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出会う…二人

 

「だめじゃ! 追ってはならん。 離れ離れの迷子になってしまうぞ」


 走り出そうとするウルの腰を慌ててガルフが掴み押し留めようとする。

 盗人(ぬすっと)の姿は人々の間に消え入りそうに走っていく。ガルフの手を振り解くと(たま)らず、ウルも後を追って駆けだした。


「だって、マーマリアから貰った特別の魔法剣なんだよ! アレが無いと! ミゼルさんの店に必ず行くから待っていてね 」


 振り返りながらそう叫ぶとウルも人ごみの中を駆けて行く。

 ソルも慌ててウルの後を追おうとするが、今度は、がっしりとガルフに押し留められた。


「だいじょうぶじゃ。行く先はいずれ分るじゃろ。マヌーが追っていきおった。あれを巻くやつなど、早々いるものでは無い」


 ローザも馬を引くと、「うむ、ガルフの言う通りだ。今はマヌーからの住処(すみか)を突き止めた情報を待とうではないか。いずれは、オルスタインに念話でも飛んでこよう」

「まずは。商人ミゼルの屋敷へ落ち着いて連絡を待ち、大剣をとり返す策を練る事にしよう。私からも、騎士団に事情を話しておこう。しっかりと、盗人(ぬすっと)の小僧の風袋(ふうたい)も覚えているからな」



 しょんぼりと俯くソルの肩に手を置くとガルフが口を開いた。


「ウル殿は、ああ見えてなかなかに強い。めったな事もなかろう」


「先ほどから見ての通り、ワシらはすっかり街の連中の話のネタにされとるようじゃ。武勇の誉と賛美の声で持ちあげてくる者たちだけではない事も頭に入れて置くことじゃ。大金を手に入れている事や、討伐に使われた特別な武器を持っているのかもと、ワシらを狙ってくる輩も当然いる事を先に話しておくべきじゃった」


「ソル殿も、魔法袋をすられんように気を付けるのだ」


「小春殿も…………えーと、何も持ってはいまいか。いや小春殿自身、誘拐され…………いや、それもないな」


「いずれにせよ皆、気を引き締めて行動するのじゃ。」


 ガルフ達は、先ずはミゼルの店へと落ち着くことで、話はそれからという事になった。





 盗人(ぬすっと)の少年を追うウル。

 追ってくるウルに盗人の少年ジュリオは気が付いた。


「ちっ! この人ごみの中、追い付いてきやがった! なんて足の速い女なんだ。あれは、ハゲワシの群れを討伐した冒険者の一人、この大剣もきっと凄い魔法の剣に違いないんだ。きっと高く売れるぜ」


 此のままでは、足の速いウルに追いつかれてしまうと考えたジュリオは、地の利を生かして、複雑に入り込んだ迷路のような下町を逃げ回る。

 干してある洗濯物を掻き分け。その先の果物運搬の空箱が重なる置き場に飛び込んだ。

 空き箱の一つに身を潜める。


(此処でやり過ごす。そら、さっさとその先へ探しに行けよ!)


 箱の隙間から追ってきたウルが通り過ぎるのを待とうと息を潜める。

 追ってきたウルは、いきなり消えてしまった少年の姿を探そうとその場でキョロキョロとどの路地に逃げ込んだのか考え込んでしまった。


「まずいよ。見失ってしまったわ。こっちかな? いや此のまま真っ直ぐかな?」

(……そうだ。まっすぐいけ。……急がないと逃げちまうぞ。いけよ)


 ジュリオは、息を殺してウルの過ぎ去るのを隙間から覗く。


(よーし。そうだ。そのまままっすぐだ。……)


 ウルは、通り過ぎようとしたが、ぴたりと足を止めた。


「いや、すぐ近くまで追い詰めていたんだ。あの干してあるシーツの陰でいきなりいなくなった。此の近くに隠れているんだわ」

「まずは。積み上げている此の木箱の中が怪しいわね」


(まず~っ)


 ウルは、ジュリオの潜む木箱の一つに手を掛ける。


「いない。」


(くそ! 勘のいい女だ。此のままじゃ、いずれ見つかる。この剣で脅してみるか)


 見つかったらウルの剣で脅してから逃げようと、剣を抜こうと手に賭けた。


(うっ うーん! 何だこれ、抜けねえ! おかしいな、なぜ抜けない)


 マーマリアの作った大剣は、孫娘ウルだけにしか扱えない。大剣で巨人化するどころか、鞘から抜く事さえ他人では叶わないのだ。


 ウルは、空の箱を次々と開けてジュリオの潜む箱に迫ってくる。

 慌てて探すウルは、その木の(ふた)を乱暴に開け放った。


「ぎゃっ!」


 乱暴に開けた木箱の蓋が、そこを通りかかった三人組の男たちの一人の向う(ずね)に運悪くぶち当たってしまった。


「あっ ごめんなさい!」


 更に、ウルにとって運の悪いことに其の男たちは、自周りの土地のヤクザ者。

 その様子を見ていたジュリオ。


「あちゃ~、また酷い奴らが現れたね。なんでまた蓋をぶつけるかね。周りを見ろよ。お嬢ちゃん」


 ジュリオも、自分が原因を作っておきながら、目の前で女の子がひどい目にあわされそうになっている事に心配でならない。


「いって~。ごめんで済むかよ!! 此のアマっ!」


 男達に、両腕を掴まれてしまった。

 小柄ながら、力に自信があるウルだったが、自分のせいで相手に怪我をさせたかもしれないという負い目で、振り払う事に躊躇(ちゅうちょ)していた。

 引きずられて連れて行かれそうになるウル。


(……くそっ なんで掴まっちまうかね。逃げろよ。見るからに悪人ズラしてるだろ。正直すぎるだろ、お嬢ちゃん!)



 元来が悪人ではないジュリオは、自分のせいで大剣を失った上にヤクザたちに連れ去られそうになっているウルを其のままにしておけなくなった。


 武器にもならない大剣を木箱の中に隠し、そっと抜け出す。

 後ろから、そっと近づくとウルを抱える二人の男の膝裏を思いきり蹴り飛ばした。

「あらっ!」いきなり膝裏を蹴り飛ばされて、つんのめる二人。

 ウルもろとも、盛大に転がった。


「ほら! 早く。逃げるんだよ!」


 腕を掴んで引き起こすジュリオ。


「あっ! あんた、泥棒! あたしの剣を返してよ!!」

「後でな! 今はそれ所じゃないだろ。逃げるんだよ! 早く」


 男達が、いきなり蹴り飛ばしてきた者が少年だと分かると血相を変えてすごむ。

「このガキ! どこから現れた。ただじゃ済ませねえ」


 ウルも誤って済む状況ではない事を察して、吊られるようにジュリオの手を取って駆けだした。


「待て!」


「にゃ~っ にゃお~ん」(待つのは、おまえらじゃ。ワシが相手じゃ)


 追いかけようとする二人の前に立ちふさがる子猫。


「ブオン!」一瞬、巨大な大虎の前足が現れると二人の足を救い上げると、残像を残して消える。

 吹き飛ばされてジュリオの居た木箱に叩きつけられてしまった。


(ふん、このぐらいで、勘弁しといてやる。大虎の姿をこの市中で(さら)すわけにもいくまい。ワシが討伐されてしまうわ)


 騒ぎに気付いて、周りの住人が顔を覗かせていた。

 マヌーに突き飛ばされなかった一人が、壊れた木箱の中から大剣を拾い上げた。


「おい! もう追いかけなくていいぜ。ガキがお宝を残していきやがった」

 マヌーも大虎の姿で大剣をとり返すわけにもいかず、子猫の姿では大剣一本運ぶ事すらままならない。

 後ろを振り返りながら逃げていくウル。


(えーい、人目の多い所は不便よの。大剣を追うか? 村娘ウルの後を追いかけるか)


「にゃお~ん」(待つのだ~ウル~)


 逃げていく二人を追って慌ててマヌーも駆けだした。


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