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ローザ…闇なる覚醒Ⅱ

「…………―ザ…………ローザ、愛しいローザよ。」


「…………」


「……だれ…………ママ?…………ママなの?」


「お前が(すが)る神が、お前の母ならばお前の神と私がなろう。心の拠り所とする神を信じるならば、お前はもっと強くなれる。」


「なぜ? 私の側にいてくれないの。お父様とわたしを置いて何処にいるの? お父様は、ママは死んだと言っていたわ。そんな事、私は信じない。やっぱり生きていてくれたのよね。」


「私は信じていた」


「そうだ。お前の信じるママは私だ。私の為に強く生きなさい。わたしが、おまえに私の力をあたえよう」


「わたしの気持ちに応えておくれ。憎い神々の力に押しつぶされ邪の淵に沈み、その泥に(まみ)れ、這い上がれぬ私に変わり、私にはむかい、立ち向かう者どもを殺しておくれ。力を与えよう。なん人ともあらがう事の届かない邪神の力を。其の黒馬より、受け取るがよい。」


「…………せっ! …………殺せ! すべて殺せ! 立ち塞がるものは踏みつぶせ。 お前の気持ちを貫く槍にして、突き殺してしまえ!」


「生きとし、生きるものは灰に返し、すべてをわたしの楽園たる闇に返せよ。 …わたしの愛しきローザよ。」



「…………」


 黒馬より流れ込んでくる邪神の心が、幼いころに、なくした母親への恋慕の心を惑わし入り込んでしまう。


 うつ伏せにオルスタインの背に倒れ掛かっていたローザが、ビクンと跳ね上がるように姿勢を保つ。


 その眼は、大きく見開かれて瞳は、黒馬と同じように朱に染まっていた。

 ローザ本人の心は、漆黒の闇に閉ざされ、深く深く沈み込んでいく。

 変わりに、黒馬ユニコーンから入り込んでくる闇の心がローザの体内を駆け巡る。

 黒馬から、次々と途方もない力が湧きだし、ローザへと入り込んでくる。


 美しさだけを求め筋力も乏しかった体に溢れる力が、脆弱で臆病な心に鋼の様な強靭さと、巨象さえ投げ飛ばしてしまうのでないかと思うほどの力が湧きだしてくる。


 ローザが笑う。


「フフフッハハッ この私に力がみなぎる」


「…殺す…」


「殺す! …すべてを殺す! 私の前に立ちふさがるな、ケモノども!

 蹴散らせ! オルスタイン」


「私の怒りよ、槍となり、伸びろよ!!」


 ローザの怒りに呼応するように片手に持つ采配が、黒く太い槍となりギュンと伸びる。

 先端の金剛石は青く鋭い(ほこ)となり、白く輝いていた房は赤々と燃える炎となった。


「ガウッ! ガウッ! ガウッ!」


 黒馬に追いすがり、前方にも立ち塞がる。


「ブン!」


 片手で、その巨大な槍を大きく振るった。

 本来のローザにはまねのできない剛腕で。

 それどころか、人の力などではなかった。


 間合いにいた三頭の首、足、胴体と触れた部分は、豆腐でも切るように薙ぎ払う。

 豆腐でない替わりに狼たちの臓物と血潮が、辺りに飛び散った。


 それでも纏わりつく有象無象は、オルスタインが踏みつぶす。

 巨大な槍は、振り回すうちに斬撃となり、狼たちを風のやいばが切り裂いていく。


 殺戮を繰り返すオルスタインとローザの前に「ぼうっ」と青白いオーラが沸いてたった。


 狼の群れが道を開けると、巨大な灰色の狼が現れた。

 魔物と化した巨大な狼。

 此の群れを率いていた巨獣。


 オルスタインと灰色狼を囲むように、今まで騒がしかった狼たちが、二頭の決闘を見守るように静かになった。


「オオオーン」


「ブルルウウン!」


 二頭が雄叫びを上げる。

 ぶつかり合うように突き進む。

 その前にお互いが作りだした空魂の塊がぶつかり合う。


「ガコンッ!!」


 大型のトラックでもぶつかるように激しいい音が響く。

 ローザはその細腕で、巨槍を灰色のその喉元目掛けて突き立てた。

 黒馬から、送り込まれる力を借りたローザの槍が象げ色に輝く。


「ガッキッ!」


 灰色の喉元へと突き立てたと思われた槍が、その牙で受け止められる。


 二頭と一人の間に、一瞬の硬直の時間が訪れた。


 四つ足の二頭と細腕の女、お互いに力を出し切ったような拮抗するタイミング。


「ダン!」


 オルスタインが、力強く右足の一歩を踏み出した。

 それに合わせて、ローザの持つ黒槍が、灰色の牙を突き抜けていく。

 その勢いのまま、灰色狼の頭を貫いてしまった。


 さらに、


「うっオオ————りゃあ———っ!」


 脇にささえ片腕で、オルスタインにも迫るほどの灰色の巨獣の刺さった槍を持ち上げてしまった。


 野太い黒槍の先端で、激しい痙攣(けいれん)を繰り返していた狼も、頭を貫かれてさすがに動きを止めてしまった。


「…………」


 その光景を、取り囲んで見守っていた狼の群れの中へと、どさりと巨獣の塊が滑り落ちる。


 それが合図ででもあったように、一斉に逃げ出した。


「アッハハハハッ 逃げるな、けものども! その命おいて行け」


 殺戮に狂ったかのようなパーサーカーと化したローザが叫ぶ。


「ふんっ 逃げる者などつまらん。焼き払え!」


 黒槍を一振りすると、業火となり、周囲を狼ともども火の海と化してしまった。


「……………」


 もうローザ達に立ち向かう狼など一匹もいない。

 逃げる狼も、くすぶる肉の塊となってしまった。


 燃え盛る赤い炎を受けて。屍の海にオルスタインは(たたず)む。



 街道沿いにキャンプをしていた一組の冒険者たちが、獣の騒ぐ声に引かれて、漁夫の利にでもあり付こうと様子を見に来ていた。


 しかし、その者たちが目にしたのは、血に染まり赤い炎を受けて笑う女騎士。

 翼をひろげるユニコーンと共にこの世の物とも思えなかった。


 ズンとユニコーンが歩み寄る。

 その一人に、「フン」と鼻息を吹きかけた。


 ローザが、血に濡れた赤い顔で馬の上から覗き込むように声をかける。


「おーや、まだ此処にも私に安い魂をくれる者どもがおったわ! その命、おいていくかや?」


 一人が、恐怖に耐えられず、叫び声を上げると我を忘れて男達が逃げ出した。


「アハハハハハッ 我の名はローザ、血に濡れる赤いバラ。その恐怖を広めるがいい!」


 満足したのかローザは振り返り、燃え盛る森を見る。


「オルスタイン、飛べ!」


 燃える森の上へと駆け上がると、


「静まれよ! 火の神ども」


 そう言うと、采配から放たれた青い冷気が次々と炎を消していく。

 業火で明るかった森が元の暗闇へと戻っていった。


 離れたところでテントを張っていた小春の元へもその冷気が忍び寄ってくる。


「クチン!」


 肌寒さに小春が小さく、くしゃみをした。



 その音は、ローザの邪の沼の奥底深く沈めていた魂を、まるで空気の泡ででも包み込むようにして取り込む。

 一気に、その水面まで押し上げると「パチン!」とはじけてしまった。


 ローザの赤い眼が見開かれ、炎が小さくなって、瞳の奥へと名残惜しむかのように消えていく。

 変わりにいつもの碧い瞳が現れる。

 が、重たい瞼に閉ざされてしまった。


 意識の失せたローザを乗せてオルスタインが下りてくる。

 その瞳もまた同じように、いつもの澄んだ黒馬の物へと変わっていた。






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