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過去の夢、今の俺を形成する出来事でもあった

そう、それは俺があの時、精神的負担をきっかけに失なった大半の記憶。あの子の事は今でも忘れられなかったが『透子』と言う名前と、純粋でかわいい女の子と言う以外は何も思い出せなかった。


これ以上、透子の事を忘れるのはどうしても、嫌だった為、俺は彼女の写真を入れたロケットペンダントを首にかけて、リングへと近づいた。


「おい、何気取ってペンダントなんか付けてんだよ!」

赤コーナーに居た同年代の選手がグローブを付けてない状態でこちらに近づいてきて、首にかけていたペンダントのロケット本体を掴んでちぎり取る。


「おい、お前!なにやってんだ」

赤コーナーから父親と思わしき人がちぎり取った選手に怒号を上げる。会場の人達もその声に反応し、静まり返った。


ちぎり取った選手は意に介さずにロケット本体を開く。

「は、どうせこっ酷く振られた奴の写真だろ、こんな物はこうしてやる!」


次の瞬間。床に強く叩き付けたペンダントは、それぞれの部品がバラバラに砕け、本体ケースや内部フレームは歪んでいた。その勢いにより、中に入れていた写真も飛び出していた。


そして、さらに飛べだしていた写真を踏みつけようとした時、後ろから先ほどの人物が体ごと後ろに振り回し、寸前で写真が無事となった。


俺は写真を踏みつけようとした選手を睨みつけ、殺意を沸かずにはいられなかった。


近くから来た親父がいつの間にかロケットペンダントを丸ごと回収していた。


先ほどの選手はそれでも、あざ笑うように、

「悔しかったら一発ぐらい当ててみろ、このなよヘボクソ雑魚ファイターが!」

暴言を吐き散らした。


近くの係員が止めようとしたら、親父と赤コーナーに引きずり戻した人物が止める。


二人とも黙って首を横に振ったかと思うと、赤コーナーに居る人物が、

「一発で終わるから、黙ってみてくれないか」

何かを確信したような言いぶりだった。


親父も首を縦に振り、何も言わないでいる。

両者リングに上がり、赤コーナーでは改めて、グローブを装着させて、試合のゴングを待つ事になった。


俺はひたすら、拳に殺意を握りしめ、試合のゴングを待つ事にした。


係の人達は困惑しながらも、ゴングを鳴らした。


俺はその瞬間、殺意を込めた全力のアッパー気味の左ストレートを打ち込み、相手のヘッドギアの間の下顎を強打する。

相手はそのまま、倒れて起き上がる事が出来ない。


ここでレフェリーが試合を強制的に終了させ、俺を勝利者として、手を上げさせる。ただ、俺の心は一切晴れる事はなく、うつむいたままで勝ち名乗りを受けた。


この後、相手の父親らしき人物がリングの端にやってきて、

「住坂、早くこの子をリングから下してやってくれ。俺は今から、こいつに言うべき事をある」

侮辱の限りを尽くした対戦相手の首根っこを捕まえたまま、リングから降りる。


「すまないが、控室を少しの間だけ貸してくれ」

係員に言い残し、会場を去って行った。


■■■ 別視点 対戦相手の控室


私は浜崎(はまざき) 剛士(たけし)

住坂雅玖に対して、暴力的な言動の数々を阻止出来なかった父親だ。


今、気づいて体を起こしたバカ息子の綾斗(あやと)に正座をさせ、非情な宣告をした。

「綾斗、お前は金輪際、ボクシングやる事は許さん。もう息子でも何でもない。後は尊に預けるから覚悟しろ」


前々から、侮辱行為が少しずつ目立っていたが、今日のような相手の大事に身につけている物を勝手にちぎって投げつける事までは無かった。


私は去年のある日、ニュースで見た長平鷹斗の結婚を目にしたが、後からネットで確認すると、どうやらジムに居る人だけに限らず、関係者すべてを人質に取り、無理やり結婚するように仕向けていた事が分かった。


相手は七見大臣の娘であると言う事、あの一族は昔から自身の意のままに操る事を快感としていて、反抗する物は全て亡き者して、何かあれば政治家としての権力をフル活用し、何も無かった事にする。


総理大臣も操り人形と化し、逆らう事が出来ないと言うのもネット上では勘づかれていた。


住坂雅玖があのロケットペンダントを首に付けて、中に女の子の写真を入れていたのも関係しているだろう。推測した限りでは、写真の女の子がすでに亡き者にされている可能性は十分に考えられた。


そんな事情をくんで、最大限の配慮をしないといけない場で、あのバカ息子は最悪手を連続でやってのけた。


仇討ちぐらいはさせておいたほうがいいと判断し、住坂会長とアイコンタクトでやり取りをし、試合のような何かをさせる事で合意した。


係員達も事情を瞬時にくんでくれ、一応の試合開始をした。

案の定、最初の一撃で綾斗は倒れ、最低限の義務は果たさせてやった。


しかし、そんな物で気が晴れる事もなく、ただあの子はうつむいたまま、黙っていた。私は綾斗を無理やり引きずって、ここまでやってきて今となる。


「なんだよ親父。俺はなよなよした雑魚野郎に自分の立場を分からせてやっただけなのに、何でそんなに怒ってるんだよ」

それでも、全く意に介さないバカ息子。


私は言いようの無い怒りに支配されようとしていた時、控室のドアが勢い良く開く。


入ってきたのは長男の展数(ひろかず)と次男の検事(けんじ)


「係員から全体の話を聞いてきた。最低だな、綾斗。何も言う気が起きない」

「親父、綾斗はボクシング界から永久追放がふさわしいんじゃない?」

兄二人は良く出来た息子達で、この件についても私に賛同するような言葉を言ってきた。


「女もロクに堕とせないようなクソ雑魚が、いつまでも女々しくやってるだけだろ?何で、そんなに俺が理不尽な目にあわなきゃなんねえんだよ!」

綾斗の言葉に私達は絶句した。


数秒後、沈黙を破ったのは展数で、弟に対して、呆れた物言いをする。

「さすがにここまで酷いと、親の教育どうこうはもう関係無いな。会長、尊おじさんには連絡しましたか?」

私は展数の言葉と同時に(たける)に連絡をする。


数分後、弟の尊と連絡が取れ、

「すまん、尊。お前にとても大事な頼みがある」

「あ?この後に及んでまだ、金の無心か?呆れすぎて見直してしまうね」


今、携帯電話で連絡をしている弟の尊。


過去に何度も金を借りた事があり、その度に嫌味を言われ、今のジム会長になってからも借金するのは人としての善意を疑ってしまう。と言う事だろう。だが、今回だけは引く訳には行かず、言い方を変えてから再度お願いをする。


「金の無心ではなくてだな、むしろ金をそれなりに払うから頼みを聞いてくれないかと言う事で、恥を忍んで連絡した」

「まあいい、金をくれてでも頼みたい事ってなんだ?」


今回は上手く行った。私は話を始める。


「実はな、三男の綾斗がボクシングの試合直前に暴言を吐いて、相手の身につけていたペンダントをちぎり取って、中から飛び出た写真を踏みにじろうとした。寸前で写真が破られるのは阻止したが、対戦相手は今も失意の底に沈んでいる最中だ」


「ほお、だがそれだけならどこにでもある話だろう」

私はさらに推測している点で気になるところを話す。


「尊の奥さんと娘さん。七見家の者に殺されてるんだろ?その対戦相手を侮辱した対象と言うのが、七見家による暗殺された人の可能性があるとしたら、お前はどう思う?」

電話越しの尊はため息をつく。


数秒後、気持ちを切り替えてから、

「そう言う事か、分かった。綾斗を正式に、こちらで引き取り、徹底的に指導しよう」

私に了承の旨を伝える。


「そうか、ありがとう。尊に頼んで良かった。この後、住坂のところに様子見に行くから、書類云々はその後から、少しずつ処理して尊に引き渡す形になる。じゃあな」

私は尊との電話を切り、綾斗に話しかける。


「と、言う訳だ。大人しく、尊のところで真っ当な大人になるんだぞ」

「なんだよ、散々言いやがって。今までのやり取りも証拠がねえだろ、証拠がよお」

綾斗の開き直ったとも思える発言に展数と検事をただ、呆れるしか無かった。


3分後。今度は係員が入ってくる。


「綾斗選手が証拠の提示を申し出ましたが、今までのやり取り。隠し撮りをして、しっかり確認していますよ。あなたの人とは言えないような発言の数々も。どうしてもと言うのであれば、今すぐ警察に突き出しますが、いかがしますか?」


私は考えるまでもなく、

「それでよろしくお願いいたします。警察にお世話になったと言う事実が残れば、弟にも引き渡しがスムーズに行くでしょう。」


警察に突き出す事に了承して、住坂に謝罪に行ってから、警察で処理してもらう事にした。


■■■ 夢の中に戻る


一切、嬉しさの感情が沸かない俺は今、自分の控室の椅子にただ呆然と座っていた。


親父達も俺の落ち込み様子にただ、そっとしておくだけだった。


あれから15分ほど経つと、控室から対戦相手の父親らしき者が入ってきた。


「今日は本当にすまなかった、あいつがまさかここまで悪さをする事は予想してなかった。本当に申し訳ない」

俺に最敬礼で頭を下げた。さらに言葉を続ける。


「綾斗については今日限りで親子の縁を切る。日本の法律では実際に切る事は出来ないから、今日のような侮辱を最も許せないタイプの親族の家に預ける事にした。ボクシングも今後、一切関わらせない。それで、許してくれないだろうか?」


相手の言葉に対して、俺の代わりに親父が答える。


「浜崎会長。いくら何でも、絶縁は行き過ぎじゃないでしょうか。ここはもう少し、再教育を丁寧にやる方法を考えてみては?」

親父の提案に浜崎会長は首をゆっくりと、横に振る。


「あれはもう、子供として取り扱うべきではない。聞いた限りでは自分の立場を分からせようとしたり、女も堕とせないような奴がどうのこうのと、正直、あれではそこら辺に居る悪党と変わらない」


親父は浜崎会長の言葉に顔を歪めてしまう。


「とにかく、今から綾斗を警察に突き出してから、私の弟に引き渡す事が決まってる。そうだな、私が言える事は雅玖君には少しでも元気な姿でボクシングを続けてほしいと言う事だ。後、綾斗の兄である展数と検事も雅玖君の事を心配していたから、二人もこの事を伝えてくれと言われた」


浜崎会長はさらに話を続け、

「明日か数日後になると思うが、子供と一緒に3人で様子を見に行こうと思うがいいかね?」

俺に許可を取ってきた。


うつむいたまま、俺はゆっくりと首を縦に振り、浜崎会長に意思を伝える。


「ありがとう。それではまた、日を改めて伺うとしよう。今日はこれで失礼する」

浜崎会長は俺たちに一礼をして、控室を出て行った。


続、私の記憶ではと言ったエピソードで、原因は精神的負担だけではありません。

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