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異世界へ ダイブッ!! 

 




(流石に空路でも長い旅だったな。ジェットの中だというのに、さらに高い上空から何者かに(のぞ)かれている様な感覚がして、気味の悪さが尽きなかったし、俺たちがやる異世界へのダイブを神様が見ているんだろうな)


 未知への挑戦を前に隼人の気持ちも未だ定まらぬ中、目的地とその時に向かってジェット機のスピードは速度を上げて隼人達を運ぶ。


 隼人たちは、国際便を乗り継ぎながらタイに到着、更にタイで乗り継ぎカトマンズのトリプパン空港にまで来ていた。

 此処からは、チャーターした飛行機に乗り換え目的地へと向かう。


 別のチームは、二ケ月ほど先に現地へと入り、魔素の溜まりポイントに近い場所で雲の沸き起こりやすい場所の選定をしていた。

 転移に適した場所の調査と共にヘリコプター三機によるレーザーを用いて雲に転移の模様を描く訓練を繰り返していた。

 研究所からは、マークを含め4人が此のチャーター機に乗り込むことになっている。


 隼人の空港を歩くスピードは速まり眉間にしわを寄せ、手荷物を持つ手にも力が入る。


「隼人、異世界へのダイブの事ばかり考えてしまって、気持ちにゆとりがなくなってきている。お前だけじゃない。俺もそうだ。張り詰めた行動はミスを招く、少し気を楽にするためにも飯でも食うか?」


「はっ! そうですね! 腹が減っているのも忘れていました。めし! 飯食わないと」


 その前に最後のこの世界の食事をしようとジョニアスの提案もあって空港のラウンジへと足を運んだ。


 ステンレスのショーケースには中華料理や豆、黒く煮付けた肉、茹で卵などが並ぶ。

 カウンターの女性に頼むと盛り付けてくれた。

 隼人は、那須の中華炒めとやきそば、コーヒーを頼む。

 ジョニアスも焼きそばと芋やベイクドビーンズを頼んだ。


「最後の飯が焼きそばと豆か、フフフ悪くないな。隼人」


(そう思うと此の安っぽい中華料理も有り難く思えて来るぜ)


 表情を気取られまいとレイバンを外さず、ジョニアスが笑う。

 いつもの口角の横にできるしわも深く見える。


「ホテルの運営しているラウンジでまだ出来たばかりらしいですよ。雑多な空港の中でもここは静かで落ち着いて食べられてよかったですよ」


(さすがにジョニーさんも緊張しているか。緊張が解ける訳ない。味がわからないな)


 隼人も、同じように緊張が増しているのか、的外れな事を答えてしまう。

 脂ぎった焼きそばは只々塩気しか感じず何とも言えない。

 旨いも不味いも、今の隼人は感じない。

 それは、ジョニアスも同じだろう。

 この豪胆な男も、いつもの隼人を揶揄(からか)う軽口が出てこない。


「あと一時間後には、異世界だからな。意外とうまい飯が食えると良いな」


「ハハハッ ソウデスネ、知らないご馳走が待っているかもしれませんね」


 隼人は、無理にでも笑ってみせた。

 知らないご馳走に有り付く前に、此れが最後の飯となるかもしれないのだ。異世界人のガイアス以外、此方から転移した前例などないのだから。

 ふと思い立ったジョニアスへの疑問をぶつけてみた。


「ジョニーさん、前例のない異世界への転移に、なぜ自分から望んだんですか? 転移が失敗して死ぬかもしれない。行った先でトラブルに巻き込まれるのは目に見えている。こんな危険な仕事なのに何故、自分から飛びこんで行くのですか?」


 隼人の当たり前の質問に答える様に、レイバンに反射する高原の強い光が隼人の目に飛び込んできた。


「危険な仕事に何故自分から飛びこむのかって? …………そうだな。自分でも考えた事もなかったな。傭兵時代、始めたきっかけは金だったか? すぐに危険の中に身を(さら)し続ける感覚に麻痺しちまったがな。逆にミッションの無い日々が退屈にさえ思えてくる。危険が伴うほど生きている実感が、心を躍らせてくれるのさ。」


「フフフッ、病気かもしれんな」


「だが、今回の異世界転移は一味違う。確かに報酬も桁違いだし、異世界のオーパーツを持ち帰ればさらにボーナスも約束されている」

「それだけじゃあ無いんだ。子供の頃に帰ったような知らない世界を見てみたい探求心に心を躍らされている、子供の様な自分もいるのさ。ただの危険への渇望を望む麻薬めいた気ちがい沙汰とは一線を引いて望んでいる。俺の頭の中はクールだぜ!」


 ジョニアスが、最後の豆を口に放り込む。


(未知への探求に命を懸けるか。 月へ行った宇宙飛行士もそんな気持ちだったのかな。 アメリカ人らしいな、ジョニーさんも)


(オレはどうだ? 小春の後を追って飛びこもうとしているけれど、飛びこんだ所で生きて転移できる保障なんて微塵もないんだ。転移できたとしても当てもない世界、親父の痕跡を探すしか当てもない。帰って来れるだろうか?)


 隼人は急に異世界転移が恐ろしくなってきた。

 飛び降りて、魔法陣に吸収されずに地面に激突するかもしれない。

 其れとも飛びこんだ瞬間に死んでしまうかもしれない。

 いや、その確率の方な遥かに高いだろう。


(小春も、生きて転移できているのかさえ分からない。そんな所へ命を懸けておれは行くのか? 死ぬんだぞ? ……………………ハッ!! いけない!!

 何を考えているんだ。俺が、小春の無事を信じないで誰が小春を助けるんだ!! 俺がやるんだ)


 隼人は、すべての迷いを飲み込もうとする様に、つるりとやきそばを飲み込んだ。


(迷うことはない!! 小春を探すのも一番の目的だが、ジョニーさんを見ろよ。俺には、親父の血が、異世界人の血が流れている。俺の世界なんだ異世界セラ。 初めての転移。異世界をもっと楽しんで来いよ。川端隼人!)


 ジョニアスが、コーヒーのカップを掲げる。


「いくぜ!相棒」


「チンッ」


 合わせる隼人。


「おおおおー」


 開き直った隼人の上げた大声は、静かなラウンジに響き渡る。

 何事かと周囲の人々が驚いた表情を見せた。




「バロロロンンーーーーバッバッバッ」


 古い双発機は、真っ黒い煙と共に始動する。


 隼人は、こんなおんぼろのチャーター機を利用する人たちは命が惜しくはないのだろうかと思った所で自分を笑ってしまった。

 此のガラクタに命を預けるどころかこれから自分たちは誰もやった事のない異世界への転移をやろうとしている事に。


 滑走路を走り出した機体は、強い北西の風を受けるとふわりと大した助走距離も使わずに浮き上がった。


「ボオオオオゥゥゥゥゥン—―――」


 緩やかに左へ旋回しながら機体は力強く上昇していく。

 標高1300メートルの盆地から徐々に高度を上げていく。目の前には屏風のようにネパールの山々が立ち広がっていた。


「次に来る時は観光できたいね。じっくりとした空の旅を楽しみたいところだよ」


 マークさんが、景色に見とれて口づさむ。


「ビイ—— ビイイ——」


 マークさんの無線に連絡が入ったようだ。

 先行している設営のチームと話し合っている。


「雲の状態も安定していて、ベターな状態で挑めそうだ。準備を始めてくれ。あと20分ほどで現地へ着く。


「ああっ 分かった。隼人もハーネスだけ取り付けろ。緩みのないようにキッチリと付けろよ。チェックは取り付けてから、お互いに三回だ」


 ジョニアスだけが、パラシュートを背負う。

 経験と技術のない隼人は、ジョニアスの前でタンデムジャンプということになっている。

 突入に成功すれば、パラシュートは開かずにそのまま異世界へと転移できる計算になっている。

 隼人は自分に言い聞かせる。


(余計なことを考えるな、作業の手順とチェックだけに専念するんだ)


 もう一人の研究員が、ストップウオッチでカウントダウンを始めた。

 マークさんも、最後のチェックを済ませたようだ。


 研究員とマークさんが席についてシートベルトを装着する。

 大声でマークさんが叫ぶ!


「ジョニー! 残り3分!」



「2分」



「1分」


 隼人は機体のドアを開けると機外に取りつけてあるハンドルを掴むと身を乗り出した。

 風圧で吹き飛ばされそうだ。


 ドアぎりぎりにジョニアスが立つ。




「3・2・1・GO!」


 ジョニアスが機外へ倒れ込むようにダイブする。

 隼人も合わせるように手を離した。

 すぐさま、引き付けられるようにジョニアスの胸元に固定される。


 ダイブしたポイントからすぐに三機のヘリコプターが見えてくるはずだ。

 その間にレーザーで転移の幾何学模様の描かれた丸い円陣が見えてくるはず。


「ゴオ――――」


 風切り音の静寂のなか、ヘリを探す。


「…………」


「…………」


「……見えた!」


「一機・二機……三機目はどこだ!!」


 雲が思いのほか、沸き上がって来ておりヘリを隠し始めている。

 このままでは、失敗に終わる!

 ジョニアスが、パラシュートの紐に手を掛ける。

 判断を誤ると、ヘリのローターに巻き込まれるからだ。

 隼人は、三回の瞬きをする。


(二機を繋ぐ線を挟んで右か? 左か?)


 スピードを増して、ぐんぐん近づいてくる。

 いち早く隼人が気づいた。


「右! 右です」


 三機の照らし出すレーザーによって美しいオレンジの円盤が雲の上に幾何学模様を映し出していた。


 続いてジョニアスも気づく。

 紐を放すと両手でバランスを取る,体感スピード200キロ。

 二人は矢のように約直径30メートルほどのオレンジ色の中心に飛び込んで行った。

 今までのスピードと反するように、時間が止まるかのように、ゆっくりと視界が落ち着いてくる。

 まるで、トランポリンが大きく沈み込んだように、隼人たちを中心の先端にしてオレンジの円盤は紡錘形へと変化していく。

 やがて深いオレンジ色の渦巻きの底へと落ちるように飲み込まれていく。

 隼人を抱えるジョニアスの腕の変化に気がついた。


(ハッ! ジョニーさんの腕が崩れていく。おおおっ 俺の足が細かく崩れていく)


 隼人たちの体は、表面からまるで砂でできた彫刻が風で飛ばされていくかの様に後方へと呼び散っていく。


 痛みはない。

 そして、何も見えなくなった。


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