勘違い少女…見参 (挿絵)
三人は、山の中にある泉の畔へと転移してきていた。
所でと、クイクイと人差し指とたてて小春はソルを手招きする。
「ソルさん、さっき私に魔法使ったよね。喋れるようになったし。魔法のある世界なんだ。ほかにもどんな魔法があったりするのか、見たいな~」
ソルも、ガイアスについてジャッファが修行していた所で、一緒に付いて回っていたので多少の魔法は使えるようになっていた。また、他人から魔法の成果をねだられたこともなかったソルは、何か一端の魔法使いにでも認められたような気持だった。相手が子供であってもうれしさが見える。
「うーん、じゃあ基本の火の魔法、「ポン!」と火球が掌の上に浮かび上がる。
「すごい! すごい! それから?」
小学生が上目使いに催促する。
ソルは、「フー」とため息にも近い息を吐くと人差し指で泉に向かって火球を弾いた。火球は、水面を転がりながら泉の中ほどまで行くと「ポン!」と弾けて消えた。小春は、最近夢中のテレビアニメの魔法少女に思いをはせる。
(あれ、あれ、なんか出来そう~。でも、あたしなら此処で『か〇〇め波―』だよね)
小春は、テレビアニメのしっぽの付いた主人公のポーズを真似る。
両手に包んだ空間に温かいものを感じる。
(……えーと、丸い火の玉? まっいいか)
アニメの映像そのままを思い出しイメージする。
周りの大気からオレンジ色の魔素が渦を巻き、小春の小さな手で作られた空間に収束していく、2cmほどのちいさな白い眩しく輝く弾に変わりだした。
腰に両手を添え捻りだすように前へ突き出す。
「か〇〇め波~」(よし! 出ろっ!)
小春のなんとも閉まらない掛け声とともに、突き出した開いた両手から
小さなまばゆい光の粒が泉の水面を走っていく。
「ピュン!」(やたっ)
スピードを増し進むにつれてあっという間に光が肥大し膨れ上がっていく。
「ズオゴーッ!」(おろろろろっ!?…………)
水面を炎が割って水面が盛り上がり、そのまま対岸の一番高い木の天辺を吹き飛ばし、天空へと飛び去って行った。
(…………えええええええええええええええ————————)
小春は、一応の期待はしたものの思わぬほどの破壊力を伴った火球が飛び出した事に驚くとともに、じわじわと喜びが沸き起こってきた。
憧れていたアニメの主人公スーパーヒロインが自分に周ってきたと勘違いする。
日本にいた時には、全く魔力の蓄積などなかった小春だったが、転移の際に無意識のうちに魔導士ベベルから奪い取っていた魔力の蓄積が今の小春にはあった。
魔導士としても人一倍の魔力を蓄えるベベル。溢れでるベベルの魔力は、吸収しようと働く小春の体内魔石にグングンと吸い取られていた。更に小春の、巨人族としての引き継がれた能力が異世界の魔素を含んだ空気に触れ次第に馴染んでいく。
体が知らぬ間に、巨人族としての力を使いたがっていると言ってよかった。
小春の体が、徐々に目覚めだしていた。
ソルは、特大のファイヤーボールに変化して、大木を薙ぎ払って空へと消えた魔法にあっけに取られていた。
(なんだ? 今のは魔法は使えなかったのではなかったのか。短い呪文一発で出たぞ。すごい力を感じた)
「すごいよ! 小春ちゃん! すごいファイヤーボールだった。魔法使えたんだ。さすがに師匠の娘だ。」
「…………エッ! ヘヘヘッ使えたね。なぜか使えたね……」
(…………まじかー!! ぶっとんだ~~! 魔法! 魔法いきなり使えた~!)
(おーうっ! この世の春、名前は小春だけどね。 あたしが、此の世界の主人公なのだわっ! ……まちがいない!!…ククククッ)
小春は思う、此処は自分が主人公の世界なのではと。
読みふけったラノベやアニメの魔法少女が今は、自分なのだと思い込むことにした。
此の世界の空気はおいしい、吸い込むほどに力が沸き起こるようにさえ今は感じる。駆けだしたいほどの、漲るものを小さな体に感じていた。
「フフフフ、ハハハハ……魔法少女.小春、参上! ナンチャッテ!」
(ちゃは~っ! 言っちゃたよ。自分で言ってて、はず~っ!)
中二の病には少し早い小春は、調子にのって発したセリフに少し顔を赤らめて周りを見渡す。
「……」小春は、呆然と眺めるウルの大剣に目をやる。
(あれも使えるのかな? 貸してくんないかな)
「ウルちゃん! ……ウルさん。……ウル姉さん。ちょっと、其れ貸して?」
「えっ! 駄目よ。私の大事な剣だし、宝物だよ」
「…………う~~うっ…………だめっ…だめよっ!」
小春が、見上げる様に懇願する。(必殺! 小春のお願い、うるうるこうげき~っ!)
「おねえさーん、ウル姉さーん、貸して~っ。 お~ね~が~いっ!」
「うーっ これはだめ! 絶対ダメ。ソル、木剣出してあげて。それでがまんするのよ」
小春、(うっ だめか~。 ウルちゃん手ごわいな。小春のお願い攻撃が聞かぬとは。)
チェッと不満そうな顔で、木剣を受け取るとアニメのセリフを口にする。
左手で木剣の中ほどに手を添え水平に突き出す。いつか言いたかった、あのセリフ。
「蒸着! メタルフォーゼ! アクト1(ワン)!」
小春も、気分が乗ったのかポーズをキメ、ドヤ顔で空中を睨み大声で叫ぶ。
本人は大まじめである。途端に、小春の周りの大気がピンク色に発色し渦を巻く。
ソルは、辺りの空気が一変していくのに気が付いた。一応は、魔術師の端くれ。
大気に含まれる魔素、術に使われる魔法に大きな影響がある。自分自身の体内に有する魔石に含まれる魔力、プラス、魔物などから取り出した魔石に含まれる魔力を取り出し魔法に使う魔術師。
自身の魔力は、生きている限り使って少なくなれば、また休息や寝ている間に復活してくる。死んだ魔物から取り出した魔石の魔力は、使ってしまうと其れきりになってしまう。
稀にではあるが、すぐれた魔術師や魔物などの中に大気の魔素を急速に集めて体内に吸収したり、いきなり魔術を使い魔法に変換して使える者などもいる。
自身の保有する魔力や魔石、それ以上の魔力を周囲の大気から得ることが出来る。
ソルが今、目にしているのは高位の魔法使いや魔物が使う大気からの魔素を集めて使った魔術変換、大量の魔力を使う大魔法の前触れの景色だった。
小春の、だぶだぶだった巫女の着物はフリフリのミニスカートと振袖の様な衣装に縮まり、足元には、白色のブーツ、手甲にショルダーパッドとアニメの派手な装甲が空中に現れて、小春に装着されていく。
小春の、アニメのイメージが実体化し小春を彩った。
最後にティアラの様な防具が下りてくると小春の頭にすっぽりとはまった。
その姿は、デパートのおもちゃ売り場でフル装備の買い物をし、コスプレの衣装とプラスチックの玩具を与えられた子供の姿そのものだった。
木剣にも異世界の物質が魔力をまとい蒸着し高質化している。
見た目のチープさとは程遠く、小春の体は身体強化され、露出の多い衣装も全体に防御の魔法がかかっていた。
「変わった!? ほんとにアニメの衣装が来た~。…………う~ん、でもなんか違うなあ~」
「ううん、問題はこの剣の威力だよ! まずは」
小春は、つい最近まで通っていた地元のちびっ子道場の剣道練習を思す。
ぐっと木剣を握りしめる。なんだか力が湧いている。
(おおうっ いける、いける…ではと)「チェス! チェスト! チェストオー!」
木立の中を走り抜けながら、左右の木々に木剣を叩きつけながら走り抜けた。
「ズズーン ズズーン」
小春が、剣をふるって走り抜けた後は、まるでモーゼが海を割った時のように木々が左右に倒れていく。木剣より遥かに太い木々がへし折れるように、まるで象でも通った後のように蹴散らかされたように転がる。
「うっ…………まあまあネ、あっあたしの力はこんな物じゃないはずよ」
ソルとウルは、とんでもない異世界の少女の力に驚いていた。
ソルは、これが師匠の言っていた巨人族の力なのかと思い出した。
当の本人は、現実とも夢とも知れない体験に、アニメの中にでも入り込んだような妄想の中にいた。
(これは、現実。あたしが主人公の物語の世界)
自分に都合の良い夢を唱える。中二病に踏み込みかけていた少女は、どっぷりとその世界へとはまり込んだ。
ソルが、声を上げる。
「よし、小春ちゃんも強いのがよく分かった。これなら安心して旅も続けられる。よし、いこうか」
衣装の戻った小春も歩き出す。——たすきで縛り上げただぶだぶの着物
——ズリズリと引きずる。小さな木の根にひっかかるとおもむろに転んだ
「あイテッ!」
「ソル、あたしの貫頭衣が袋に入っているはずよ。小春ちゃんに貸してあげて」
「あっ ウルちゃん! 大丈夫。変身する」(よしっ 素敵なレディに変身だっ)
小春は、拳を握ると天に向かって突き出した。大気が渦を巻く。
「蒸着! メタルフォーゼ! アクト3(スリー)」
小春の周りで渦を巻いていたピンク色の大気は小春に向かって収束していく。
霞から現れた小春は、緑に包まれていた。小学校の体育の授業で着る緑のジャージ、胸には白い布に『こはる』とひらがなで書かれている。
(あれれ アクト3こんなんだったっけ。ジャージかよ)




