7.老騎士…無双Ⅱ!
邪魔する無粋な明かりなど一つもない漆黒の暗闇を地上に置いて、眩いばかりに幾多の星々が、地球上から眺める星座の配置と変わらぬ美しさを鮮明にそれぞれの美しさを競い合うように輝いていた。
暑かった日中の気温も和らぎ野宿をするにも過ごしやすい季節になっている。
其の頃、小春たちはその争いの場から10キロ程と離れた場所で野宿をしていた。
同じように王都へと続く街道で偶然にも隼人達と近い場所まで進んでいた。
最近のお気に入りのエレナの寝袋に潜り込んで涎を垂らして小春は寝入っている。
夜中に、寝入っていたマヌーが顔を上げる。
「ニャ、ミャオ~ン」
(なんじゃ、騒々しいの。血の匂いがする)
「フム、ライトボールの明かりが上がってきたようだの。野盗に商隊でも襲われておるか」
マヌーの気配にガルフも続けて目を覚ました。
「ソル殿、ウル殿、起きるんじゃ! 争い事が起きておる。ソル殿は儂と一緒に偵察に、ウル殿は皆を守って用心していなされ」
眠りまなこのソルを、強引に引き立てる様にして走り出した。
「ニャオン」
(ど~れ、暇つぶしにワシも行ってみるか)
10キロほどの夜道を全力で走るガルフ。
「ダダダダッ」
身体強化を施して、それに続くソル。
「タタタタタッ」
「…………」
「ダダダッ タタタッ」
真剣に走る二人の姿をマヌーは横目にみる。
「ダダダッ! タタタッ!」
二人して持てる全力で明かりの上がった争いの場へと向かう。
しかし、背も低く足の短い二人、全力の割にはいっこうに進まない。
横を疾走するマヌーには苛ついてしょうがない。
「ムうーっおそい! 人間ども、二本しか足を使えんのか? 全く、ええい儂に乗れい!!」
そう言うと、4メートルもの巨獣を実体化させた。
「おっ!」「おおうーっ、マッマヌー!!」
ちらりと見るガルフに、今更におどろくソル。
「何じゃ、ソル殿今更驚くことはないぞ。乗せてくれるそうじゃ。いくぞ!」
そう言うと、走りながらヒラリとその背に飛び乗った。
目の前に揺れるシッポをソルが掴むとポンと背中に放り上げられた。
「わおっ!」
「ガオッ」(おちるなよ!)
「おわーっ!」
ソルの絶叫を後ろに振りまきながら、暗闇の街道をマヌーは、つむじ風をまいてスピードを増した。
騎士イザークは、ジャッファと隼人を代わるがわる見ると。
「何とも面妖ないでたちの小僧どもだの、獅子の面に、奇妙な服装の小僧、珍しい魔道具まで使うようだな。フフン、どれ、この儂に試してみよ。その魔道具、確かめてみたい」
隼人は、先ほどの年齢を感じさせない鋭い動きと洗練された格闘の技に口だけではない自信をみなぎらせて対峙するその姿に最大の警戒をする。
(いかにも死線を潜り抜けて、戦闘の中で身に付けた強者の威厳をかもしだしているな。戦闘を楽しむように生きてきたんだな)
隼人に向かって歩を進めてくる。
ジャッファが、あごをしゃくってくる。
撃ちとれるなら撃ち殺せと言う事らしい。
手ごわい手駒は少しでも減らしておきたい。
老兵は刀を正眼に構え、少しづつにじり寄る。
盾も持たず、近くには遮蔽物もない、グロッグの前にはあまりにも無謀に隼人には思えた。
(いや、此処は異世界。遠慮などしていてはあっという間に、屍になるのは俺の方だ。戦闘不能にと思っていては隙を突かれる。完全なる死を。完膚なきまでに全弾撃ち込んでやる)
瞬間に無手にグロッグ17を出現させるとフルオートで歩み寄る老兵目掛けて撃ち込んでいく。
「パパパパパパパパンッ!パン! パパパパパンッ!」
「キン!チチチチチチンッ! チン! チチチチチチン!」
連続して撃ちだすグロッグの硝煙の向こうで金属の連続した音が響く。
老騎士は、自分に向かってくる銃弾がほぼ体の中心に集まってくる事を見切ると、その刀をわずかに振ってその側面で弾丸の軌道を逸らしていた。
隼人の射撃が、致命傷になる中心に集中したために僅かな刀の動きですべての弾丸を見切ったうえで逸らしてしまった。
「どうした? お前の魔道具など僅かに早い軽い礫を飛ばすだけの物にすぎんようじゃな。つまらんな」
動揺した隼人は、残っていた残弾を撃ち込む
「パン! パンッ」「チン! チン!」
隼人の目の前で完全にその銃弾を弾いて見せた。
(ばかな? 銃弾を刀で弾く? そんなことが出来るはずがない! イージーコルトバイソンにマグナムをくれ!!)
隼人の手に、漆黒の闇を思わせるコルトバイソンが現れる。
(隼人、コルトで制圧する確率…40%!)
両足を肩幅にひらく。
両手でしっかりと握る。
息を吐き、息を止める。
老騎士は、銃口を見据えると正眼に刀を構えた。
「ドーン!」
「ザンッ!」
グロッグとは違う重低音の重い炸裂音が響く。
同時に今までと違う金属の音が響く。
刀を振りぬいた老騎士は、何事もなく振りぬいた刀を又正眼に構え直す。
老騎士の右の地面に、土煙、左後ろの灌木に弾丸が木の皮を弾き飛ばした。
どうやら、弾丸を一振りで切断した様だ。
(制圧の確率 0.25%)
絶望的な確率が左目に浮かぶ。
(隼人! 来ます。縮地で一気に間合いを詰めてきます!)
老騎士の姿がブレる様にかすんだかと思うと、隼人の目前に片足を上げて現れた。
膝先だけのスナップを利かせた往復の蹴りが、隼人の顔面に炸裂する。
目の前が、真っ白になる。
頭を振られて、一瞬意識の遠のいた隼人の棒立ちの胸元を強烈な前蹴りが突き飛ばした。
「ドガッ!」
土煙を巻いて転がる隼人。
イージーの忠告も間に合わず、成す術もなく倒されてしまった。
(この場を切り抜けて離脱する確率20%)
突き飛ばされて、逆に意識が戻った隼人のかすむ目に土煙の中をゆっくりと歩み寄る老騎士の姿が映る。
「どうした? そんな薄っぺらい魔道具などに頼っていては体術の術も取れんようだの」
老騎士が見下ろす。
(離脱確率10%)
(なんだ? こやつ、図太い魔力を感じる。亜人か? なぜこれほどの魔力を持ち合わせながら魔術を使わん? 山賊にしては奇妙な奴。連れ帰るか)
隼人は、ピンチを切り抜けようと頼みのジャッファを横目で見る。
「うわ~っ はなせ~バケモノ」
足を咥えられ地面に叩きつけられるジャッファの無残な叫びと姿が目に飛び込んできた。
「オルスタイン! 殺してはならんぞ。少し用がある」
騎士に声をかけられた黒馬によってジャッファは、ぼろ雑巾の様に地面に転がされた。
(脱出確率5パーセント!)
「くっくそお!」
隼人は思い浮かんだ、ピンチの時の救世主の姿を。
(はっ! そうだソフィさん!見えているんだろ。イージー! ソフィさんの遠距離射撃だ!)
(…………)
(どうした!ソフィさんの)
(隼人、申し訳ありません。ソフィさんは一週間前に有給休暇の申請が出されています。おばあさまの白寿を祝うためにロシアのサンクトペテルブルグに帰省中です。お祝いの電報を打つことが可能です。[] チェックを入れる・OK?)
(うっ? おおOK……ちがーう!!)
(離脱確率0%)
(……0%)
(…0%)
(…0%)




