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王都へ…二人の愚策

「代官が任を解かれて、王都へと帰ってくるようだ。2週間ほど前にプラディアを出発した様だ。領地で不正に取得した財と共に都へと帰る。蓄財は繋がっている公爵へと渡される前に、此方でいただき辺境伯へと返そう。裏の書面があるはずだ。それも出来れば手に入れたい」


「代官は、殺さずに生かして王都へと逃せば必ず公爵へと接触をはかるはず。戦争へと導く悪だくみ、ローデン王国転覆への企みが聞けるかもしれない。

 その現場を押さえよう」


 ジャッファが、これからの計画を隼人に話すと隼人も思いついたように自分の機材が使える事を話した。


「ジャッファ、それなら良い魔道具があるぞ。映像と音声を録画し離れたところでも聴くことが出来る魔道具だ。公爵の屋敷に仕掛けよう」


「よし! 先ずは王都の屋敷に其の魔道具をしかける。いくぞ」


 驚いたことに、ジャッファの洞窟には王都とプラディアへと飛ぶ魔法陣の設備が整えられていた。

 立ち上がるオレンジの輪。

 重たい空気を吸い込むと全体を包んでいた光が地面の魔法陣へと収束していく。


「着いたぞ。ここは王都の隠れ家だ」


 人の足では,三月は掛かると言われた王都ラウデブルグに瞬きする間もなくついたと言う。

 魔物が、生涯を生きて貯めた魔石に蓄積されたエネルギーを魔法陣と言う現代人の隼人には理解しえない魔法に変換する装置で、一瞬の内に移動してきている。

 隼人は、驚きながらも隠れ家だという屋敷を見回した。

 暫くすると、隼人たちの気配に気が付いた屋敷の者が現れた。


「ミゼル、暫く世話になるぞ。此奴も一緒だ。隼人だ」


 ミゼルの後ろから、もう一人商人風のさして特徴のない男が現れる。


「その男は? この転移の秘密の小部屋に連れてくるには信用のおける奴なんだろうな?」


「ああ、プラディアの商人仲間だ。口は堅い。ジャッファ、貴族の情報に詳しい男だ。お前の役に何かと役に立つ。紹介しようベッケンハイムだ」


 隼人は、眼を見開いて驚いた。

 ガイアスの屋敷でなんどか会った事があるコートジオール辺境伯の家来のベッケンハイムだった。

 隼人の驚く顔を面白そうに片目をつむり笑った。

 黙っていろということらしい。


「新しく大森林に村を起こしたというジャッファか、俺にも一仕事かましてくれれば損はさせん。村を発展させるのに力を貸すぜ。商売でもうけさせてもらうがな。コートジオールのベッケンハイムだ、よろしく頼む」


 そういうとベッケンハイムは右手を差し出した。


 お互いの紹介が終わるとミゼルが切り出した。


「全く、お前はいつも突然だな。今度はなにをやらかすつもりだ」


「なーに、大したことじゃないさ。戦争を起こそうとしているアルトマン公爵の首をすこし締め上げるだけだ。お前たち商人にとっちゃ戦は金が動く。残念だが商売の邪魔するとこになるかもな」


「ふん。アルトマンが力をなくす。その話だけでも飯のタネにつきないぜ。いい話だ。勢力図が変われば金の流れも変わる。先んじて動けば儲けの話にもつながるものさ」


「侵入するにあたって、アルトマンの屋敷の見取り図が欲しい所だ。ミゼル」


 言葉を捕らえてベッケンハイムが答える。


「そうだな。3年ほど前に屋敷の廊下の敷石の修理の入札があったことを覚えている。あの時の石工をさがしてみよう。見取り図が作れるかもしれない」


「内部への手引きする者の手掛かりはどうだ」


「それは、むつかしいだろう。下働きの下男に至るまで身辺の調は、うるさいと言われる。すこしでも不審なものは、取り調べがあるようだ」


「生半可なことでは、協力してくれる者はいまい」


「そうか、侵入は自力でって事か」


 隼人が、盗聴器の使用距離いついて話した。


「アルトマンの執務室や客間から半径1キロ以内に潜伏出来る所がほしい。それ以上だと声が聞き取れにくい」


「うむ、それも難しいな。奴の屋敷は貴族街の中心だ。潜伏するとなると周囲の貴族の屋敷と言うことになる」


「アルトマンの派閥からはずれている貴族を探すか。それとも警備の手薄な所を探すか」




 一時のち、隼人たちは、ベッケンハイムの馬車の荷台に荷物にまぎれ、下級貴族街から丘の上の上級貴族街に聳え立つアルトマンの屋敷を見上げていた。


「崖を利用して、上級貴族街と下級貴族街に分かれているという事か。丁度見晴らしの良い崖にせり出す様にアルトマンの屋敷は立っている。崖の上下で下級貴族の屋敷だ。高さもあり崖下から侵入するには要塞の様なアルトマンの屋敷だが、距離的には、申し分もないな。あそこは誰の屋敷なんだ」


 訓練場のような広い敷地を保有しながら、建物はだいぶ手入れが行き届かないのか傷んだまま放置されている。庭師の手も永い事いれられていないことが伸び切った植栽からも分かる。使用人の姿も少ないのか、そこは空き家の様にひっそりとしていた。


「ああ、エアハルト家だ。引退した爺さんの代までは、武勇の名門で名を馳せていたんだが、息子が先の戦争で死んじまってからは、弟子や家来たちも一人抜け、二人抜けとすっかり斜陽の家だ。爺さんの貴族年金と娘が第三騎士団に騎士として勤めて細々とやりくりしているみたいだな」


「武勇の名門の女騎士か? 強いのか?」


「……」


「いいや…………まったく。爺さんのコネとかっての名声で騎士団に入れてはいるがドンくさい女だと聞く。だが美人で男たちの受けがいいもんだから首にならずに済んでいるということだ」


「屋敷には、じいさんとその娘、そして使用人の老夫婦が二人、あわせて四人其れだけだ。広い庭に木立も多い。潜んで居るには申し分ない」


 それから二日後、隼人とジャッファは見取り図と装備を整えると、広い屋敷の木立にまぎれて潜んでいた。

 朝の鍛錬なのか年寄りが一人、木剣で素振りをする傍らで使用人が手桶と手ぬぐいを持って控えている。

 娘の姿は、見ることはなかった。


 夜になり、かっては使用人や弟子たちが暮らしていた離れが三戸立っていたが、明かりが入ることはなかった。

 母屋から離れたその一つに、隼人たちは潜り込む。

 隼人が、窓からの木洩れ日に気を付けながら指向性のあるマグライトで床に置いた見取り図を開いた。


 潜入は、ジャッファが一人で行く事となった。

 応接間と書斎の二か所にカメラ付きの盗聴器を仕掛ける。

 隼人が、カメラのアングルやセットの仕方を細かく説明する。


 段取りが終わると、ジャッファは岩トカゲのマントを羽織り、黒獅子のマスクを身に付けた。

 魔力を通すと岩トカゲのマントは周りに同調し、姿がみえなくなる。

 その上にある黒獅子の顔だけが空中に浮かんでいるように見えた。

 獅子の口元がニヤリと笑う。

 首だけの笑う黒獅子に隼人は鳥肌がたった。


 丁度アルトマンの屋敷の崖下に近い所に立つ小屋。

 崖側の窓を開けるとするりとジャッファは抜け出した。


 隠密な行動でなければ、盾を出現させて次々に飛び乗りながら崖の上をめざしたいが、オレンジに発光する盾はこの暗がりでは目立ってしまう。

 ジャッファは、クナイを次々と崖に突き立てると其れを足場に身軽に登り切ってしまった。

 崖の上の塀の向こうへと黒獅子のマスクが消える。


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