隼人対…巨鳥エピオルニス
出発の朝、エルモをはじめジャッファ.隼人.クロエ.そしてエルモの本妻として迎えることとなったエレナ、隼人のディバックには水精霊のディナもいる。
エルフの郷とジャッファの開拓村との間には、最初の交易の場とするために、魔法陣が設置された。
魔石を持たないエルフの為に、隼人が当面の魔法陣維持のための魔石を提供した。それをジャッファが魔法陣の周りに設置する。
「此れで、一っ飛びにジャッファの村へ帰れるのか? 異世界の不思議な交通手段だな。こう言う所だけ飛びぬけて便利だな」
「誰もが、使える物でもないさ、此れを考え出した一握りの魔導士とその弟子たち、幾つもの魔法陣を書き連ね、書としてまとめ上げた転移の書を、金を積んで手に入れた者達、それに高価な魔石もいるからな」
(ふーん、便利な物も金次第という事か。まだ一握りの魔法使いと一部の為政者くらいしか、この魔法は知られていないという事か)
「特別な用事がある時だけの転移陣さ。普段の物資の輸送は荷車や歩きになる。転移の為に魔石を手に入れようと危険な魔物を狩らねばならないからな。効率が悪いのさ」
「よし、行こう」
転移陣を設置された倉庫に、隼人達を囲み見送りの面々がならぶ。
ハイデルエス.グリーンディア.ベティなど世話になったエルフたちが、消えていく隼人達に別れの手を上げる。
徒歩で大森林をエルフの郷へと向かった行と比べれば、あっけないくらいにジャッファの村へと着いてしまった。
村は隼人が最初に訪れて以来、すっかり見違えるように整理され立派な家屋も、ちらほらと建ち始めている。
隼人の渡した織機の設計図を持ってガルシアの傭兵団の一人、イグナッシオと言う男が、ドワーフの領地へとおもむき、交渉を上手くやってくれたと言う話だった。
(物創りに長けたドワーフが、力を貸すと随分いろんな所が発展するんだな。繁栄の陰にドワーフの力という事か)
既に設計図を基に六台ほどの織機が作られ、反物つくりの経験のあるミランダの母親やドワーフの奥方を中心とした女性たちによって簡単な反物が織られ始めているとの事であった。
ジャッファは、それらを持ってプラディアへと赴く。エルモから地元の商人たちを紹介してもらえることとなった。
「エルモ達と俺は此のまま転移する。隼人、お前はどうする」
「せっかくだから、ディナの魔法を見せてもらいながら魔物を狩り、森を抜けてプラディアへ向かうよ。親父の家で落ち合おう」
隼人は一人、初めて来た時のアーニャと歩いてきた道を思い出しながら森を進む。
大森林を縦横に走る小道。
獣みちだけでなく、幾つもの小さな集落を巡る小道が人々の往来がある事を指し示している。
AIイージー、(周りに探索を張り巡らします)
隼人の知覚が一気に広がっていく。
今葉を揺らす風の音。
小鳥のさえずり。
ウサギでもいるのだろうか、落ち葉の上を動き回る小動物の気配。
意識を向けた方角の気配がいくらでも飛び込んでくる。
開けた草原へと出た。
(地上を走る鳥の群れが来ます。気を付けて。ダチョウをイメージすると良いでしょう)
「タタタタ」
(うん、足音が近づいてくる。…うっ! あっ足音があ~ うわ~~!!)
「ドドドドドドドーッ!」
隼人の目の前の低い灌木を飛び越える様にして、その鳥は現れた。
ダチョウの様な姿、太い太腿からのびる長い脚、小さな翼は体に沿ってぴたりと張り付いている。細長い首の上に飾り羽が伸びた小さな頭と大きな眼が、一瞬隼人を振り向いた。青を基調にした色合いに羽根先に行くにしたがって赤い羽根へとグラデーションの変化を見せている。
三メートルほどの高さから、隼人を一瞥すると何もなかったかのように走り出した。
それを筆頭に、次々と灌木を飛び越えて、隼人の前を走り去っていく。
(おわっ あんなデカいとは、脅かすなよ。)
草原を虹が流れていくように美しい鳥の群れが走り去っていく。
(隼人、逃がしていいんですか? あれは巨鳥エピオルニス、羽根は美しく貴族の御婦人方の飾りとして重宝され、風の魔法をよく受けて矢羽根としても高い需要があります。肉は、とても美味で市場でもめったに目にする事も出来ません。鳥の魔物として、その魔石も貴重なものがあります)
(滅多に出会う事のない、数少ない魔物の鳥です。高く売れますよ)
(……!!)
(鳥の魔物か、俺と目が合ったよな。襲ってこなかったな、一緒に居た群れに被害が出るのを恐れたのか、群れのリーダーとして賢い奴だ)
去っていく鳥の群れ、スピードは約60キロメートルほどだろうか。
整地されていない、灌木や背丈の高い草も生い茂る草原を、素晴らしいスピードで駆けていく。
(まるで草原を渡る虹みたいだな)
隼人も身体強化を施すとその群れを追い始めた。
鳥の長い脚は、草木を跨ぐように都合よく、全力で走っているようには見えない。全体でシンクロするような優雅ささえ見せている。
体の大きさの違う隼人は、必死について行こうとするモノの、その差は開いていくばかりだ。
行く手には、平原を切り取るような深い崖が見えてきた。
山々から集まった激流が深い谷間を形創っている。
対岸の崖の高さは、50メートルほどだろうか。手前の崖も似たような物だろう。幅は優に200メートルはあるだろう。
エピオルニスの群れは、その崖目掛けてスピードを乗せて突き進んで行く。
戦闘の大きなリーダーが、たたんでいた小さな羽根を広げる。
(あれで飛ぶのか?)
隼人が思った瞬間。
その先端の風切り羽が一気に伸びると大きく広がった。
次々と群れが羽を広げる。
(広げた翼は、実体ではなく魔力で作られた羽根のようです)
(普段使わないところを見ると魔力の効率が悪いのでしょう)
透き通るような羽を広げた虹色の群れが、風に乗ったのだろうか、美しい曲線を描いて対岸へと滑空していく。
(イージー、此のままじゃ逃げられるぞ。俺にも羽根があったりして?)
(隼人も鳥のように羽ばたいてみたいですか? ……ムリです。似合いません。……ビジュアル的に…)
(なんだよ。ビジュアル的にって!)
すると、デバックからディナが顔を覗かせた。
「私が、お手伝いしましょうか?」
そう言うと少女の姿で、デバックから出てくると隼人の背中へとおぶさる様にして首に手を回す。
(隼人、ディナが水圧の反動を利用し、対岸へと飛ばしてくれるそうです)
(ディナ、射出角度45度、噴射時間5秒、隼人の跳躍1.5秒後に高圧の水流を噴射! 準備OK?)
全速で走る隼人の目前に崖が迫る。
(うおおーっ! 飛ばせるものなら、飛ばしてくれ~)
「タン!」隼人は、もうやけ気味に大きく跳躍する。
その直後、はじける音と共にディナがジェット水流を解き放つ。
失速しかけた隼人。背中を蹴飛ばす圧力を感じた途端、空へと放り上げられた。
放物線を描いて落下するたびに、その衝撃が背中を襲い空高く放り上げられる。
「ディナ、射出完了です」
隼人は、対岸の崖へと落ちていく。
が、距離が足りない。
(おい! イージー、届かないぞ。谷へ落ちる)
(初めての連携です。ディナの射出量が足りませんでした。残念です。こういう事もたまにはあります。現時点では、対策する時間がありません)
イージーとのやり取りの間にも、対岸を外れて谷へと落ちていく。
と、その時、対岸の高い木にぶら下がっていた長い蔦が「ギュン」と落ちる隼人に向かって伸びる。
長く伸びたカズラが、隼人の足に絡みつくと、それは人の手へと様変わりした。
(まっ魔物?)一瞬で足を絡み取られ、隼人の瞳の瞳孔が、驚きで開く。
「我、グリーンディアだよ! 暴れないでくれるかな」
その声といっしょに、カズラから新芽でも湧き出る様にグリーンディアの上半身が生まれてきた。
隼人を掴んだカズラが鞭のようにしなり、対岸へと運ぶ。
「グリーンディア!? どうして此処に?」
「説明は後だ。あの鳥を追っているんだろう? この先で茨に絡まっている。捕まえるがよい」
元のカズラの中へと沈むように消えていく。
「おい! こっちだ」
その声を探すと、今度はだいぶ先の大木の幹から顔を覗かせた。
木から木へ、草からと植物の間をグリーンディアは、乗り移りながら進む。
「ほう、我の茨の戒めからもう抜け出していたのか」
リーダーのエピオルニスに絡まっていた茨は、切り刻まれてその足元に落ちている。
その眼はつり上がり、追ってきた隼人を見据え、茨を断ち切った魔力のこもった翼を広げた。
✳ 50話 挿絵 アーニャ入れました。
45話 46話 書き直しました




