プロローグ
今日も何気ない日常が始まり、そして終わる。
傍から見て、本当に日常なのかどうかは怪しいが。
「おはよう」
「おはよ」
「おはようございます」
今日も通学路には様々な人達が交わす挨拶にあふれている。
もっとも、俺もその一人に入っている。
俺はすれ違う同校の人達に今日も挨拶をして行く。
そうだな、俺の特徴と言えば、友達が100人出来るタイプと言う事か。
なぜと言われると、うちの親父が自営でボクシングジムをやってるからな。
え、理由になってないって?ああ、説明足りずだった。
俺も家のジムでボクシングの練習を小学校に入ってからずっとやってるから。
ジムの名を『住坂ボクシングジム』。
これでも、俺はジュニア時代に小学生の部45.0kg以下級で準優勝。中学生の部50.0kg以下級でも準優勝。
ん、優勝はって……それはだな。
決勝の対戦相手に必殺技を打たれて負けてるんだ。その技が『ファントムフック』って言うんだが、俺の死角を利用して、何も無いところから強烈なフックで倒されるんだ。ヘッドギアを付けてるのに。
何が言いたいかって事だが、つまり俺は見えない物が基本的に怖い。何がと言われると、一般的に幽霊、お化けなどの類はまずダメだ。
目に見える物なら、いくらでも対処の仕様があるんだが、見えないからやりようがない。でも、いつからそんなものが苦手だったのかは俺も知らない。
ボクシングを始めてから強くなってからはずっと、ボクシングの大会では絶対的な優勝候補と言われてるのにこのざまだ。
「どうにかならないかな、この弱点」
今日もここ一番を取れない事を憂えていると、
「おはよ、ガク君」
ふと、背後から左肩を2回叩かれ挨拶してくるこいつは丸岩 空奏。
俺とはジムで一緒に練習する事はないが、たまに走り込みなどに付き合ってくれる幼馴染で同級生の男だ。
なぜ男を強調するかと、言うとどうしても見た目が弱々しく見える。でも、こいつには色々と感謝をしている。お化けや幽霊に関しても何度も助けられた事もある。
あ、俺か。俺の名は住坂 雅玖。みんなにはガクの愛称で呼ばれている。
いや、俺の紹介はいいんだ別に。
それよりも今日も学校に行く。今日は1学期の終業式前日だ。今は学校によって、様々な日程になってるが、この学校は昔懐かしの7月20日になっている。
「おはよう、ガク君」
「おはよ、ガク」
「おはガク」
別の通りがかった人がすれ違いざまに適当な挨拶をして、前を通って行く。
「ほんと、いっつも思うんだが、みんな俺の呼び方適当すぎるだろ」
友達が多いのはいい事だが、100人出来るタイプと言う事は、それだけ浅い関係でしかないと言う事でもある。
「ま、気にしてもしょうがないか」
そうつぶやいて、アカと横並びに学校へと行くのだった。
校内に入り、先を走って行ったクラスメイトや同学年の人達が笑顔でまた、挨拶をする。
俺たちは教室へ入り、荷物を教室後ろに並べてある四角形の枠をしたドア無しタイプのロッカーにカバンを置く。教科書は机の引き出しの中に入れている。
しばらく時間が絶ち、午前8時30分になるとホームルームが始まり、10分ほどで終わる。
それから9時に1時間目の授業が始まり、50分授業10分休憩の1時間サイクルとなっている。
正午になり、俺たちは玄関から最奥にある昼食スペースで昼食を摂っていると、
「一緒に座っていい?」
女の子が横並びの俺たちと対面側に座って、オレンジ1個と500mℓのプロテインドリンクをテーブルに置く。
「おいおい、またそれかよ」
「いいでしょ?これでも体の事考えながら摂ってるよ」
相変わらずの俺の言葉に反射的に反論する彼女である。
彼女の名は良辺 望。こいつはガクと違って幼馴染とまではいかないが、小学校4年からの付き合いである。
栄養バランスは良くないと思うが、彼女の体つきはいわゆる理想の曲線美と言う物である。
勿論、彼女自身が裏で肉体改造をしていないとふっくらした体型に見えるのだが、どこで鍛えているのやら。
今日も彼女は、そんな俺たちの気も知らずにオレンジを丸ごと食べきった後、プロテインドリンクを飲み干し、
「じゃあ、私もう食べたから、これで失礼するね」
俺たちに微笑んでから、近くのごみ箱に捨てて、昼食スペースを去って行った。
「なあ、いつも何も話さずに食事だけして戻るって何なんだ?」
彼女の行動は謎に包まれている時がある。
しかし、普段の彼女の周囲の評価は、社交的だと言う事だ。不思議そうな目で空いた席を見ていると、
「望ちゃんも僕たちの顔が見たいんだよ、きっと」
アカがいつもどおりのフォローをする。
「まあ、嫌われてないなら別にいいか。俺たちも食べるぞ」
「そうだね、ゆっくり食べよう」
彼女と違い、俺たちは栄養を考えた食事をお腹を壊さないためにゆっくりと食べて行った。
食事を終え、ごみ箱に入れてから教室に入ると、
「ガク君って本当にモテるね」
「これは脈ありですな」
「でも、なんで手を出そうとしないんだろ?」
大体、こんな感じだ。
望は学校ではかなりモテる。俺が言うのもなんだが、男女ともにモテる。
質問攻めにされないだけマシだが、その内に質問されそうだ。
クラスメイトから見られる目としては、俺自身を見てくる。
食事終わりに教室へ戻ると、ほとんどは望についての話だ。
まともに相手しても仕方無いので、昼休みの時間が終わるまで待つ。
午後1時のチャイムが鳴り、ようやく午後からの授業が始まる。
4時間目の授業は体育である。クラスメイト全員は男子は2年教室を通路で挟んだ奥の部屋、女子は2年教室の向かいにある1年教室の奥、つまり男子更衣室から通路を挟んで向かいにある部屋となる。
俺たちは更衣室で体操着に着替え、校舎の玄関を出てから右側にある運動場に行った。
今日の授業は持久走の為、運動場の奥側にある陸上用のトラックまで移動し、教師の指示に従って、授業中はひたすら走り続けた。
チャイムが鳴り、ほとんどの人が息を切らして、その場にへたり込む。
俺とアカはこれぐらいの距離は慣れているので、立ったままで居る事が出来る。
次の授業もある為、他のクラスメイトを全員、肩を貸して行為室の前まで連れて行く。
大体が全員が更衣室で着替えたタイミングで、次の授業が始まる時間になる為、俺とアカだけは体操着のまま授業を受ける事になる。
体操服を着たまま、授業が終わり、すぐに男子更衣室に入って、制服に着替えなおす。
後は6時間目の授業が終わり、ホームルームが10分あってから、下校となる。
下校時間になると、各生徒がそれぞれの部活に行く事になるが、俺たちは無所属なので家に帰ったり、用事を済ませたりする。
今日のアカは特にやる事が無い為、まっすぐ家に帰ると言う事であった。
そして、俺は親父に頼まれていたジムに練習へ来てる人全員分のお守りを買ってこいと言う事で、神社へと足を進める。
学校を基準にすると、家からでは逆方向にある為、神社に用がある際には、必ず俺に頼んでくる。
20分ほどで神社に着く。
鳥居をくぐると、境内はそれなりの広さがある。三が日には地元の人がこぞって、初詣に来る。それ以外の日は閑散とした場所でもあるのだが。
少し歩いて、右手に手水舎があるので、まずは手を清めて、さらに奥に入って行く。
奥に行くと拝殿があるので、そこで参拝する。
それから親父に頼まれていたお守りを拝殿より右手にある授与所で必要数受け、授与所を離れる。
「ん、あの狛犬。動いてないか?」
なぜか拝殿前に一対あるはずだが、俺の帰りに合わせて近づいたように見える。
そして、なぜだか先ほどまで夕方だったはずの空が真っ暗になっていた。
少しだけ足早に拝殿前まで戻る。狛犬は本来の位置にあった。
俺は得体の知れない何かに怖くなり、足を動かそうとしたら
「ひゅうううう」
右から左に風が大きく、一吹きする。
「ぎゃあああああ」
瞬間。俺は正体の見えない物に恐怖して、その場にへたり込む。
そこにあるはずの一対の狛犬に目を向けると、そこには無かった。
恐怖で身がすくんでいた為、無意識の内に地面に目線を向けた。
すると、先ほどまで無かったはずの丸く輝いた物の中に口を開けた一体の狛犬が映っていた。
俺は声にならず、無意味に震えていた。
「こんなところで何をしているのだ?」
不意に背後からかけられた声に、上体だけ後ろに向けて
「ぎゃあああああ」
声の正体も確認せずに、先ほどと同じような悲鳴を上げてしまう。
「それはただの鏡だ。何を慌てている?」
正体と思われる人が、鏡を右手で拾い上げる。
声は低く落ち着いた女性のものだった。
もう一度、映り込んでいた狛犬を確認したが、そこはただの石畳である。
再び背後を向いて、正体を確認する。
立っていたのは深紫色のスカートスーツを身に着けた端正な顔立ちの女性で、体つきは一目で頭から離れないほど、グラマラスである。
「どうした?そんなに私を見続けて。まさか見惚れていた、と言う事はないよな?」
彼女は俺に向けて、怪しく微笑む。
釘付けになっていた目線をごまかす為、一度立ってから両頬を外側から一回叩いてから気を入れ直す。
「いえ、申し訳ありません。つい目が離せなくなってしまって」
俺は素直に、彼女に向けた目線について謝る。
彼女はまた微笑み、
「まあ、君には見られても一向に構わないがな。それよりも、家に帰らないと不味いのでないか?」
すっかり、目的を忘れた俺に後の行動を促した。
「ん、あ、そうだった。家に帰ってお守り渡さないと」
ポケットに入れたままのお守りを一度だけ握る。
「もう暗くなっているので、早く帰ったほうがいい」
彼女に再度、促される。
既に用事が終わっているので、
「それじゃあ、失礼します。また、会えるといいですね」
俺は彼女に一礼してから、神社を後にする。
神社を去った彼女はため息をついてから、狛犬を二体ともに睨みつける。
すると、なぜか一対の狛犬の左耳だけが崩れ落ちた。
「彼にこれ以上、悪さをするなよ」
彼女は狛犬に向かって、つぶやいた。
さらに彼女は何かに気づき、
「いい加減、そこから出てきたらどうだ?」
今度は狛犬の後ろに向かって、話しかける。
数秒後、狛犬の後ろから人が出てきた。
姿を現したのは良辺望である。
「ついつい、面白くなってしまいまして」
望は盗み聞きしていた事を謝る。
「どこまで関わっていたのだ?」
どうやら、狛犬の件も疑われているらしい。
望は慌てる素振りをして、
「いえ、狛犬の件は分かりません。見ていたのはガクが普段と違う反応をしていたので、つい」
彼女に対しての反応を観察していたようだ。
「あまり、こう言う事を茶化す真似はしないようにな」
彼女はおしゃべり好きだと勘違いして、言葉で諫める。
「いえいえ、そんな事はしません。ただ、普段なら困った顔しかしていなかったので」
望から思わぬ情報を聞く事ができ、
「そうか、私は脈あり。と言う事か」
彼女の声からわずかに嬉しさを感じ取る事が出来た。
「でも、ガクは年上の人に物凄くモテるので、油断してると誰かに取られてしまいますよ?」
望はどこか楽しそうな表情で答えたのである。
「随分と、情報をくれるのだな」
妙に優しい望に対して違和感を覚える。
「いえいえ、なるべくガクには幸せになって欲しいので、お節介と言うものです」
望は悪意が無いと言う意思表示をした。
「そうか。では、もう君も帰るのだろう?良かったら、自宅までは送ろうか?」
「いいんですか?それなら、遠慮なくお願いします」
望は彼女にお礼を言い、神社外の駐車場に停めていた黒の高級車に乗せてもらった。
この後、車内でお互いに情報交換をするのだが、ガクがその事を知る由はない。
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徒歩で何とか家に帰ったガクは、親父に頼まれた複数のお守りを全て渡した。
(それにしても、そんなに時間経つような時間。神社に居たかな)
今は夏だから、学校帰りに行って寄り道せずに家まで歩いても1時間もあるので、日が落ちる事はない。
考えられるのは、俺が神社でへたり込んでいた間に数時間経っていたのか、神社に行くまでに数時間経っていたのかである。
過去に何度もこんな経験がある。
神社に行った時は何だか時間の感覚がおかしくなる事が多かった。
それは楽しみと言う心理的状態ではなく、時間経過が通常の何倍も経っているように感じるからだ。
(今度はジムの人に頼もうか)
俺だけに起きている怪奇現象である為、次は俺以外の誰かに頼んだほうが無難である。
(今日はスーツを着た彼女には助けられた。いつもはアカか望に駆けつけてもらってるからな)
たまたま居合わせた女性が居なければ、時間だけが経ち、延々と家に戻ってこない俺を見かねて、親父が二人に連絡する。と言う流れになるからだ。
今は朝練と夕方のみ練習をするだけだが、こんな事が起きる日は夕方以降の練習が出来なくなってしまう。親父も不用意にやってしまうからお袋に怒られてげんこつを食らうと言う流れができている。
そう言えば、神社のお守りの効果は『勝利祈願』。これは他のメンバーに配る物になる。
他に俺には『厄除け祈願』。
行く度に心霊現象と言う名の厄に見舞われる羽目になるんだが、何が厄除けなんだろうか。これでは本末転倒である。
そんな俺は今、自宅のベッドで仰向けになっている。
心霊現象に遭った日は帰ってから練習もせずに食事だけして、風呂に入り寝るだけだからな。
親父にとっては俺の欠点改善の為だと言っているが、そのたびにお袋に怒られているんだから意味が無い。とは言っても、どうにかしたいとも思っているが、どうにもならずにいる。
「今日はもう寝るか」
俺はため息をついて、寝ることにした。
皆様こんにちは、凋朽打破です。
今回はBKレーベルのコンテストに応募する作品となります。
元々、夏のホラー2026用に向けた作品にする予定でしたが、物語を進めて行く内に段々と方向性が変わって行った事と、BKレーベル様の『恋愛ラブコメ』などにも進出したいと言う事を載せていましたので、思い切ってコンテスト用の作品として、仕上げる事になりました。
メモ帳への下書きはすでに完結まで、書き込んでいます。
今日からは、さらなる校閲をしつつ、こちらに転記する作業になります。
まずはメモ帳に書いた事を全て転記してから、構想だけはありますが、やり切れなかったエピソードも挿入と言う形で追加出来ればとは思います。
まずは校閲の進み次第になってくるので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




