魔法使いだよ!…ジョニーさん
「折角、一緒にいるんだ。あたしの弟子の弟子、それに弟子の息子にも簡単な魔法ぐらい教えてやろうかね。魔法の一つも使えないんじゃ師としてのあたしが笑われちまうからね」
親切にもマーマリアは、隼人達に簡単な魔法の手ほどきをしてくれると言う。
「まずはジョニー、あんたどれぐらいの魔法が使えるんだい?」
「マーマリアさん、我々の地球世界では魔法はありません。しかし魔石の一部を師匠に貰い、10年かけて育て魔力の蓄積はあると思います」
「ふーん、魔法のない世界ねえ。随分不便な所から来たもんだ」
「よし、基本の水と火を教えようじゃないか! その二つは覚えていきな!」
「ハイ!」
地味な基本魔法、火と水の訓練だったが、初めて見る魔法にジョニアスは息をのんだ。
(師匠の使っていた魔法が、俺にも使えるようになるのか)
マーマリアの手の上に10cmほどの水球が現れる。するとそれは、ゆっくりと床に降りていく。そして潰れてシミになることなく形を維持して転がった。
「水球を出しただけじゃ詰まらないだろ。水の中に床のゴミを取りこむ。その思いを込めてやって見な。これを使えると水玉で敵を窒息させる武器に使えるんだ」
「まずは、水滴を思い浮かべな。落ちてくる水滴は丸いだろう。あの姿を手の上に落ちる様子を思い浮かべるんだよ」
(ふーん、ラノベの影響を受けている俺としては、イメージが魔法の発動に必要とするところなんか、まんまだな)
ジョニアスの額に汗が浮かぶ。
水球は、現れず手のひらから汗のように水が滴り落ちた。
しかし、水のイメージが具現化されて実際に現れたことに、ジョニアスは驚いた。
「おおっ 水が出た。空気中の水分を集めるイメージで水を出すことが出来た!」
マーマリアからすれば成功には程遠いが、初めての水の出現にジョニアスは手から溢れる水に喜んだ。床を水浸しにしながら訓練を続ける。次第に水玉が形を整え始める。床をいくつもの水球が転がっている。
「うん、いいねその調子だよ。ジョニー。もっと部屋の隅っこまでよく転がしな」
水玉に吸い取られ床のゴミがさっぱりと流され洗われた。
「よし! 最初にしては上出来だよ。次はこれを乾かさないとね。今度は用心するんだよ。火だ! あたしがすベて火球を結界で包むから安心して出してみな、燃え移りはしないから」
ジョニアスは、2cmほどの魔力の元を酸素に置き換え、球状をイメージし、其処にスパークするエンジンの中をイメージしてしまった。
「バン!」
ジョニアスの思い描いて作ろうとした火球が爆散する。
しかし、四方を結界に阻まれその中であっという間に収束してしまった。
「!! なんてもんをイメージしてるんだい。小さな火球でいいんだよ! 爆発なんて早いんだよ」
ジョニアスや隼人にとっては、逆にレトロな設定が思いつきにくい。
「油に浸した布切れに火をつけるそんな簡単なイメージでいいんだよ」
「これは、火の大きさ、強さを制御するとても大事な訓練だ! 集中するんだよ! 気を抜くと大けがするよ」
ジョニアスは脂汗を掻きなら繰り返す。
眉間にしわを寄せ、こわもての面相が鬼のように引き締まっている。
マーマリアの結界に包まれた小さな火球が、床の上をコロコロと転がりだした。
「火球を。自在に動かすんだ! そうもっと部屋の隅々のホコリを丁寧に燃やしな」
「ああ そんなもので十分さ」
「ほら、あっという間に床も乾いた。よーし。次の部屋に行くよ! 付いておいで」
成功して、褒められたことにジョニアスも気が高ぶる。
初めての魔法、意外と簡単に火と水を一気に会得したことにマーマリアへの尊敬の目が向けられた。
「オッス! この調子で魔法を極めます」
嬉しそうに敬礼で返す。
マーマリアに連れられたジョニアスが足取りも軽く出ていく。
すっかりジョニアスはマーマリアに躾けられてしまった。
後に残った隼人は、ピカピカに磨き上げられた床を眺める。
(うーん、ジョニーさん、なんか家の掃除にこき使われている様に見えるんだけど、ほんとに魔法に訓練かな~?)
翌日、空は澄み渡り吹雪も消えた。
只、歩くには積雪が深く、雪解けを待つしかなかった。
「師匠、今日はどんな技を伝授していただけますか?」
すっかり、魔法の虜になったジョニアスは朝からやる気で庭先に出て来ていた。
「今日は軽いもので、物体浮遊を自在に動かす風の魔法、難しい技を教えてあげよう。頑張りな!」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!!」
ジョニーさんが気合を入れる。
マーマリアさんが洗ったばかりの洗濯籠を持ってきた。
そして洗濯物が一枚広がり浮かびあがった。
良く晴れた青空にピンと広がりながら舞い上がって、屋敷の上を舞い始めた。
「さあ、やってごらん。風に飛ばされる紙切れにでもなったつもりで、形は崩さずぴんと張り、下から風を受け続けるそんな塩梅だね」
ジョニーさんが一枚のシャツを取り出し、バンと広げて空中に投げた。
顔を真っ赤にしてシャツを睨みつける。
シャツの腕が上がる。
片方の腕も上がる。
まるで、空中で踊るようにバタバタとシャツが舞っていたが、力をなくして形を崩すと地面に落ちそうになる。
マーマリアさんが呟くと又高く舞い上がった。
「まだまだ! 頑張りな。下から風を送るんだよ。上がったら、安定させるように、その下に風の塊をイメージして台で受ける様にイメージすればやりやすいはず、やってみな!」
「ウッス! やって見ます!」
ジョニーさんの念を受けてシャツは形をぴんと張り、空高く舞い上がった。
「よーし! いいよ。才能があるよ~ どんどん行こうか。一度に多くの浮遊魔法を使うんだよ。落とすんじゃあ~ないよ」
洗濯籠から次々と洗濯物が空高く舞い上がっていく。
「よーし! 一度にたくさんの物をコントロールする訓練だ。それを持続する力も大事だからね。いいよ。いいよ~」
晴天の下、屋敷の周りを沢山の洗濯物がグルグルと回りだした。
ジョニーさんは、両手を掲げ真剣な表情で、一枚一枚を落とさない様に、形を崩さないように真剣にコントロールしている。
顔を真っ赤にして、またしても鬼の形相で真剣そのものだ。
隼人は、罠の見回りを命じられたので出かける事となった。
ジョニーさんが天空を睨みつけながらも声をかける。
「隼人、知らない世界だ。気を付けていけよ!」
「はい! なんだか楽しみです。行ってきます」
隼人も、盾の魔法を新雪の上に繰り出し歩く手段として教えてもらった。
マーマリアのやって見せた雪の上を雪国のかんじき出歩くような魔法はすぐに隼人の左目のAIが学習した。
一歩二歩と歩き出した隼人をマーマリアが見送る。
少し歩いて振り向いた隼人は、マーマリアの口角が上がっている事に気が付いた。
(あーっ やっぱり、ジョニーさんそれやっぱり家事魔法ですよ。洗濯物の乾燥のお手伝いさせられてマスヨ~)
隼人は真剣に魔法を行使する上司を生暖かい眼でチラ見する。
「うお!」
余計なことを考えていると、盾を出すタイミングを失敗して深い雪に足を突っ込んだ。
村の近くの手入れの行き届いた林へと小動物の為の罠を見回る。
村人が張った罠には、白いふわふわした物がかかっていた。
始めて見る異世界の雪うさぎは、中型犬ほどもありつぶらな赤い目のかわいらしさとは別に角まで生えており、罠の周りで暴れまわっていた。
生き物にとどめを刺すことに抵抗を感じた隼人も意を決してこん棒をふるう。
(悪く思うなよ! おいしいスープの素! ゴンッ)
すかさず、収納を試してみる。
(うさぎに[]チェック! 周辺を赤色で囲む……とっ)
罠だけが残り、うさぎが消える、左目のリストにうさぎが加わった。
(よし! 成功だ。ハハハチートだな)
気をよくして次の罠に進む。
黒い塊が見える
「? なんだろう」
塊は、むくりと起き上がると隼人に向かって飛び掛かろうとする。
ビーンと罠のロープが伸びて、寸での所で隼人には届かない。
「熊!」
(……そうか罠のうさぎを食べて自分も罠にかかってしまったのか。ハハハ間抜けめ!)
隼人が、罠の熊を笑うとまた熊が突進してきた。
隼人の笑いが気に入らなかったのか、熊は罠と格闘するように荒れ狂う。
ロープが『ビーン!』と張る。
ブチッと嫌な音を聞いた。
笑っていた隼人の顔が一瞬で硬直した。
罠のロープを引きちぎり、ゆっくりと熊が其の一歩を前に踏み出す。
「えっうそー!」
隼人は慌てる。
雪上に魔法を繰り出し逃げ出した。
「ガオー!」
其の後を怒った熊が深い雪を掻き分け追ってくる。
「うわ、追いかけてきた」
そりゃ追いかけてくるだろう。
隼人は、思わず脇につるしたグロッグに手をやる。
(いや、この銃8ミリ弾じゃ止まらないかも。魔法! 魔法を試してみる!)
熊は、深い雪に伸びあがるように進んで隼人に追いついて来れないでいる。隼人は、この雪が自分のアドバンテージと理解した。少しばかりの余裕を持てた事で冷静な判断が蘇ってくる。
マーマリアの水の魔法、これに加え瞬間絶対零度と叫びチェックを入れた。
「バチン」
拳大の氷が生まれ熊の鼻先にぶつかって氷が砕けた。
「ガオッ」
熊は、ますます怒り追いかけてくる。
「ありゃーっ 全然きいてないよ~」
隼人は後ろを振り返りながら逃げ惑う。
AIからの情報が、左目のモニターにたった今射出した氷の一部が次々と合体した氷の杭の全体像として浮かび上がった。
「只今の攻撃、連続の構築.攻撃で効果があります。[](チェックを入れる・入れない)」
「入れる! いれるよー!」
AIが熊の殺傷に必要な武器の形状.質量.射出スピード.タイミングを見計らっている。
すかさず小さな氷結が生まれる。どんどんと繋がるように大きくなっていき直径30センチ長さ3メートルほどの丸太の様な槍が生まれた。一瞬で熊めがけて飛んでいく。
「ドンッ!」
刺さるというより氷の丸太が潰れながら熊の顔面を砕いていく。
質量を伴った氷の丸太の直撃に熊の太い首も折れてしまった。
雪原を血に染めて痙攣する熊が横倒しになる。隼人も立ち止まり、その様子を恐る恐る覗き込んだ。
首もあり得ない向きにねじ曲がり、手足がビクビクと痙攣する。
実感が喉をこみあげてきた。
「ウオーッ! 魔法で熊を倒したのか」
正確には、承認を受けたAIが倒したともいえる。
隼人はツイていた、足場のわるい雪の上魔法で自由に動ける隼人、足には罠をひきずり深雪の中動きの悪い熊。
しかし、隼人は安直にグロッグに頼らず迫りくるプレッシャーを跳ねのけて、冷静に魔法を使えたことで此の世界での魔法の行使に手ごたえの様なものを感じた。
仕事のほとんどはAIによって構築されたものだったが、とっさの承認で
自信を付けたと言い返してもいい。
此れから、この繰り返し積み重ねが、自分の身を守ることに繋がるのだと横たわる熊を見て、自分自身へと言い聞かせた。
深い雪の跡を残して熊が消える。
改めて隼人は、此の無限収納のチートさを感じていた。とっさの段階で撃破の手段を提示してくれたAI。命を助けられたと言っていい。名もないAIに問いかける。
(今回は助かったよ。もっとお前の成長に期待しているよ……)
「イエス、たくさんの情報をください。それが私のご馳走です。ご馳走は私を成長させます。ご主人の為に使います」
(……ファンタジーだな……イージーだよ)
AIが隼人の心を読んだのか答えた。
(……ありがとうございます。イージーですか? 私の名前はイージー)
隼人は、あまりにも手軽に熊を倒した事への言葉を言ったのだが、AIは名前を付けてもらったと勘違いをしたようだ。
(ンッ? ああっ そうだお前の名前は『イージー』、イージーと呼ぼう)
隼人も名前を欲しがる自我の目覚めたAIを、イージーと呼ぶことにした。
こんな魔法ともつかないAIの性能は信頼できる人以外の前では使えない事も改めて考える事となった。




