大森林の罠
大森林といえども、其処に巣くう獣たちが、歩き回り獣道を作り又、森の中にもいくつもの亜人族の小さな集落も点在する。街からの、交易も多少はあるため。縦横微塵に迷路のような小道が存在する。その中の一つ、森林の中にある湖へと続くメジャーな森の大動脈ともいえる道を番人の爺さんを道案内に三人で進んでいた。
魔物の最も発生しやすい場所、餌になる動物たちが集まりやすい水場の近くに魔法陣が仕掛けられてはいるのではとの推測もあり.先ずは其処から調べてみようと隼人たちは調査に向かっている。広範囲の魔法陣を維持するために、それを見回る人間が常駐するだろうとガイアスの進言を得て人の痕跡を探すのだ。
「敵を見つけても手を出すな。隼人、俺たちはあくまでも敵の人数、魔法陣の範囲を調べる。壊滅は、此処の領主に報告してガイアスさんに任せる。いいな」
湖の畔へと出ると、そこにキャンプを張り、爺さんを留守番に残して、隼人とジョニアスは二手に分かれて、湖の岸沿いを調査に繰り出した。
湖までの道を離れると道らしい道はほとんどない、隼人は、獣道を掻き分け乍
ら人の足跡を探す。
鬱蒼とした藪を抜けた先に、湖へと流れ込む小川と湿地帯へと出た。
隼人の姿に驚いて鷺などの水鳥が一斉に飛び立つ。隼人はなるべく、足場の良さそうな落ち葉の上を歩く。
「ズッ ズズズウ———」 「オワッ なんだ!」
思わず柔らかい沼に足を取られ、其のまま沈み込んでいく。落ち葉の降り積もった底なし沼に飛び込んでしまった。
「オッ! ワ————」
(まっ魔法で! そうだ! 盾よ出ヨ!)
水平に盾が浮かぶが、それも空しく隼人が掴まると沈んでいった。
「ズブズブブ————」
つま先が泥沼の底の何かに着いてようやく止まり、ぎりぎり顔だけが水面に出すことが出来た。
(参ったな。くそ片腕しか上がらない。)
「誰かー! ジョニーさーん!」
隼人は、つい助けを求め大声を上げたが、此処が大森林で魔物の巣窟だということを思い出した。
(だめだ。大声で魔物が寄ってくる。敵に気付かれるかもしれない)
なんとか自力で抜け出そうと藻掻くが、藻掻くほどにジワリと沈んでしまう。
静かになった水面に隼人が追い払った水鳥たちが帰ってきた。動けない隼人の周りで優雅に餌をついばむ。鳥たちが動き回るたびに、隼人の顔まで水の波紋が広がり水を被る。
「うっ ペッぺぺぺぺ! くそ! 鳥!あっちいけ」
隼人は、水に流されてきた空洞のある水草を口に加え、なんとか呼吸を整えようと必死だ。
(くそ! 忍者かよ誰もいないこんな所で死ぬ、いやだ、こんな死に方は嫌だ)
隼人は、口に加えたストローのような水草で必死に息をする。
僅かに、涙さえ流れる。
「………しもーし……」
「もしもーし」…………「大丈夫ですかー」
「!!」
ストローを加えたまま声のする方へ首を回した。
小川の淵でロバに乗った少女が不思議な者でも見る様に此方を眺めている。
「プッ! な何それ、おもしろーい。なんか楽しそうだな~」
「ふっ 楽しくなんてない。 助けてくれ! 泥沼にはまって動けないんだ」
水草の新芽を摘みに来ていたジャッファの弟子、リタは湿地帯で口に水草を口に加え水面に顔だけ出している奇妙な男を見つけた。このあたりでは、見かけない黒髪に何ともつかみどころのない平たい顔。珍しい風貌もあり、その上口には水草を咥え水中に浮き沈みしている。
このあたりの、底なし沼に足を取られたのだろうとすぐに思い当たったが、その姿が、あまりにも滑稽で楽しかった為、すこし声をかけずに楽しんでいたのだった。
隼人は、必死に声を張る。ストローを離した事で水が口元へと押し寄せる。
「とにかく。助けてくれ」
女がのんびりと答える。
「ドーしようかな~? 女一人、助けた途端に襲い掛かるんじゃ―無いの~? こんな美少女だし~」
「しない! 絶対に襲わない。助けてくれ。襲うはずがない」
「え~、なんか酷い言い方。魅力がない女…みたいじゃあない」
「トプン」
隼人の頭が完全に水中に沈んでしまった。
「あっ ヤバ! 沈んじゃった」
リタは、慌てて最初から助けるつもりで用意していた蔦をロバに結ぶと沼地に駆けだした。あっという間に、リタも腰ほどに沈む。
「ぶはっ」
沈んだ隼人が浮かび上がってきた。
「あら! 意外といい男。助けてあげるよ! これを体に巻き付けな」
リタは、蔦の先端を隼人に放り投げた。隼人は藁にでもすがる思いで体に巻き付ける。
「よーし! ロバ! 引っ張るんだよ」
リタが、ロバに声を掛けるとリタに呼ばれたと勘違いしたロバが、沼地を恐る恐る近づいてきた。
「あっ」 「ドプンッ!」
隼人とリタを結んだ蔦が緩んでズブズブブと沈む。
「ば馬鹿! こっち来るんじゃない、あっち行け!」
リタが、慌てて泥を救って投げつける。踵を返したロバは岸に向かって駆けだした。
「うごおーっ」
行き成り引きずり出され、隼人とリタは絡まるように岸へと引きずられる。
「イテテテテッ」
隼人がウームと体を起こす。手に地面とは違う柔らかな感触。見おろすと両手で支えた下には、リタの丸い双璧を掴んでいた。
下から見上げるリタ。
上から掴んだまま見下ろす隼人。
「ワッ!」「 キャー!」
(いっいや! 誤解…柔らかい……もみっ………)
慌てるリタの膝蹴りが隼人の股間に運悪くヒットする。
「オウフ!」
隼人は、礼を言う前にそのまま横に崩れ去った。
「…………」
「…………」
気まずい空気が流れる。
隼人も最初は、転がった偶然の結果だったのだが、その感触に気が付いた瞬間、ついまさぐってしまった。悲しい男のサガだ。
「お御礼はちゃんと貰うよ! 助けたんだから」
リタは胸を押さえながらも隼人を睨みつける。
「ああ 助かったよ! 命の恩人だ。しかし金はない。何か他の物で。付けは?」
リタは、改めて隼人の恰好に気が付いた。仕立ての良い、敗れてもいない上等な服にしっかりとした頑丈そうな靴。見た目も苦労など感じさせないシワのないのんびりとした顔。リタからすれば、明らかに上流階級の人間に見えた。
(貴族様にしてはき易い物腰だけど、着ているものは上等だ。なんでこんな森に一人でこんな坊ちゃんがいるんだろう)
「あんた、何者? 貴族様だよね」
疑り深い眼差しを向ける。
とりあえず、そのリュックの中の物でも見せてもらおうと指さした。
「その収納袋の中の物でも貰おうか」
隼人は、リュックの口を開けると逆さまにしてブンブンと振り回した。
「はあ? 空っぽ、紛らわしいモノ背負ってんじゃないよ」
隼人も済まない気持ちはあったが必要なものばかりで渡すわけにいかない。
「しょうがない、仕事で返してもらうよ。まずは水草の新芽摘みからだ。それから家の周りの畑仕事でもやってもらうかね」
隼人も少女が一人こんな森の中にいることが怪しかった。魔方陣の維持活動をしている敵の賄婦辺りではと見当をつける。リタが、近くの水草の新芽を一つ取ると隼人の顔に近づけた。思いのほか、近づいた顔を改めてみて隼人は、意識しなかった女の顔の美しさにドギマギとする。
口の悪さに惑わされて気が付かなかったが美しい少女だった。
「ほら、水の中にも生えているから又底なしに気を付けるんだよ」
そう言って,服を大きく捲り太腿も露わに水辺へと足を運んで新芽を摘んでいく。白くてきめの細かい少女の健康的な素足が、隼人には眩しく見えた。
少女の足に心を奪われていた隼人も、ジョニアスへの連絡にやっと思い当たった。沼地にはまって、焦っていたのも仕方ないとしても今更ながら連絡の手段を持ち合わせていたことに気が付いた。
(AIイージー、泥沼にはまった時に何故、ジョニーさんへの救助の連絡手段を教えてくれなかったんだ。こんな事には、ならなかったのに)
「イージーは、彼女が救助してくれる事を確信していました。現にコンタクトに成功して、彼女たちのアジトへ潜入することにもなりました。何よりご主人がうれしそうです。イージーは上手くやりました。ご主人の評価を頂きたい。さてジョニアスへ連絡を入れます」
「隼人か、どうした。見つけたか?」
「原住民か、敵かはまだ判断は付きませんが一人の少女に出会いました。彼女らの住処へと行ってきます。このあたりに詳しいようなので何らかの情報を知っているかもしれません。連絡は随時入れます」
「そうか、此方はまだ何もつかめない。このまま爺さんとキャンプしながらこの辺りの探索を続けて待つことにする。以上」




