魔人現る
朝早くに、出発する前に立ち並ぶテントを調べていた隼人は、大きな麻袋に入った魔石の粉を三体見つけた。
「ジョニーさん! 来てください。大量の魔石です。これで修復していたのでしょうか」
「ああ、間違いない。収納しておけ。何かの役に立つかもしれん」
後の目ぼしいものは村で役立てろと言って、アーニャを先頭にして魔石回収に巡回路へと向かう。
入口の辺りで早速アーニャが鼻をクンクンとさせたかと思うと。
「此処だーっ、リタ此処を掘ってー」
土塊と共に空中に魔石が渦を巻いて飛び出してきた。
オレンジに薄まってはいたが、拳大の立派な魔石が転がり出てきた。
アーニャが喜んで飛び跳ねる。
「やったにゃ~、お宝発けーん」
道中で次々と魔石を見つけては、掘り起こしていく。
又一つ、魔石が転がり出てきた。
その石に「スッ」と手が伸びる。
「おおっ 何とも素晴らしい魔石ではありませんかー。ひとつ私めに譲っていただく事は叶いませぬか?」
「「!!!!」」
隼人たち全員、その男が何時からその場にいたのか誰も気づかなかった。
30歳ぐらいの長髪に森を歩くには不自然に小奇麗な恰好のヤサ男。
隼人の首筋に汗が流れる。
「ドン! ドン」
轟音が響き渡る。
ジョニアスがコルトバイソンを抜いていた。
「うわっ 酷い! 新調したばかりだというのに穴が二つも。仕方がない。此れと交換と行かないですか」
男は平然としながらも、肘から先の白い手首を差し出した。
「ああぁー」
振り向くと血だらけの腕をリタが抑えて崩れそうになる。
何時の間にリタの腕を切り落としたのか、腕をその場に放り捨てると今度は目の前からリタの後ろへと瞬間的に立った。
崩れそうなリタを抱きとめる。
「オウッ、もったいない事をした。こんないい女だったか」
隼人が、グロッグを向けると。
「おっと! 危ない魔道具を人に向けるなヨ。坊や」
リタを盾にするように抱え上げると、その首筋を舐める。
いつの間にか静かな足取りでアーニャが男の後ろへと回り込んだ。
「フッ」
男の首に吹き矢が刺さる
男は僅かに振り向くと、届く距離でもないアーニャを蹴り飛ばした。
「ドン!」「ぐえっ!」
ゴロゴロと土埃と血反吐をまき散らして転がる。
「アーニャ!」
「フフッこんな物、虫に刺されたようなものよ。生憎とこの私には毒は効かないよ」
首筋に刺さった毒矢を引き抜くと隼人を見ながら「ペロリ」と舐めとった。
「此の魔石も私の物だ。魔石の袋を奪っただろう。この女と交換といこうか?すべて持ってこい!」
男の黒い爪が気を失いかけているリタの白い喉元へと食い込んでいく。
その周りから、どす黒く変色していく。
「持っていけ!」
隼人は、男の前に魔石の大袋を三袋出すと後ろへと下がった。
男の周りをオレンジの光が立ち上がり回りだす。
「あっ」
男が、リタを魔法陣の外へと蹴り飛ばした。
男が消えていく。
「パン! パン! パン! パン!」「ドン! ドン! ドン!」
隼人とジョニアスはありったけの銃弾を浴びせかける。
光が収束し、銃弾のまき散らす土埃だけが舞い上がった。
「リタ―ッ!!」
隼人は、真っ青になってリタに駆け寄る。
抱き起こすと、僅かに目を開いた。
「ごごめんよ、へまをやっちまったよ」
「喋らなくていい!」
抑える腕からは血が流れ続けている。
「隼人! ガイアスさんから預かっている薬だ!」
急いでマーマリアの薬をその傷口に振りかける。
派手に紫の蒸気が立ち上る、
もう一本を取りだすと、アーニャと半分ずつ口に流し込んだ。
「ごふっ」
アーニャは、もう一回血反吐を吐くと息を吹き返した。
「アーニャ! 気が付いたか!」
薄目を開くと悔しそうに片方の口角を上げる。
「リタは?」
血は止まり腕の傷口は塞がりかけている。
しかしその首筋の黒く変色した物は僅かに広がっていく。
苦しいのか眉間にしわを寄せたまま、その瞳は開くことはなかった。
うわごとの様な声が漏れる。
「……やと…………はやと…」
「俺は、此処にいるぞ! 安心しろ! 絶対助けてやる。俺は嘘をつかなかっただろ。リタ聞こえるか!」
隼人は、リタを抱きしめる。
其の鼓動は、弱弱しくも確かな温かみを隼人に伝えてきた。
(リタは、絶対に助ける! くそうあの野郎。あれが親父の言っていた敵の魔導士か。此の敵は必ず!)
リタの腕を拾ってきたジョニアスが声を掛ける。
「急いでプラディアに帰るぞ! リタの回復の方法を見つけねばならん」
快復したのかアーニャがロバを引いてきた。
担架を作りリタを載せると片方をロバの腰に縛る、その後ろを付いていくように隼人が持った。
アーニャも付いてくる。
ジョニアスがロバの手綱を引く。
担架の中で変わり果てたリタが横になっている。
昨日は、女神のような美しさを見せた女。
あの美しい笑顔を取り戻したい。
(心の中で一生守ると宣言したじゃないか、俺はなんて無様なんだ。此の世界の力が足りない。リタの為にも力が欲しい。必ず助けるよ……リタ……)




