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王妃様の弟殿下に一服盛ってしまった結果  作者: もも
俺はただ、純粋に花祭りを楽しむ気持ちで
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12/16

第12話 花祭り、そして

 花祭りの会場は人でごった返している。

 人々の波から守ってくるように、ヴァルターはギーゼラの手をがっちり握りしめてくる。


(まっずい!!)


 これでは隙をついて買い物ができないではないか。


 いつも花祭りに赴く際は、父はギーゼラを自由にしてくれる。


 ──好きに遊んできなさい。若者は遊ぶべきだ。


 それが花祭りなどの催し物に連れて行ってくれた時の父の口癖。良く言ってゆるい、悪く言って適当なところがあるのだ。

 その隙に薬もとい毒を買い漁ることが出来るのだが……。


(そんなユルい貴族、お父様だけだった!!)


 しっかりと自分をエスコートしてくるヴァルターを思わずじっと見つめてしまった。


(こ、こいつを私から引き離さないと……毒が買えない!)


 凝視しすぎていただけなのだが、ヴァルターは何を勘違いしたのか微笑を浮かべてきた。


「どうされた? ギーゼラ殿」

「あっ……えっ……と」


(お前から離れたいんだよ!!)


 ギーゼラは俯いて手をいじる。

 どうやってヴァルターから離れるべきか。


 刹那、風が吹き、地面に敷き詰められていた花びらがぶわっと宙を舞った。

 天まで届くほど、花びらは広がっていく。そのひとひらが、ギーゼラの髪にひっかかった。


「わっ」


 ギーゼラは髪から花びらを取ろうとした。なかなか取れない。


「あれっ、嫌だ」


 くるくると回っていると、ヴァルターに腕を引かれた。


「きゃっ」


 小さく悲鳴をあげていると、髪に引っかかった花びらを彼に取られた。


「取れましたよ」


 ギーゼラは顔を真っ赤に染める。


「ありがとう……ございます」

(敵の家の男に隙を見せてしまった……不覚!!)


 すると、ヴァルターは冗談めかして笑う。


「貴女の髪は黒いから、明るい色の花びらがよく映えますね」

「……?」

(何いってんだ、こいつ? 真意は何だ?)


 残念ながらギーゼラは自分の外見に対して必要最低限以上の注意は払ってこなかった。

 リーゼロッテのことであれば似合う服や髪型を気にすることができるのに。


 何かの暗号文だと勘違いした。


(これは相手の髪について言及すれば良いのか……?)

「モルゲンロート公爵殿下の髪は金です……よね。暗い色の花びらなら映えるのではありませんか?」


 ん? とギーゼラは首を傾げた。


 ヴァルターがくすくすと笑った。ふふふ、と薄気味悪いくらい肩を震わせ、最後爆笑しだした。


(何よ! 何がおかしいのよ!!)


「まずい、ギーゼラ殿が非常に愛らしい」


 ヴァルターは片手で顔を覆った。


(薄気味悪っ……! 早くこの男から離れて毒もとい薬を買わないと……)


 ギーゼラは左右を見回す。

 露店の並ぶ通りを見つけた。


「あ、あの……モルゲンロート公爵、その……」

「何でしょう?」

「女性には人に知られたくない用事もございます。すぐ帰ってまいりますので少しお待ちいただけますか?」

「……?」


 ヴァルターはいぶしげな顔をする。ギーゼラは内心で突っ込んだ。


(お、お前、姉がいるんだろ!? だったらわかるだろうが! 女性がいろいろ物入りだってことを!!)


「わかりましたが……すぐ戻ってらしてくださいね」

「はい、申し訳ございませんっ!」


 ギーゼラは露店の通りへと向かった。


 不意に、空が暗くなった。

 急に風が冷たくなり、青かった空は鉛色に変化している。

 ぽつり、と重たくひやっとする粒が肩に落ちた。


 ぱらぱらと雨が降ってきた。


「え……」


 ギーゼラはまばたきする。


 次第に雨脚がひどくなってきた。


 すると、ふわりとヴァルターがギーゼラを横抱きにしてきた。


「なっ!!」

「申し訳ありません、ギーゼラ殿。少し我慢していてもらえますか」


 馬車を呼ばれた。

 王宮で降ろされる。

 頭が冷えるので廊下の隅で髪飾りを外すと、ぽたぽたと床に雨のしずくが落ちた。


「随分濡れてしまいましたね」


 ヴァルターはギーゼラ付きのメイドが呼んだ。

 メイドがギーゼラの髪を拭う。


「お召し替えを。お部屋に参りましょう。ギーゼラ様」


 メイドの言葉にギーゼラは頷いた。

 見ればヴァルターも濡れているが、気にしている素振りは見られない。

 だが、急いで彼も部屋に返したほうが良いだろう。


「ありがとうございました、今日は。モルゲンロート公爵殿下も濡れておいでのご様子、早くお戻りください。お風邪を召されます」


 ギーゼラは頭を下げる。

 ヴァルターは苦笑した。


「大丈夫です。こちらこそ、貴女を慰める為にお誘いしたのに……、また濡らす事になって申し訳ありません」


(……くっ……キラキラしい顔でそんなこと言うな!)


 心臓バクバクする、とギーゼラはヴァルターを少しだけ睨んだ。



 部屋に戻って服を着替えると外は大雨になっていた。


(早くリーゼロッテ様のところへ挨拶に行かなくては)


 ドレスの裾を軽くつまんで早足で王太子妃の部屋へと向かう。


 部屋は焦った顔の女官があたふたしている。

 リーゼロッテはいなかった。


(……え?)


 ギーゼラの息が止まりそうになる。

 女官が部屋に入ってきたギーゼラを一斉に見た。


「ギーゼラ様! ああ! 休暇からお戻りですか!? 王太子妃殿下がどこにも見当たらないのです!」

「……え」


 嘘、と血の気が一気に引いていく。


 王宮中を走り回った。どこにもいない。


「リーゼロッテ様!? どちらですか! リーゼロッテ様!!」

(王妃に誘拐された? でも王妃にしては妙だわ。だって陛下に従って花祭りの主催として今頃外にいるはず! まあ雨だから早く帰ってくるだろうけれど!)


 王妃の女官は王太子が厳罰に処しているはず。


 残った場所は王宮の裏庭だ。ほとんど何もない場所。

 泣きそうになりながら裏庭へ飛んでいくと、リーゼロッテがうつ伏せに倒れていた。

 その隣には王太子の女官のテレーゼが肩を上下させて立っている。


「リーゼロッテ様!」


 ギーゼラはリーゼロッテのそばへ寄っていく。リーゼロッテは体を起こし涙を流す。傷だらけだった。


「……どうなさいました!?」

「負けました……」

「負け……た?」


 どういうこと、と息を飲んだ。状況を整理して冷静になるように頭に言い聞かせる。


 リーゼロッテを抱きしめ、テレーゼのほうを見た。


「どういうことですか? ご説明を。テレーゼ様」


 テレーゼの瞳は焦点があっていなかった。


「……あなたが……デーマルングの女が来たから……。わたくしはディートハルト様と引き離されたのよ! ディートハルト様を一番お慕いしているのはわたくし。一番愛しているのはわたくしだわ! どうして新参者のこんな女に奪われなければならなかったの!? 王太子妃はね、本来わたくしのものだったのよ! わたくしは本来女官なんかをする女じゃないの! ツヴィーリヒト王国一の貴族であるモルゲンロートの血を引く女なのよ!! わたくしが勝ったわ! ディートハルト様を譲りなさい! そうすればアウレリア伯母様もヴァルター叔父様も喜んでくださるわ!」


 そこへ、侍従に傘を持たせた王太子が息を切らせて走ってきた。テレーゼを押しのけ、リーゼロッテを抱きしめる。


「リーゼ!? リーゼ! しっかりして! は? テレーゼに格闘を申し込まれて関節技と投げ技をかけられて負けた!? ……誰か、医者を呼んでーー!!」


(……か、怪人格闘女!!)


 ギーゼラは目を剥いた。


 王太子の叫びとともに、大勢の女官や侍従が急いでやってくる。リーゼロッテはやってきた侍医とともに担架に載せられた。


 ギーゼラは付き添いながらぼたぼたと涙を流す。


(私のせいだ……。私が目を離したから……)


 自分は自分が許せない。


(モルゲンロート公爵は姪を使ったのだろうか? 私とリーゼロッテ様を引き離して、私を色仕掛けで誘惑して花祭りに連れて行っている最中に、この怪人格闘女にリーゼロッテ様を襲わせたのか?)


 息ができなくなる。


(噴水で死にかけたのを助けてくれたのも、彼の巧みな罠だったとしたら?)


 王妃の女官に金でも渡してギーゼラを突き落とさせ、わざと救ったのだとしたら?


(ゆ、許せない……)


 ギーゼラは震えた。


(モルゲンロート公爵をひき肉にしてハンバーグにしてから王妃に食わせてやる!!!!!)

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