もっと…力を
激しい戦闘や様々な出来事を、重箱にこれでもかと詰めたような慌ただしい夜だった。
その永い夜も、次第に白み始めている。
宿営の地に、また元の静けさが訪れて、夏の夜らしい虫の音さえ耳に心地よい。
早々に、寝付いた誰かの寝息が僅かに聞こえ、それが先ほどまでの緊張した出来事と対比する事で直一層の安らいだ空間に感じさせていた。
隼人とジャッファは、隼人の出した簡易テントの暗闇の中で話し合っていた。
あの恐ろし気な黒馬も、なぜか小春とローザが手懐けてしまい、すっかり大人しくなっている。
また、小春が魔法のようなものを使って見せたことも隼人には驚きだった。
連れている仲間たちも、魔法を使えたり、逞しいドワーフの騎士が付き添って居てくれたりと心強い者達も付いている。
隼人の心配をよそに、此方の世界に馴染んでしまって逞しく順応している小春に思えた。
ジャッファがため息をつく。
「しかし、負けたな」
「ああ、圧倒的な剣技と戦場を渡り歩いた経験の差だろう。あれには敵わない。 グロッグが全く役に立たなかった」
「あの馬も、今はおとなしく小春に従っているが、あれは魔物だ。俺たちでは、手も足も出なかった」
「うむ、魔法使いのベベル、剣の使い手のあの爺さん。なかなか厄介な奴が、敵にまわったな」
隼人は思う。
(うーん、武力が足りない。圧倒的な力が足りていないよな。対人を想定した戦闘では、集団でなければ拳銃でもいけるかと思っていたけど。まさか、拳銃の銃弾が通用しない魔物や剣士がいるとは。ほんと異世界なんだな)
(俺も、盾や身体強化などの防御の魔法だけでなく、ジョニーさんみたいに色々な魔術、教わって居れば役にたったのかなあ)
(ジョニーさんのように兵器の知識や取り扱いに長けていれば、研究所から兵器を取り寄せて収納にストックしておくのも手なんだが。迂闊に扱うと自分や周りに被害を出しかねないしな。…………う~ん…………)
AIイージーが起動する。
(隼人、最新の機密の多い武器の情報も今や入手可能です。研究所の活動には、軍部からの協力体制が敷かれています。必要な武器、兵器が入手可能なのです。…………隼人が使えれば……………)
(それなら陸軍から兵隊さん、送ってもらえるように要請すればいいじゃないか? ジョニーさんもいないし、高卒の俺とジャッファ、二人で貴族の持つ軍事力を何とかするって無謀だよな)
隼人は、忌々し気にへそを曲げる。
AIイージー、
(…可能です…………10年後になりますが。ジョニアスと同じように生体から生きた魔石を移植して少しずつ魔力の蓄積を行い、転移に耐えられるような体を作り上げれば、10年後には此方に駆けつけて貰えます)
(…………)
(とりあえず、俺一人でも扱えるような武器、兵器は要請しておいてくれ。取説も動画付きで素人でも飲み込めるような情報で頼むよ。 ガルシアさんの傭兵団にでも使って貰える様に戦力のアップグレードを頼んでみるよ)
AIイージー、
(隼人以外の現地人に現代兵器を貸し与えるのは、問題があるかもしれません。思わぬところで、悪用されたり、現代武器を魔法で加工した想定外の兵器が生まれる恐れもあります。すべてを管理するには問題です。あくまでも使うのは隼人、もしくはジャッファまでにしていた方がよいでしょう)
(…………)
(あとは、魔法…………か…)
隼人は、自分の胸に息づく魔石を感じながら胸に手を置いた。
目を閉じ、自問する隼人を見るジャッファ。
「隼人、お前にも師匠と同じ、膨大な魔力を作り出すことのできる魔石があるんだろう? しかし魔法は使えないようだな。いつもその銃ばかり使っているし。 俺も訳あって、強力な魔石を手に入れた。ただ魔石だけでは十分な魔法は使えない。もっとこの力を存分に使える様になりたい」
(だよな~ ラノベの主人公なら、魔法のチートは当たり前だろうに)
AIイージー、
(隼人、先ほど耳にした話ではエレナさんは、エルフ特有の精霊魔法に精通しているようです。彼女に相談してみては?)
「開けるわよ」
まるで、隼人とイージーの念話が聞こえていたかのように、開けたテントから朝の冷気と共に其の清々しさを纏ったかのようなエレナが現れた。
「ジャッファさん、聞けばあなたは、大森林の開拓村を起こしている村長さんなんだってね。そこで少し相談なんだけれど、王都に商人の伝手などないかしら。私たち王都へ果物を売りに行く途中だったんだけれど。当てがまだないのよね」
こう言った談判は慣れていないのか、少し気恥ずかし気にもじもじとするエレナ。
渡りに船とでもいうのだろうか、頼みたい人物が向こうから交渉事を持って現れてくれた。
ジャッファと隼人が顔を見合わせる。
ジャッファの口角が上がる。
「エレナさん、その商人には、今すぐにでも王都に出向いて買い取ってもらおう。果物の高い季節だ。きっといい値で買い取ってくれる」
ジャッファがすぐに気持ちよく引き受けてくれたことにパアッとエレナの心配そうだった顔に笑みが広がった。
やはり美女の笑顔はその場を華やかにする。
隼人も、目いっぱいの笑顔でエレナを見る。
気をよくしたエレナが、隼人の視線に気づいて近寄ってきた。
心配事が片付きそうなことに口も饒舌になる。
「何かしら? この私の美貌にやっと気づいたみたいね少年っ。見るだけなら許してあげるわよ」
そう言うと隼人の前でクルリと周り、流し目を送りながらポーズを決めた。
最近、男の目線をローズに取られっぱなしだったエレナは、新しい信者を見つけたとばかりに張り切っている。
隼人も頼みごとをするには絶好の機会と持ち上げる。
実際に好みの差さえあれ、つり目勝ちな切れ長の眼に艶のある栗色の髪も風になびき、色も白く森に住むとも思えない手荒れさえ見せない美しさを見せている。
「アハハハッ ソーデスネ、さすがは見目秀麗の多いと言われるエルフ族の方。エレナさんは、その中でも目を引くのでしょう。お目にかかれて、俺もうれしいです」
(隼人! 女性への誉め言葉が足りません。もっと自然に褒めて)
「エレナさんは、精霊魔法の使い手だと聞きました。どうか、俺とジャッファにその魔法を教えてもらえませんか?」
「どうしても、倒さなければならない敵がいます。今の俺たちでは、到底敵わない。強くなりたいんです」
エレナが、困った様に思案する。
「でもね~、精霊は争い事を好まないのよ。あたしはいいんだけどね~、精霊がね~」
(隼人、もっとスタイルを褒めて!)
「いや~、こんなスタオルのいい、髪の艶も眩しいくらいに王都の通りを歩けば男達の視線が釘付けですよ。美しさを追求されて普段から努力をされているのでしょう。こんなおじょうさんに教えてもらえたらどんなに魔法も上達する事か? なあジャッファ!」
「ウッ オオゥ……ソ、ソダナ」
言い終えて、隼人の顔は一気に歳をとった様にすべての力を使い果たしたように見えた。
「まあっ! おじょうさん…だなんて! 私、わたしが……」
「まあ、あなた方も困っている様子。この国の安定の為にもやらなければならない大義。見捨てるわけにもいかないでしょう。私たちの村の交易相手を紹介してもらう恩義もあります」
「ただ、私の魔法は争い事には向きません。もっと強力な戦いに向いた魔法使いのエルフを知っています。 その方に教えを請い、修行を積むことを勧めます」
「……行きましょう! 私たちの故郷の大森林へ。森の賢者とも謳われし魔法使いのもとへ」
注 オラウータンじゃ、ないよ。
※ 少しの間、お休みします。今までの文章を見直したいと思います。




