大好きッ!…おにいちゃん
「ギィヤアーッ!」
「…………」
「うっわあああーっ! とっぶぞ~!」
「…………」
「スキッ すきっ! 大好きだよっ! お兄ーちゃん!」
隼人の周りを、ある物を両手にかかえた小春が、バタバタと走り回っていたかと思うと、思いっきり隼人に飛びついてくる。
両手、両足を使って全身で隼人に飛びついて抱き着いてくる。
隼人にとっては、久しぶりにモテ期がやってきた。
ただし、十一歳の妹であるが。
「はるちゃん、それな、プラディアの親父の家でないとネット使えないぞ。」
「え~っ まっ! 電話もラインもメールも使えないの~」
「そりゃ、そうだろ。妹よ。持ったことないから知らないんだろうけど、異世界に基地局なんてないだろ。でも、お兄ちゃんとは離れていても使えるから、安心して、持っているといいよ。カメラだって、ビデオだって使えるから。」
(ついでに、イージーに頼んで、電池の代わりに魔石に魔素が集まるようになって、そこから電気信号生み出すように改造してあるから、電池切れはないよ。 便利だねえ~)
「え~っひどい、なんで~! それに何、これアップルじゃなくて、ドレスって書いてあるスカートを広げた女の人のマークって何処の会社よ此れ。」
「ドレステインだよ。略してドレス。お兄ちゃんの会社だよ。」
(異世界通信用に作られた、たった二つのスペシャルなんだけどね。俺はイージーがいるから使った事なかったけど、小春との連絡に使えそうでよかったな。サンキューな、イージー。)
(はい、隼人。隼人の持つ大量の魔石とプラディアの魔法陣のコピーがイージーにはあります。隼人の場合は、何処にいても研究所との連絡とネットへのアクセスが、可能です。)
隼人のイージーとの念話をじっと見入る小春。
近づいて、黙ってにっこりと隼人を見上げる。
隼人の手を取ると、いきなり口に含んだ。
(えっ! なっなに、はるちゃん!)
突然の小春の密接なスキンシップに慌てる隼人。
小春は、上目づかいで隼人に笑いかけると、いきなり「ゴリッ」指をおもいっきり噛んだ。
「イテッてててっ! どうしたんだよ! はるちゃん! いたいよ」
さらに、流れ出した血をちゅうちゅうとススル。
あわてて、その口元から手を引き離した。
イージー、
(はやと! 小春ちゃんは、私たちの話が分かるようです。そしてスマホのネットワークの対策を瞬時に解決する方法を、思いついたようです。)
(隼人の体内に巡る神経に繋がるイージーの一部を持っていかれました! さらに、体液に含まれるファージも移植されて、素晴らしいスピードで増殖中です。)
小春がにこりと笑う。
「おにいちゃん、誰かとのひそひそ話。聞こえたよ。なぜか知らないけど。どうすればいいのか、頭に浮かんじゃった。噛みついてごめんなさい。」
イージー、
(うっ! イージーの子機としての端末が構築されつつあります。私の中の情報が引き出されます。ブロックできません! 小春の中に取り入れられたイージーの根の一部は培養されてイージーの様なAIが出来上がるのも時間の問題のようです。)
「あっ! お兄ちゃん! 繋がるような気がする。」
言うないなや、小春が電話のアプリを押す。
ドレスのスマホは先ず、ドレスティンの専用ダイヤルに繋がる。
マークの声が聞こえてきた。
「Hello,This is「dresstin」How may I help you? 珍しいな隼人なんだろ? スマホを使うなんて」
いきなりの英語の会話に小春は、驚いた。
通話先を入れる間もなく、いきなり繋がった先から英語の言葉が飛び出してきた。
しかし、
「Hello, This is Koharu speaking. “Who is this?”」
日本に居た頃より、母親の秋絵がいない時には、常にお手伝いのようにキャサリンがやって来ていた事もあって、多少の言葉は理解できた小春であった。
隼人の中に、連絡に必要な転移陣のコピーを見つけた小春は、其れを取り込むと、体内の魔石に蓄えられた力をそのスマホに送り込んでいた。
まだ、AIの構築の進まない中で、自分で一つずつその作業を進めていく。
そして、あっさりと研究所との連絡に繋がってしまった。
隼人の、あっけに取られる姿をしり目にマークとの会話が進む。
「やあっ 小春ちゃんか。見つかってよかったね。僕たちも心配していたんだよ。僕は、このチームの主任マーク。隼人の上司にも当たるかな? よろしくね」
小春と、マークがいろんな事情を話し合っている。隼人が異世界に来ていたいきさつや、父親の異世界人としての話、日本の家が全壊して今はニューヨークに一家で引っ越してきている事など、隼人がまだ話していなかったことなど、細かく話してくれたようだった。
隼人にとっても、話しづらい事や説明の難しいことを、マークは懇切丁寧に小春に事情を話してくれた。
結局、異世界からのスマホは使える事となった。
ネットへのアクセスは、研究所の許可が必要ではあったが、大抵のことは許してくれるようだ。
「お兄ちゃん! ありがとう~。お祝いしなきゃね。そういう事で、頼んでみたの。お兄ちゃんの収納にもうすぐ届くから。」
「えっ! なにが?」
(隼人、研究所からケーキ各種が送られてきました。大きなホールケーキもあります。マークから通信入りました)
「やあ、小春ちゃん見つかってよかったな。目的の一つを達成したお祝いだよ。小春ちゃんの要望もあって、マンハッタンのハーブスまで買い物にいってきたよ。まったく、こんなおっさんが、大量のケーキを買うもんだから店員が笑う事。全く失礼な奴らさ。これも一つの実験だから、届いたらその状態を報告しといてくれたまえ。」
収納から、華やかに作られた現代のお菓子、ケーキ類があふれる様に出てくる。
異世界では、見たこともない豪華で、美しく装飾されたケーキがならぶ。
甘い匂いに誘われて、ガルフをはじめウル、ソル、ジャッファや皆が、あつまってきた。
小春が、甘いものに久しく在りつけなかった事から、眼を輝かせている。
チョコレートのたっぷりとかかった一つを手にする。
集まってきた皆に一つずつだよ、と言って勧める。
ガルフが、イチゴショート。
ジャッファが、モンブラン。
ソルが、チーズケーキ。
ウルがチョコレート、とエレナやローザもそれぞれ、不思議な物でも見る様に手に取った。
小春が、声を張る。
「みんな~っ 持ったかな? 今日はわたしのお祝いだから、せーの、カンパーイっ!」
小春が、おいしそうに食べるのを見て、皆がやはり食べ物であったかと、安心して口に運ぶ。
「「「「!!……………………あま~~~いっ!」」」」
皆が、眼を見開いてお互いを見る。
ウルが、口の周りをチョコレートで汚しながら涙を流している。
「うえ~んっ 美味しーよ~っ 甘いよ~」
年頃の女の子には、衝撃的な甘さだったのかもしれない。
文化の進んでいない異世界では、まだたどり着けない未知の世界の甘さだった。
イージー、
(追伸です、隼人)
マークからの声が聞こえてくる。
「隼人、ケーキの代金だが、君の口座から引かせてもらった。なお転移にかかった費用は、魔石五個ほどだ。その代金も君の口座から引き落とすことになるから」
「…………」
「えっ!」
「ちなみに、おいくらほど」
「なに、大した金額じゃあないよ。ケーキの代金が二百五十ドルほど。後……………魔石五個の費用が…………」
「…ごくり……」
「十万ドルくらいかな? 何せ貴重な異世界の資源だからね。少々高くついたかな。…………頑張って働き給え…」
隼人の手にしたイチゴショートは、少ししょっぱい涙の味だった。
✳ 17話 不思議の国へ女子きた~ 29話 楽園の二人 挿絵入れました。
24話 男はこれだぜ、リボルバー
77話 リタの誘惑




