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初めての村人…マーマリア

 



「ドンッ! ごろごろ…」


「いてててっ!」


 隼人とジョニアスは、固い床の上に放り出された。

 木目の床、明るい空間、眼が慣れてくると、とんでもなく高い天井が目に入った。

 飛び出してきた勢いでジョニアスは、巨大な植物で編みこまれた何かにぶつかって転がっている。


 そして其れを見つけると目を見張った。


「ジョニーさん! 此れを見てください。あの閉鎖された空間に有ったジャガイモです。自分たちと共にこの場所へと飛ばされてきたと思われます。…しかし」


 寸法が明らかにおかしい。

 隼人の背丈ほどもある巨大なジャガイモの山が目の前に広がっている。

 ジャガイモに近づき、振り返りジョニアスを見た時に隼人は気づいてしまった。

 ジョニアスがぶつかった編み込まれた壁と思ったものは、まるで竹で編んだ巨大なバスケットだった。

 その先には、巨大なフライパンも見える。

 布団を何枚もつなぎ合わせたような布切れのかぶった何かの籠も見える。

 隼人達が床だと思っていた場所は、巨大な料理テーブルの上だった。

 周りを見渡すと、テーブルの上には調理中の食材の巨大な野菜たちが切り刻まれ、側には何かの見上げる様な肉の塊さえ乗っている。


 壁の棚には、食器や調理器具が置かれ、とんでもなくデカいキッチンだという事に気が付いた。

(これだけの大きさの台所。巨人の屋敷? 異世界人がすべて巨人なのか?)


「ギイーイッ」


 扉のきしむ音がすると壁の様な大きな扉が動き出した。


「隼人! 来るぞ」


 ジョニアスの声に慌てて二人して竹籠にかぶった布の下に隠れる。

 恐る恐る布の影から覗き見る。

 ドアの軋みと共にそのうしろから、白いコック帽に割烹着の様な服を着た初老の女が現れた。

 元は金髪だったのだろうくすんだ髪に、白い肌にはしわが寄っている。

 至って北欧風の西洋人に見える。

 其の大きさを除けば。


「fum! なのjf、におっjrkjlじpdふぁ!」

(ふん! なんだか、におうね。 またネズミがでたね。あら眼鏡? めがね?)


 巨人の老女は、何か言葉を発すると何かを探し始めた。


「隼人、此処はまずいな。移動しよう」


「テーブルの上で料理を始めたら見つかりますね」


 ジョニアスが、傍らのバスケットの影へと老女の眼を盗んで飛びこんだ。

 その時だった。


「アッ!」


 運悪く隠れていた布を引っ掻けてしまい、籠から大きな布がずり落ちてくる。

 布の影へと隠れていた隼人の姿が、その身を隠すものがなくなり露わになってしまった。

 慌ててバスケットに向かって走り出す。


「あっ! ねずjのおめ! じゃがおいdもをかjるじゃyjほいg!」

(あっ! ネズミめ! ジャガイモをかじるんじゃないよ!」


 とっさに動いた隼人の影を、眼鏡を探していた老女は、ネズミとまちがえてしまう。

「バッチン!」大きなハエ叩きが振り下ろされる。


「うわあ~っ! ひい~っ 助けてジョニーさん」


「にっ 逃げろ! 隼人」


「バチンッ!」

「ニげるおjほrじゃ。なおbふぃいよ! おっまっまfdjち!」

(逃げるんじゃ。ないよ! おまちっ!!)


 テーブルの上を隼人は、転がる様に逃げ惑う。

 眼鏡を忘れた老女は、ハエ叩きでテーブルの上を叩きまくる。


(うわっ! 転移早々に殺される。初めての異世界人だがしょうがない。)


「ジョニーさん! 反撃します!」 「パン! パン!」


 思むろにグロッグを引き抜くと、ハエ叩きを持つ手に狙いを定めると連射する。

 外しようがない眼の前の標的。

 が、その腕に当たった瞬間、オレンジの半透明の円盤が現れると弾丸を弾き飛ばしてしまった。


「なにっ! はじいた!」


「おやえyh、hvbvfkjkl!?」

(おやっ、なんだい。あたしの魔法障壁が発動したよ。何だか危ないモノを此のネズミめ、持ち込んどるね)


 老女がテーブルの上で構える隼人に気が付くと顔を近づけてくる。


(なんだい、人間かい? ネズミかと思えばホビット? いや違うね。あまりにも小さい。収納袋に入れる時の収縮の魔法が生きた人間に掛かっているよ。こんな事あるのかね)

(待ってな)


 老女は割烹着のポケットを探ると一枚の紙を取り出す。

 細かな魔法陣の書かれたその紙を隼人達に向けると息を吹きかけた。


 息吹が魔法陣の紙を通り過ぎるとキラキラと舞う光の粉が隼人達に降り注ぐ。

 床の上にオレンジ色の円柱が沸き上がると隼人とジョニアスが、その空間に見合った体になって姿を現した。

 驚いて自分の手足と体を眺める。


 ズイと目の前に人影が近づいたために一歩後ずさりした。

 見下ろす眼の前には、小柄な老女が割烹着を着て、隼人を見上げている


(フン! 小さく成ったりデカくなったりと忙しい奴らだね。見かけない格好だが、何処から来たんだろうね)


 眉間と鼻に思いきりしわを寄せ、隼人を値踏みするようにその周りを一周する。


(やばっ! 体が同じようなサイズになったけど此のお婆さんがやったのかな。いきなり発砲したから怒ってんだろうな)


「ご、ごめんなさい! 撃つつもりはなかったんだ。いきなりハエ叩きで叩かれそうになったものだから、つい抜いてしまい、ごめんなさい」




「だrkfん? おmへfちkんh?」

(だれだね? おまえたち、どこからきたね?)


 解らない言葉を投げかけられる。

 二人は顔を合わす。

 いきなりジョニアスの言っていた第一異世界人は、なんとも出会いが最悪だ。

 空気が重たい。

 ジョニアスのコメカミには汗が流れる。


「隼人、なにか話してみろよ」


「えー、俺ですか?」


「……え~こんにちは、突然すみません」

(うわっ なんてマヌケに誤ってんだよ。オレ)


 隼人は、いきなり日本人丸出しに謝ってしまった。何とも間抜けなセリフだったが、老婆がなぜか笑った。紙切れに何かを書き足すといきなり隼人の口に押し当てた。


「わかるかい? あたしの言葉が分かるかい。解ったらその紙をそのデカ物にも押し付けておやり。言葉が喋れるようになるはずさ」


「お前たちいったい何者だい! ネズミだと思って叩いちまう所だったよ。収納袋が何だか動くからあの中にいたのかい? 飛んでもない者達が飛び出してきたよ」


「ええ! 収納袋? あの広い倉庫が袋の中だというのですか!」

(えっ 喋り出した。魔法か?)


 隼人は、驚いてテーブルの上の革袋の中を覗き込んだ。

 其処には、隼人のリュックと同じ暗闇に細かい光の粒子がキラキラと渦巻く様子が見て取れた。

 そいつは、あたしの弟子の異世界土産さ。それより収納袋に生きた人間が入っていた事の方が驚きさね。いったいどうやって入ったんだね」


 隼人は言葉に詰まる。

(どうやって? 入ったかな? 俺が知りたいよ)


 ジョニアスを見ると頷いた。

 意を決して意外と親切そうな老婆にすべてを話し、この世界の仲間になってもらおう。


「可笑しな事と思うでしょうが俺たちは、次元の違う別の世界から来ました。いなくなった妹を探すためです。この世界に父親もいます。父親の痕跡を辿(たど)って転移したところ、おばあさんの袋の中へとなぜか転移してしまったようです。悪気があった訳ではありません」


 なぜか、この老婆の袋の中にガイアスの使った魔法陣の描かれた紙片が入っていた。

 其の為に、それに向かって袋の中へと転移してしまったらしい。


「ほうほう~面白い」


 老婆がにこやかに口を開く。

 興味深々(きょうみしんしん)と子供のような好奇心丸出しの表情をしている。


「それで、お前のおやじはなんて名前なんだい?」


 隼人は、正直に話すことにした。


「川端 (がい)です。……いやガイアス。この世界では只のガイアスです。聞き覚えはありませんか?」


 老婆は目を見開く。


「なんだって? お前がガイの息子だと言うのかい。ガイはあたしの弟子さ」


 隼人も驚いた。

 最も転移の際には、ガイアスの痕跡のあるところへと転移すると聞いていたが、かなり父親に近い人物と見える。


「ガイが異世界に所帯を持ったとは聞いていたが、まさかその子が世界を渡ってやって来るとはね」


 老婆が驚いている。


「ガイを、親父を訪ねてきたのかい?」


 老婆が、目を細めて尋ねる。

 隼人も頷く。


「……そうかい。異世界から凱の息子が……」


「おまえの親父は、お前たちの足なら約三日、離れた街プラディアに住んでいるよ。そこで冒険者って仕事をしているよ。会いに行きたいだろうが、時期が悪かったね。見てごらんよ」


 お婆さんが、勝手口の戸を開いた。

 冷たい空気と大ぶりの雪が吹き込んできた。

 部屋の明かりが暗がりに広がる深々と積もった雪景色を照らし出していた。


「あたしも、こんな所で一人暮らしさね。村の皆と会えなくて丁度退屈していた所だよ。一週間ぐらい飯を食わせてやるよ。泊って行ってやむのを待つがいいよ」


 見ず知らずの隼人たちにとって何とも親切な申し出だった。

 話を聞くと、何とも奇妙なつながりが。

 ガイアスの魔法の師匠だと言う。


 ガイアスの弟子を自負するジョニアスは、師匠の師匠は、自分の師匠でもあると、勢い込んで短い期間ではあるが魔法の訓練を申し込んでみた。


「ああっ 面白いねえ。異世界の人間へ魔法の手ほどきかい。ガイの息子に弟子、まんざら。あたしと繋がりがないないわけではない。あたしにできる事は教えよう」




 テーブルには、旨そうなジャガイモと肉の入ったスープが湯気を立ち上らせている。丁度、夕餉の支度の所へと転がり込んだらしい。


「何はともあれ、異世界のご馳走を食べておくれ。あたしの自慢の肉煮込みだよ。さあ、食べるがいい」




 テーブルには、旨そうなジャガイモと肉の入ったスープが湯気を立てる。


「何はともあれ、異世界のご馳走を食べておくれ。あたしの自慢の肉煮込みだよ。さあ食べるがいいよ」


 転移して以来、何も口にしていなかった二人はマーマリアの手料理に早速かぶり付いた。


「!!」「うまい!それになんだ此の感覚」


 隼人は、ジャガイモを一口食べた時の奇妙な感覚を感じていた。

 自分の体の欲しがる栄養素が此処に在る。異世界の力を存分に含んだ食べ物だ。

 足りなかったものが埋まっていく、そんな感触が全身を巡っていく。


 慌てて飲み込む、そして肉にかぶりつく。


「うまい!!」


 味覚の旨さだけではない。

 全身を本来あるべき姿のエネルギーが駆け回って充たされていく。

 そんな感覚が全身へと行きわたるのを感じていた。


 本来の異世界の物質に含まれるエネルギーガイアスの息子隼人にも、足りなかったものが埋まるように吸収を始めた。


「お替わりできますか!」


 のんきな声が聞こえる。

 地球人のジョニアスにも、この料理に含まれるエネルギーを感じる。

 ガイアスの魔石を手術で分けて貰い、その器官は備わっている。

 隼人ほどの感覚は掴めないまでも、同じように異世界のエネルギーの吸収と全身を巡る不思議な感覚を感じていた。


「隼人すごいな、食い物一つ一つに力を感じるぜ。師匠! 俺にもお替わりを貰えますか」


 二人は、争うように料理を掻き込むと、マーマリアの分まで食べつくしてしまった。


「一人暮らしの婆さんには、こんなに旨そうにガッツいて食べてくれるのを見ると嬉しいもんだねえ」


「うまかったかい?」


「「ごっさんです!!」」


 ジョニアスと隼人の言葉がかさなる。

 三人の間にうれしい笑顔が広がった。


 その日は、燃えるトーチカの前の毛皮の上で男二人厚い毛皮に包まり、眠りについた。


 移動には冬の季節は予想外だったが、ガイアスをよく知るマーマリアの家へと転移した二人は幸運であった。

 また二人は、マーマリアがとんでもない魔法使いである事を知らない。



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