隼人の気概
村に戻るとテントから飛び出した所を打ち抜かれたのか、丁寧に二発ずつの銃弾を浴びた死体が三人転がっていた。
「隼人、そっちの首尾はどうだった?」
「問題、ありません。アーニャが吹き矢で、俺がナイフで二人やりました」
「そうか、残りは狩りに行っている連中だな。今の銃撃の音が聞こえたなら近くにいるなら帰ってくるかもしれん。村の入口で待ち伏せよう」
ジョニアスは、村の正面の森の入口に向かって指向性クレイモアM18を仕掛ける。
程なくして男たちが急ぎ足で帰ってきた。
ジョニアスの推測どうり、村の近くで聞きなれない炸裂音を聞いて帰ってきたようだ。
「バアアーン!!」
ジョニアスが遠慮なく、音を気にする事もなく起爆スイッチを押した。
現代兵器の洗礼を浴びた五人のうち二人は手足が吹き飛び地べたに転がる。
血だるまになりながらも三人は剣を抜いた。
隼人とジョニアスは、藪から身を現わす。
二人並んで銃口を向けると一斉に銃弾の雨を降らせた。
「…………」
すべての音がやみ、辺りに静寂が戻ってくる。
驚いて飛び去っていた鳥たちも囀りだした。
人々も恐る恐る顔を覗かせると、見知ったアーニャがいることで集まりだした。
力のある若者たちは大半が殺されてしまったのだろうか。
年寄りと女子供ばかりだ。
「隼人! ほんとにあたい達だけで兵隊をやっつけてしまったよ。アーニャの村の為にありがとう。ジョニーさんありがとう」
リタが嬉しそうに礼を言う。
「リタ、俺たちはこの転移陣の破壊とこれを構築する奴らの殲滅が目的だよ。これは俺たちの仕事でもあったんだ。お前こそ手伝ってくれて礼を言うぞ」
ジョニアスのレイバンが光る。
「さて、転移陣だがどうした物か? 範囲が広すぎて俺たちでは手に負えないな」
リタが怪訝な顔で。
「魔方陣へ魔力を送っている魔石を取り除けばいいんだよ」
「それが、巧妙に隠されているから難しんだ。ガイアスさんなら魔法陣自体を魔石と切り離して別の場所へと移して無効化できるが、俺達にはそんな魔法は使えないしな」
アーニャがそっと手を上げる。
「……あの~、隠してある魔石を探せばいいの? 巡回路沿いにあたしが匂いで探せると思うけどやって見るよ」
「「本当か! 魔石に匂いが付いているのか? 探せるのか?」」
ジョニアスと隼人の食いつくような剣幕にびっくりして後ろに後ずさりするアーニャ。
アーニャの申し出に魔法陣解除の当てが出来た一行は、仕事は翌日からとしてその日は、兵士達の残したテントで泊まることとなった。
質素なランプが汚いテントの中を照らし出す。
「隼人、お前もこの世界に来てから肝が据わったようだな。こちらの世界じゃ話をするより先に剣が先に出る。迷ったらそこで終わりだ。殺しに来る奴らには、躊躇をするな、分かっていると思うが俺たちは生きて帰ることが最優先だからな」
「ええ、今日改めて人を殺したんだと実感しました。命の軽い世界なんだと感じました。遠慮していたらあっという間に殺されてしまう。常にイニシアチブを取りながら話をするにしてもいつでも殺せる気概が必要な気がします。」
「まるで戦時中の中で暮らしているみたいだ。若いころ傭兵部隊へ入った時、アフリカのある国に送り込まれたのを思い出すぜ」
ジョニアスが口角を上げて恰好をつける。
その時、テントの入口に影が差す。
「だれだ!」
「あたいだよ。リタだよ。すこし隼人を借りるよ。隼人、月夜がきれいだから散歩をしよう。まだあたいは、あんたのご主人様だからね。フフ」
「バシッ!」
いきなりジョニアスが隼人の尻を蹴り飛ばした。
「フン! 行ってこい! 男になってこい」
「テエ——ッ。何も蹴飛ばさなくても」
隼人は小言を言いながらもうれしそうにテントを出た。
外は、リタの言ったとうり煌々と月が森の木々を照らしている。
「こっちよ」
村の裏手の小高い丘。
緩い斜面を月に照らされゆったりと昇る。
辿り着いたところは、村を眼下にその向こうには樹海がどこまでも広がっていた。海を噴き渡る風のように木々が煌めきながら光を流していく。
天空には異世界の大きな満月が、はっきりとしたクレーターを幾つも覗かせて輝いている。
異世界に住み体内に魔石を持つ魔物や人々は大気中の魔素が満月の影響で密になり活性化し、大気の魔素を取り込もうと気持ちが昂る。
「きれいな月ね」
月を見上げるリタの横顔を隼人は眺める。
「ああぁ きれいだ」
「あたいの事をもっと知って欲しかったの。あたいは物心付いたころから親はいなくて、スラムで仲間と暮らしていたんだ。生きて行くために仲間と悪い事もいっぱいやったよ。でも、本当に人が悲しむような、悲しませるような事はしていないつもりさ」
「好きな男が出来た時、恥ずかしい思いをしたくはないからね」
リタが隼人を見る。
リタのうるんだ瞳に明るい月が輝いている。
「たった二日前に会ったばかりなのに…………こんなろくでなしの女だけど隼人……あたいと」
隼人は、とっさにリタの唇に人差し指を押し付けた。
「待って、その先は男の仕事だ!」
「リタ、正直に言おう。俺とジョニーさんはこの世界の人間じゃあないんだ。異世界を渡ってきた。その異世界にはまだ口に出しては言ってはいないが好きな女がいる。可愛い人だ。きっと俺はその人を愛している。その人も俺の事を好きだと思う。帰ったら付き合うことになると思う」
「…………」
「その人が好きだ。…………だけど……お前も同じくらい好きだ。我がままだろうと思われようとお前が好きだ! 俺の物になってくれ。俺の女になってくれ」
隼人にしては、必死に思いの丈を隠すことなくぶつけた。
リタが笑う。
「強い男には、いい女がたくさんいるものさ。それだけ魅力的な証拠だよ。隼人が惚れるぐらい、いい女ならあたいも鼻が高いモノさ」
「あんたの女になる前に、まだあたいは、あんたの主人だから、あんたはあたいの物。もう喋るのは禁止!」
そう言うとリタは隼人の首に両手を回した。
明るい月のお陰でリタの瞳に映る隼人自身が見える。
(リタを見つめる俺は、こんな顔をしているのか、なんて幸せそうな男が映っているんだろう)
長いまつ毛がおろされ、瞳を閉じた柔らかい女の顔がまじかに迫る。
頬に当たる僅かな柔らかな産毛とひんやりとした感触。
温かい女の唾液の匂いが鼻腔をくすぐるとすぐに唇にむっちりとした感触が伝わってきた。
隼人の舌を求める様に絡みついてくる。
隼人もリタのすべてを求める。
思いの丈を、その唇にその首元に、その柔らかな胸にパンと張った臀部からすらりと長く伸びた足へリタのすべてを求めた。
二人にとって、初めてで長くて短い夜だった。




