳重な監視をする意味で、重犯罪者を預かっていると言う話になる」
「あれでもまだ、犯罪はやってないぞ。今後は知らないが」
「そうなんだよな、元は断たれても末端までが大人しくしてるはずがないんだよなあ」
「まあ、これはそんな感じだな。次の質問お願い」
今の話だけで、反響がすごく一気に2千コメントほど増加した。
「じゃあ、次は俺。住坂がさっきの事件以降に強くなってから、2戦2敗の相手がいるみたいだが、その話を聞かせてほしい」
グエッサー「ああ、壱会必太の事か。ジュニアトーナメントの小学生の部と中学生の部で、ヘッドギア付けた状態で両試合ともKO負けしてるな」
「は!?何その最強の選手」
「え、その選手って今後8回戦でデビューする予定なのか?」
グエッサー「いや、中学卒業前に大きめのケガをして、ボクサーは引退した。現在は動画でボクシング講座をやっていたはずだが」
「今調べたら、確かにヒッターちゃんねるでボクシングの講座っぽい動画をあげてるな」
「いるよな、超早熟タイプで後がパッとしない奴って」
「でも、良く考えてもみろ。ミドル級の日本ランカーが束になっても1ラウンドKOできる可能性がある奴に2戦2勝ってやばくないか?」
グエッサー「念のために補足するが、あいつの使っていた『ファントムフック』と言う技は今も克服できていないようだぞ?」
「ちょっとまって、じゃあここから5戦5勝なんてする可能性もあるのか、考えただけで末恐ろしいな」
「そう言えば、現在のウェイトってどれぐらいなんだ?」
「今は55から57kgだな。住坂よりかはだいぶ軽い、これでも勝てないのか」
グエッサー「あと一つだけ補足すると、ガクはお化けが怖くて、ファントムフックもお化けらしき何かに見えるらしい」
「えっ、何それかわいい」
「まさか、そんな理由で負けてるなんて思わないだろう普通」
「だから、あのすご強社長の心を鷲掴みにしたのか」
そこからなぜか数分間、コメントが止まる。
「……想像したら、色々面白かった」
「あの社長、そういう趣味持ってたのか」
「母ライオンが鹿牛の子供を保護する映像思い出した」
「で、鹿っぽい奴がライオンに進化したってオチか」
「それな」
「じゃあ、壱会はなんなんだよ」
「生命の神秘でいいんじゃね?」
「適当だなお前ら」
「ここ、そう言うところだし、何の問題もないよね」
「まだまだ聞きたい事はあるけど、今回はこれくらいにするわ。グエッサー、ありがとう。また聞く機会があったらお願いする」
グエッサー「言える範囲なら教えるよ。それでは、私はこれで失礼する」
「グエサン」
「グエっとサンクス」
「グッサ」
「グッサはさすがに略しすぎて何言ってるか分からないからやめろ」
ここからは意味の無いコメントのやりとりが続くだけであった。




