遥かなる…地へ
真っ白な天井に明るすぎる蛍光灯に目を背けたく成るのを我慢して、隼人は研究所内にある病院棟の一室のベッドへ横になっていた。
マークが,おどけて隼人をからかう。
「裂傷、打撲、骨折と随分データ収集に協力的なけがを揃えてくれたね。感謝するよ。隼人」
「裂傷は、残念ながらもう塞がりかけている。骨折直後の応急処置が完璧だったんだろう、骨折さえもう幼若が侵入し、肉芽組織が作られている。素晴らしい回復力だ。異常ともいえる」
隼人たちは、事故の翌朝早々にヘリを飛ばして直接、研究所へと帰って来ていた。
本格的な治療を頼むために、医師の資格のあるマークに見てもらった。
レントゲン写真を見ながら嬉しそうにパソコンへとデータを打ち込んでいく。
画期的な治療技術の開発は、短期間で治療を完治させたい高級取りのスポーツマンや医療費を惜しまないセレブ達、限られた治療薬であるファージであっても莫大な富を会社へと約束してくれるだろう。
その前に、上場企業としてもこの治療薬が世に知られると市場から莫大な富が集まることになる。
最も研究バカのマークにとっては潤沢な研究費が使える事だけが喜ばしい事ではあったが。
「問題ない。全く改めての治療の必要はないよ。大人しく寝ていれば3日で完治するはずだ。私をはじめ、何人かの研究者が臨床試験の治験に応募しているところだよ。ケガをするのが待ち遠しいなんて、言っている奴までいたよ」
笑ってにこやかに治療薬の冗談を言っていたマークだったが一転真剣な顔つきに変わる。
「隼人、君が来てからはや2か月と少しになる。こうして順調に異世界へ順応できる体質へと変化を見せている。異世界転移へと使う場所は、最初は研究所内にガイアスが残していた転移設備を使う予定でいたのだが、少し変更すべき点が出てきた」
「怪物どもの出現する場所を太平洋から西へ西へとたどって行くと非常に異世界の力の元にもなる粒子の濃くなっているポイントを見つけてしまった。転移にはたくさんの異世界の力が必要だが、この研究所よりもはるかに高い力の集まりが確認できた。隼人のからだに溜め込みつつあるエネルギーがなるべく効率よく転移に使われるように転移の場所を此処ニューヨークからネパールへと変更になった」
「ガイアスの作った転移陣をコピーして、最もエネルギーの濃いポイント付近にヘリコプターで空中にオレンジ色の転移陣を構築する。転移陣へとぶつかるスピードが高いほど成功の確率が高くなることは、調べられている」
「空中のそれへ、二人で其処へ飛び込むということだ」
「へえ? 空中の転移陣へ飛び込む?」
隼人は、転移のその姿が思い浮かばない。
間の抜けた言葉が思わず口を突いて出た。
そばで聞き耳を立てていたジョニアスが。
「飛行機から、飛び降りて空に浮かぶ其の輪っかの中へ突入するということだ。パラシュートを開く前に体でバランスを取り突入するか。鳥のように空中で姿勢を制御するんだよ」
「隼人には、経験がないだろう。俺に任せろ。一緒に飛び降りてやるよ」
クーガーに襲われて、半死半生のけがを負ったばかりだと言うのに、今度は空の上から飛び降りろと言われる。
隼人は、異世界へと辿り着く前に自分の身がいつまで存在できるのか不安が高まる。
そんな時に、思い浮かぶのは美緒里の姿だった。
その前に、会いたい。
自分の秘密をすべて打ち明けて、悩みをすべてすっきりとしてから異世界へのジャンプをやりたかった。




