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襲撃…ガルシア傭兵団


スラムの顔役ガルシアは、荷車一台の商隊とそれを守る護衛の冒険者といった装いで街道を進んでいた。


 護衛を含む50名ほどの代官たちの王都へと帰る一行に、附かず離れず附いて回っている。

襲撃のタイミングを見計らっていた。


 行商をして回る商人たちは、野盗や野獣魔物の襲撃に備えて、大きな隊列について回る事はよくある事なので隊列の者達に怪しむものはいなかった。


 夕暮れも近づき歩みを止めて、街道沿いの開けた場所に野宿の準備が始まる。

宿場町までたどり着けない旅人たちの為にこうした場所が街道沿いに森を切り開かれて設けられていた。

それに合わせる様にガルシア達20名の一行も、100メートルほどの距離を置き道沿いに野宿の準備を始めた。


設営をする手下の様子を眺めるガルシアの横に、近くの木の後ろからユラリとジャッファが現れる。


「どうだ、奴らの様子は?」


「スタン」と軽い物音と共に、同じ木の上から隼人も飛び降りてきた。


「おうっ! 脅かすねえっ」


いきなり横に現れたジャッファに、一瞬の驚きを見せたガルシアだったが、すぐに平静を装うとこれまで観察してきた様子を話す。


「ああ、前の宿場で馬も変えて休養もたっぷりと取っている。道も整備が行き届いて足を痛めている者もいないみたいだぜ。代官を含む役人たちとその周りの者達、あと30名ほどの護衛の兵隊たちと武具を纏った馬に乗った騎士も一人いる。兵たちは徒歩と馬車を交代し、それを繰り返しながら万全の構えに見えるな」


「朝方の鍛錬を目にする事もあったが、武官の一人は相当な手練れに見えるぞ。用心した方がいいな」


「ちょっとは名の売れた剣術使いの老練な騎士だ」


「俺たちの方でも、膝や腕を痛めて冒険者家業を諦めていた者たちが、お前から貰った薬で回復して手伝わせてくれと志願してきている。

それなりに、昔ならした手練れ共だ。雑魚の兵隊など目じゃねえぜ。

代官の野郎に一泡吹かせてやろうと息まいてやがるぜ」


ジャッファの渡した金と薬で、ガルシアは冒険者崩れの者達を治療し養いながら、小さな傭兵団を作っていた。

規律の取れた軍隊の様な傭兵団ではないが、魔物を狩るために独自に身に付けた各自の戦闘の技をそれぞれが有しているまさにスラムの狩人たちだった。


ジャッファは頷き、要点を手短に話した。


「よし、打合せどおり奴らの集めた蓄財を奪う。代官を打ち倒す必要はない。奴らの守りが手ごわくて蓄財を奪えないなら無理をするな。死人を出すぐらいなら蓄財の奪取には拘らなくてもいいからな。此処でアルトマンの勢力に楯突くものが居るということを見せつけるだけでも計画は成功とする」


「寝静まるのを待って夜襲を掛ける。隠密に長けた者を三人ほど貸してくれ。先に夜番の見張りを静かに倒していく」

「騒ぎに気付かれたならテントから飛び出してくる者達に狙いをつけて弓矢と隼人の銃で撃ちまくれ。切り結ぶ際にも一人に対して二人以上で対峙出来る様にうまく立ち回ってくれ」


「ガルシアは、撤退の期を見誤らないように気を付けろ。迷わずに撤退の笛を吹いてくれ」


ジャッファは、集まってきた三人に奇襲の詳細を話すと岩トカゲのマントをそれぞれに渡した。

自らも、マントを羽織ると黒獅子のマスクをつける。


「!!」「「「黒獅子!」」」


「あんたが、俺たちの仲間だったのか? こりゃ~面白くなっちまったぜ」


一人の男が面白そうにつぶやくが、空中に浮かぶ獅子の面だけになったジャッファがニヤリと笑うと其の不気味な容姿に軽口をたたいた男の顔は引きつってしまった。


「行くぞ! 付いて来い!」


「……おっおう!」


四人が闇に消えていく。




夜番の若い兵士は、昼間の道中も交代で乗り込む馬車にも乗せて貰えずに歩き疲れて木に寄りかかりながら周りを照らす松明の明かりをぼーっと眺めていた。

木の上から降りてきたアラクネの細糸で出来た輪が、自分の首にかかり締め付けるまで、静かな薄明りにまどろんでいたが、一気に締め上げられ木の上に釣り上がっていく。

締め上げられる首元を緩めようと藻掻くが、自重で食い込んだ細い糸は首筋を断ち切らんばかりに食い込んでいた。


テント前の松明の横で立哨する兵士の首筋にいきなり赤い一筋の切れ目が入ったかと思うと、大量の血液が噴き出してきた。

透明な何かに口元を抑えられて、眼だけを白黒させていたが直ぐに静かになりゆっくりと抱えられるように横になった。


岩トカゲのマントを脱いだ男は、テントの入口に音もなく忍び寄るとテント出入り口をナイフで穴をあけ皮紐で二か所ほど縛り出口を閉ざしてしまった。


ジャッファたちは、次々と見張りの兵士たちを静かに倒していく。


一人の男は、姿なき姿で森に潜む獲物を狙うように足音も立てずに一つのテントに近づいていった。

中を伺おうと、手を伸ばした瞬間、何者かに服の襟首をつかまれ持ち上げられた。


目の前には爛々と光る黄色いまなこが光る。


「グワッ」


恐怖に驚く間もなく、鎧を身に付けた黒馬が男を咥えて地面に叩きつけた。


「オルスタイン! 静かにせよ。夜も遅い。お前も眠るのじゃ」


テントの中から、主らしき男の声がすると黒馬は何事もなかったかのように静かになった。


しかし男の呻き声とその騒動に気付いた他の見張りが騒ぎ出した。


「曲者がいるぞ! 起きろー! ガン! ガン! ガン! ガン!」


ようやく、夜の戸張もおり静かだったテントの群落に奇襲を知らせる半鐘の張り詰めた音が鳴り響いた。


待ち構えていたガルシアの弓使い達が、兵隊たちのテントから飛び出してきた者たちへと次々に矢を射かけている。

迂闊に飛び出した5~6人ほどがテントの入口で彼方此方と射抜かれて藻掻いていた。

先に飛び出して難を逃れたものが、警告の声を上げる。


「迂闊に飛び出すな!! 弓矢が狙っているぞ。盾を構えろ!」 


「パン! パン! パン! 」


隼人も二丁の拳銃を構えると近くのテントに無造作に銃弾を浴びせかけていく。


幾つかのテントでは手ごたえを感じたが、創りのいいテントには魔法の術を施してあったのか銃弾を弾くテントも現れた。

火矢を射かける冒険者の矢も術の施されたテントには刺さらずにはじかれていく。


奇襲を逃れたテントから盾を先頭に兵隊たちが、様子を伺いながら集まってくる。

空中に明かりのライトボールが高々と打ち出されると周りは昼間の様にあかるくなった。

半円に盾が6枚並ぶ、その合間からは長槍が覗き、弓兵が矢をつがえ、近づく者を切り捨てんと剣士が陣を取った。


闇に乗じて、奇襲をかけていたジャッファたちも静かに暗闇に姿を消す。


ガルシアの傭兵団の大男が、腕に小さな盾を取り付けると大声で叫んだ。


「今度は、俺たちの番だぜ! 目にものを見せてくれるぜ。行くぞ!」


隊列の後ろから、合戦の合図の様にお互いの弓兵が矢を射かける。


しかし、先頭を走る男の小さな盾はオレンジに輝き透明な障壁を一瞬に広げると飛んで来る矢を弾いてしまった。

ガルシア側の矢も同じように兵隊たちの魔法の盾によりその大きさ以上に透明な障壁を作り出している。


お互いの弓矢の攻撃は一兵のけが人を出すことなく尽きてしまった。


特攻隊長の大男が、突き出される長槍を掻い潜ると中央の盾に正面から走ってきた勢いのまま強烈なタックルをぶちかました。

 盾を支えていた兵士ともども相手の陣形の中へと転がり込んでいく。


 大男は、長槍と盾を構える兵士たちの間を立ち上がりもせずに転げまわりながら足だけを狙って短いナイフをふるう。

 大男とは思えない機敏で素早い動きでわずかばかりの傷を棒立ちに立ち並ぶ兵士たちに切り付けて回る。


「ワハハハッ 俺が傭兵団『魔界の緑渕』の切り込み隊長イグナッシオ様だ!

おめえら覚えておけよ! これから幾らでもおめえらの耳に飛び込んでくる名前だ! 足の痛みと共に思い出すがいいぜ!」


そう叫ぶ男に、後ろで控えていた剣士たちが剣を突き立てようと近寄ると、素早く地を蹴って混戦の場から離脱した。


その崩れはじめた陣形へと続く冒険者たちも、長槍を打ち払いながら飛び込んで行く。


最初のジャッファたちの奇襲によって、敵兵の数もだいぶ削られてはいたが、この切り込み隊長の決死の働きで怪我人が出ていないガルシアの傭兵団へと大きく戦局は傾いてしまった。


足元を切られ、うずくまり使い物にならなくなった盾持ち、槍の兵士たちの間を剣士たちが動きづらそうに冒険者たちと戦っている。

人数的に大きくゆとりのできた傭兵団は一人の剣士に対して二人かかりで攻め入っていた。



そんな中、大きなテントから荷車が引き出されてくる。

荷車の上には「棺桶」。

粗末な棺桶が一つ乗っていた。


「ひっ!ひいーっ」


荷車を引き出した小男が棺桶の蓋を外すと逃げ出していった。


剣士たちを無力化し、戦況を伺っていた冒険者たちも何事かと注目する。


棺桶の中から皮鎧の下に包帯だらけの男が立ち上がる。

大きな体の割には小さな頭、細長い引き締まった腕。

何ともバランスの悪い体つきに見えた。


包帯の間から、血走った眼だけがぎょろりと周りを見渡す。


「ふん、ふん、匂うぞ! いるんだろ~黒獅子~。出てこい!俺様が相手になってやる」 


包帯男が荷車から降り立つと、2メートルを超える体躯の姿が周囲を威圧した。

棺桶に一緒に入っていた大剣を背負い、細身の片手剣を両手にぶらりと下げる。

顔を突き出す様な猫背の体からは、腐った様な異臭を辺りに振りまいていた。


剣士を倒した二人組が、この異様な男に近づいて行く。


「フンッ なんだ墓場へ行きそびれた死体が強がってやがるぜ。もう一度切り刻んで棺桶に摘め直してやるぜ!」


二人が、挟み込むように包帯男にジワリと迫る。

正面のひとりが柄に仕込んだ投げナイフを叩きつけるようにして放ったと同時に突きの剣を片手で長く伸ばした。


「チン」「ギン!」


目に見えぬほどの双剣が素早く動くと、所見のナイフを弾き飛ばし、突き出された剣を握った腕が宙を舞っていた。

後ろから、同時に兜割に包帯男の頭上に振り下ろした剣は僅かに届かず、包帯だけがちぎれて、はらりと落ちる。

振り向きもせずに、後ろから仕掛けた男の胸に細剣を吸い込ませていた。


「グオホッ!」


胸を突かれた冒険者が血反吐を吐いて包帯男に倒れ込む。


「ウヒッ! きたねえな寄るな! 下郎!」


細剣を抜き取ると蹴り飛ばした。


その包帯の取れた男の顔が、かがり火の赤い炎に照らし出された。

ジャッファは、この戦いを僅かに離れた藪の暗がりから見ていた。


「!! あれは、あの顔は。代官の屋敷で殺したはずのトマスとか言う小役人! あの異様なデカい体はなんだ。いやあの双剣の剣技。見覚えがあるぞ、代官の飼っていたごろつきの三人組の一人の双剣使いの動き!」


真相を確かめるべく、ジャッファは男の前へと姿を現した。



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