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小春…王都散策

 小春…王都散策



「それじゃぁー ミゼルさん、行ってくるね~」


 ローザを除く小春・ウル・ソル・ガルフの四人は、冒険者登録と捕り貯めていた魔物を売り払う為に冒険者ギルドへ向かっている。


 小柄な四人が歩いているが、それが王都近郊で魔物の群れを殲滅したチームだという事は、既に知っている者も増えてきている。


 果物屋の軒先を通り過ぎようとすると、店主の女将さんから声がかかった。


「あらっ小さい聖女様、みんな可愛らしいわね、こんな子たちが立派に魔物退治をしてくれたなんて、おかげで無事に商売が続けられて、助かっているのよ。リンゴ、持っていくかい? 一つずつ持って行っておくれ」


「ありがとー」小春が恥ずかしそうに受け取る。


(いやーっ 小さいと言われても身長だけで、15歳なんだけど、いただきます)振り向いたソルとウルも遠慮なく、リンゴを受け取った。


「ほら、もう一人の子も遠慮するんじゃあないよ」


 振り向かないガルフの頬に汗が浮かんだ。

 口は横一文字に結んで、何かに耐えている。

 後ろから女将さんが、続けてガルフに声をかける。


「ほら、子供が遠慮するもんじゃないよ。持ってお行き!」


 たまりかねた様に、ガルフが縮れた長い銀髪で振り返った。


「女将! ワシは子供ではないぞ! 少々短躯(たんく)なだけのドワーフじゃ。リンゴは、有難くいただいておくよ。ありがとよ」


「ひゃっ! ドワーフだったのかい! 同じような背格好で間違えちまったよ。ごめんよ。ほらもう一つあげるから機嫌を直しておくれ」


「…………うっ…うむっ。 ワシは些細なことは気にせんから、ありがたく頂いておく」


 子供と間違えられたガルフを小春達三人が、リンゴをかじりながら眺めている。


「うおーっ! 美味い! 旨いなーっ! みずみずしくて、良く熟しておるわーっ ガッハハハ」


 両手に掴んだリンゴを大口あけて食いつきながら、

「さあ、ギルドに登録に行くぞ!」


 大股でズンズンと歩いて行ってしまった。




 そして、「冒険者ギルド~っ!!」小春が、その建物の前で感極まっている。


(うわ~っ ついに来たよ。ファンタジー要素満載の異世界モノには、外せない聖地だよね~。)

(初めての冒険者ギルド、ワクワクするな~。受付は、エルフ? 猫耳? どっちだろ? どちらにせよ、巨乳ちゃんは外せないよ。ワクワクが止まらないよお~)


「どうしたんじゃ? 小春殿、そんなに冒険者登録をしたかったのかの。」


 剣と盾に絡みつく大蛇がモチーフのギルドの看板を前に、固まっている小春を不思議そうにガルフも見つめる。

 一階が石作り、二階は太く丈夫な木造作りとなった建物は、正面には、荷馬車の為の広場が広がり、その右手には大きな倉庫らしき建物の入口が大きく間口を開いている。

 買い付けに来た商人らしき人々の姿も見える。


 小春が、西部劇風のスイングドアを両手で押し広げると玄関に立った。


「たのも~」(ちょっと違うか~? ハハ………だいぶ違ったようで)


 振り向いた者たちもいた様だが、すぐに入ってきたのが子供たちと分るとすぐに興味を失い自分たちの仕事に戻ってしまった。

 カウンターに並ぶ小春達。

 受付は、いたって普通のおばさん達で巨乳や猫耳娘はいなかった。


「あれじゃあねえか? ワーバーンやハゲワシの群れを殲滅したとか言う女騎士と聖女は?」


「いや違うだろ。黒馬の女は、すらりとした美人だという噂だ。あんなちんちくりんのはずがない」


 後ろの座席を陣取ってタムロしている連中の声が聞こえてくる。


(おほっ テンプレだよ。此処で力自慢のデカ物が絡んで来るんだよね)小春にも聞こえてきた。


「よし、俺が確かめて来てやる」

(ほらね!)聞き耳を立て、目の前で始まる小説の一シーンを思い浮かべるとつい、ニヤケテしまう。


「お嬢ちゃんたち、今日は、薬草採取だったのかい?」


 小春は振り向いて首を振る。


「其れなら、何か商人街で何かいい仕事でも見つかったんだ」


 ソルとウルは、振り向いて首を振る。


「いや、僕たち王都は初めてなんです。それで冒険者登録をしようと思ってやって来たばかりです」


 男は、まさか此の子供たちが噂になっている魔物討伐のチームとは信じられなかった。

(一人は、大人のすらりとした美女と聞いたんだがな。流石にこれは違うだろ。最後はずいぶん、がっちりとした女だな。ちじれ毛の長い銀髪か)


 勘違いした男は、後ろ姿のガルフにもチョッカイをかけ始めた。


「そうかい。初めての冒険者登録かい。見たところ得物は、そちらの女の子の大剣持ちが一人の様だが、リーチのある槍なんかも一人は持つといい。ほら、銀髪の髪の長い子、お前は槍を持つといいんじゃないか?」


 勘違いだと、気が付いてはいるものの格下の冒険者の軽口がガルフの口元をへの字に曲げさせ、眉間に深いしわを作らせていた。


「そうか! ドワーフのワシには、愛用の戦斧があるのでな! 心配は無用」


 髪を振り回して、振り向くと男を下から睨みつける。


「おわっ! ドワーフっ!」


「見せてやろう。ドゥランダルフ」 静かにガルフが(つぶや)くと。


「バリン! バリバリッ!」男とガルフの間の床を突き破って戦斧ドゥランダルフがせり上がってきた。


「うわーっ!」とても切れ味など期待できそうもない分厚い戦斧の刃が、男の着ている皮鎧だけを一文字に切り開き、その先端は、男の顎下にぴたりと突き付けるようにして止まった。


「床から! 戦斧がぁーっ」喋らなければ、ギリギリのところで止まっていたドゥランダルフの切っ先だったが、男が口を動かしたために自らその矛先(ほこさき)に下あごが触れさせてしまった。


 (わず)かな血をまき散らし、慌ててのけ反ると腰を抜かしてしまった。


「オオッと、済まなんだな。心配してくれた様だから、ワシの自慢のドゥランダルフを見せてやろうとしたんだがな。ちと、近くに出し過ぎてしもうたわい。お主も人が悪い。わざわざ自分から当たりに行く事もあるまい?」


 出現した戦斧を引く抜くと、ドンと床を石付きで叩いた。


「ガルちゃん、いいよ~、カッコイイヨ~」派手な立ち回りこそ起きなかったけれども、此の光景には小春も満足した様だ。


 一気にギルドの室内が、ドゥランダルフを召還した為に薄暗く禍々しい空気に支配されてしまった。

 その姿を見れば、どれほど鈍感な者達でも、市中を賑わしている冒険者のチームと分ったであろう。


「あっ! 兄貴―っ ガルフ.ガンダウルスの兄貴!」


 此の些細(ささい)な騒ぎに気付いて、低い仕切りで区切られた隣のギルド内の食堂から、一人の男が飛び出してきた。


「ああっ やっと会えました。そろそろ王都に着く頃だろうと、暇さえあればギルドで、お待ちいたしておりました。やはり、あのワイバーンの討伐は、兄貴達だったんすね」


 嬉しそうにガルフに語り掛けている。


「ああ、お前か。確か『レグロスの咆哮』のギルモアとか言ったかの。お前たちも無事に王都へと辿り着いたか」


「はい、あの時食わして頂いた美味い飯のお陰で力も沸いて、このとおり皆、元気に王都へと帰って来れました。あの時の飯は、ホントに旨かった」

 男は、小春達がオークの店で助けてやったチーム『レグロスの咆哮』のギルモアと名乗っていた男だった。


「ああっ冒険者登録だったですね。受付のカミラさん、此方がオーク討伐のガルフの旦那達だ。実力は、十分だぜ。ハゲワシや、ワイバーンも討伐されているんだぜ。当然A級ランクだよな」


 話を振られた受付のおばちゃんカミラさんは、済まなそうに眉を下げる。


「まあね~、あんたらの証言もあるし、エルフ村からのゴブリン殲滅の話とゴブリンの耳なんかも持ち込まれている。更にワイバーン討伐には、たくさんの旅人の目撃の証言もあるから、間違いはないんだろう」


「でもいきなり、A級ランクと言う訳には行かないんだよ。一人は、まだ大人にもなっていないし、ワイバーン討伐は、此方に付いて回っている第三騎士団の騎士様だろう。騎士様は冒険者の登録は出来ないから、この人は除外だよ。とりあえず、ABCDEの最低ランクから始めて(もら)うのが筋なんだよ。今までの冒険者たちとの兼ね合いもあるし、特別な事には、口うるさい(やから)もいるんでねえ」


「でもギルドとしても、実力のあるチームを低ランクにおいて置くのは、都合が悪いからねえ。B級ランクまでは、此れから一つ依頼を達成する度に、一つずつランクを上げる事となっているし、B級ランクを一年後には、経験も積んだとして、晴れてA級ランクとして登録し直す事となっているんだよ。済まないねえ」


 魔物や盗賊の討伐や護衛などの荒事などの仕事のできるのは、C級ランク以上となっている。

 よくある様にDE級ランクは、年若い未成年も多いことから、植物の採取、小間使い、急用な仕事の手伝いなど危険度の低い仕事が割り当てられている。


 此の組合に長く勤め、貢献度が上がるとAB級ランクには、十年後からは配当ともいえる金銭が、少しずつ毎月入って来る様になっていると言う。

 ギルドや国に対する貢献度でその金額も変わってくる。

 歳を取って、動きの悪くなった冒険者たちの年金的な仕組みにもなっているようだった。


 小さな固い黒檀のE級ランクタグの紐を首から下げると、小春は嬉しそうに声を上げた。


「此れで、うちらも冒険者だよね。名前とか考えようよ。」


 ガルフが、ヤレヤレと言った風にそれに答える。

「小春殿、登録はとりあえずで良いのです。ランクを上げる必要はありませんぞ。ギルドのサービスを上手に使うために入ったまで。魔物の買い取りに有利に成る上、ギルドに預ける金も各地のギルドで、引き出す便利さもあるのです。大金を持ち歩く危険も冒さずに済みますぞ。人手が欲しい時には、会員ならではの料金で手伝いの手が貰えまするゆえに」


「第一に小春殿は、いつまでも王都で遊んでいる訳にも成りますまい」


(ちぇっ! ガルちゃんも折角の盛り上がる時に、そんな現実を言わないで欲しいよ)


 小春の頭に、プラディアの父親ガイアスの顔が浮かぶ。


(…もう少し…)


 ガルフの言葉に、小春が何を感じたのかを察したソルが、腰の魔法袋を叩く。


「とりあえずは、此の収納袋の魔物を金に換えようよ。ガルフのおっちゃん」


「そうじゃったな。換金して、美味い王都の飯屋を探し、その後でジュリオの武具の店にでも行ってみるかの」


 ソル達は、隣の魔物買い取りの為の倉庫へと向かう。

 捕り貯めていた、怪物たちを次々に並べていく。

 マヌーが倒したワイバーンの肉を除いた部位、バンガニーナ湖で釣ったシャケ、討伐依頼のあったオーク、ローザが殺しまくった狼の群れ、それに燃えずに落ちてきたハゲワシの群れなど、他にも思いがけずに沢山の魔物が、入っていた。

 なにか有るごとにまき散らすオルスタインの羽さえも、ソルはこまめに拾って収納していた。


 ハゲワシの羽や、オルスタインの羽は風の魔法を受けて使う弓矢の矢羽根として重宝され、意外な高値として引き取られていく。


(自分では、使い様のないモノでも、必要とする人から見れば、貴重な物なんだな。なんでも捨てずにとって置くと、意外に金になるもんだな)


 王都の買取所で田舎育ちのソルには、意外なものが高値で取引されていく事が楽しく感じられた。

 自分達で食べる分のシャケを除いて大半のモノは売り払ってしまった。


 変わりに、衛兵所で得た金額と同等の大金が、魔物達の代わりにソルの魔法袋の中に納まった。

「ソル殿、換金は済んだかの。そろそろ行かんとうちの姫様たちが、腹ペコで倒れるかもしれん」


 小春達は、ギルドを後にすると通りに出て食事処を探そうと歩く。

 一行の後を道行く人々を間に挟んで、二人の屈強な男が二人ギルドを出てから付いて来ている。


 ガルフは、眉間にしわを寄せると傍らを歩くソルに声をかける。


「ソル殿、用心されよ。ワシらが大金を手に入れたところを見られておる様じゃ。強盗か、置き引きか?盗人の類かもしれぬゆえ、懐のモノには、十分に気を付けなされ」


(はあ~、大金を手に入れた途端に強盗かよ。流石王都だぜ。ガルフのオッチャン、頼んだぜ)


 急に大金を手にして喜んでいたソルだったが、手に入れた途端に強盗に狙われていると知らされてゲンナリと溜息をつく。

 そんなソルの困った顔とは裏腹に、聞き耳を立てていた小春が食いついてきた。


「なになに! あたしのお金を狙って強盗が付いてくるの? ……やったっ! テンプレ!!  此処は一つガツンとあたしが!」


 身の危険が及ぶことなどいとわない、楽しいイベントが起こる事をウズウズと待ち望んでいる小春。

 クルリと振り返りその二人を見つけると、踵を返しいきなり駆けだした。


「あっ! お嬢っ 小春殿! なりません」


 ガルフの静止も聞く耳を持たずに、追跡の謎の二人組の元へと不用意に近づいていく。

 慌てるガルフは小春を追いかける。

 追い抜きざまに跳躍しトンボを切る、回転しながら戦斧を召喚する。


「来い! ドランダルフ!」


 二人組と小春の間に着地すると、片手で小春を押し留める。

 片手に持った戦斧を二人に向かい突き付けた。


「なに用で、後を付ける! わしらの姫に何の用があるのだ!? 話によっては、その首だけの姿を此の往来にさらす事になるぞ!」


 追っていた二人組も、いきなり小春が振り返り近づいてきた事に面食らっていたが、顔を合わせると二人並んで小春の前に片膝をついた。


「不審な尾行でお気を悪くさせてしまった事をお詫びいたします。けっして悪意のある者ではありません。お声がけするタイミングを探していたまで。」


「聖女様、御一行とお見受けいたします。我らは、さる高貴な身分のお方の使いで来ております。是非ともお話を伺いたいと、我が主が申しております。お食事の用意も手塩にかけたものを用意してありますれば、なにとぞお時間を我らの主人の為に頂きたいのですが、お願いいたします」


 商人とも、思えないガッシリとした体つきの男二人は、馬鹿丁寧な言葉とは裏腹に断れないほどの空気を漂わせている。


(フン! 貴族がなんの用じゃ。魔物退治のよもやま話が、聞きたいわけでもあるまい)


「小春殿! 貴族様が、小春殿に一緒に馳走をどうかと申されているが、どうなされる」 (様子を見るのも面白かろう)


「いく! いくッ! やったっ、貴族様の御馳走。ご馳走になりに行こうよ」


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