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街の…ヒーロ~?

「金貨3枚と子金貨7枚、子金貨を1枚崩して銀貨10枚だな。それにジャッファ。お前から以前預かった獲物の数々、(さば)けたから渡しておくよ。お前には、金貨40枚だ」


 そう言うと、それぞれに分けた金を商人ミゼルは、テーブルの上に並べた。

 エレナは、テーブルの上に並べられた金貨の山を見てゴクリと唾を飲み込む。


 隼人達は、大森林へと向かう前にエレナの果物を換金しようと商人ミゼルの店へと三人で、転移してきていた。


 基本が、物々交換の森の民エルフたちにとって、人族の流通に使われる金貨を見る機会など、滅多にある事ではなかった。


「此れが金貨ですか、きれいな物ですね」


 黄金に魅せられたように、一つ摘まむと目を見開いてしげしげと見入る。


「ああっ、大金だ。落とさないように気を付けて帰るんだな。革袋は、サービスしてやろう」


 そう言うと、ミゼルは残りの金子(きんす)を小さな革袋に入れるとエレナに手渡した。


 ジャッファが、テーブルの上の金貨を半分に分けるとミゼルの前へと押し返した。


「此れで、エルフの喜びそうなものを見繕(みつくろ)ってくれ。彼女らの集落への手土産が必要だ」


 (しばら)くすると、丁稚(でっち)たちが様々な品々を運んできた。


「上等の反物、衣類。バンガニーナ湖で捕れた大サケの干物、甘いものに目がないと言われるエルフの為に好物のハチミツ、その他、もろもろの品物だ」


 大量の献上品がならぶ。

 エレナが、ハチミツの壺を一つ抱える。


「これこれ、賢者様の大好物よ。此れを渡しとけば、後は私に任せなさい」


 隼人も、異世界の品々に興味がわいた。


(小春も喜ぶな。一つ買っていくか)


 金を持っていない隼人は、親指大ほどの魔石を三粒取り出した。

 ミゼルは心得たもので、其れを金貨一枚で買ってくれた。


 ハチミツの壺を一つ買う。

 1リットルほどの大びんと釣銭だと言って、子金貨9枚に銀貨6枚の金が返ってきた。

 異世界に来てから、初めての買い物だった。


 其処で、隼人は気が付いた事がある。


(魔人ベベルから奪ったあの魔石の三袋の袋。…此の三粒の魔石で金貨一枚とは…………。とんでもないお宝だったんだな。奴が躍起(やっき)になって取り戻しに来るはずだ。アレを奪ったばかりに、リタに苦しい思いをさせてしまった。ジョニーさんも殺されてしまった)


 隼人は、無限のリュックにまだ眠っている二袋の麻袋の魔石がとんでもない価値がある事にやっと気が付いた。


 知らずのうちに、アルトマン公爵の資産の一部を削り取っていたことになる。


(これを俺が持っている限り、ベベルは、何度でも俺の前に現れる。俺が小春たちと一緒にいることは危険だな。周りを巻き込んでしまうな)


 隼人は、事の危うさに改めて気が付いた。




 エレナが転移で小春たちの前へと帰る前に、王都をすこし散策して買い物をしたいと言い出した。

 王都の通りのミゼルの店を後にした。


 プラディアの露店の並ぶ雑多な賑わいとはまた違い、洗練された華やかさが街を彩っている。

 通りに面した店舗は、道行く人々を引き付けようと商品を見せつける様に間口を開いている。


 森から出てきたエレナは往来を歩く人の多さとその(きら)びやかさに目を奪われている。

 隼人も同じように物珍しさからエレナの後ろを付いて回る。




「ご、ごめんなさい! 悪気はなかったんです。弁償(べんしょう)しますから、お許しください」


 人だかりの中から男の罵声(ばせい)と女の悲壮にくれた声がきこえてくる。

 隼人は、なんとかその人だかりの原因ともなっている人物の見える所まで、分け入っていった。


「オウオウッ! 嬢ちゃんよお! おめえがぶち当てて割ったこの酒は、そん所其処(そこ)らの安酒とは違うんだよ! おんなじ物を用意してくれよな」


 男が、へたり込む女の襟首をつかんで怒鳴り声を浴びせている。


 隼人は、何があったかと隣の野次馬の(ばばあ)の顔をみると、ひそひそと教えてくれる。


「可哀そうに、あれは因縁をつけられてるね。あの子が担いでいた天秤(てんびん)の手桶に後ろから近づいてあの酒瓶をぶつけて割ったのを、あたしゃ見てたよ。(たち)の悪い男さ」


 隼人は、あごをこする。


(ふーん、おもしろいね。時代劇のテンプレ的因縁かよ。此処では、必ずヒーローが出てくる場面だよな。…助さーん。出番ですよ~)


 隼人は、他人事みたいに劇中の場面に出くわしたかのように、緊張のない顔で周りを見回した。


 野次馬の(ばばあ)のひそひそ声が気になったのか、声を荒げていた男がギロリと(にら)む。

 (ばばあ)は、ひっと声をあげると引っ込んでしまった。


「オウオウッ! わざわざ俺が高い酒をぶちまける訳がないだろうが!」


 男が言うと、近くに居たガラの悪そうな男も相槌(あいづち)を打つように声をあげる。


「お~う、俺も見ていたぜ。そこの兄さんが瓶を大事に抱えて歩いている所を、女が天秤の手桶を振りながら追い抜いて行ったときに、その手桶が酒瓶を振り落としたんだよ!」


「まちげえねえ!」


 隼人、


(お~、すげ~なテンプレ的グルですか? 正義の味方早くきて~)


 隼人が、そわそわして周りの人ごみを見ると、ジャッファが眉間にしわを寄せて人ごみを掻き分けてくる。


(え~っ おまえかよ! ジャッファ やめてくれよ。こんな所で顔を売るんじゃないよ!)


 隼人は、歩み寄るジャッファを留めようとするが人ごみが邪魔でうごけない。




「おい! お前たち! グルだろう。その酒瓶もせいぜい水に酒を少し入れて匂いを付けたようなもんだ。酒精の香りに勢いがねえんだよ!」


 ジャッファが、人垣の中へと入り込むより早く、一人の男が難癖をつけていた男の前へと進み出てきた。


 それを見てジャッファも動きを止めてその男の様子を見る。


 別の男たちが、その男の前へと立ち塞がると、


「オイオイッ! 兄さん、俺たちもその可哀そうな酒瓶の割れるのを見ていたんだぜ! 余計な口出しはやめておけよ」


 そう言うと圧力を込めながら取り囲んだ。


(ほ~う、意外とまだ仲間がいたのか? …五人対一人か…)


 正義の男は細身の若い優男(やさおとこ)で、苦労も知らないような(さわ)やかささえ振りまいている。

 五人の風来の前に笑顔さえ見せる。


「お前たちも、こんな小娘に因縁をつけたところで、大した金も持ってはいないぞ。それとも他の物が目的かい?」


「フフッ つまらんゴミ共だが、捨てては置けんな」


 優男(やさおとこ)は、その体格に似合わない大剣をすらりと抜いた。


(うわ~っ 刃物抜いちゃったよ。この兄さん!)


 男達も、もう余計な問答は無用とばかりにそれぞれの得物を鞘から抜き放った。


 優男(やさおとこ)が、女に声をかける。


「おいっ! 嬢ちゃん、 早く逃げたほうがいいんじゃないか?」


 その声に女は、あわてて人ごみの中へと姿を消した。


「おーオイッ! おめえがその体で酒代払ってくれるんだな?」


 男達は、あからさまな因縁を付けていた事も隠そうともしない。


「ああっ、こい!」


 優男は、そう言いながら大剣を(さや)に戻すないなや、人ごみに向かって走り出した。

 人垣にぶつかる直前に大剣を鞘ごと地面に突き立てる。

 突き立てた剣のツバに足をかけると人々の上を飛び越えてしまった。

 足を延ばし、空中で軽やかに一回転する。


 下げ紐に引っ張られた大剣が追いかける様に宙を舞う。


 隼人には、その姿が体操の選手がなんども練習でもして身に付けた技のように鮮やかに見えた。


 あっという間に、人垣の向こうへと逃げ去ってしまった。

 大声で笑いながら逃げていく男の声だけが軽やかにひびいてくる。


「あっ! 待て! この野郎」


 男達が、後を追おうとするが、右往左往する人々が邪魔でジタバタとするばかりだ。 


 隼人もジャッファと顔を見合わすとあっけに取られた。

 一人で五人を相手に啖呵(たんか)を切り、大立ち回りをするかと思った男は、逃げる姿も鮮やかだった。

 水売りの女も、手桶をおいて姿をくらましている。


 人々もつまらなそうに、欲求不満だと言わんばかりの口々でブツブツと言いながら散っていく。


「何だったんだろうな? あれ」


 隼人達も店先に残してきていたエレナの元へと戻ってきた。


「あーっ やっぱり、エルフさんでしたか。透き通るような肌、艶のある髪、整い過ぎて女神のごとし、その美しさ此の王都でも目を引きつけますねえ。」


 エレナが嬉しそうな笑い声をあげている。

 早速、美人のエレナは王都の男に口説かれているようだった。


「ああーっ! あんたは、さっきの!!」


 隼人達は驚いた。

 つい先ほどの優男(やさおとこ)がエレナを口説いていたのだった。




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