小春のご馳走
小春たちは湖沿いの街道を進む。
「!」
『この先、美味しいものあります』
不細工に汚い文字で書かれた看板が立っている。
「ウルちゃん! おいしいモノって何だろうネ! お団子かな~大福かな~」
更に行くと。
『美味しい物この先の道右に曲がれ』
ソワソワする小春。
「ウルちゃん! 行ってみようよ。異世界のスッごく美味しい物かもしれないよ!」
「だめじゃ! だめじゃ! こう言った胡散臭い看板などろくなものなど在ったためしがありませんぞ。騙されてはなりません」
ガルフが子供たちを宥める様に言って聞かせる。
「でも、ほんとに美味しいモノ有ったらどうする~、ねえガルちゃん~いこうよ~。ウルちゃんも、ほら一緒に頼んで」
小春とウルが身をくねらせてガルフを困らせる。
「仕方、有りませんな。何があってもこの儂が守りますが用心なされよ」
一行は湖畔から離れ、鬱蒼とした密林の小道へと歩を進める。
小春は、寂しげな林に少し不安になってくる。
『美味しいもの、岩イチゴもあるよ』
「なんだろう? 岩イチゴって」
又、興味を引き立てる様な看板が出てくる。小春の不安を消し去り食べ物への執着を掻き立てる。暫く歩くと,一軒の寂れたぼろ屋が見えてきた。入口に美味しい物屋と汚い文字で書かれている。
「うーん、こういった汚い店構えにきっと美味しい物ってあるんだよ。ガルちゃん」
小春は自分に言い聞かせるように店へと入って行く。がらんどうの部屋に大きなテーブルと其れを囲む椅子が並ぶ。皆で座って待っていると、大きなコック帽とマスクで顔を隠した白いコック姿のでっぷりとした男が現れた。
大きなイチゴの入ったボールをテーブルの上に差し出す。
「マズハ此れヲ、食べながらオマチクダサイ…ぶひっ」
そう言うと奥へと引っ込んで裏で何やら「ズーゥズーゥ」と刃物を研ぐ音が聞こえる。
小春が楽しそうに。
「岩イチゴって本当に大きなイチゴだったね。でも、あのオジサン最後に「ぶひっ」とか言わなかったー。なに「ぶひっ」て可笑しい~」
ガルフも笑顔でイチゴをつまむ。
「フフフッ オークにしては「洒落」が効いてますなー。小春殿」
「このイチゴにしても最後の食事でも出したつもりかの~。どうやら儂らが、奴らの『美味しいご馳走』という事らしいですぞ。店の周りは取り囲まれましたな」
「「えええっ」」
ウルとソルは慌てて立ち上がる。
「ソウダ、お前ラハ、マヌケナ御馳走。お前ラヲ、喰ってニンゲンの知恵ヲツケルンダ」
コック帽を外した不細工な豚顔のオークが大きな牛刀を両手に持つと手下を連れて現れた。
一匹が四つ足で走ると入口を塞ぐ。
店の外にも、ブヒブヒと手下が待ち受ける気配がする。
「ふん! 皆、付いてくるんじゃ」
ガルフはクルリと入口に向き直ると「ダッ」と入口を固める太ったオークに突進した。
「ゴガッシャーン!!」
オークごとタックルで入口のドアを吹き飛ばした。
転がり出る様に外の道へと飛び出していく。
小春たちが、続いて店からでると10匹ほどのオークに店は囲まれていた。
「おおーう、オークだよ! 美少女を狙うオーク。テンプレ~、此処はあたしが」
ズイッとなにか勘違いする小春が前へと出ようとする。
物語の主人公になっている勘違いから全く恐れというモノを感じていない。
「いやいや、小春殿、折角聖女殿の加護を授かった儂だ。儂に試させてはくれまいか」
そう言ってガルフが前へと躍り出た。
律儀にも約束どおり、きめ顔でおっさんがセリフを叫ぶ。
「蒸着! メタルフォーゼ! 魔に染まりし戦斧ドゥランダルフ! 来い!!」
辺りが、黒雲に覆われ突風が吹きすさぶ。
周りの豚どもは何が起こったのかとオロオロと周りを伺う。
片手を天空に突き出したガルフに黒い禍々しい鎧が、取り付いていく。
「ダーン!」
黒雲の間から巨大な戦斧ドゥランダルフが落ちてくるとガルフの前に着き刺さった。
全長3メートル太い握りに先端に鋭い槍を付けた分厚い斧の刃が黒光りする。
ズンと軽く抜くとブンブンと振り回しだした。
風を巻き、土塊を巻き込んで嵐の様相を見せる。
あまりにもの迫力にこんなはずではと、豚どもは及び腰になっている。
「ナニヲ、コンナチビ騎士にビビッテイル」
先ほどの薄らデカいオークが牛刀を一振りする。
「ガッ!!」
二人の間で激しい火花が散る。振り下ろしてくる牛刀を戦斧でうける。
オークが更に、もう片方の牛刀を横殴りに叩きつけてきた。
「ガキーン!」
クルリと斧を引くとアダマンタイトの固い六角の柄が牛刀ノ厚い刃を叩き折ってしまった。
「ブッ」
回転するようにその隙を無駄にしない。たったそれだけで、戦いは一瞬の内に終わってしまっていた。オークにとっては、自分の死さえ感じる恐怖さえ与えて貰えなかった。まわした戦斧の刃の上にはすでに、豚の頭が切断されて乗っている。
刃の上の頭を残してデカい図体が後ろへとスローモーションのように倒れていく。
「ブヒ! ブヒ! ブヒ!」
首領を倒されて周りのオークたちが騒ぎ出した。
「騒いだところで許しは、せんわい!」
「ダダダッ」
と、目にも見えないほど回転する戦斧を振りかざし、小さなつむじ風のようにオークたちの間を駆け回る。
其の後には頭と胴体の離れた豚の肉があちら此方と肉の山を築いていた。
「ソル殿、良い肉が手に入った。余計なものを除いて収納じゃよ」
「うぇ 気持ちわりーな。此れ食べれんの?」
ガルフが、オークは上等な脂身の多い肉だと説明する。
王都の辺りでは人も襲うが、人からもうまい肉が取れることでよく狩の対象になっているのだという。
「肉! 豚肉!! 豚肉と言えばとんかつ! ガルちゃん、とんかつだよ!」
小春が、たった今の戦いの余韻も感じさせずにとんかつと叫ぶ。
小春の眼には、いつか横浜の中華街でみた豚の顔を開いたものと目の前のオークの顔が同じように、食材として映っているようだった。
「ハハハッ 小春殿はぶれないの~。確かに此処は美味しいもの屋だったな。ならば、厨房を借りるとするか。ふふ」
店に戻り、奥の厨房を除くと準備がよいのか竈には火が起こしてあった。
ガルフは手早く、肉の一部を冊にすると木箱に残っていた堅パンを包丁で潰し始めた。
固く乾燥した堅パンが小さく粉になっていく。
油身のラードを切り分けると店に少量あった油に合わせて鉄なべで溶かしていく。
頃合いを見計らうと厚手に切った豚肉にパン粉をまぶし投入した。
「チリチリチリッ」
最後はかなりの高温で脂分を飛ばす。
少し茶色く色づいたトンカツが出来上がった。
一口大にザクザクと切る。
ふわりと中から湯気が立ち上った。
「出来たぞ! すこしラードがしつこいが、若いお前たちには構わないだろう」
ウル、ソル、小春、三人並んで香り立つトンカツに見入る。
ガルフが、魚醤とクリーム状のソースを合わせたものを掛けてくれた。
ソルが恐る恐る、フォークで突き刺すと口に運ぶ。
「サクッ」…「!!」
「うまい!」
ラードの野趣が少々香り強く感じるがオークの脂身の甘さが引き立っている。それにソースの甘辛さが乗っている。
付き合わせに店に置いてあったのかアスパラの茹でたものをポリポリと食べる。
小春が満足そうに言った。
「おっちゃん、やっぱり美味しい物あったんだねえ~」
「「アハハハッ」」
ウルとソルも釣られて笑った。
その時、ガタゴトと厨房の外の薪小屋から音がする事にガルフは気が付いた。
「しっ! まだ敵が潜んでいるようだな」
ウルたちはそっと小屋の隙間を除く。
「ウルちゃん、女騎士いるの? ねえ女騎士掴まっているんでしょ」
(オークに掴まっていると言えば女騎士でしょ)
小春は、ラノベに染まった思いをウルに尋ねる。
そう言っている間に小屋の戸が外れ、猿ぐつわに縛られたムサイ男が転がり出てきた。中を覗くと5人ほどの男たちが掴まっていた。
ガルフが猿ぐつわを外す。
「助かった! あんた達がオークを退治したんだな。奴らの罠にはまって畜生」
聞けば男たちは、順番に小春たちと同じように看板に釣られてやってきた所を掴まったのだという。
「全く、いい大人がこんな看板に釣られるんじゃねえ! 馬鹿ども!」
ガルフの一喝に掴まっていた男達はシュンと小さくなってしまった。
男の一人の腹がグウグウとなる。
「フン、飯も食っていないようだな。こっちへ来い」
ガルフは厨房へと皆を連れると又大量のトンカツを作り出した。
狡猾なオークの群れが、地域で悪さを繰り返している事で、王都のギルドで討伐の依頼が出ていたのだという。
男達が、涙と鼻水を流しながらトンカツを、むさぼり食っている。
「ちきしょう! うめえなあ」
その依頼を受けて探していた所を逆に先の看板に釣られて掴まってしまったという事だった。
「あんた達も、王都のギルドに行くといい。此のオークの群れには懸賞がかかっているんだ。ギルドで受け取るといいさ」
「俺たち6人は、C級冒険者『レグロスの咆哮』というんだ。俺の名はギルモアだ。此の間抜けなレグロスの団長をやっている。宜しくたのむ。今回は依頼を失敗しちまったけど王都に帰ったら、この助けてくれた礼はするよ」
小春の女騎士はと思う当ては外れ,ムサイ男達6人と王都のギルドで又会う約束をすると小春たち一行は旅立っていった。




