アルトマンの企み…ベベルの思惑
アルトマンの企み…ベベルの思惑
「なぜ魔物の群れは、タラスの街に現れない? 転移の術をタラスに向けて仕掛けたのではないのか? これでは、攻め入るタイミングが捕めんではないか」
「魔物の群れを、嗾けてから街が混乱に陥った所を攻め入りましょう、などと言ったのは主だぞ。大森林に広範囲の転移陣を仕掛け大量の魔石を使って送り込んでいると聞く。魔物どもは、いったいどこへ消えたのじゃ」
「大森林で、儂らの兵が魔物を送り込む為の魔法陣を維持し続けるのに毎日、
兵の痛手も大きいのだぞ。魔石にかかる費用もバカにならん」
王都ラウデブルグの公爵家の一室で此処の主人アルトマン.フリート.フォン.デートヘルムは北の友好国アルフヘイム皇国から使わされている魔法使い.魔導士のベベルに口角泡を飛ばす勢いで詰め寄っていた。
南の海へ繋がる領地を欲しいアルトマンは、大森林の魔物達を南のアルタラス王国の首都、港町タラスへと排出の魔法陣をしかけ街の混乱に乗じて、魔物の排除の大義名分を大声で名乗り、街へと進行しようとしていた。
国王への言い分も隣国の危機を治め、助ける為などと見え透いた言い分で押し通すつもりでいる。
街へ入り込んでさえしまえば、陣を築きそのまま軍を駐屯させるつもりでいた。
魔法使い.ベベルが口を開く。
「其れが、おかしいのです。間違いなくタラスに向けて、魔法陣を仕掛けてきたのですが、僅かばかりの魔物は現れるものの、大森林に仕掛けた転移陣から入る魔物の数とつり合いが取れないように思われます。排出の転移陣になにがしかの乱れが生じたのかもしれません。調べなおす必要がある様に思います」
「大森林から侵入した魔物の一部が、別の場所へと転移したとしか、考えられないのです。転移陣を構築し直し、此のまま続ければタラスの街に魔物があふれ、大混乱を起こすことは必須。焦ることなく様子を見る事が大事とおもわれます」
(くそ、あれだけの、魔物の巣窟ともいえる場所に仕掛けた広範囲の転移陣だ。入り込んだ魔物がすべてタラスへと向かわないのは何故だ? 魔石の量が少ないのか? アルトマンから引き出した金も無限ではない。此のまま、原因を掴めず。魔石を消費し続けるのも愚策でしかないわ。広範囲の魔法陣とはいえ、必ずどこかに綻びが生じているはず、急いで見つけねばならんな)
自信気に魔物転移での戦略を提案して、アルトマンから金を引き出している手前、転移陣に問題が生じている事など間違っても知られてはならない。おくびにも出さず吹き出しそうになる汗を魔法で誤魔化しながら、転移には付き物のありふれたトラブルだと平静を装う。
転移の魔法自体が、まだ一部の魔導士くらいにしか使えないほど、確立した一般的な魔法とは言えなかった。
増しては、今まで行なった事もないほどの広範囲の魔法陣の設置。高価な魔石が大量に必要なことからも、自国アルフヘイム皇国でも、そのような転移魔法など過去にも例がない。
アルトマンの権力欲の張った策略を助ける名目で、大金を出資させ、やった事もない大魔法を実験的にも試す機会を得ているベベルだった。
「どちらにせよ。もう後戻りなどできぬぞ。もう一度人数を整え魔物排出の魔法陣を作るのじゃ。邪魔をしてくる輩がいるのなら儂の方で調べる事とする」
(コートジオール辺境のプラディアに、切れ者の代官を押し付けてやったんだエルモ.エンツォ・フォン.コートジオールも戦費が整え,新しい領地をちらつかせれば戦好きのあの男、此の話に乗ってこよう)
アルトマンは計略が遂行され南の土地を手に入れた時の事を思う。
南海の豊富な財力を得て、密かに儂になびく貴族どもを傘下に入れてやる。
(近いうちに、現王ゲオルク.フリート.ローデンよ、貴様とのパワーバランスをひっくり返してやろうぞ。その時には、此の儂がローデンの王。アルタラスも手に入れ南海へと乗り出す港も手に入れようぞ)
アルトマンとアルフヘイム皇国の一部の皇族との間で、水面下に取り決められた協定にもなっていない腹黒いつながりによって送り込まれているベベル。
その魔導士を利用し、己の軍事的策略の成功を疑おうともしない男。
ベベルは、その短絡的思考の男を利用し、魔導士としての技術的実験の費用をねん出するために利用しようとしている。
アルトマンの軍略が成功した暁には、その成功を自分のモノとし、アルフヘイムの皇族にも自分の力を認めさせることが出来る。
例え失敗したとしても他国の貴族。公の取り決めなどしていない事から自身へ降りかかる火の粉などないに等しいと思われた。
ベベルにとっては、口先ではアルトマンの協力者を装いながらも、しがらみのない他国でやりたい放題の事をやっているにすぎないのだった。
その大実験も、成功を収めているとは言えない。
一部の魔物は、目的の排出魔法陣のあるタラスへと湧き出るものの、残りはどこへ転位してしまったのか、ベベルにも見当も付かなかった。
広範囲の魔法陣の為にと、有り余る魔力の生じた転移陣。其処へ入る魔力を蓄えた魔物達。何故かつながってしまったガイアスが使用した地球への転移陣の航路。偶然か、神のいたずらか一部の魔物達は、ガイアスが地球に転移を繰り返していた事で、偶然にも出来たしまった新たな航路へと乗ってしまっていたのだった。
地球側で、新たに生まれ始めた魔素だまりの濃い所へと、自然発生的な異世界からの出口が生まれたり、閉じたりを繰り返していた。
それが、隼人が研究所で見せられた太平洋上空であったり、東南アジアの森やネパールの山中などにできていた魔素だまりともいう場所だと思われた。
確立していないあやふやな所の多い転移の魔法。ガイアスが地球へと渡れた事や新たな転移魔法の構築を模索しようとするべベルのつくる魔法。様々な要因が重なり魔物達は、地球へと転移してしまっていた。
それが原因でその収束を担い、ガイアスの息子隼人も、まるで呼び寄せられるように異世界へと転移してきた。
現代地球とガイアス達の異世界セラ。
この二つの世界が、お互いに干渉しあう事で何かが始まろうとしているのか。
繋がりだした二つの世界の干渉を打ち消す作用として隼人が、呼ばれてしまったのか、まだ誰にも分らない。
もちろん、当人の隼人にとっても。




