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小春…ラッキーな男を吊り上げる (挿絵)

挿絵(By みてみん)




小春たち一行は、この大陸で最大の湖バンガニーナ湖へと出た。湖の湖畔の道に沿って街道を行けば、いずれは王都へと続いている。麗らかな陽射しにのんびりと歩を進める。湖へと突き出した岩場の上で、日焼けしたがっしりとした小男が魚を釣っていた。


興味の沸いたソルが、声を掛ける。


「マス、釣れるかい? おっちゃん?」


男は片目を(つむ)り。


「ふんっ 朝から居るがさっぱりだ。餌に魚が寄ってくると馬鹿でかい大魚が寄ってきて追い払っちまう。全く憎たらしい」


そう言って魚籠に入った2.3匹の小魚を見せてくれた。


マヌーが魚欲しさに魚籠の周りを駆け回る。


「にゃかにゃ~! ソル、にゃかにゃ~」(魚だわい! ソル、儂は魚が所望だぞい)

(しばら)く、冷やかしに眺めていると、餌に食いついた魚ごと大魚がそれを掻っ(さら)っていく。


「畜生め! またヤラレタわい。」


ソルがウルに細い返しの付いたモリを手渡した。

モリの後ろにはロープを結ぶ輪が付いており、端のロープをソルが握る。


「チン!」


ウルはソルの意図を理解したのか、腰の大剣を少し引き抜き音を響かせた。

小柄な娘は、光り輝く鎧を身に(まと)う。


「おっおもしろいな! 小僧ども。獲物は山分けだぞ」


男の竿に小魚が集まりだすと、それを狙って大魚の群れも押し寄せた。


「今! バシュ!」


鎧の姿で力を得たウルが、モリの後端に指を引っ掻けて水面に向かって投げ込んだ。

「ビーン」とロープが張り水面にしぶきを上げて走り回る。

掴んでいたソルが力任せに引き上げると空中に大魚が躍り出た。


「「やった!」」


皆の声が重なった。ピチピチと草むらで跳ねまわるサーモンの仲間だろうか。

優に1メートル以上ある。マヌーがベシベシと魚の頭を叩く


「おっちゃん! 竿はいいから餌をばらまいてくれ!」


「よし! きた。盛大にいくぞ」


男がえさをばら撒くと、水面が泡立つように魚がバシャバシャとライズする。それを狙って大魚が大きな水しぶきを上げだした。


「よーし! どんどん行くよ~!」


ウルが次々とモリで仕留める。ソルがずるずると水辺へと引き上げる。

それはまるで、流れ作業のように続いた。


大漁だった。


気が付くと草むらには60匹余りの大魚が跳ねまわっている。

マヌーも子猫の姿で、忙しそうに魚の頭を叩いて回っている。


「やった~! やった~! しゃーけっ、しゃーけっ、焼きシャケ~っ! 早くたべよ~」


小春が小躍りしている。

すると男が。


「まっ待て、此れだけ新鮮な魚だ、焼くだけなんてもったいない。少し待て」


男は背負い箱から皮の包みを取り出すと、小さな鉈の様な包丁と薄刃の長い刺身包丁を取り出した。


「儂は、旨いものを食いたいが為に料理人の腕を磨きながら旅をしている。儂が料理してやるから、火でも起こして、しばし其処の丸太にでも座って待っていろ」


「ダン! ダン!」


男は、背負い箱をまな板にして大魚を載せると豪快に鉈の様な包丁で解体し始めた。


三枚におろした魚を、薄刃の包丁に持ち替えると皮付きのまま冊に下ろす。

鉄串を取り出すとソルに渡した。


「強火で皮から炙って表面だけ焼いてくれ」


残りを薄く刺身にしていく。

ゆっくりと引く薄刃の包丁が、きれいに刺身の角を立て、身を崩さずに美しい切れ目を(のぞ)かせている。

草むらから切ってきた大きな厚手のテラテラと光る葉にそれぞれ載せて小春たちの前へと差し出した。

小さな容器から黒い液体をかける。


「此奴は、湖でとれる小魚と塩で作ったソースだ、生魚にあうぞ。試してみろ」


小春は、表面に薄く虹色に油の浮いた一切れを口に運ぶ。

舌先に魚のねっとりとした新鮮な油を感じる、咀嚼すると魚自体の味が口の中にひろがる。

魚醤のくせのある塩けがその甘みを引き締めた。


「おいし~! おっちゃん。てんさーい! 旨いよ」


鉄なべにグラグラと沸かしていた所に、僅かに身の付いた骨をぶつ切に、そして割った頭を放り込んだ。


木箱から、黒い堅パンを取り出すと薄くスライスする。

先ほどソルに焼かせていた冊を受け取ると、分厚く切り出した。

外は焼き目が付き、中はまだ新鮮なピンク色を残す。


玉ねぎまで入っていたのか、薄くスライスするとパンに合わせて挟んで、今度はクリーム色のこってりとしたマヨネーズにも似たものをかけてくれた。


「儂の作った、スペシャルなソースだ、中々珍しいものだ。味わって食え」


ウルが、「ハグハフ」と食らいついた。


「うん! おいし~っ パンに魚の油とソースが染み込んで半生の魚とあってる。少しの玉ねぎの辛さが合わさって又いいね~」


ウルも満足そうにかぶりついている。


「鍋もそろそろいいだろう」


男は、椀から大きくはみ出した骨付のスープを皆に配る。

近くに生えていた、山椒のような小粒の木の実を包丁の腹で砕き粉にしてパラパラと少しの緑を添える。


小春は、大きな魚の頭にかぶり付き骨に着いた身をチュウチュウとすする。

目玉をほじくり出すと周りのゼラチンがプルンと口の中ではじけた。

唇の周りの肉はプルプルとして何とも変わった感触がした。


椀を傾けスープを口にすると干した香草で臭みを消した魚の出汁に少しばかりの岩塩の塩気が効いて絶妙な味加減を見せている。


小春にとっては、新鮮で魔素を含んだ上にこの上ない料理の仕上がり、素晴らしい料理の数々だった。


顔をあげると、ちいさな器に琥珀色の液体をいれて刺身をあてにチビリとやっている。

小春たちが、おいしそうに食べる姿に満足そうに眼を細めていた。


子猫のマヌーを相手に魚の大きな切り身を目の前にちらつかせては「あげないよ」とからかっていたが、其のうち。


「ブオン」


と一瞬、黄色い太い腕が見えたような気がしたが、マヌーに切り身を奪われてしまった。

小春の傍らに、横取りした得物を咥えて座る。


「むにゃらむにゃうまうまあ」


と喜びの声を発しながら食べだした。


ガルフは、小春たちが美味しそうに食べる姿に満足そうに眼を細めていた。

ソルが食べ終えて礼を言う。


「おっちゃん、料理うまいんだな。これからどこへ向かうんだい」


聞きながら、草むらの魚をどんどん収納袋へと放り込んでいる。


「なんと!! おぬし、魔法の収納袋持ちか? 魔法使いか?」


ソルの何でもないように大きな魚が消えていく姿に驚いている。

小春が少し考えていたが。


「おっちゃん、うちらと一緒に王都へ行こうよ! 小春の家来にしてあげる」


「フハハハハッ 面白い、このガルフ.ガンダルウスが小娘の家来か。考えておこう」


ソルが耳元で小さく声を掛ける。


「おっちゃん、この子は、プラディアの魔導士ガイアスの娘だよ。そして僕はその弟子、決して怪しい者じゃないよ。それにこの魔法袋、さっきの魚達いつまでも新鮮で何時でも料理に使えるし、ほかにもほら、ワイバーン何て入っているよ。串焼きとか作ったりしない?」


「なかなか。便利な小僧だなお主! いいだろう。儂にとっても新鮮な食材は魅力的、それに旨そうに食ってくれる子供らを見るのも楽しいものだ」


ガルフと名乗った男は小春の前に、仰々しくも片膝をつき片手を胸に手を当てると大声で宣誓した。


「我は、アンナブルーナを生まれにするドワーフの元騎士、ガルフ.ガンダルウス! プラディアの姫、小春姫を守る斧となりましょうぞ。いかなる悪しき者共の手からも主を守ることを誓いましょうぞ。道中の守りはこの儂に任された」


小春も面白そうに乗ってくる。


「この小春の盾となり、身を尽くすがよーい。この小春の先に立ちふさがるものを打ち払う斧となれー。我の騎士に順ずるを誉と思うがよいぞー」


興にのった小春は短い変身のコールを叫ぶ。


「蒸着!メタルフォーゼ.アクトⅡ!!」


周りの大気がピンクに染まると渦を巻き小春を包んだ。

其処には、アニメの衣装を身に付け、魔女っ娘の杖を携える小春。

ガルフに向かい杖を振る。


「ガルフ.ガンダルウスに天空の魔女小春の名において、メタルフォーゼの恩恵を与える」


ピンクの光の粉がガルフに降りかかる。

光が晴れると,そこには黒い全身鎧と戦斧を携えたガルフが現れた。


「なんと! これは」


「ガルちゃん! あたしの魔法が効いている限り、ずっと其の鎧使えるからね。

斧は、イメージとして『アダマンタイト』で蒸着してみたの。そんな金属有るのかしれないけど、きっと丈夫なはずだよ」


「着るときは、メタルフォーゼってカッコよく叫んでね。決りだからね」


(なんと!! 本物の魔女か? もしくはこの世に聖女が現れたのか? どうやら儂は、この小春殿の騎士になったらしいわい。何やら面白くなってきた)


(ちびっ子の聖女に魔法使い、力持ちの銀の鎧娘にこの儂、黒の騎士。フフフ、面白いのう!)


元の姿に戻ったガルフが又自分の木箱を背負った。

小春たちの一行に、ドワーフのガルフが加わった。

四人が並んで歩くと、皆がちんちくりんのちびっ子の集団に見える。




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