寝台のガイアス
寝台のガイアス
いつもウルたちがいない時には、ひっそりとしているプラディアのガイアスの屋敷は、珍しく来客で、手伝いの婆さんが忙しく茶など沸かしていた。
春先の雪も消え、麗らかな陽射しが窓辺に差し込む。ガイアスの寝所の窓は開け放たれ、此方に来客を招いている事が分かる。
「そうかい。今回の騒動は、アルトマン公爵が裏で動いているのかい。随分大物だな。厄介なこった。下手すると国が割れる戦争にでも発展しかねねえな」
「ガイアス殿、まさか貴方が病床に居られるとは思ってもおりませんでしたが、此れでは、色々と頼み事をと思って参りましたが、お力をお借りするわけにはまいりませんね」
「アルトマン公爵がアルタラスへと進行する際には、湧き出ている魔物討伐にたけた我が辺境伯に力添えをと打診があるのですが、何やらきな臭い他の動きも気になるのです」
「魔物の少ないアルタラスでなぜ魔物討伐を想定しているのか。又、我がお館様エルモ.コートジオール様は、国王様派であられます。アルトマン公爵は、追従する貴族たちに南部成敗の暁には領地の確約までされているようなのです。これは、現ローデン王国の三割にも及ぶ領地の取得ともいえるのです。あまりにも力を付けすぎる事は、現王国の脅威ともいえます」
プラディアのあるコートジオール辺境伯の諜報部に属するベッケンハイムと名乗った男は、一息に相談の事実をガイアスに打ち明けた。
「アルタラスには、魔物の群れは出ねえと思うぜ」
「?」
ベッケンハイムは首を傾げる。
「あれは、アルフヘイム皇国が企んで、魔法使いをアルトマンに貸し与えているんだが、大森林の魔物達をタラスへと送り込むように大掛かりな転移陣を創りやがった。タラスの近くに大掛かりな排出の転移陣が構築されていると聞いて、調べた事がある。大掛かり過ぎて不完全な仕掛けだったよ。わずかだが魔物は転移してきているようだが、脅威と言うほどのモノでもない。又性懲りもなく、新たな魔法陣を組もうと動くかもしれないがな」
「なんと、先駆けて動いて居られたか。その事での相談でもあったのだが、その事は、お館様にも報告をさせていただく事で構いませぬか」
「それについては、改めて褒賞がありましょう」
「安心されるには、まだ早いんだぜ。俺は此のとうり動けねえ。新たな魔法の構築を組まれる前に、その魔法使いを叩かねえと又、元の木阿弥ってことにならあ」
「……うーむ 魔法使いには…魔法使いですか?……」
ガイアスは、かっての弟子ジャッファを思う。
しかし、貴族を憎むジャッファがこの仕事を受けてくれるとは思えなかった。
ベッケンハイムは少し困ったような表情を見せたが。
「いえ、これは我が軍の仕事、此処まで手伝って頂いたガイアス殿には余りにも、無理強いは酷というものでしょう」
「ありがとうございました。後は私の方で手配いたしましょう」
ベッケンハイムは、ガイアスの体を気遣う配慮を言うと屋敷を後にした。
プラディアの屋敷に無事に到着していた隼人たちは、来客中だとの手伝いの婆さんの話を聞き別室でガイアスとの面談を待たされていた。
客が帰ったとの報を得て、門番の爺さんやらとガイアスの部屋へと向かう。
窓辺の寝台に起き上がり、外からの光がガイアスに影を生む。
精彩を欠きチリチリの髪には、所々白髪さえみえる。
「フッ 隼人か よく来たな。異世界を渡れたか」
ジョニアスもエネルギーの塊のようにバイタリティーに溢れていた男がベッドで白んで居ようとは思いもしなかった。
「ガイアスさん! 師匠! いったい何があったんです。その姿は」
「ジョニー、お前まで此処へ来たという事は研究所の絡みか? 今回の広範囲転移陣の影響が地球にも表れたという事か」
勘のいいガイアスが、隼人たちの訪問で只ならぬことが起きている事に気が付いた様だ。
隼人の周囲に重たい空気が立ち込める。
18年も自分達に隠し事をしてきて、出会いの際にも何でもない事のように、目の前の男は実にあっけらかんとしている。
小春が行方不明に、なっている事さえ知らずにいる。
父親としての仕事を放棄している様に思えた。
「ふざけるな! 親父。小春が行方不明なんだよ。この異世界へと連れ去られているんだ! 心当たりはないのかよ!」
異世界の住人に連れ去られたことで、今まで怒りの捌け口のなかった隼人はガイアスへとあたる。
小学校への入学で桜の下で少し寂しげな母子の写真を思い出す。
大事な時に、いないこの男の家族への思いは、あるのかと問いただす。
「母さんが、どんなに落ち込んでいるのか。分かっているのかよ。小春は親父の娘だぞ。もう少し可愛がるとか労りの気持ちは湧かないのかよ。いろんな事があるたびに、母さんと小春でやってきたんだ。金だけ渡せば家族を養っているとでも、思っているのかよ」
掴みかかる隼人を制して、慌ててジョニアスが割って入る。
「隼人! 家族の辛かった事は解る。ガイアス師匠も出来ることは、やってきたんだ。俺は、研究所で師匠が転移してくるたびに家族を心配して気にかけていた事を知っている。秋絵さんだって異世界人同士で,契りあって出来た家族が普通の家族のような生活を望めない事は解っていたんだ。」
「それに今、こうして師匠を詰め寄る事が目的で、異世界へと来たのではないだろう。俺達には、目的がある。師匠は、その大事な協力者だ。冷静に成れ! これは、仕事だ」
ジョニアスが続ける。
「ガイアス師匠、俺たちは現在の地球で魔物の出現が続いており、その封じ込めの対策として送り込まれてきました。師匠が何らかの原因に詳しいのではと考えております。また、師匠のお子さんの小春ちゃんが異世界人に連れ去られた為、その保護も任務の一つになっています。分かることが有りましたら是非協力をお願いしたいのですが」
「ああ、たった今その話をしていた所だ。隣国の魔導士が、好き勝手に魔法陣を創りやがって、その影響が地球の魔物出現へと繋がっているのかもしれない。こちらで、問題を起こしている奴らは、俺たちと辺境伯が叩く。此方にある転移の魔法陣は俺が壊す」
少し済まなさそうな顔になると。
「小春の事だが、この屋敷へと転移した様だ。理由はわからねえ。今は、たぶん俺の弟子が一緒に居る様だ。すこし残念なところがあるが悪気があってのことではないと思う。小春も俺の弟子も俺が気付いていないとでも思って遊び歩いているようだ。弟子と一緒に居る小春なら何処にいるかは、わかる魔法を使える。」
「小春は、すぐにでも此処へと連れてくる事になるから安心してくれ。俺の娘だ。俺が何とかする」
ガイアスの頼もしい言葉に、転移の目的の大半が達成されそうな事にジョニアスは、少しの肩の荷が下りた。
「それを聞いて、安心しました。小春ちゃんの事は気がかりですが、師匠のお弟子が付いているとの事であれば心配はいらないでしょう」
「ジョニー、此処の地下室に転移の魔法陣の装置が組んである、そこからお前たちの持ってきた通信機ででも研究所へ連絡を入れてくれ。繋がるはずだ。物品の転移も可能だから必要なものを頼むといい」
ジョニアスは、隼人に向かい。
「案外、早い事仕事が片付きそうだな。転移陣の破壊をガイアスさんと協力して俺たちも立ち会おう。それが終われば三人で此処の転移陣から研究所へ帰ろう。俺としては、もう少し魔法をマーマリア殿に教わりたかったがな」
ジョニアスと隼人は地下室に向かう。
殺風景な石作りの小部屋には中央にオレンジの粉で魔法陣がくっきりと描かれていた。隼人が魔法陣の中に入る。円陣からオレンジの光が筒状に立ち上がり隼人を包む。
「ジ————ッ」AIが起動する。
「隼人、左目を起動してください。この空間は地球上のネット環境にも適応しています。インターネットも使えます」
隼人の左目にグー〇ルのホームページが映し出された。
「ジョニーさん連絡が出来そうです! ジョニーさんの通信機で連絡をお願いします」
ジョニアスが、研究所のマークを呼び出す。
「ジョニー! 異世界転移成功したんだな! 心配していたよ。ガイアスさんとは最近連絡が付いたが、君たちの事が心配だったんだ」
甲高いマークの声が嬉しさと興奮の入り混じった声で喜々とスピーカーから流れてきた。
「そうか! 魔物.怪物どもの地球上への流入の対策のめどが付いたのか」
研究所の通信機の周りにたくさんの人の気配がする。
ジョニアスは、まだ其方に魔物を送り込んだ敵が存在し、その脅威が過ぎ去っていない事も説明する。
「ああっ連絡を変った。所長のアランだ。怪物の流入の阻止、此方でも新たな脅威は見つかってはいない。最初の目的は達成できたと考えられる。しかし、いまだ魔物を送り込んだ敵が存在し、コンプリートとは言えない。
国の一機関との話もあり、その敵が存在するならガイアスと共にそれを叩いて欲しい。未然にその脅威を防いでほしい。どうだろう新たな辞令を引き受けてはくれないか」
ジョニアスは、暫く話し合っていたが通信機を切ると隼人に向き直った。
「隼人、新たな辞令がでた。ガイアスさん達を助け、魔物を仕掛けてきた敵を打つ、地球上に沸き起こる脅威の芽を摘めとの辞令だ。今度は、国からの要望も入っている。やってやろうじゃないか」
「まずは、大森林にあるという魔物を取り込む魔法陣とやらの場所の特定、探索から始めよう。見つけ次第此方の領主とガイアスさんに後は任せる。俺たちに出来ることは、先ずそれを見つける事だ」
隼人とジョニアスに新たな辞令が下りた。




