終業式前日
今日は1学期終業式の日。午前11時30分には下校時間となる日だ。
この日から練習時間が多く取れるので、俺としては嬉しい時期になる。
いつものように朝6時に起床。外を出て、長めのランニング、インターバル走、30秒ダッシュのセットを1時間。そこからジム内で筋トレを1時間実施する。
午前8時。急いでジム裏側の自宅に戻り、朝食を10分で完食し、さらに10分かけて、学校に行くのが一連の流れだ。
今日は特に変わった事が無い為、順調に終わったが、外出時に何か起きた場合は、この時間設定が狂う。もっと言えば、外出時に色々起こる事が多く、今日のように黙々と朝のメニューをこなす事のほうが少ない。
昨日と同じく、学校まで徒歩で通う。
「おはよ、ガク君」
今日も背後からアカが挨拶をして、横並びに歩く。昨日と同じ光景だ。
道中も特に変わった事は無く、学校に着いた。
俺たちのクラスは2年2組になる。昨日の昼、同席していた彼女は2年3組で、用事でも無い限りは会う事が無い。ただ教室自体は隣同士の為、普通はばったりと会う事があるはずだが、これも気にしたところでしょうがない。
教室に入り、クラスメイト達も席につき、ホームルームの時間を待つ。
8時30分。担任教師が教卓まで移動し、出欠を取る。
担任の名は瀬野 立也。
年齢は確か、今年で47歳。特にこれと言った特徴も無く、いつも事務的な説明しかしない。
その為、俺たちは大体、流すような気持ちで話を聞いている。
「じゃあ、50分までに体育館に移動するように」
説明が終わり、教卓を離れ、教室から出て行く。
俺たちも特にやる事が無い為、教室を出て、体育館へ行く。
2-4教室を過ぎると、十字路になるので左折し、そのまま外に出て、右折後真っすぐ行けば、左側に体育館に着く。
体育館に入ると、すでに1年生が中央左、3年生が中央右に配置されている椅子に座っていた。
俺たち2年生も続々と配置している席に座って行き、全員が座った頃に8時50分となった。
校長が教壇へと移動する。
進行担当の先生が号令をかけ、生徒全員が椅子から立ち上がる。
礼をして着席し、校長挨拶が始まる。
後は式次第の項目ごとに先生が号令し、起立、礼、着席の繰り返しをするだけである。
最後に閉式の辞で号令がかかり、生徒達が起立し、礼をする。
「ありがとうございました」
そして、着席となる。数分間待機した後、体育館を退場し、終業式が終わる。
この後は再度、各クラスへと戻り、改めてホームルームとなる。
少しして、担任が教卓に戻り、各生徒に成績表を渡す。
後は夏休みの過ごし方や危険な場所などの注意事項を言って終わりとなる。
毎回、始業式と終業式は分かり切った事をやるだけなので、下校時間になる頃には生徒達は疲れている。
俺もその一人で、根拠のない疲れが出て、少し眠たくなっていたりする。
しかし、ようやく夏休みの到来で生徒たちは各々、家に帰ってから行きたい場所に行く。
俺も区切りの日については、通学時と同じ練習メニューでいいと言う事なので、午後5時前までは自由時間となる。
とは言っても、まずは家に帰って食事をしない事には話にならない。
ボクシングの体づくりをする以上、不用意に色々と食べる事ができない。
10分後。家に帰り、ジムの人達に挨拶してから、裏にある自宅へと戻る。
いつもどおりの昼食を摂り、外へ出る。
(今日は久しぶりにどこ行こうか)
学校に居る時以外は基本的に練習中心の生活となっているので、時間ができたからと言って、目的地が思いつかないのである。
俺は特に決めていない予定を立てようとしていたら、
「ガク君、今日は僕に付き合ってもらってもいいかな?」
制服姿ではないアカが俺の前にやってきた。
今の彼の服装は、青緑の半袖のTシャツにグレーのジョガーパンツ、靴はネイビーのデッキシューズと言ったところである。
「俺は別に構わないぞ。丁度困ってたところだ」
アカからの誘いで、今までに無茶な場所は無かった為、考える事もなく了承する。
「良かった。じゃあ今からあの公園に行かない?」
「まあ、別に構わないが」
アカの言っている公園と言うのは、テニスコートやプール、オープンアトリエ、サイクリングコースがあったりと、俺たちの通っている根玄野高校には無い施設ばかりが完備されている。
(高校と裏で打ち合わせしてるとしか言いようがないな)
いや、高校と公園が協力関係にある事実は知らない。
「じゃあ、早速行こう」
アカの後ろを歩き、公園までついて行く。
40分ほど歩いて公園に着いた。
「いつ見ても、公園とは名ばかりの見た目だな」
入口は右寄りにある。
右側手前にプール、左側テニスコートが3面。さらに左側にはオープンアトリエがある。奥はサイクリングロードとなっており、プールの奥側にある駐輪場のロードバイクとヘルメットを取って、大回りのコースをひたすら走っていく物となる。
俺たちがいつも使っているのはオープンアトリエで、いつ予約を取っていたか不明だが、俺が居なくても、今日は利用する予定だったのだろう。
アカが利用する目的は単純で絵を書く事だが、その内容が『各弁護士関連施設』と銘打った全国の法律相談事務所などの建物をリアルに描いた物である。
(何が楽しくて、こんな物を描き続けているんだ?)
傍から見れば、全くの謎だ。
俺は時間の空く限りはこの場で、アカの描いてるところを見るだけになる。
勿論、描いているのを延々と見るだけなら退屈なので、アトリエを出てから深呼吸をする。
「あの、すみません。球拾いをお願いしたいんですが」
テニスウェアを着た女性が声をかける。
「分かりました。まず、フェンスの外へ出た球を拾ってきます」
俺がアカとアトリエに付き合っている理由はこれだ。球拾いで軽い運動ができる。
フェンス外の球を全て回収し、テニスフェンスに取り付けてあるドアからテニスコートエリアに入り、今度はイレギュラーした球を素早く動いてキャッチする。これは公園を去るまで延々と続ける。反射神経を鍛える運動として使えるからだ。
これを午後4時まで延々と続けて、時間をつぶす。
アトリエからアカが出てくる。
いつもの場所に居る俺に声をかけて、それぞれの家に戻る。
これが終業式から練習時間までの通常の流れである。
俺は家に戻り、軽く汗を流してから、ジムに入る。
午後5時からストレッチを始め、シャドーで動きを確認、次はサンドバッグへの打ち込みをする。
ここまでで1時間経過する。
次はいよいよミット打ちをする為、リングに上がる。これを2ラウンドこなす。
次はマスボクシングと言って、打撃を寸止めをしてフォーム確認をしながらの実践的な動きの練習をする。これを5ラウンド。
仕上げにスパーリングでチャンピオン経験者と対戦し、これを8ラウンドこなす。
学生とプロではレベルが違いすぎて危険だ。と言う声が出るかもしれないが、所属しているチャンピオンは全員、俺よりも軽いウェイトの人しか居ない。その為、スパーリングをするとほとんどは俺が勝つ。
ヘッドギアしている為、ノックダウンする事は無いが、俺にとってはいい運動にしかならない。しかし、相手にとってはかなりの強敵でしかなく、スパーリングを終える頃には息も絶え絶えの状態となっている。
ここまででメニューをこなし、午後7時。
後は縄跳び、アフターシャドー、筋トレをこなして、さらに1時間経過する。
今日はまだ、体力に余裕がありそうだ。
「会長、1時間筋トレを追加していいですか?」
親父に声をかける。
「ああ、言わなくて分かると思うが、オーバーワークだけはするなよ」
練習時間の延長を許可された。
どうして、こんな事をわざわざ言っているのかと言うと、俺は数日後にプロデビュー戦を迎える。
少しでも、勝率を上げる為にやれる事は今のうちにやっておきたい。
4月にC級ライセンスの試験で合格し、17歳から試合に出る事を許可される。
俺の階級はウェルター級なんだが、本来は一つ下のスーパーライト級でも問題は無い。
しかし、ジムの意向で一つ上のクラスで登録している。
これはまだ、俺が体が大きくなる事を見越した上での対応だ。
最終的にはヘビー級で戦えるように育てるらしい。
俺にとっては好都合だ。
ヘビー級まで上げてしまうとまず、国内のライバル候補が激減する。
相手はほとんど海外の選手になるので、旅費が跳ね上がるのだが、親父は気にするなと言ってくれる。
とは言っても、最初から重いのでは話にならないと言う事で、ウェルター級からのスタートとなった。
午後9時となり、練習を終え、ジムの裏側にある自宅へと戻る。
今日は少し遅い夜食となる。
いつもはスパーリングを終える午後6時45分からとなるが、これはウェイトを多少重くしても問題ないと言う事もあり、意図的にずらしている。
明日からは朝から夜まで練習の日々になる。今日はもう寝よう。




