特訓だよ!…隼人くん
ガイアスの弟子として、過ごしてきたジャッファにとって、隼人達を襲ったベベルの使った魔法は、思い当たるものがあるようだった。
「隼人、お前達を襲ったベベルとか言う魔法使い、突然現れたとか言ったな。アーニャの横から、一瞬で回り込んだり、リタの背後を突然取ったり、たぶんその技は縮地という技だろう」
ジャッファは、隼人達からベベルの使う魔法について話を聞いていた。
一瞬で移動するその動きに、隼人達が付いて行けずに被害をうけた事への対策を考えていた。
「剣技を極め、魔法も使える達人にその技を使う者がいると聞いた事がある。
だが、ベベルは話のイメージからすると完全な魔法使い、剣さえ携えてはいなかったと聞く。最初にお前達から見えないところへ転移で移動し、そこから短い距離を縮地で近づいた。と言ったところか」
「縮地が、出来る様になれば、その動きも目で追えるようになる。相手が現れたときから、魔力を身に纏わせていれば、その動きに対応も出来る様になるはずだ」
「少しだが、見せてやる」
隼人とジャッファは 洞窟の前の広場で10メートルほどの間を置いて向かい合った。
「構えろ! いくぞ」
ジャッファが、隼人に向かって一気にダッシュしてくる。と、その姿が一瞬で飛び飛びに残像を残して消える。
「オッ!」「ザザッ」
隼人の喉元へ短剣が押し付けられたのち、ジャッファと眼が合うと、みぞおちに拳を叩き込まれた。隼人は、土煙を巻いて後ろへと吹き飛ぶ。
「俺の、未完成な縮地でも避けられなかったな。短剣が本気なら、お前は死んでいたな」
隼人は、血の混じった唾液を吐き出す。
「もう一度だ。もう一度見せてくれ」
(イージー! 録画が出来たか。動きの前のシュミレーションを出せ。その動きに対応して動く)
隼人の脳内は、普段の数倍の思考スピードに切り替わった。それに合わせて魔力を体中に纏う、筋肉を動かす信号の早さも数段に上がる。体中の筋肉はしなやかに動き、隅々まで神経が行き届き覚醒したような気持になる。
ジャッファが、一気に突っ込んでくる。
残像が見えた様な所は、2メートル事の空間を飛ばし飛ばし近づいてくる。
ジャッファが、腰の短剣を抜いて繰り出した所へ、手首を掴むと小手返しに引き込むと腰を入れた。
投げられたジャッファは、空中で驚いた顔を見せたが柔らかく海老ぞる様に体を曲げると着地と同時に、掴んだ隼人の腕をもう片方の手で払い除けた。
「なに!」
完全に地面に叩きつけたと思った隼人は、これを反応して防いだジャッファの能力の高さに驚いた。ジャッファは、無理矢理に取られた腕を外した所を摩る。
「ほう! 今の一回で見える様になったか」
隼人の意外な対応に口角を上げる。AIイージーが縮地の解析を告げる
(隼人、ジャッファは移動する全面の空間を僅かに削り取りながら後ろへと投げつけながら移動してきます。スローモーションの画像でも縮地の始まる体の前面に魔法の出現を感知できます。空間を削り取りながら移動する事によって瞬間移動している様に見えているようです)
隼人は、イージーからの話で縮地のイメージが湧いてきた。
(俺にも出来るか)
(今は無理です。ジャッファと同じように一気に加速しながら前面に魔法を使います。ガイアスに空間を削り取る魔法陣を書いた羊皮紙でも作ってもらい其れを発動しながら駆けまわり縮地を身に付けましょう)
(縮地の発動には、訓練の必要がありますが、縮地を使ってくる相手には対応出来ています)
「よし隼人、実践で身に付けろ。魔物相手に通用するか。試してみるぞ」
「付いて来い!」
ジャッファは、大声で叫ぶと走り出した。隼人も魔力をまとい全力で走る。
異世界で幼い頃より、魔力を身に纏い野山をかけ、野生の獣や魔物と対峙してきたジャッファ、昨日今日、力を付けてきた隼人とは、体の使い方が違った。
森の中を道なき道を、藪を強引につききり、木々を躱しながら走る。
時には、木の側面を蹴り木から木へ、ジグザグに空中を移動していく。
小さな沼は、そのまま飛び込むと水面に盾を出現させ、二三歩で走り渡った。
(まずは隼人付いて来い、お前の身体能力どれほどの物か)
森を突き抜けると20メートルほどの断崖へと出たが、ジャッファは走りを緩めることなく、そのままダイブして行った。
眼下に突き出たように立つ大木の先端を掴むと、そのしなりを使い、勢いをやわらげ着地する。
隼人も、つられるように崖下へと飛び降りた時は肝を冷やしたが、一瞬でジャッファの動きをトレースするとその横に着地した。腰を落とし、横目で隼人の着地を確認するとその口角を上げた、すぐにジャッファは走り出した。
(ふん、少しは動けるようだが、魔物に対しては、どうかな?)
森に嫌な腐臭が漂う。
走りぬける足元には、獣の骨が散乱している。
ジャッファは、大木の上へと跳躍すると木から木へと飛び移りだした。
その先には、大猿の群れ。
(お~お、居るいる、ついでに村の周りの脅威になっている猿たちを退治してもらおうか隼人)
黒い人ほどもある大猿の魔物の群れの中へと突っ込んでいった。
突然現れたジャッファに呆けている一匹を、木の上から蹴り落とすと構わずに群れの中を突っ切っていくジャッファ。
隼人も其れに続こうとするものの、さすがに体力は付いていくものの、木から木へと忍者のように移動するジャッファのようにはいかない。
ジャッファを追っていく大猿達を目で追いながら、草木を掻き分け乍ら地を駆ける。
仲間を蹴り落として去っていくジャッファを、呆然として眺めていた大猿たちも、一瞬の間を置いて騒ぎ始めた。群れで狩りをする肉食の大猿たちは、彼らのホームとも言える木の上を伝ってジャッファを追う。
「隼人! 追ってきたぞ」
「そりゃ、あんたが蹴り飛ばすからだろー!」
「アハハハッ 縮地の練習台になってくれるとよ。喜べよ」
隼人は、足元に転がっていた腐肉の付いた骨を思い出すと顔をしかめた。
体力に任せてジャッファを真似て木に飛びついた。バランスを取りながら枝を蹴る。
(イージー! ジャッファの動き、移動する動きをトレースしてくれ。同じように付いていく)
「パン! パン!」グロッグのハンドガンを連射する。先頭を追って来ていた二匹が木の下へと消えていった。飛び移った先の枝で待っていたジャッファが顔をしかめた。
「馬鹿野郎! そんな便利な魔道具を使うな。其の腰のナイフを使え。奴らのフィールドで奴らを翻弄してみろよ。奴らより早く動いて見せろ!」
そう言うと、ジャッファは追ってくる大猿の枝へと飛ぶとその枝へと足をかけ、枝の下から回転しながら猿の後ろへと回り込んだ。襟首をつかみ木の下へと投げ落とす。
「チッ! この大猿たちと肉弾戦かよ」
そう叫ぶと隼人も、枝を蹴り、追ってくる猿の頭上へとその身を躍らせた。
飛び越そうとする隼人を捕らえようと手を伸ばす大猿。隼人は、その伸ばした手の中指を掴み引っ張ると、バランスを崩した大猿は木の下へと落ちていった。
隼人も短い時間で樹上の動きを掴んでいた。空中へと出現させた盾を蹴りつけると大猿のいた枝へと着地する。すかさずにその枝へと辿り着いた別の猿が、隼人めがけて掴みかかってきた。長い腕に、サルの最大の武器ともいえる握力300キロの力。隼人は、一歩踏み込むと其の両手首をつかむ。
「グワッ」其の無防備となった、あごに曲げた膝から突き出したカーボンのレッグガードを突き立てた。浮き上がった頭の隙を突いて猿の腕を引き回す様に木の下へと投げ飛ばす。
「ボーウッ」視界に端に、炎に焼かれて落ちていく大猿が見えた。ジャッファは、迫る大猿たちに木の幹に寄りかかりながらファイヤーボールを打っていた。
「すまんな、面倒になってきた」
いつの間にか、集まっていた大猿たちが二人を取り囲んでいた。
「ふん、もういいだろう。俺も好きにさせてもらう」
右手にコルトバイソン、左手にグロッグを出現させると、イージーのサーチにかかる赤い点を次々に連射していく。周りの木から次々と猿たちが落ちていった。頭上から、襲い掛かってくる一匹を狙いもつけずに撃ち落とす。
ジャッファも凄まじい連射をみせる銃の性能に目を見張った。
「其れが、ガイアス師匠の言っていた銃ってやつか。便利な魔道具だな」
一発づつ溜めが必要なファイヤーボールとの着弾までのスピードも段違いの性能を見せる。気が付くといつの間にか猿たちの叫び声も聞こえなくなっていた。
「どうやら、終わったようだな」
静かに森の中を硝煙の煙が漂う。
「後で、村の連中に猿共の死骸を回収させよう」
ジャッファが木の下に散らばる猿の死骸を眺めた。
「よし! 次だ」




