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5.蘇った男…ちょっとネ~

 

「黒獅子!! やはり、いたか。フフフ、食うに困って山賊などやっておったか。新しい体を手に入れたこの俺が、山賊黒獅子を成敗してやる」


 デカい図体の上に乗ったちいさな頭が甲高い声で喚きちらす。

 ジャッファは、相変わらずこのちぐはぐでバランスの悪いバケモノを冷めた目で眺めている。


(なんか、いろんな者たちがくっついているようだな)


「フフハハッ 死霊術師ベベル様により蘇らせてもらった此の体、以前の俺と思うなよ。見よこの体、この剣裁き、黒獅子貴様如き、腕が覚えた此の双剣の餌食にしてくれるわ」


 トマスは、生前の小柄な体に自己嫌悪を感じていたのか、つぎはぎだらけにデカくなった体がうれしくてたまらないといった風にまくし立てる。


「…………」

(うっせーわっ! 蘇ってくんなっつうの)


 双剣を見せつける様に振り回すトマス、ジャッファは心の中では毒付きながらも黙ってその様子を眺める。

 男が剣を振り回すたびに、纏わりついたぼろきれが舞い、クサイ異臭が辺りに立ち込める。


「さあ、かかってこい!」


「…………やだ」


「さあさあ、かかってこぬかー!」


「……いやだ……」「気持ち悪い」


「なに! 臆したか、行くぞ黒獅子!」


 そう言って一歩踏み出そうとするとその足を地面から盛り上がってくる土塊が包み込む。

 もう一歩踏み出した足は地面からいきなり生えたカズラの蔦が絡みついてくる。


「なっなんだ?」


 絡みつく蔦が足から這い上り下半身まで絡みつく。

 足元の土は柔らかくなり、底なし沼の様にトマスをズブズブとカズラの蔦が引きずり込んでいく。


「ゲッ 魔法か? ずっずるいぞ! せっかく貰ったこの剣豪の体、剣で勝負せぬか~、くそっ」


「…………」

(このまま、埋めちまおうかな?)


 ジャッファは、口をへの字に結ぶと首を傾げた。


「フンッ すまんな、つまらん者の相手をしたくないんでな」


 とうとう首まで埋まって、口だけで喚きちらす男に近寄るとさっさと首を跳ねてしまった。


「うわ~、わ、わしの体が せっかく手に入れた立派な体が~」


 小男の首だけになった男が口だけで喚きちらしている。

 ジャッファは、元の棺桶の中に首を蹴飛ばした。


 騒ぐ生首を無視して黙って棺桶の蓋をクナイで閉ざしてしまった。

 蹴り飛ばした際に着いた足の汚れを気にして一生懸命に草に擦り付けている。

 バケモノを倒したことより、足の汚れが気になったみたいだった。



 制圧をはたしたガルシア達は、立派なテントに身を潜めていた元代官とその取り巻きの小役人たちを引きずり出すとその周囲を取り囲んだ。


 地べたに座らされた元代官が(わめ)く。


「山賊ども、我らに手を出して只で済むと思うなよ。我らは、アルトマン公爵様の代理人、この国において、貴様らの安住の地などないと思え」


 ガルシアが、落ち着いた声で諭す。


「まあ、元代官様よ。アルトマン公爵の強引なてこ入れで、コートジオール伯の城への登用の代わりにとプラディアの代官に収まっている間に随分好き放題やってくれたじゃねえか。怒れるプラディアの(たみ)の代表としてお前さんに民の拳を受けて貰わねえと気が済まないんだよ。」


「お前が、持ち去ったプラディアの(ざい)は返してもらうぜ。お前の飼い主アルトマンにも直にあいさつにいってやるぜ。野に潜む草の者にも魂ってものがあるんだよ。貴様ら貴族だけが人間じゃあねえんだ。お前たちが殺した民の痛みをその右腕に感じてみるんだな」


「ドン!」「ぎゃーっ」


 言うが早いか、ガルシアは脇に立つ冒険者の腰に差していた大剣を抜き去ると元代官の片腕を切り落としてしまった。


 血をまき散らす代官の肩口に近くの松明から燃えあがる炎をとり押し付ける。


「ジュワッ」「ギャ~ッ」


 乱暴な止血に元代官は白目と泡をふいて失神してしまった。



「……終わったな……」


 無様にのびている代官と顔を背け恐怖に怯える取り巻き達を見おろすとそう呟いた。




「ブヒヒヒーン」


 少し離れた粗末なテント。

 隼人が銃弾を撃ち込んで反応がなかった静かなテントの脇に、いつの間にか黒馬が寄り添い、ひとつ甲高いイナナキをした。


 中から欠伸と共にガサゴソと物音がする。


「こんな夜中に、年寄りにはきついの~。どれ一仕事するか」


 この戦闘の最中に、たった今起きたというようにのんびりとした声が聞こえた。

 其処から、軽装の皮鎧に光る金属の胸当てと小太刀とも思える剣を一本携えた壮年の男が現れた。


 黒馬が男の側に寄り添う。

 ガルシアがジャッファに目配せをする。


「奴だ、見ないと思ったらまだ寝ていやがった。此の戦闘の最中に何て奴だ」


 男が声を張り上げる。


「賊の頭領に物申す。儂の名はイザーク・チアキ・フジワーラ。

 命が惜しくば、さっさと立ち去るがよい」


 そう叫ぶと集まっている傭兵団の前へと,ズイと進み出てくる。

 黒馬が後ろへと控える様に附いてくる。

 年の頃は60にも届きそうな壮年の騎士で、髪には白髪がまじり若いころにはならしたであろうその体も、ガルシアが集めた精鋭の男達を前にすると酷く貧相にさえみえる。


「おい! 賊ども、その役人共の命は此の儂が預かっている。余計な手出しをするではないぞ。財宝までは、儂の知る限りではないが、そ奴らに死なれたら儂の給金が減るのでな。お前らの用事は済んだとみえる。さっさと立ち去るがよかろう」


 味方の兵士は、すべて倒れ込み守るべき役人たちは捕らえられ、周りはジャッファや傭兵団に囲まれながらも、少しも臆することなく何事でも無い様に、たった一人の壮年の男が立ち去れと、戦闘で気の立った集団に命令している。


 黒馬の首筋を撫でながら


「こやつも気が荒い、暴れ出さんうちに立ち去るとよい」


 傭兵団の一人が、無造作につかつかと歩み寄っていく。


「なんだ爺さん、お前たちの兵士は一人として立って居る者などいないんだぞ。周りをよく見ろよ。あまりデカい口を利いているとケガするぞ」


「パン!パン!」「せりゃっ!」


 男が言い終わらないうちに、平手で往復にひっぱたくと一本背負いに地面に叩きつけてしまった。

 地べたで呻く傭兵団の男に顔を寄せると言い放った。


「おう、ケガをするとはこういう事かの?」


「ズウーウ」


 片刃の小太刀を抜き去ると、鞘をテントの中へと投げ入れる。

 老騎士の周りに得体のしれない何かが立ち昇る。


「作ったばかりの気に入った刀じゃ。つまらん刃こぼれは惜しいのお~」


 そう言うと両手で持った刀をクルリと峰に返した。

 両手でぶら下げたまま、傭兵団の中へと軽い駆け足で無造作に近寄っていく。


 槍兵の鋭い一突きが近寄る老騎士に繰り出される。

 首をひょいと傾け、槍を躱し脇に掴むと勢いを殺さぬまま手前に引く。

 突き付けた槍兵は槍を引っ張られてたたらを踏んだ。

 その泳いだ顔面へと老騎士の膝がめりこんでいた。


「グハッ」


 血の付いた歯をまき散らして一人がくずれると横から大剣のおお振りが、振り下ろされる。

 其の小手に合わせる様に老兵は踏み込むと、小太刀の峰で大剣を握る拳を叩いた。


「ゴッ」


 骨の折れる鈍い音が夜の闇に響き渡り、大剣をとりおとす。


「ブヒヒヒーン」


 そこへ主を助太刀するかのように、黒馬がヒズメを上げながら突進してくる。


 ガルシアが叫ぶ。


「散れ! かたまるな。離れて取り囲め」


 傭兵団の皆が散らばる。

 隼人は、この馬だけでも大人しくさせようとグロッグの銃弾を馬の顔面めがけて撃ち込んだ。


「パン!パン!パン!パン!パン!」


 馬の首が、ロールを描いて凄まじい速さで動く。

 硝煙の向こうで、何事も起こらなかったかのように馬は隼人を睨みつけていた。


(なんだ!? どうなったんだ。傷ひとつ負ってないぞ)


 馬の口がモゴモゴと動く。


「ゴリリッ ゴリッ ゴクン」


 なんと隼人の打ち込んだ弾丸はすべて見切られてその馬鹿でかい歯で受け止められていた。

 そのまま、弾丸を咀嚼するとゴクリと飲み込んだ。

 隼人には、その馬が笑った様に感じた。


「ブヒヒーン!」


 老騎士が声をかける。


「オルスタインよ、そんなものを食べるんじゃない。腹をこわすぞ」


「ブヒヒヒーン」


 隼人の頬に汗が浮かぶ。


「なに、此れだけの弾丸を見切って受け止めた? ばかな」


 隼人の脳裏にかってのキャンプでのクーガーのしなやかに避ける姿が思い起こされた。



 ジャッファは、老騎士から目線を外さぬままガルシアの元へと歩み寄る。


「ガルシアさん、思わぬ伏兵だ。たった一人と侮って此方が一人一人たおされる恐れがあるぞ。最初の目的は達成している。これ以上の戦いは無意味でけが人が増すばかりだ。奴も大人しく立ち去れと言っている」


「俺と隼人が対峙している間に財宝の馬車を引いて皆は撤収してくれ」


 ガルシアが頷くと合図の笛を短く吹いた。


「ピーッ 野郎ども撤収だ! 関わっちゃならねえ」


 男達が後ずさり、老騎士を取り囲む輪が大きくなる。

 一人抜け、二人抜けいつの間にかジャッファと隼人だけが残っていた。


「なんだ、お前たちは逃げぬのか?」


「ああ、後詰って奴よ。しばらくおっさんの相手をしてやるよ」


 ジャッファのこめかみに熱くもないのに汗が噴き出した。

「ほう、この儂を楽しませてくれるとな。若造二人で何が出来るか見てやろうかの」



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