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目覚める…小春

 目覚める…小春



 話は、隼人が異世界へと突入した頃から三か月ほど前へとさかのぼる。


 誰もいないプラディアの屋敷で、ソルは一人で待ち続けている。

 ベベルを追って転移していったウル。

 戦う術のないソルは、ただじっとウルの安否を願いながらウルの帰りを転移陣の脇で見守っていたが、そのうちにその場で眠り込んでしまった。


 眠り込むソルの傍らで、転移陣が淡いオレンジの輪を立ち上げる。

 その中央に意識を失ったままの小春の姿が現れた。




 しばらくして、ひんやりとした石でできた床に小春は目が覚めた。

 頭がずきずきとする。

 巫女の衣装の自分が、見慣れない石作りの小部屋で倒れている事に気が付いた。


(あれ!? テレビの前でダンスの練習をしていたんだけど。此処は?)


 ベベルが異世界転移してきた際、直後に起こった衝撃に巻き込まれて意識を失ってしまった小春。

 ベベルに拉致されて異世界へと転移してきたなど覚えているはずもなかった。

 動画を見ながらダンスの練習をしていた所までの記憶しか思いつかない。



 狭い石作りの小部屋。眠っているのか質素な姿の少年の姿が目に飛び込んできた。

(うん?)

 少年が、一瞬で目が覚め覗き込む小春に気が付いた。

 びくりと後ずさる小春。

(ひえ~っ緑の眼~外国人?)


「無事か? よかった」


 ソルが、問いかけているが言葉が通じていない。

 やっとソルもそれに気づいた。

 ソルは、マーマリアから貰った転移の書を(めく)る。


「これだ! 使えるかな?」


 転移の書は様々な魔法を組み合わされて作られている。

 其の一枚を捲った。


「変換の魔法陣」


 腰の収納袋から、それに組み合わせて言語変換になりそうな魔法陣の紙片を探す。ソルは、見よう見まねで一枚の魔法陣にマーマリアの魔法陣に描かれた文言や文様を継ぎ足していく。


「これで、どうだ! つながれ!」


 キョトンとする小春の口元へと行き成り押し付けた。


「ぶはっ! なに? 何するんですか? お兄さんっ」


「よーし、繋がった。喋れるな」


「具合は、どうだ何ともないか」


 小春は、ウンウンと首を振る。

(ええっ!? 何語? 英語じゃない。でも頭の中に日本語として聞こえてくる。言葉は知らないけど………ああっだんだん日本語に聞こえてきた!)


 ソルも転移で体の不具合が出ないか心配だったが大丈夫の様だ。


「えーと、私、小春って言います。お兄さんは誰ですか?それに此処は?」


 至極、当然な問いが出た。ソルも言葉に詰まる。


「……あー俺の名前はソルタニオ。ソルって呼ばれる。此処は、君の親父さんガイアス師匠の屋敷、地下の転移の間だよ」


 小春、(ああ~やっぱり外国のお兄さんなんだ。イタリア? スペイン? いやいや親父さん? ってどこよ! うちは相模原! 東京にも近いんだよー! なぜ?…………いやその前に今魔法? …魔法使った~~っ!!)

(ぐわっ! 魔法の国!? もしや異世界転移? …にまきこまれた~!?)


 いきなりの展開に考えも(まと)まらない。小春はパニック寸前だ。


(クッ! マンガかっ!!寝ているうちに異世界転移って随分お気楽なラノベかよ)


「小春ちゃんのお父さんは、此処プラディアで魔導士の冒険者をしている。僕たちはその弟子なんだ」

 小春の父は、現実世界で古美術商に勤める会社員で川端.(がい)であった。小春にはその認識でしかない。


(君のお父さん…ガイアス師匠の屋敷って。うちの、『とーちゃん』しがない古物商で~す! でも此処ではやり手のイケ親父に変換されているのかも? あのチリチリ頭からスラリとしたイケメンに? )


 小春の希望は(かな)う事無く相変(あいか)わらず、ガイアスはチリチリのうだつの上がらない風貌である。小春は、自分なりに此の状況を理解しようとしてアニメの世界に当てはめてみた。偶然にもそれは、小春のイメージ通りなのであるが。


 話の途中で、オレンジの魔法陣が光を放つ。小春は、何が起こっているのか目が釘付けになる。オレンジの光が地面に収束していく。其処には小柄な(よろい)を着たウルが片膝をついて現れた。


「えっ 何いきなり女の子が現れた!」

(うわ~っ 魔法陣から女の子! やっぱり魔法の国!! 異世界へ転移しちゃったんだ!)


(突然現れた女の子.鎧? 剣まで持っているよ。男の子ソルさんは魔法みたいなものまで使った。ダンスの練習をしていたのにいきなり此処に着た。 まさにファンタジーの世界。…………此れは決定だな……)


 小春は自分でもおかしな事を思っている事に気づいたが異世界転移のファンタジーの物語がしっくりと当てはまる事にワクワクしてくる事に興奮してきた。


 ウルが言葉を続ける。


「あなたのお父様は、この世界セラに生きているよ。ガイアスって魔導士で冒険者をしているよ。私は、ソルと同じ師匠の屋敷にお世話になっているウルっていうの。」

「屋敷に入った侵入者が、小春ちゃんたちの世界へと転移をしようとする所を見つけて追いかけたんだけど、気を失っている小春ちゃんを連れて逃げられてしまったの。でも此処の魔法陣に小春ちゃんだけが現れた。怪しい男は、転移に失敗したんだわ」


 小春は知らぬ間に、自分が異世界の不審人物に誘拐されたことで、此の世界へと転移してきたと知ることが出来た。

 それよりも、今驚くような話をウルの口から聞いてしまった。


「お父さんが、魔導士!! あのチリチリ頭の親父が」


 小春は、突拍子もない自分の想像が当たっていた事に驚いた。


(ここは、夢にみたアニメの世界)

「此処プラディアって言ったっけ。どんな場所だろ。」


 ウルが答える。「プラディアは大森林に接する辺境都市、湧き出る魔物を此処でくい止めているの。ローデン王国のラウデブルツが王様の暮らす王都よ。馬車でもひと月と十五日はかかるよ」



 小春の頭の中にファンタジー満載の華やかな王都が浮かび上がる。


(鱗の生えたトカゲ男にドワーフ、そして頭に耳の生えた猫耳娘が闊歩する夢中で見ていたテレビアニメの世界だよね)


(……行ってみたい! 異世界のふしぎな街、王都へ。すこし楽しんでからまたソルさんに連れて帰ってもらえばいいや。こんな機会二度とないよ。無理矢理に連れて来られたんだから、お父さんが帰ってきたら必ず又元の世界へと連れ帰るに決まっているじゃないよ)


 小春は思った。(行ってみたい。不思議な異世界の王都へ)


「ソルさん、王都へ行こうよ! 王都へ行ってみたい」


 突然、小春が言い出した。

 ソルは、済まなそうにウルを見る。


「ウル,その事だけど行ったことのない王都には、いきなり転移は使えない。後異世界への転移でウルの魔石を使い切ってしまったみたいなんだ。ごめんよ。俺が上手く力を使い切れないばかりに。行くにしても王都まで歩くしかないんだ」


 ソルは、透明に魔力の抜けきり割れてしまった魔石を差し出した。

「魔石の事は、もういいよ。もともとマヌーに貰ったような物だから。王都の事は、ソル.小春ちゃん、師匠に会って、それから決めるのよ」


 またしても我儘なソルと小春にウルは、振り回されることとなる。


「王都に行ってからにする。絶対お父さんに会えば連れ帰されるに決まっているんだから、ウルちゃんも一緒に行こうよ。王都はきっと楽しいよ!」


 全く、平和な日本で生活していた小学生だった小春は危機感に乏しい。

 危ない道のりなど頭にない小春はウルを誘う。


 ウルも、行ったことのない華やかな首都ラウデブルツの王都の街並みを想像する。


(……王都かぁ……猫耳とか居るのかな? カッコいいエルフ様とか…いや!だめだめ! このまま、二人を行かせたら心配だよ。仕方ない。あたしが、附いて行って二人を守る。王都を見たら又プラディアに連れ帰ってくればいいわ)


 所詮、15歳になったとはいえ、頭の中は小学生と大差ないウル。

 小春と同じように王都への憧れに小学生に釣られてしまった。


「わかったよ! あたしも行く。王都に行くまで魔物を狩って、転移に必要な魔石を集めるよ。そしたら王都から一足飛びに転移でプラディアに帰ってくる。ソル約束だよ!」


 ウルは、拳でコツンとソルの胸を叩いた。

 少し考える時間も欲しい。幸いにも小春は転移したことを喜んでいる様にも思える。

 此の世界を楽しもうとしている。

 小春自身から、この世界を望み楽しんでいる事を師匠に話してもらえれば、丸く収まるように思えてきた。小春の王都への気持ちも強い。


「ウル、このまま王都を目指そう。小春ちゃんも折角転移したのに、すぐに帰らされるんじゃ、可愛そうだ。食料はたっぷりとある。ジャッファと狩った獲物が収納にあるから食べ物には困らないよ」


 二人の気持ちもすっかり、小学生の言いなりに王都へと気持ちが決まってしまった。


「分かった。とりあえず王都への分かれ道、泉の畔まで転移で戻ろう。其処からは、転移は使えないから歩くことになるからね」 


 三人は、また転移陣の中央に戻ると光と共に消えていった。


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