オスとしての…生き様 (挿絵)
(風の斬撃エアカッターが来ます!)
余りにも近寄りすぎていた隼人。避ける間もない。
顔面の前で、両腕をクロスさせドライカーボンの手甲で防ぐ。後は対刃ケプラー繊維で編みこまれたコンバットシャツが防いでくれる事に頼るしかない。
トンネルにでも飛び込んだ時のような気圧の変化が耳を詰まらせる、隼人の肉体を重たい鞭ででも引っ叩くような衝撃が全身を襲った。
(いって~っ)
エピオルニスが飛ばしてきたのは、風だけではなかった。
隼人のシャツの丈夫なケプラー繊維を切り刻み、中に仕込まれた黒いカーボンがむき出しになる。
斬撃に紛れ込ませ、細かな羽根が研ぎ澄まされた手裏剣のように隼人の全身に刺さった。
イージー、(お~っ エピオルニスの羽の手裏剣が隼人、全身ハリネズミみたいになりました。戦う男として、とてもいい絵面になっています。画像に残しますか?)
(うっ うるさい! それ所じゃないよ。対策をしろよ! イージー!)
(了解! 全身に刺さった羽を、筋肉で押し出します。ダメージは、体表面に限られます。ファージが一瞬で修復してくれます)
出し遅れた盾の魔法により隼人の周囲をオレンジの半透明の盾が立ち並ぶ。
その周りを嵐の中、木の葉が舞うように高質化した羽根が隙あらば隼人を刻もうと風と共に吹き荒れている。
(逃げるには、絶好のタイミングなのに此奴はなぜ逃げない)
(仲間を、助けるために時間を稼いでいるみたいです)
隼人に対峙するオスの向こうに、グリーンディアの出した茨の罠にひと際小さなエピオルニスの子供が絡まって藻掻いている。
オスを筆頭にハーレムを形づくる群れなのか、取り囲むようにメスたちが絡まった茨を口ばしで突いて外そうとしている。
そのために群れが、その場に踏みとどまっていたのだった。
ディナの声が響いてくる。
(隼人のイメージする水の魔法を唱えなさい。この私が形にして見せます)
(えいしょう? 詠唱!?)
(そうです。 口に出して唱えなさい。より明確にする為にそれに合った魔法を構築します)
(あちゃ~ 此処にきて、中二病的あれか~。 くそ! 迷っている暇はねえ。言うぞ! 言っちゃうぞ)
では、……「悠久の時を生きる水の大精霊ディナよ、お前の友の願いをかなえよ! 小物の起こす涼風など大瀑布の激流をもって押し流し! 舞い散る羽根は、泥に沈めよ。我らに立ち向かう事など、及ばぬ事と知らしめよ」
「…………」
「…駄目です……セリフにセンスが足りません。もっとボキャブラリーを増やしてください」
(くっクソッ!)
ディナのダメ出しの直後に、シトシトと小雨が降りだした。
それは瞬く間に、大粒の雨となり舞っていた羽根のヤイバを地面へと叩き落としていく。
吹き付ける雨水に叩かれ、エピオルニスの魔力で舞っていた風が沈められていく。
(やった! エアカッターの渦を叩き落としたぞ! よくやったディナ!)
水に叩かれてキラキラと光る羽根が辺り一面の水浸しの大地に散らばる。
その向こうに、あれほど美しかったオスのエピオルニスが、ところどころ羽の抜けた無残な姿をさらしている。
「クケーッ!!」
しかし、その眼光は少しも怯むことなく隼人を睨みつけている。
(戦いのためとはいえ、あのように美しかった姿をかなぐり捨ててまで、立ち向かってくるなど、ハーレムを作る生き物は必死です)
今は、美しい羽毛の代わりに朱のオーラさえ立ち昇らせて威嚇する。自分の魔石に蓄えられた魔力も使い切るほどに弱っているようだが、その気迫は衰えを見せることはない。
隼人の手には、黒いコルトパイソン。チャンバーには、朱色にコーテイングされた弾丸が収まる。
過去の魔物との戦いに幾度も弾丸を弾かれた経験から魔法障壁を打ち砕くメタルジャケットの弾丸をチョイスした。
「ガガガオーンン!!」
イージーの指し示した赤いポイントが頭に二発.胴体に二発.両足に二発。あまりにもの連射のスピードに繋がった発射音が辺りに響き渡った。
刹那ッ! オスと隼人の間に一匹のメスが飛び込んできた。
盛大に飛び散る羽毛と血しぶき。
隼人の撃った銃弾によって、二匹のエピオルニスが重なる様にして倒れる。
(おっ どうしたんだ!? メスが飛び込んできたぞ!)
隼人が驚いていると、倒れ伏していた雌の下からオスのエピオルニスが動き出す。
片方の眼球は、弾丸に射抜かれて血まみれに喪失している。そして片足も膝を打ち抜かれながらも片足で立ち上がった。
(今、隼人の銃撃に反応して、羽根の斬撃を出そうとしたようですが、飛びこんできた雌を気にして取りやめたようです)
「クワーッ」
血まみれのオスの声が響き渡る。
それが合図だったかのように、茨からやっと抜け出した子供を連れた群れが走り出した。
隼人が、その逃げていく群れを目で追った瞬間、片足で地を蹴ったオスが一瞬の魔力の翼を広げ、飛び掛かってきた。
油断と言うには、あまりにも一瞬の時間。
いや、相手に大きな痛手を与え油断はあった隼人に対し、自分の命の尽きるのを目前に感じながらも、群れを守ろうとするリーダーの気概が勝ったのか。
隼人の反応が僅かに遅れた。
最後の力を振り絞ったのか、全身の羽毛が高質化し光を反射する。ナイフのように逆立ち隼人に突き立てようと全身で突進してくる。
「アウ――ッ!」
気迫のエピオルニスに押し倒され、隼人は其の下敷きとなった。
「くっ食らえ!」
「 ドン! ドン! ドン! ドン!」
下敷きになったままその巨体に弾丸を放つ。
(クソッ! 動かねえ!)
(…隼人、エピオルニスはもう死んでいます。無駄な弾丸は、無意味です)
死んだオスの巨体の下で、隼人も何本もの羽根の刃に全身を貫かれていた。
(くっやられた。刺し貫かれて、動けねえ。まずいな)
「…………」
(————痛え————)
さすがに、全身を硬質の羽で貫かれ、動きも取れない。体中から血液が噴き出しているのが、自分でもわかる。
人は、死ぬとき自分の人生を走馬灯のようにして思い返すという。
(いや、痛いだけで必死だよ。そんな感情わいてこねえ—————っ)
(まずいな……………………死ぬのか…)
(…………)
イージー、(な、訳ないでしょう!! 浸ってないで、さっさとその巨鳥を収納してください。体に刺さった刃も一緒に収納するイメージで一緒に収納するのです。急がないと出血がひどいです。後で修復するファージの仕事も時間がかかるのですから)
(あっソカ!)
隼人の転がる目前に青空が広がった。
全身に掛かっていた圧力は消え、貫いていた刃ごと消えてしまっていた。
対峙していたエピオルニスは、収納のディバックに収まったのだ。
「ああっ痛え——」
体を起こすと、全身から血を滴らせ立ち上がる。
強い憎しみの視線に隼人は気が付いた。
逃げたと思っていたエピオルニスの群れが、すこし離れた場所から一匹と一人の戦いを見守っていたのだった。
倒されたリーダーが消えた事でやっと背を向けて走り出す。
(にゃろ~、こんだけ痛い目に遭って、ニ匹だけとは分が悪いぜ)
リボルバーの照準を逃げていく一匹に合わせる。
「ダン!」
その時、地面からカズラが伸びてくると、その銃口を空に向かって押し上げた。
カズラだった植物は、人間の手になり銃口を掴んでいる。
茎から生まれる様にグリーンディアが現れてきた。
「ニ匹で十分だろう。欲は掻かない事だな! 」
「人族の悪い所だ。必要以上に生き物を殺す。エピオルニスも数は少ない。後は生かしといてやれ。」
そう言われると隼人も気まずい。正論に返す言葉も見つからず、小さな人族である自分を実感したのだった。
(はっ! 俺としたことが何をやっているんだ。グリーンディアが止めてくれてよかった。戦闘の勢いのまま、撃ち殺してしまう所だった)
「殺し過ぎると、ドラゴン.ネス様がお怒りになるぞ。覚えておくがいい」
グリーンディアが、ドラゴンの名前を口にする。エルフ族やドワーフ族亜人達の崇拝する、神のごとしドラゴン。
グリーンディアに言わせると、現存する生きる神だという。
生きるものすべて、魔物、人族、亜人に限らず高く聳える木、地べたに這いずる草にまで、すべての調和を見守る為に存在するのだという。
特に森の精霊たるグリーンディアは、そのドラゴン.ネスを恐れ、崇拝しているように見える。
隼人も空を見上げ、遠くの山並みを見回す。まるで其のドラゴンに見張られているみたいに。
(ドラゴンか。居るんだなドラゴン。ラノベでお馴染みの悪いドラゴンとはイメージが違うようだが、なるべく出会いませんように)
(隼人、散らばった大量の羽を拾いましょう。収納に入れれば元の艶のある美しい輝きを取り戻します。既に取り込んだエピオルニスも従来の姿に整えてあります。お宝は、無駄にしないようにしないと、ドラゴンに怒られますよ)
(そうだな。あんなに群れの為に必死に戦ったオスの羽だ、無駄にするわけにいかないよな)
泥で汚れた羽根を拾うと袖に擦り付け汚れを落とす。
僅かに魔力の残ったその羽根を隼人は、太陽に透かして見た。
生前のあのリーダーの気高さを残しているかのようにそれは、虹色にキラキラと輝きだしていた。




