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会いたくない…再会

 石灯篭に仕込まれた魔石から、僅かばかりに魔力が引き出されて、淡いオレンジの明かりが周囲を情緒のある風情に変えている。


 隼人達男三人は、早いうちなら露天風呂もすいていると聞き、早々と風呂へとやってきた。

 山間(やまあい)にある宿の陽の落ちるのも早い、すでに薄暗く灯篭に照らされる湯気にあたって湯船の様子は分かりにくい。

 取り合えずと、どやどやと三人そろって湯船に浸かった。


 乳白色の湯。

 白く(にご)り底は見えない。

 熱いくらいの湯からは、温泉独特の匂いが立ち込める。


「ああ~っ」 「ふう~」


 ジャッファが、素っ頓狂な声をあげる。

 そもそも、風呂に浸かった事などなく、初めてだったらしい。


「ああーっ あついな。此れが温泉か? 体中の力が抜ける様だ」


 エル、


「ああ、此処は泥湯というらしい。コリが、ほぐれて良く温まる。切り傷にもよく効くから狩人や戦士にも人気だ。森のエルフの女たちもよく入りに来るらしいぞ」



「ちゃぽん」


「「……………」」


 三人が浸かる湯船を隔てる様に立つ大岩の向こうから、先客の気配がしてきた。

 エルと隼人が顔を見合わせる。

 二人が、岩を回り込みながら覗き見る。

 立ち昇る湯気と薄暗さで分かりにくいが、肩までどっぷりと浸かり頭の後ろ姿だけが目に映る。

 亜麻色の髪をカールし、その髪が湯船に広がっている。

 隼人、


「…………うっ噂のエルフ女子?」


 エル、

「……きたか……これ?」


 隼人が恐る恐るバカ丁寧(ていねい)に声をかけてみる。


「先客とは知らず、ご一緒させていただいています。いいお湯ですね?」


 すると、亜麻色の髪の主が振り向いた。


「おおっ 人族の若い衆か、ガハハハッ いい湯だろう? わしらドワーフの自慢の湯よ。わしも、其処の山で鍛冶師などしておるが、火傷などしょっちゅうだからな。重宝しておる。礼儀正しき人族の若者よ、ゆっくりと温まってゆくがいいぞ。ガハハハハッ」


 ロン毛のドワーフのおっさんだった。


「…………し失礼…します……」

(あああああああああああ———おっさん———)


 エルと隼人が、すごすごと戻っていく。


 ジャッファ、


「先客か?」


「ああっ 近くで鍛冶師をされているというドワーフのおっさんだった」


 隼人は、早くもジワリと汗をにじませている。

 話を逸らす様に、


「カエルの胃袋が収納袋になるとか言っていたな?」


「ああ、そうだ。お前の無限収納と違い、こちらの魔法袋はたいてい此のカエルの胃袋から作られている」


「奴らの胃は、飲み込んだ餌を圧縮して小さくしてしまう魔法が生まれながらに備わっているんだ。冬の巣ごもりでは、その飲み込んだ餌を少しずつ戻しては、もう一つの胃で溶かして食べている」


「その胃袋を切り広げては、約三十枚ほど(つな)ぎ合わせる。それを袋の状態に、戻した途端に、胃袋の機能を思い出したように(ちぢ)んでこんなにコンパクトになる。出し入れする魔法を組み付けるのは、作った魔法使いの腕の見せところだな」


「今回のカエルの討伐で三つも魔法の収納袋を作ることが出来た。此れだけの胃袋を一度に集められてラッキーだったな」


「お前の収納と違い、かなりゆっくりではあるが、時間の経過もある。生ものは、あまり入れっぱなしだと腐っている事もあるから注意が必要だな」


 隼人は、ジャッファやソルが、身に付けていた魔法袋の造られ方がカエルの胃袋から作られている事を知った。

 ただ、やはり大量のカエルの胃袋が必要なことや、其れを作れる魔法使いが少ないことで貴重なことは確かだった。


 カエルの討伐もジャッファにとっては、肉や他の素材を得る以上に有意義なものになったらしい。



「カララララ————」


 引き戸の開け閉めする音が聞こえてきた。

 誰か、新しい客が入ってきたようだ。


「あら! 先客のお客さんのようね。あなた、どうします?」


「いや、ワシはいっこうに構わないが、おまえが嫌だろう」


 女の声がする。


「いえ、あなたさえ構わなければ、私は構いませんよ。体の手入れも怠りなく、連れのあなたを辱めるような姿には、まだなっていないつもりです。広い湯船ですから、気にする事もないでしょう」


 湯気の向こうで、男と女が堂々と混浴に構わず入ってくるようだ。


 広い手ぬぐいで(わず)かに前を隠しながら、若い女がその裸体を、三人の前へと惜しげもなく現した。


「先客のお客さん、私たち二人づれですの。ご一緒で構いませんね」


 まったく気後れなく話しかけてきた。


 隼人とエルの声が重なる。


「「ええっ もちろんです」」

「私らの貸し切りでは、有りませんので気兼ねなくどうぞ」

 隼人、

(おおーっ むしろウエルカムですよ。ウエルカム。これぞ混浴!)


 其の後に続いて、声の調子から年配の男であることが伺える。


「おおっ わしら以外にも、人族の若い衆であったか。若い者には、ちと刺激の強い連れで済まなんだな。このような場じゃ、眺める分には、いっこうに構わぬ、ワシの自慢の嫁御じゃ。ワハハハハ」


 なんとも、ざっくばらんな豪快な声で笑う。


 すると、その声の主にピンと来るものがあったのか、エルが声をかけた。


「エルモ.コートジオールです。このような場で、失礼する。イザーク・チアキ・フジワラ男爵殿ではありませんか?」


「若い奥方を貰ったと言う(うらや)ましい(うわさ)は本当でございましたか。いつぞやの魔物討伐に参加のおり以来ではありませんか? 永いご無沙汰で有ります。久しくあれど御建朗なご様子。さすが我が国一の剣士殿でございます」


 隼人はその名を聞いて、温まっていた体に一気に冷汗が噴き出した。

 熱い湯の中で、冷水を浴び続けているような錯覚に(おちい)る。


 湯気の合間から、素っ裸で現れたのは、まさしくあの老騎士「イザーク」その者だった 





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