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王都の小春

 王都の小春



 小春達一行は、念願の王都へとやって来た。


 広大な王都の為、周りを囲む塀や門などはなく、主要通りには衛兵詰め所が王都で商売や公務で訪れる旅人たちの為に、身分証を確約するとともに発行する窓口となっている。

 それらを必要としない人々などは、自由に行き来しているようだった。


 堅牢な塀を有しているのは、北部に位置し高台にある王城を中心とした高位の貴族たちが住まう区域だけで、その周囲は高い塀が取り囲み、出入りする通りには門が授けられて特別な様相を見せている。


 そのような王都の南の玄関口とも言える最も大きな衛兵詰め所へと一行はやって来た。

 そのまま通過しても、取り立てて問題とはならないのだが、問題が起きたときや、公務に関わる事柄に関わってしまった時など、身分証があると面倒が少なくて済むのだと言う。

 ましてや、第三騎士団に所属するローザにとって、前回の訓練時に遭難しゴブリンに囚われていた事やその群れの殲滅された事、報告しなければならない事が山ほどあった。

 その第三騎士団が、王都の治安維持、主要通りの出入管理などを任されていたのだった。


 今のローザは、エルフが着る様な緑黄色の質素な上下。

 一つのカウンターへと赴いた。


「いらっしゃい。王都へようこそ。仕事ですか? 目的を手短に要約して、主な滞在日数を教えてください。後ろの方々もご一緒でしょうか?」


 若い男が、美しい女の客にいつもより愛想をふりまいて話しかけてくる。

 様々な職務に就いたローザもこの場所で受付の仕事をした事もある。


「ああっ 私は、公務からの帰還だ。後ろの者たちは、共に魔物の群れを駆逐した者たちだ。始めての王都の為に私が後見人となって身分証が欲しいのだ」

「第三騎士団所属、ローザ.エアハルトだ」


 その言葉にカウンターの向こうで、ただの若い女と興味本位でチラ見していた男達が一斉に目を向けた。


「あっ! ローザ、本当にローザなのか?」

「見れば分かるだろう。忘れたのか? ローザ.エアハルトだ」


 見慣れないエルフの民族衣装に身を包んではいるが、確かにその声その美貌(びぼう)はローザ.エアハルトのモノだった。

 過ってのローザと違い、カウンターに現れた女は、男たちの一人一人の目を湧き出る強者の自信に(あふ)れた眼力(めじから)で押し返している。

 ともすると、視線を外したくなるほどの威圧を放っていた。


「ハハハハッ このような美女を忘れるとは、酷いじゃないか。一度はこの私もその席で一緒に仕事をこなした事もあっただろうに」


「私が掴まっていたゴブリンの群れの殲滅と手配で扱われていたオークの集団。それに街道沿いに現れたハゲワシの群れとワイバーン討伐の報告だ」


 思い当たる事があったようで若い男もその事に触れた。


「其れについては、エルフ村に現れたゴブリンの群れ、手配書のオークが討伐されたことは、冒険者ギルドからも報告が来ている」

「街道沿いのワイバーン討伐は、沢山の目撃情報があったが、それを倒したのがローザ、お前だというのか?」


「おおっ」いきなりローザに首筋を掴まれてカウンターへとソルが突き出された。

「ああっ ワイバーンは、燃え尽きてしまったが、沢山のハゲワシやオークが此の魔法使いの坊やの魔法袋に入っている。ギルドには、此れから換金に向かわせようと思う」

「信じられないなら、表に翼の生える黒馬もいるぞ。最もその姿を見せる時には、此処も只では済みそうにないがな」


 騎士団の職員たちは、ローザの報告がギルドからの報告や目撃情報などと一致している事や、何よりも同じ騎士団に所属する同胞からの報告という事で信用に足ると判断した。

 合わせて討伐報酬が支払われることとなった。

 小春達一行に金貨三十枚、現代地球の日本円に換算すると約三百万円と言ったところか。

 ローザに関しては、第三騎士団に所属し、その職務の一環とみなされた為、あれほどの大殲滅を果たしたにもかかわらず、金一封として金貨五枚が渡されたに過ぎなかった。


 身分証代わりの皮紐に吊るされた木のタグが四つ。

 その代金として小金貨二枚が、手数料として引かれた。

 残り金貨二十九枚と小金貨八枚。それでも大金だ。


 小春の目が黄金色の輝きに、くらんでいる。

 いや、大金など手にした事の無いソルやウルなどもその輝きに呆然としている。

「ガルちゃん! 金貨だよ。金貨! いくらあるんだろ」


 ウルも初めて手にする金貨を一つ手に取った。


「うわー此れが金貨、初めて見たよ。ソルこんな大金初めて見たよね!」


 浮かれる小春達をガルフがたしなめる様に言った。


「ウム、確かに大金じゃ。浮ついて散財しだしたらこのような大金でもあっという間になくなってしまうのが金じゃ。必要なものがある時だけ大事につかうことじゃな。」


「ウル殿や小春殿が命がけで戦い、魔物どもを駆逐したからこそ、たくさんの人々が死なずに済んだんじゃ。ケガをしなくて済んだんじゃ。」


「いわば、命の値段、安心して暮らすことができる人々の感謝の気持ちの金貨じゃよ。気楽にほいほいと散財などしてはいけませんぞ」


 すでに、小春の中では高級宿に泊まり、大きなお肉にかぶりつき、デザートにはパフェはないのかな? などと妄想が始まっている所をぴしゃりとガルフに打ち砕かれてしまった。


「え~、せっかく王都に来たんだもん。高級宿に泊まろうよ。美味しいご馳走のお宿を探そうよ~。ウルちゃんも高級宿にとまりたいよね~」


 ウルも考えつく精いっぱいの贅沢の妄想をしてみる。


「天蓋付きのベッドに、部屋付きの執事さんなんているのかな。お嬢様、今日の御召し物は、どのようなドレスで…………ナンチャッテ…………」


「うん? ドレス? ……あたしたちって、貫頭衣とか麻の服だけしかもっていない」


「そうじゃな、ウル殿。まずは身の回りのモノから揃えよう。王都でも恥ずかしくない衣服と、それぞれの身を守る武器など調達し、それから少しは、美味いモノでも食べたらよかろう」

「宿はジャッファ殿の紹介で、七番街の商人ミゼルの店へ話が通っておるそうな。宿の心配は無用なようじゃ」


「ミゼルって商人さんの店へ五人で押し掛けて大丈夫かな?」


「ジャッファ殿の話では、そのミゼルさんの方から是非に王都の宿は、自分の所へ泊って欲しいと言って来たそうだから、間違いはなかろう」


 ミゼルの商魂は、王都へと向かう街道沿いに様々な話題を振りまく小春たち一行が、金の匂いのする事を嗅ぎつけていたようだった。


 小春達は、王都の住人でもあるローザの案内でミゼルの店を目指すこととなった。

 黒馬の手綱を引くローザを先頭に王都の通りを中心街へと歩いていく。


「黒馬だ……あれが?……女騎士」

「あれが……聖女様…………」


 街角のあちらこちらで、小春達一行(いっこう)に視線を投げかけてくる。

 ソルは、商人や冒険者風の男達とすれ違うたびに、見られている事に気が付いた。


「ガルフのおっちゃん、俺達だいぶ見られているんじゃないか」


「ウム、王都の近くでローザと小春殿が、派手に暴れたからの。見ていた者達も大勢いたようじゃ」

「ゴブリンの討伐やオークから冒険者を助けた事もあったじゃろう。奴らが、話を広めたのかもしれんな」

「いずれにせよ、武勇の広がりは悪いことではないぞ。胸を張って王都の通りを歩けばよいのだ」


 小春達一行を離れたところから眺めていた商人風の男が近づいてきた。


「聖女様御一行とお見受けいたします。私は、この先で宿屋を営んでおります。よろしければうちの宿へお泊りください」


 すると別の男も慌てて走ってくる。


「聖女様御一行様、我が宿なら最上の部屋をご用意いたします。宿のお代などと不躾(ぶしつけ)な物は頂きませんゆえ、是非にでも我が宿へお越しください」

「宿へお泊りいただき、旅の武勇伝などお聞かせください」


 目ざとい者達が、早速声をかけてきた。

 小春達の事は、だいぶ市中に広がっていたようだった。


 話題の魔物討伐をした者たちの泊まる宿。楽しみの少ないこの時代の人々は、このような武勇伝に飢えていた。聞きつけてきた旅人や市中の人々で宿屋は、イッパイにでもなったであろう。食事処で酒でも飲めば、話を聞きたがる人々で溢れたかもしれない。


「有難い申し出。痛み入るが既に王都での宿は手配済みなのでな。今度飲みにでも伺わせていただこう。」


 ガルフが、やんわりと宿屋の男たちの誘いを断った。


「ガルちゃん! うちら有名人みたいだね。モテモテだよ」


「ふふっ そうじゃ。あのハゲワシの群れ、王都でも驚くほどの数じゃったからの。それを成敗したのじゃから、分かりやすいのだろう」


 小春やソルは、集まってくる人々に何だか有名人にでもなったかのような気分に浸っている。

 人垣が人を呼び、だんだん人が集まりだしてしまった。


 その人ごみの中で、ウルの腰に吊るした大剣の重さが「スッ」と消えた。


「あっ!」

 吊るした紐が鋭利な刃物で切られている。

 人垣の先で、大剣を抱えた少年が一瞬、此方を振り返った。

 スラムにでもいる様な、薄汚れた格好をしている。

 年の頃は、ソル達と同じくらい。


「あっ! ドロボ~っ あたしの大剣を返して~!」


 集まりだした人々を()って器用に(かわ)しながら逃げていく。

 街に慣れていないウルたちは、あっという間に見失ってしまった。

 大金と人々からの一時の称賛(しょうさん)に浮かれてしまっていた。その隙を突かれてしまった。


 マーマリアから貰ったウルの大事な大剣は盗まれてしまった。



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