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シュワシュワ.サイダー…スキスキッ!

 


「あっ こらっ! クロエ、ボタ餅にハチミツをそんなにどっぷりと付けるな! チョビットだけだぞ! あっ! 其処グリーンディア、お前それは二度つけだろう。二度つけ禁止と言っただろう!」

「まったく、わしが(もら)ったハチミツじゃぞ~。有難く少しずつ使え。全くありがたみの(わか)らん奴らじゃ」


 クロエが、二個目の串に刺したボタ餅にハチミツをつけておこうと壺に突っ込もうとした所を、童女はひったくる様に壺を奪い返した。


 ジャッファの土産の一つ、ハチミツはこのエリザベートへと渡ったらしい。

 円卓を囲んで、夕食代わりにとボタ餅にハチミツをつけて楽しんでいる。


 其処へようやく、隼人もエルフの里へと帰ってきた。

 のんきに、ボタ餅をほおばるベティ。

 その姿に、なお更に(にら)みつける隼人。


「おおっ 意外と早く帰って来れたな。ワシの見込み通りよ。わしのやり方に間違いはなかったという事かの」


「うるさい! だまれ。お前井戸に突き落としておいて、よくのんきにボタ餅など食ってられるな。危うく死ぬところだったんだぞ」


「水の精霊が現れなかったら、どうなっていたか」


「まあ、そうわめくな。折角のみやげのハチミツまでしょっぱく成ってしまうわ。おまえも座ってボタ餅でも食え。腹が減ったから怒りっぽくなったんじゃろ。あっ ハチミツは、チョビット付けるのじゃぞ」


 皆が食卓を囲む中、場違いに怒りを見せている事に隼人も気づくと少しの気恥ずかしさを感じてしまう。


 童女に向かって本気で怒っている隼人の姿を、ジャッファなどは口角を上げて隠すそぶりもなくにやけて見せる。


「それで帰って来れたという事は、水の精霊との契約は(かな)った様じゃな」


 実際にその通りなので、怒りの鉾先(ほこさき)もすっかりと折れてしまう。


 ベティはわざとらしく、済まなさそうな表情を見せると、


「おーう すまなんだな。水の精霊は、水脈の繋がっている森の泉を好んで暮らしているのじゃがな。森の水脈など、とんでも無く広い範囲に及ぶのじゃ。珍しいモノや興味が沸いたものなどに、首を突っ込んではそちらに行ってしまう。急なところで、いくらワシが呼びかけてもなかなか(つか)まらんことも(しば)しの事じゃ。」


「そこで現れたところで捕まえて、お主の為にとワザワザあの井戸に閉じ込めておいたのよ。すべてはワシの段取り、準備があってこそのお陰じゃろ~」


「ほい! ……あれじゃ、ご褒美のシュークリームじゃ」


 と、ベティが手を出してところで、今度は隼人の肩から掛けたデイバックから少女の姿の精霊が姿を現すとベティをなじり始めた。


「だます何てひどいわ。ベティちゃん。あんな岩山の上で誰も来ないし、何処へも行けないし、淋しい思いをしていたのよ」


「いや、ディナよ。いちばん綺麗な水の湧き出る所へ行ってみたいと言ったのはお前だろう。あそこの水は最も澄んで綺麗だと言っていたではないか」


「水は綺麗だったけれど、何処にも行けずに閉じ込められたわ。ベティちゃんはいなくなるし。隼人がこなければ、あの岩山で暮らすところだったのよ」


「でも、隼人がやって来た。ワシが連れて行ったからな。今は、ディナは隼人の収納に入っておるのじゃろ。どうなっておるんじゃ。お主たちが出会うようにしたことは、此れはウイン.ウインと言うのじゃろ」

「ディナは、隼人の収納袋が気に入ったようだし、隼人はディナと仲良くなれた。そしてワシは隼人から、あのシュークリームをも一つ貰えて、ウインウイン.ウインじゃな」


 そう言うと、ベティは隼人を見上げると両手を突き出した。


「全く、ガキのくせに口が回る。なんか丸め込まれた気分だし。たしかにディナと知り合えたのはベティのおかげだよ」


「うん、すまんな。ガキの姿で。だがお主、ワシがエルフと言う事を忘れてはいまいか。此のワシこそが、森の賢者とも呼ばれるエリザベート様じゃし、知り合えてよかったの。こう見えてもワシは、エレナのひい(ばあ)、ハイデルエスはワシの娘なのじゃがな。……あん?……なんじゃその眼は、レディに歳など聞くんじゃないぞ」


 なにか、ベティの小さな手の上で転がされたような気がするが、隼人は円卓を囲む皆の前に。シュークリームを配りだした。

 ベティが両手でつかむと、嬉しそうに頬張る。


 ディバックから顔を覗かせるディナがそれを(うらや)ましそうに眺めている。水の精霊であるディナにとっては、固形物の食料は食べられないのだろう。


「ディナなら、此れがいいか?」


 隼人は、炭酸水の碧いビンのキャップを外すとディナに手渡した。


「これは、水ですか? なにか泡が沸き上がっていますが」


 そう言うと大事な物でも扱うように青い炭酸水を飲む。

 まったくの透明な水で出来たディナの体の中を(わず)かに青い液体がゆっくりと広がっていく。

 そして、シュワシュワとした泡がディナの体の中を立ち上がり始めた。

 水で出来た少女の体の中を炭酸の泡が立ち昇る。


「おーっ! 体の中がシュワシュワします。なんという爽快感! 気持ちいいです。ああっなんというか、精霊の私にも力が湧いてくるような。力がみなぎります」


 隼人は只、一人だけ何もないのは寂しいだろうと炭酸水なら飲めるのではと、気楽に渡した物だった。

 初めての感触に思いがけない炭酸ソーダが、ディナにはお気に召したようだ。


「ディナ、困った時に助けてくれたら炭酸ソーダをまたあげるヨ。 ほかにももっと美味しいい炭酸水があるから楽しみにしてもいいと思うよ。コーラとか。ドクトルーペッパーとか。」

(うーん、我ながらこの安い炭酸ソーダで精霊が力を貸してくれるとは、少し罪悪感が湧かないでもないが…………喜んでもらえるなら…いいよね)


 ディナの思いがけない喜びように、隼人はずるい大人が子供をお菓子ででも釣る様に炭酸水で吊り上げることを思いついた。

 円卓には、ジャッファをはじめエルモにグリーンディア、エレナの隣にクロエとベティが並び一同が揃った形で食後のデザートとなったシュークリームを味わっている。





「グワーッ ガーガーッ」


 夕方の風を取り入れようと開けた開き窓の縁にうるさい小鳥が舞い降りてきた。

 クロエが使っていたカケス。

 クロエが指を上げると、待っていたかのようにその指に飛び乗る。


「なんだろう? イザークお館様からの青い文がついている」

「御館様から、渡されたんだね。青い文という事は、差し迫っての荒事への心配はいらないんだね。」


 小さく丸めた文を開くと、


「王都近郊にて、腐臭振りまくワイバーンとハゲワシの群れ、黒馬に乗る女騎士にて撃破。其方も用心されたし」


 短い文でそれだけ、小さな紙に記されていた。


「エルモ様、イザークお館様へと送った近況の報告の返しに、このような文が付いておりました」


 エルモは、小さな青い紙切れを受け取ると、


「うむ、黒馬に乗る女騎士は、心当たりがある。其処の隼人の妹御に付き従う第三騎士団に所属していた女騎士、ローザ.エアハルトで間違いがないだろう。最近、奇妙な黒馬を手に入れ、魔術も備わった手練れへと豹変(ひょうへん)したと聞いている」


 隼人も、ビキニ.アーマーに身を包み(余り包まれてはいないが)黒馬に乗る凛々(りり)しいローザを思い返していた。

(ああっ あのナイスボディのお姉さんか。エルの昔の恋人だと言っていたようだが、前のキャンプで振られていたな。エルに振られて覚醒したのかね)


「うむ、腐臭振りまくワイバーンとハゲワシの群れが現れたのが、文が短すぎて詳細がよくわからんな。とりあえずは、ローザの働きで脅威は去ったということだろう。またそのような魔物が現れるとも限らん。此方も用心に越したことはなかろう。」


「クロエ、次の連絡のおりには、この文への礼文も入れておいてくれ」


 隼人も、クロエの鳥の文で小春へスマホを渡していたことを思い出した。


「エル、その話なら直接話が聞けると思う。少し待っていてくれ」


(イージー、小春への連絡はとれるか?)

(問題、ありません。スマホの機能にプラスして小春ちゃんの中にも、AIとも言える情報端末が生まれているようです。まだ未熟ですが、いずれは私のようなAIへと発達するかもしれません)

(繋がります)


(うおっ 驚いた! なにこれ、…………おにいちゃん? ?…頭の中に響いてくる呼び出し音てなによ。 スマホで呼び出してよ!)


 頭の中に届いた呼び出し音に相当驚いたようで、小春がパニクっている様子が伝わってくる。

 隼人も、目を(つむ)り念話でもするように心の中で話しかけてみる。


(春ちゃん、驚かせてごめんよ。頭の中に響いてくる言葉は、たぶん春ちゃんの中のAIが、仕事をやりたがっているせいさ。慣れが必要かもね。スマホの方に連絡は届く様にAIに伝えるといいよ。すこし聞きたい話があったんだ)


 小春は、その時の詳細を自分の働きを隠して隼人に伝える。あまり、お転婆が過ぎると心配して帰されてしまうのではと心配したからに(ほか)ならない。


 大森林に一直線に向かって飛んでいたワイバーンは腐肉を使った死霊術師の企みだったことや、すべての討伐は、黒馬とローザが打ち倒したという事に話をまとめて話してしまった。


「どうやら、アルフヘイム皇国の魔導士ベベルの企みらしい。ジャッファが倒した代官の手下がワイバーンとして(よみがえ)り、ハゲワシの群れを先導して、このエルフの郷を襲うと言っていたらしいぞ。」


「ベベルからは、俺が魔石の袋を奪ったから、相当恨まれているみたいだからな」


 ジャッファも頷く。

「ああっ そのワイバーンとして蘇った男には心当たりがある。代官の手下トマスという野郎だった。スラム街を焼き払い、子供を含め沢山のスラムの人々が死んだ。許せなくて俺が殺した」


「ああっ その事なら領主である俺の責任だ。ジャッファには迷惑を掛けてしまったな。アルトマンの口車に乗り、迂闊(うかつ)にも代官の人選を任せた俺の責任だ」


「いずれにせよ、今回は黒馬とローザの働きでエルフの郷への脅威は無くなったと考えていいだろう」


「今の話から、ジャッファと俺がエルフの郷へ居る事で、ベベルが差し向けたという事だろう。精霊の力は手に入れた。早急にこの地を離れたほうがいいかもな。また新たな刺客を差し向けられて、エルフの郷に迷惑がおよぶともかぎらないからな」


「ウム、明日には此処を離れよう」


 クロエの使いのカケスがもたらした通信文で、エルフの郷に脅威をもたらしていた事が分かり、グリーンディアを通じて、ハイエルデスへと謝罪をするべく面会の場を設けて貰った。

 しかしハイデルエスは、笑ってエルモの心配を一笑に()す。


「ふふっ 何千年も続くこのエルフの郷。そのような低級の使い魔が現れたとて、沢山の精霊に愛されて、守られているこの地が、どうなるものでもありませんよ。此処へたどり着く事さえ無理でしょう。」

「この地へ敵意を向ける者に、精霊は容赦などしませんから。エルモ殿も余計なお気遣いは無用ですよ。」

「明日には旅立たれるとの事、都合のある事でしょうから、引き留めはしません。この度のエルモ殿の来郷は実に有意義な話となりました。此方からも感謝いたします」


 エルモもハイデルエスの言葉にほっと一息付けるものを感じていた。

 わざわざ、エルフの郷との交易にたどり着いたというのに、自分達が災いを引き連れてきたと思われはしないかと、内心ひやりとした思いもあったからだった。


 そんなエルモの心配事など、お見通しなのだろう。

 ハイデルエスは、柔らかい笑顔を向けると邪悪なる者など何でもないと言わんばかりに遠方からのエルモ達に(ねぎら)いの言葉をハナムケる。


「それでは、今夜が最後の夜という事ですね。……あれを…また私の寝所に寄越してください。フフッ」


 すっきりとジャッファは、御勤めを果たし、気に入られたようだった。

 美しい横顔に少しの口角をあげ、切れ長の流し目をエルモに残すと、ハイデルエスはその席を後にした。



※33話 42話書き直しました。(小春を攫ってきた男→ソルからベベルへと訂正しました)


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